なぜ仕事量が多くても追い詰められないのか…禅僧が教える「自分の能力の二割増しで仕事を受ける」効果
プレジデントオンライン / 2024年6月11日 15時15分
※本稿は、枡野俊明『仕事も人間関係もうまくいく引きずらない力 もっと「鈍感」でいい、99の理由』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■“一人勝ち”なんてありえない
二元論の最たるものは「勝つか、負けるか、二つに一つだ」というような考え方でしょう。かつてビジネスパーソンを「勝ち組」「負け組」などと二つに“分類”したのは、それを象徴するような概念でした。
いまは「WIN-WINの関係」が重視されています。勝ち負けをつけようとすると、自分の利益だけを優先することになります。
そういう考え方では人間関係がギスギスして、結果的に誰のためにもならないことに気づいたのかもしれません。
その点、仏教は自分より他人に利益を与え、幸福になってもらうことを悦びとする教えです。その根本にあるのは「諸法無我」――「この世のすべては関係性のうえに成り立っている」という思想です。
別のいい方をすれば、「人はみな、生きとし生けるものすべてに支えられて、生かされている」ということ。だから他を利することが大事で、そういう「利他」の心を持てば、仕事も人生も、すべてがうまく回るのです。
自分を大事に思うなら、まず他人を大切にする。心の方向を自分から他人へシフトしましょう。
■できる人は“的”を外さない
話の上手な人は、どんなに複雑な事柄でも、実にわかりやすくシンプルに伝えます。逆に話の下手な人は、単純な事柄にあれこれ余計な情報を加えて、話をどんどん複雑にする傾向があります。何がいいたいのか、相手に伝わらないのです。
同じことが仕事全般に当てはまります。どんなに複雑そうに見える仕事にも、必ず「ここを押さえればOK」というポイントがあります。そこを中心に全体を俯瞰すると、自分は何をやるべきかが見えてきます。
その際、損得勘定はしないのが鉄則です。得することをやろう、損することは避けようなどと考え始めると、頭がこんがらがって、どうしたらいいかがわからなくなってしまうからです。
とりわけリーダーの立場にある人は、“シンプル思考”が求められます。常にやるべき仕事のポイントと、自分たちが進む方向性をしっかり指し示し、導いていかなくてはいけません。そうして部下に大きな失敗をさせないことが、リーダーの大切な役割なのです。
■理想は「切磋琢磨の関係」
大志を抱くことに否やはありませんが、「野心」と聞くと、私はちょっとイヤな感じがします。言葉の由来をひもとくと、「山犬や狼の子は人に飼われても馴れることはなく、飼い主を害しようとする荒々しい心を持つ」ことを表わすそうです。
そのせいか、野心に燃える人は自分が出世したり、大金を得たりするためには手段を選ばないところがある、という印象を受けてしまうのです。
たとえば人を蹴落としてでも出世するとか、自分の利益のためなら人が傷ついても意に介さないというふうに。それでは好んで「敵」をつくるようなものです。
だとしたら、野心は封印したほうがいい。自分本位に行動して人を傷つければ、「悪因悪果」。すぐに、自分自身も傷つけられます。“嫌われ者”になり、信用を失い、孤立無援になるのは目に見えています。
それよりも「志を高く持つ」ことを意識し、同じ志を持つ人と、切磋琢磨の関係を構築するのがいい。互いに励まし合って実力を、ひいては人間性を磨き上げるのです。野心などなくとも、志があれば、仲間とともにすばらしい仕事を成し遂げられます。
■悩みの“突破口”が見えてくる
仕事で困った問題が生じて悩ましいとき、とても本を読む余裕はないかもしれません。しかし頭を抱えていれば、問題は解決しますか?
しませんよね。解決の糸口をつかみ、行動を起こさなければ、事態は滞るだけでしょう。そういうときは気分転換も兼ねて、本を読むことをおすすめします。
人類の歴史が積み重なったいま、本当にたくさんの本が手軽に読めます。三千年も前の賢人の知恵が詰まった古典から、過酷な状況を生き延びた人たちのドキュメンタリー、社会に大きな利益をもたらした偉人たちのサクセス・ストーリー、最先端の科学や技術をわかりやすく解説した書、さまざまな時代の社会を映し出す小説……。
自分ひとりの人生では経験しえない、ありとあらゆることを本は教えてくれます。
仕事で困ったときも、一冊の本が突破口を開くヒントを与えてくれる、なんてことはよくあります。
加えて日ごろから、好奇心の向くままに多くの本を読んでいれば、知らず知らずのうちに豊富な知識・情報が身につきます。悩みを解決するための武器を持つことができるのです。
■禅僧が実践する「二割増し仕事術」の効果
私は住職を務める傍ら、庭園のデザインや講演、本の執筆など、いろいろな仕事をしています。コロナ禍が一段落してからは、また海外に行くケースも増えました。そのせいか、いろんな方から「忙しいですね」と声をかけていただきます。
ただ自分自身はさほど追い詰められている感じはしません。なぜなのか。理由はおもに二つあります。一つは、仏教流にいうと、「生活に箍(たが)をはめている」からです。
朝の起床から、坐禅、読経、掃除、食事などのお寺の作務はもとより、ほかの仕事もすべて、何時に何をするかを決めているのです。おかげで余計なことを考える必要がなく、時間がきたらやるべきことをきちんとやるのみ。忙しさはありません。
もう一つは、「自分の能力の二割増しくらいで仕事を請け負う」ようにしていること。三割になると負担が大きすぎますが、二割くらいだと、「よし、やってやるぞ」という心意気がわき出てくるのです。結果的に、忙しさも感じずにすみます。
みなさんも忙しさに押しつぶされそうになったら、規則正しい生活を心がけ、“二割増し仕事術”を試してみてください。多忙による行き詰まり感から解放されます。
■誰もが何かの“スペシャリスト”になれる
大多数の人が、すべてにおいて「平均点以上」であることを望んでいるのではないでしょうか。だから「苦手を克服したい」気持ちが強いのかもしれません。
もちろん一人前の社会人として生きていくには、平均点以上の学力・知識を有しているのが望ましい。とはいえそれが必要とされるのは中学校、せいぜい高校まででしょう。
そこから先は自分の得意をどんどん伸ばしていくことに注力したほうがいい。一方で、苦手は克服する必要がない。私はそう思います。
というのも、苦手なことで人並みの結果を出そうとすると、それを苦手としない人の何倍も努力しないと追いつけないからです。
数値化すると、「十の努力で、やっと七か八の結果が出る」といったところでしょうか。ならばもう苦手を克服するのはあきらめて、得意な人に任せたほうがいいでしょう。
その点、得意なことなら、「十の努力で、十二、十三の結果が出る」はず。苦手の克服に向けていた力をこちらに注力すれば、得意にどんどん磨きがかかるではありませんか。そこに気づけば、ジェネラリストからスペシャリストへの道が開けます。
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曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー
1953年、神奈川県生まれ。多摩美術大学環境デザイン学科教授。玉川大学農学部卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行ない、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受章。また、2006年『ニューズウィーク』誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。
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(曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー 枡野 俊明)
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