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なぜジメジメすると頭が痛くなるのか…梅雨の時期に増える「気象病」対策で、医師が「日光浴」を勧めるワケ

プレジデントオンライン / 2024年6月11日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tuaindeed

低気圧や雨雲の接近などで起こる体調不良は「気象病」と呼ばれている。総合内科専門医の梶尚志さんは「気温も湿度も高くなる梅雨の時期は、とくに不調が起きやすい。頭痛や倦怠感、気分の落ち込みに悩まされるのは、栄養不足が原因かもしれない」という――。

■梅雨は心身の不調をきたしやすい時期

当院では春から梅雨時にかけ、心と体の不良を訴えて受診される方が多くなります。

この時期は、1日の寒暖差が年間で最も大きく、天候の変化も激しい季節のため、変化についていけない体はストレスを受け、体調を崩しやすくなります。

さらに、新年度と重なるため新社会人が一人暮らしを始めたり、人事異動や転勤といった生活環境や人間関係の変化から心もストレスを感じ、メンタル不調を招きやすくなります。

このように、さまざまなストレスを体と心が受けることで体調不良をきたしているのです。

近年、気温や天気の変化により引き起こる不調は「気象病」と呼ばれ、注視されていますが、長雨が続き、気温も湿度も高い状態となる梅雨こそ、心身の不調をきたししやすい時期であると捉えており、梅雨時期の不調症状を私は「梅雨病」と呼び、注意を呼びかけています。

梅雨病の症状は、つぎのようなものが代表的です。

・頭痛
・倦怠感
・気分の落ち込み

■気圧と湿度の変化が頭痛を引き起こす

「梅雨病」の中で、頭痛をはじめとした痛み症状の悪化を訴える方が多くいらっしゃいます。梅雨時にその痛みの増悪因子として大きな影響を及ぼしているのが、気圧の変化です。特に台風や雨など低気圧が近づいてくると、交感神経の緊張状態が起こります。その緊張状態が血管の収縮と拡張の要因となって、血管性の頭痛、いわゆる片頭痛を起こしやすくするわけです。

そして、交感神経の緊張状態による血管の収縮、血流の低下から、炎症をきたす物質が誘発されることで、さらに痛みが増強することになります。

また、耳の奥にある内耳という部分に気圧を感じるセンサーがあり、低気圧が近づいてくると、この気圧センサーが働き、交感神経に作用して頭痛を誘発する可能性があります。

気圧だけでなく、湿度の上昇と頭痛の誘発の関係が医学統計でも認められています。

■朝日を浴びられず、一日中憂鬱に…

そして、この時期のメンタルに影響を及ぼす最大の原因は、日照時間の減少です。太陽の光は、脳内で分泌されるセロトニンやドーパミンといった幸せホルモンの合成にとても重要な働きをしています。

朝日を浴びることで脳内にセロトニンが大量に分泌されますが、梅雨時は朝から太陽の光を十分浴びることができないため、セロトニンが十分増えず、朝から憂うつな気分になってしまうわけです。さらに、一日を通して日照時間が減っているのでセロトニンが増えません。

厚く暗い雲に覆われた空
写真=iStock.com/Armastas
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Armastas

それと、もう一つとても大切なことがあります。日照時間の減少で、もう一つの幸せホルモンであるオキシトシンの合成に関わるビタミンDが減ってしまうことが、間接的に幸せホルモンの減少につながっているのです。

また、ビタミンDはセロトニン、オキシトシンの合成に関わるだけでなく、頭痛にも関係していることが、いくつかの医学論文にて示唆されています(※1)。つまり、ビタミンD不足が頭痛の原因にもなっているというわけなのです。

※1)The Vitamin D Role in Preventing Primary Headache in Adult and Pediatric Population J. Clin. Med. 2021, 10(24)

■「隠れ栄養失調」にならないための知識

さまざまな栄養不足による「梅雨病」を改善、予防するために重要な7つの栄養素を紹介します。

①タンパク質

セロトニン、ドーパミン、オキシトシンという「3大メンタルホルモン」は、全てアミノ酸が原料になっています。セロトニンはトリプトファンというアミノ酸から、ドーパミンはチロシンというアミノ酸から、オキシトシンはアミノ酸が9個集まって作られています。そして、これらのアミノ酸の原料は全てタンパク質です。

現代の食生活は、特に炭水化物に偏る傾向が強いため、意識的にタンパク質を摂るよう心がけましょう。

②ビタミンB

それぞれのアミノ酸からメンタルホルモンを合成していくのですが、その際に補酵素としてそれを補助する重要な働きをしているのがビタミンB群です。特にナイアシン(ビタミンB3)とビタミンB6は重要な働きをしています。

■紫外線予防がビタミンD不足につながる

③ビタミンD

ビタミンDはセロトニンとオキシトシンの合成に重要な役割を担っています。一方で、ビタミンD不足が片頭痛をはじめとした頭痛の原因になることが、多くの医学論文で発表されており、頭痛やメンタル不調といった症状には欠かせない栄養素です。(※2、※3)

※2)Vitamin D supplementation for the treatment of migraine: A meta-analysis of randomized controlled studies Am J Emerg Med. 2021 Dec:50:784-788
※3)Effect of Vitamin D supplementation on symptoms and C-reactive protein in migraine patients J Res Med Sci 20(5):p 477-482, May 2015.

紫外線を浴びることで体の中で構成できるビタミンですから、適度な日光浴が必要なのですが、炭酸ガス効果でオゾン層が破壊されて紫外線の影響が強くなっている昨今、皮膚がんや肌荒れの予防のため日常的に紫外線をブロックする習慣があります。そのため、現代の生活ではほとんどの人がビタミンD不足です。ビタミンDは食品から摂取することが難しいため、品質の良い天然由来型ビタミンD3のサプリメントでの摂取をお勧めしています。

ただし、骨粗しょう症のお薬として使われるビタミンD製剤は、高カルシウム血症や腎機能を痛める副作用もありえますので、それらの基礎疾患のある方には、絶対にオススメしません。海外の医学論文(※2)でも、Vitamin D Supplementation(ビタミンDのサプリメント投与)と表現されており、あくまでも天然由来型のビタミンD3のサプリメントにこだわってください。

■梅雨から夏は鉄不足になりやすい

④鉄

鉄もビタミンB群と同様にアミノ酸からセロトニン、ドーパミンを合成する際の補酵素としてとても大切な働きをしています。また、鉄不足により酸素を運ぶ役割のヘモグロビンの品質が低下し、脳の酸素不足より血管の収縮や拡張をきたし、頭痛を誘発するのです。

鉄は汗と一緒に流れ出てしまうため、特に気温と湿度が上がる梅雨から夏は発汗による鉄不足に注意が必要です。重症の鉄不足の場合は、動悸・息切れ、めまいなどの症状がでるので気づきやすいのですが、慢性的な鉄欠乏の状態では自覚症状が乏しく、頭痛や肌荒れ、脱毛といった鉄欠乏を想像しない症状が中心のため気づきにくいのが特徴です。

慢性的な頭痛持ちの方は、鉄欠乏の可能性があり、「梅雨病」の予備軍の可能性があります。

⑤亜鉛

亜鉛もセロトニンの合成に使われる重要なミネラルです。亜鉛が不足すると、抑うつ症状が強くなったり、神経細胞の活性化が阻害されるため、記憶力の低下や認知症の進行などにもつながっていきます。

また、亜鉛不足と片頭痛が関連しており、サプリメントで亜鉛を補給することで片頭痛の頻度が改善したという医学論文での報告もあります(※4)

※4) Zinc supplementation affects favorably the frequency of migraine attacks: a double-blind randomized placebo-controlled clinical trial Nutr J. 2020 Sep 14;19(1):101

■マグネシウムは健康に欠かせないミネラル

⑥マグネシウム

マグネシウムにはタンパク質の合成や、神経伝達物質の制御、特に睡眠ホルモンであるメラトニンの合成には欠かせないミネラルです。また、エネルギーを効率よく使うためには、マグネシウムの働きは必須なので、マグネシウム不足は全身倦怠感や疲労感の原因となりますし、マグネシウム不足が片頭痛を引き起こす原因となっていることが、医学論文で報告されています(※5)

※5) Magnesium as an Important Factor in the Pathogenesis and Treatment of Migraine—From Theory to Practice Nutrients. 2022 Mar; 14(5): 1089

⑦DHA

DHAやEPAといったω-3系脂肪酸の摂取が、片頭痛を改善したり、不安障害やうつ病といったメンタルの不調にとても効果があるという医学論文が多数あります。ω-3系脂肪酸は、特に魚の脂に多く含まれています(※6、※7)

※6) High Dosage Omega-3 Fatty Acids Outperform Existing Pharmacological Options for Migraine Prophylaxis: A Network Meta-Analysis Advances in Nutrition Volume 15, Issue 2, February 2024
※7) Effects of Varied Omega-3 Fatty Acid Supplementation on Postpartum Mental Health and the Association between Prenatal Erythrocyte Omega-3 Fatty Acid Levels and Postpartum Mental Health Nutrients 2023, 15(20), 4388

■主食中心の食生活は要注意

こうした重要な栄養素を摂るためには、日々の食生活から意識する必要があります。

1.タンパク質

タンパク質(肉・魚・卵料理・大豆製品)は、毎食、最低2品食べるように心がけましょう。動物性タンパク質には、鉄分も多く含まれていますので、特に、タンパク質は「肉」や「魚」などの動物性タンパク質での摂取をお勧めしています。特に、サンマやイワシ、サバ、アジ、マグロ、鮭といった魚の脂にはDHA、EPAがたくさん含まれているので、積極的に取り入れたいです。

朝、どうしても忙しいという方には、無調整豆乳がオススメです。牛乳と同等のタンパク質が含まれる上、大豆に含まれるイソフラボンという成分が抗酸化作用を持っているため、体内の酸化ストレスを減らす効果があります。

マスに入った大豆と豆乳
写真=iStock.com/masa44
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/masa44
2.ゆるやかな糖質制限食

糖質の過剰な摂取は、ビタミンB群の消費につながりメンタルホルモンの合成を妨げます。また、血糖の乱高下をきたすことによって、特に低血糖症の際におこるアドレナリンなどの交感神経の緊張状態が、メンタルの不調につながることが多いのです。

炭水化物・糖質だけの食事、例えば、おにぎりだけとか、菓子パンだけとか、ラーメン・ライス、丼物、ピザ・パスタ+デザートのランチなど、主食中心の食生活は要注意です。朝と昼は、主食を食べ過ぎずにおかずもしっかりと食べましょう。そして、間食やお菓子の習慣はなくすようします。

特に、夕食は、主食はごく少量を摂取するようにして、おかずを中心にしっかりと食べましょう。その際には、揚げ物は、衣が炭水化物なのでNGと考えます。

■腸内環境を整える味噌、みりん、醤油、麹

3.腸内環境を整える食品の勧め

腸脳相関という言葉が最近注目されています。つまり、腸の調子とメンタルが密接に絡み合っているということなのです。メンタルホルモンのセロトニンやオキシトシンは、腸管粘膜で合成されることが知られています。つまり、お腹の調子が悪いとメンタルの不調をきたすというわけです。

ですから、腸内環境を整える食習慣を心がけましょう。

小麦のグルテンと乳製品に含まれるカゼインタンパクは、腸管粘膜の炎症を引き起こす物質として知られています。なので、パンや麺類といった小麦を使っている製品や乳製品は極力控えることをお勧めしています。

腸内環境を整えるために最近注目されているのが、日本古来の甘酒や味噌、みりん、醤油、麹いった発酵食品です。発酵食品の中の乳酸菌や麹菌などの微生物が腸内環境において、腸管粘膜の炎症を抑える作用があることもわかってきています。

■朝、カーテンを開けて1分間ほど深呼吸

「梅雨病」を予防するには、食生活にだけでなく生活習慣も重要です。

・日光浴

梅雨時は日照時間が減っていますが、まずは、朝、起きたときにお部屋のカーテンを開けてみましょう。朝日を思いっきり浴びて、1分間ほど目を閉じて大きく胸を張って深呼吸をしてみると、朝日の力で、脳内にセロトニンがたっぷりと拡がっていく感覚を味わうことができます。

朝、起きて日差しの入る部屋で伸びをする女性
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

また、梅雨時の狭間にも晴れる日はあります。天気がいい時は、熱中症には十分注意しながら、短時間、こまめに外に出て太陽の光を受けるようにします。

・リラクゼーション

梅雨時は、普段運動習慣のある方でも、外出を避けて室内に閉じこもりがちになってしまいます。そんな時こそ、できるだけリラックスできる状態をつくり楽しみましょう。

例えば、夕食後は、ゆったりと入浴して一日の疲れをとり、その後、室内でできるストレッチやヨガで体のリラクゼーションを促すゆるやかな運動をするのもいいでしょう。また、アロマやヒーリングミュージックなど五感でリラックスできる環境で、ゆっくりと体を休めることも効果的です。

・夜更かしは避ける

夜更かしは睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を乱す結果になります。睡眠に支障をきたすカフェインの摂取は、夕方5時以降は控えるようにしましょう。また、夕食の後は、できるだけ五感を休めることを心がけ、パソコンやスマートフォンでのネットサーフィンや、サスペンスもののドラマなど、脳を興奮させるような生活は避けましょう。そして、脳がリラックスした状態で、早めに床に入ることをお勧めします。

これらの食習慣や生活習慣を見直して、ぜひ、「梅雨病」を克服してください。

もう少しで、明るい日差しが戻ってきます。

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梶 尚志(かじ・たかし)
梶の木内科医院院長
1964年生まれ、富山県出身。富山医科薬科大学(現富山大学)医学部医学科卒業。医学博士。総合内科専門医、腎臓専門医として患者を診察する中で、通常の診察では解決できない「体の不調」に栄養学的なアプローチから治療と生活指導を行う。著書に『え、私って栄養失調だったの? その不調は病気でなく状態です!』『え、うちの子って、栄養失調だったの? その不調は食事で改善します!』(みらいパブリッシング)がある。

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(梶の木内科医院院長 梶 尚志)

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