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人気校に合格したのに高校受験を考えることに…"英語教育に熱心な学校"を選んだ親子に起きた「想定外の事態」

プレジデントオンライン / 2024年6月13日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

英語教育やグローバル教育に力を入れている中高一貫校に注目が集まっている。プロ家庭教師集団・名門指導会代表の西村則康さんは「英語ばかりに力を入れすぎて他の教科の学習にまで手が回らず、大学受験で苦戦してしまう子もいる。将来どの言語で学ぶのか、英語を身につけて何をしたいのかまで考えて受験をしたほうがいい」という――。

■「高校受験をし直そうかと考えています……」

近年、学校名に「国際」やカタカナ文字がつく私立中高一貫校が増えている。こうした学校では、「英語教育」や「グローバル教育」に力を入れており、世の中の動向に敏感なパワーカップル家庭を中心に人気を集め、中学受験激戦校となっている。

だが、猛勉強をしてなんとか滑り込んだにもかかわらず、入ってから後悔する家庭も多い。すみれちゃん(仮名)のお母さんもその一人だ。

すみれちゃんは2年前、とある中堅のグローバル校に合格した。その学校はもともと女子校だったが、数年前に共学化したのを機に英語教育に力を入れるグローバル校に生まれ変わった。グローバル校の先駆け、渋谷幕張中や渋谷渋谷中ほど帰国生の受け入れは多くないし、偏差値的にはまだそこまで高くない。話題の新設校ゆえ受験倍率は高いけれど、入ったら英語教育に力を入れてくれるので、グローバル社会において有利になるのではないか。そんな期待から、第1志望校に選んだのだ。

ところが、2年経って、すみれちゃんのお母さんからこんな連絡が来た。

「人気の学校に入ったのはいいけれど、英語の勉強ばかりに力を入れていて、他の教科が心配です……。うちは海外の大学へ入れたいと熱望しているわけではなく、どちらかといえば国内の大学に進学してほしいと考えています。でも、このままでは共通テストに必要な学力が身に付かないように感じて……。実は、高校受験をさせようか考えているんです」

■英語について行くのに必死で他の教科に手が回らなくなる子も

「これからは、英語くらいは話せないと将来困るのではないか」そんな感覚でグローバル校に惹かれる親は多い。大学受験であれほど英語を勉強したにもかかわらず、ろくに聞けない、話せない。そんな自分の英語力に嫌気が差し、わが子にはしっかり英語力を身に付けさせたいと願う。そんな親たちにとって、昨今次々と誕生しているグローバル校は、輝いて見えるのだろう。

確かに、「うちは英語教育に力を入れています」「数学も英語で学びます」など、説明会で大々的にアピールしている学校は、英語教育に熱心だ。従来の日本の英語教育にはなかったリスニングやスピーキングの授業に多くの時間を充て、ネイティブ教員を潤沢にそろえ、「使える英語」の育成をしてくれる。

しかし、授業のコマ数には限りがある。英語教育に力を入れれば、そのぶん他の教科の学習が手薄になりやすい。または、ハイレベルな英語の授業について行くのに必死で、他の教科にまで手が回らないという子も出てくる。先に出てきたすみれちゃんがまさにそういう状況に陥っていた。

■国内で大学受験をするときに苦戦する子が出てくる

グローバル校は、海外大学の進学実績をウリにしている。新設したばかりの学校はまだ結果が出ていないが、6年後はこれだけの英語力を身に付け、海外大学進学も夢ではないと、説明会で校長が熱く語る。だが、開校からすでに何年か経過している学校でも、生徒の全員が海外の大学へ進学するわけではないし、グローバル教育を謳っているわりには、まだそこまで進学実績が出ていないようにも感じる。そして、進学実績を出している子の多くが、実はもともと英語ができる帰国生だったりする。

つまり、その他大勢の子は、国内で大学受験をするということだ。そうなったとき、英語ばかりに力を入れすぎてしまうと、他の教科の学習にまで手が回らず、大学受験で苦戦してしまうという、思わぬ落とし穴があることを知らない親は多い。

参考書を持って説明する学校の先生
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■英語ができるようになって「何」を学びたいのか

ひとくちに「グローバル校」といっても、その中身はいろいろ。国際バカロレアを導入している学校、一部の授業を英語で学ぶ学校、英語のみレベルによって取り出し授業を行っている学校など、英語に力を入れる度合いは違う。将来的に海外の大学で学びたいと思ったとき、「英語ができるような状態になっている」ことは望ましい。でも、「英語ができるだけ」では不十分だ。なぜなら、それは「日本語ができるから日本の大学へ行く」という状態と何の変わりもないからだ。

大学へ進学する理由。それは、何か学びたいことがあるから行くのではないか。日本の高校生の場合、医学部などの専門学部でない限り、そこまで明確に何を学びたいかまで決めている子はいないかもしれないが、それでも、工学部の情報分野に行きたいとか、物理分野に行きたいとか、なんとなく進みたい道があるだろう。

ところが、こうしたグローバル校へ進学する子は、「英語が得意になりたい」「海外の大学に行きたい」という希望はあっても、そのスキルを使って何をしたいか、何を学びたいかまで考えが及んでいないことがある。それでは、ただ英語が話せるというだけで、海外の大学へ進学したとしても、その後で途方に暮れることになるだろう。

■同じ教科でも日本語と英語とでは学び方が違う

もう一つ、気をつけなければいけないことがある。それは、日本語での学びと英語での学びには大きな違いがあることだ。グローバル校の中には、数学や理科といった理系教科を英語で学ぶところもある。こうした教科は世界共通の答えがあるので、早い時期から英語で学んでおけば、海外の大学へ進学することになったときに困ることがない。

だが、同じ教科を学ぶにしても、日本と世界(英語圏)では、学び方自体が大きく違う。日本の中学・高校の数学は、計算に重きを置き、自分の手と頭を使って正解を出す「プロセス」を大事にした学びになっている。一方、アメリカなどの英語圏の数学は、計算はそこまで重視されていない。計算は計算機を使ってもよくて、それよりも他にどんなことに活用できるかという応用の視点を大切にしている。

黒板
写真=iStock.com/nicolas_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nicolas_

これはどちらの学び方がいいか悪いかではない。中高時代にどのように学んできたかによって、その後の進路に影響を及ぼすことを知っておいた方がいいという話だ。大学の数学のテキストを見ると、その違いがよく分かる。

■同じ「流体力学」でもテキストの内容は全然違う

例えば「流体力学」には気体の中の分子を表す方程式が出てくる。日本の大学のテキストには、なぜそのような式になるのかを説明する文章が長々と続くのに対し、MIT(マサチューセッツ工科大学)のテキストには、説明は一切ない。「これはこういう式で使う」という前提のもと、この方程式は血液中の赤血球の流れといった流動にも応用できると、「他に何に活用できるか」に重きを置いた学びを行っている。このように、両者は学び方がまったく異なるのだ。

それを知らずに、英語だけを一生懸命に勉強して、海外の大学で理系分野を専攻すると、これまでの学びとまったく違う学びをするので戸惑うことになるだろう。逆に国際バカロレアを導入している学校で数学を学んできた子が、日本の大学へ進学するときも同じことが言える。

■二刀流を目指して中途半端な状態になるリスク

グローバル化が進んだ今、子どもの将来の進学先に「海外の大学もありかもしれないな」とぼんやり考えている家庭は少なくない。そういう場合に、英語やグローバル教育に力を入れている学校は、確かに魅力的に見えるだろう。

しかし、英語が話せるというだけで海外の大学を目指すと、「何を学びたいか?」「何になりたいか?」といった明確なビジョンがないまま、中途半端な海外生活を送ることになるかもしれないし、英語だけに力を入れすぎたせいで、国内の大学受験に必要とされる教科バランスが欠けてしまうこともある。つまり、よほど明確なビジョンと覚悟を持って入らないと、海外・国内の大学どちらを選ぶにしても宙ぶらりんになってしまうということを知っておいてほしい。

これは、日本語がまだおぼつかない幼児期の早い段階から英語を習わせ、母語である日本語をしっかり身に付けられないまま、かといって英語が堪能というレベルでもないという、早期英語教育の弊害と状況が少し似ている。二刀流を目指したものの、かえって中途半端な状態になってしまうのだ。

アルファベット
写真=iStock.com/Daniela Jovanovska-Hristovska
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Daniela Jovanovska-Hristovska

■「将来、どの言語で学ぶのか」を考えた方がいい

だからこそ、こうしたグローバル校を受験する場合は、その先のことまでしっかり考えておくべきだ。グローバル校は確かに英語教育に力を入れているし、海外の大学の情報も豊富だ。でも、将来、海外の大学に進学することをまったく視野に入れていないのであれば、そこまでこだわる必要はない。開成中や桜蔭中といった難関校では、取り立てて英語教育に力を入れているわけではないけれど、近年、海外の大学へ進学する子も増えているし、グローバル校でなくても私立中高一貫校なら海外へ行くチャンスは多い。短期で体験した語学研修で海外に興味を持ち、自ら英語を頑張って勉強する子もいる。

小学生の段階で、将来は海外の大学へ行くと決められる子は少ない。だが、もしグローバル校を検討しているのなら、将来、どの言語で学ぶのかをよく考えた方がいいだろう。人気があるから、なんとなく良さそうだからと、安易に入れてしまうと、後で困るのは子どもだ。グローバル校だけではない。中学受験で一番大事なのは、「わが子にとってのベスト校」を見つけることだ。中高の6年間の学びは大きい。そこで何を学び、どんな力を付けていきたいか、そして将来はどんな環境で学ばせたいか、長い目で見ていく必要がある。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。

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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康)

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