グーグルやフェイスブック創業者は、なぜ趣味を仕事にできたのか…山口周が考える「仕事で大成する人」の特徴
プレジデントオンライン / 2024年6月14日 16時15分
※本稿は、山口周『クリティカル・ビジネス・パラダイム 社会運動とビジネスの交わるところ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■クリティカル・ビジネスに起業は必要ない
クリティカル・ビジネスを始めるにあたって、会社を辞めてコミットする必要はありませんし、投資家から莫大な資金を集める必要もありません。必要と思われる最優秀の人材を雇う必要はありませんし、そもそも会社を立ち上げる必要すらありません。
ステークホルダーのコミットメントも、潤沢な資金も、優秀な人材も、あるに越したことはありませんし、いずれはどうしても必要になるものではありますが、クリティカル・ビジネスを始めるにあたっては、まずは「手元にあるものでとにかく始める」のです。
歴史を振り返ってみれば、多くのスタートアップが、本業を抱えながらサイドプロジェクトとしてスタートしていることに気づかされます。Facebookはもともと、マーク・ザッカーバーグが学生時代にふざけて作ったFACE MASHというゲームでしたし、Twitterはもともと、創業者たちが関わっていた本業である仕事のかたわら進めていたサイドプロジェクトから生まれています。
アップルもGoogleもFacebookもYahoo!も、もともと会社にするつもりもなく始まった、遊びや趣味や好奇心によって駆動されたイニシアチブです。彼らは、会社を作るためにイニシアチブを立ち上げたのではなく、まずイニシアチブを立ち上げ、それが盛り上がってもう会社にしないとどうしようもない、という状況に至って会社にしているのです。
■「早く、小さく」試し、だんだんと大きくする
なぜ「手元にあるもので始める」ことが重要なのでしょうか? 理由は大きく三つあると思います。
1:リスクの低減
2:ステークホルダーの誘引
3:学習の加速
順にいきましょう。
クリティカル・ビジネスの実践にあたって「手元にあるもので、とにかく始める」ことが求められる理由の一つ目が「リスクの低減」です。
クリティカル・ビジネスでは、それまで社会の多数派には認められていなかったアジェンダを取り上げ、新たな問題提起を行います。そのため、取り上げたアジェンダがどれだけ多くの人々の共感を得られるかについて、常に大きな不確実性を伴うことになります。この不確実性は、市場リサーチやシミュレーションによって小さくすることはできません。
では、どうするか? 「とにかく早く、小さく試してみる」ということに尽きます。小さく試してみてポジティブなフィードバックがあれば、少しストロークを大きくしてみる。
そしてさらにポジティブなフィードバックがあれば、またさらに少しストロークを大きくしてみる。これは投資の世界においてリアルオプションと呼ばれるアプローチですが、同様のアプローチがクリティカル・ビジネスの立ち上げにおいても有効です。
■すべての仕事を辞める人よりも成功率が高い
「手元にあるもの」で始めるから、逆にリスクを大胆に取れるこのようなアプローチを採用することは、逆説的なメリットをアクティヴィストにもたらします。というのも、クリティカル・ビジネスの実践にあたって「手元にあるもので、とにかく始める」ことによって、アクティヴィストは逆に大胆なリスクを取ることができるようになるからです。何といっても、失敗によって失うのは「手元にあったものだけ」なのですから。
クリティカル・ビジネスの実践にあたっては、失敗したらすべてを失うようなリスクを背負う必要はありませんし、むしろ、背負うべきでもありません。なぜでしょうか? 失敗によって失うものが大きくなり過ぎてしまうと、クリティカル・ビジネスの実践において重要な「難易度の高いアジェンダ」を掲げられなくなるからです。
起業に関する過去の研究からは、安定した本業を持ちながら、リスクのある不確実性の高いビジネスを起業した人の方が、すべての仕事を辞めて起業にコミットした人よりも成功する確率が高い、という結果が出ています。
これは直感に反する研究結果だと思われるかもしれませんが、「安定した収入をもたらしてくれる本業を続けながら起業した人ほど、副業で大胆なリスクを取ることができる」と考えればその理屈は単純です。
■カフカやアインシュタインも、安定した職に就いていた
一方で、失敗したらすべてを失うような大きなリスクを取って大胆に起業した人ほど、失敗を恐れて大胆な行動が取れなくなってしまいます。結果的に、中途半端なストロークに終始して失敗する傾向がある、というのが研究の明らかにするところです。
このようなアプローチは投資の世界においてバーベル戦略と呼ばれます。バーベル戦略とは、投資ポートフォリオを、一方の端に非常に安全な投資を、もう一方の端に高リスク・高リターンの投資をおいて組み合わせる考え方です。
これをキャリアに当てはめて考えれば、一方の端に安定的な報酬が得られるけれども大化けすることのない仕事を、もう一方の端には不安定で不確実ではあるけれども大化けする可能性のある仕事を組み合わせるという考え方になります。
保険会社に勤めながら余暇を使って画期的な小説を書いたフランツ・カフカや特許局に勤めながら論文を書いてノーベル賞を受賞したアルバート・アインシュタインは典型的なバーベル戦略の成功例と言えます。
■優秀な人材を集めるためには?
クリティカル・ビジネスの実践において「手元にあるもので始める」ことが求められる二つ目の理由が「ステークホルダーの誘因」です。
前節において、私は「難易度の高いアジェンダを掲げる」ことが優秀な人材を集める上で重要だという指摘をしました。そう、確かに優秀な人材は難しくて挑戦的なアジェンダが大好きです。しかしでは、どのようにすれば、彼ら優秀な人材に、クリティカル・ビジネスのアクティヴィストが掲げる「難易度の高いアジェンダ」を伝え、知らせることができるでしょうか?
第1回記事〈iPhoneの修理代が本体代より高いのはおかしい…欧州で「修理できるスマホ」が熱狂的な支持を集める理由〉でも指摘しているように、クリティカル・ビジネスが掲げるのは必ずしも多数派のコンセンサスの取れていないアジェンダです。
これはつまり、何を言っているかというと、このアジェンダに共感してくれる人は確率的に少数であり、したがって優秀な人材を集めるためには、できるだけ多くの人に、このアジェンダの存在を知ってもらう必要がある、ということです。
ここでカギになってくるのが「報酬を伴わないメディアによる告知」、いわゆるPRです。PRは広報と訳され、ともすると一方的に情報を開示して終わるようなスタティックな活動としてイメージされがちです。
![ビジネスの説明をする女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/1/1200wm/img_31828dd5d174ef2d316ec0d8a1a78c28393697.jpg)
■効果的にPRするためには何が必要か
しかし本来は、その語源であるパブリック・リレーションズという言葉が示す通り「ある組織とその組織を取り巻く人間とのあいだに望ましい関係を築くための一連のコミュニケーション活動」と定義される、非常にダイナミックな活動です。
特に、少数派のアジェンダを掲げて社会の価値観の変革を目指すクリティカル・ビジネスのアクティヴィストにとって、PRは絶対に外すことのできない活動と言っていいでしょう。
さてでは、何がPRを展開する上での鍵になるのでしょうか。PRが何よりも求めるのは「鮮度の高い情報」です。そしてこの「鮮度の高い情報」は、とにかく動き出さないと生み出すことができないのです。
そして最後、三つ目の理由が「学習の加速」です。クリティカル・ビジネスは、その定義の上からして原理的に、既存の枠組みや方法論とは大きく乖離した領域でビジネスを展開します。これはつまりクリティカル・ビジネスにおいては「学習のスピード」が極めて重要な競争要因になるということを意味します。クリティカル・ビジネスの主体はすべからく「学習優位の組織」でなければなりません。
では、どのような要素が学習を加速するのでしょうか? フィードバックです。クリティカル・ビジネスのアクティヴィストは「手元にあるものからまず始める」ことで、市場や社会からのフィードバックを早期に取得することができます。
■とにかく始めて、フィードバックを増やすこと
クリティカル・ビジネスの実践にあたって、アクティヴィストは、非経済的な報酬によって獲得できる資源をありとあらゆるところから集めることを求められますが、このフィードバックもまた「非経済的資本」となります。
![山口周『クリティカル・ビジネス・パラダイム 社会運動とビジネスの交わるところ』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/b/1200wm/img_5b6045c47749dbf079f4c335989ed6ca208480.jpg)
教育学と経営学の領域にまたがってたぐいまれな業績をあげている経営学者のスーザン・アシュフォードは端的に「Feedback is resource=フィードバックは経営資源である」と指摘していますが、この資源は「とにかく始めること」によって増やすことができるのです。
さらに指摘すれば、フィードバックの価値は経時劣化する傾向がある、という点も押さえておきましょう。クリティカル・ビジネスの実践にあたっては、フィードバックの持つ価値は、事業運営に関する選択肢の最も多い初期段階ほど高く、時間を経て様々な選択肢の柔軟性が失われるにつれて減少していきます。「とにかく試してみる」ことによって、事業の早期の段階で良質なフィードバックを得ることが可能になります。
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独立研究者・著述家/パブリックスピーカー
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て現在は独立研究者・著述家・パブリックスピーカーとして活動。神奈川県葉山町在住。著書に『ニュータイプの時代』など多数。
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(独立研究者・著述家/パブリックスピーカー 山口 周)
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