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「うどんにはコーラが合う」を無視してはいけない…「丸亀製麺ハワイ店」が売り上げ世界一店舗になったワケ

プレジデントオンライン / 2024年6月16日 10時15分

トリドールホールディングスが運営する「MARUGAME UDONワイキキ店」 - 写真提供=トリドールホールディングス

丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスの海外展開が好調だ。2024年3月期の海外事業の売り上げは、前年比43.3%増の647億1400万円。中でも丸亀製麺の海外店舗1号店となるハワイ店の売り上げは全店舗1位を誇る。なぜ丸亀製麺のハワイ出店は成功したのか。事業を支援したコンサルティング会社「トイトマ」社長の山中哲男さんが解説する――。

■観光客が多くてもハワイは儲からない

トリドールホールディングスは海外で急速に店舗数を増やしていますが、中核ブランドである「丸亀製麺」の海外1号店は、実はハワイにあります。「MARUGAME UDONワイキキ店」は2011年のオープン以来、現在も世界の全店舗のなかで売り上げ1位の大人気店舗。私は、その立ち上げを支援しました。

ハワイに縁もゆかりもなかった私が、先輩経営者たちの誘いで初めてハワイに行ったのは2007年のこと。当時、25歳の私は飲食店を経営していましたが、飲食業界のみならず、さまざまな企業から経営や店舗開発の相談がくるようになっていました。自分自身で事業に取り組むことにもやりがいを感じていましたが、チャレンジしている人をサポートすることが性に合っていたのです。

心臓をバクバクさせながらなんとか入国手続きを済ませると、ワイキキで見渡した景色は新鮮で、すべてが感動的でした。ところがそんな感動も束の間。同行した1人が声をかけて集まった現地の経営者6人に私が「これだけ観光客が多いと儲(もう)かりそうですね」と聞くと、皆さんの顔が曇ってしまったのです。少し間があってから、1人が重い口を開きました。

「『ジャパニーズ・プライス』と言って、日本人は価格交渉に慣れていないので、テンナト料や内装費をふっかけられ高い金額を請求されるケースが多く、利益を出すのは簡単ではないよ」と。

■真っ当な環境でチャレンジできるように

その話を聞いてから私は悶々とした気持ちを抱え、帰国してからも、何か自分にできることがあるのではないかと考えを巡らせていました。そして、気が付いたら航空チケットを取り、再びハワイに向かっていました。

自分自身が不当な金額を請求されたり、騙されたりしたわけではありませんが、ハワイで強く抱いた違和感をなんとかして解消したい――。日本の食文化を広めようとしている人が、真っ当な環境でチャレンジできるようにしたかったのです。

法律が違うし、商習慣もわからないなかで挑戦するには入り口から支援する必要があると考え、すぐに現地でさまざまな分野のパートナーを探しました。そうして会社設立から銀行口座開設、ビザ取得、物件選定・契約、テストマーケティング、採用、仕入れ、PRまでをワンストップで支援できる体制をつくりあげました。1回のハワイ旅行がきっかけで、コンサルティング事業を立ち上げることになったのです。

最初の1年弱は毎日、私が1人でサービス概要の資料とハワイの地図をもって「ハワイに出店しませんか?」と知り合いに声をかけ、経営者が集まるイベントにも参加していました。ところがなんの実績もない若者を頼る人はなく、時間だけが過ぎていきました。

■丸亀製麺・粟田貴也社長との出会い

そうしたなか2009年、「面白そうだから」という理由で私の支援サービスを利用していただける方と出会い、その1件の契約から流れが変わりました。

知人にトリドール(現トリドールホールディングス)の粟田貴也社長をご紹介いただいたのも、その頃です。実は粟田社長は私と同郷で、地元経営者のなかではスター的存在であり、「この出会いをなんとしてでも形にするぞ」と意気込み、面会に臨みました。

粟田社長にお会いして話をすると、海外の話題になりました。丸亀製麺は国内での成長が著しく、海外はそこまで本気ではなかったそうですが、たまたま粟田社長がハワイ旅行に行った際に、「この物件で丸亀製麺をやったら賑わうだろう」と直感で感じる平屋の物件に出会いました。「FOR RENT」の看板が出ていたので、借りられるかを確認したところ、けんもほろろに断られてしまったそうです。

驚くことにその物件は、丸亀製麺をハワイに出すならピッタリなのではないかと、私も勝手に想像していた3つの物件のうちのひとつでした。その物件は立地がよく、早い段階で複数の申し込みが入っていました。ただ物件のオーナーは誰に貸すかをまだ決めていなかったので、交渉の余地がありました。

その旨を粟田社長に伝えると、「物件に関して一任するので、すぐに動いてほしい」とのこと。すぐにオーナーにアポイントを取り、面談することになりました。

■ハワイ出店のために大切にした2つのこと

当時、日本以外のアジア諸国にもハワイ進出を狙う企業は多かったですが、なかには契約を交わしても内装工事の途中で撤退したり、退去時に契約通りの対応をしなかったりといったことがあり、オーナーも慎重になっていました。

そこで日本企業の商習慣や真面目さ、トリドールが積み上げてきた実績、丸亀製麺の魅力などを丁寧に説明しました。そうしてなんとか交渉をまとめ、ワイキキ店の物件を確保することができたのです。

とはいえ、無事オープンして多くの人に利用してもらえる繁盛店にまでつくり込むには、これからが本番です。私自身のハワイでの経験値は高くありませんでしたが、現地の経営者からうまくいったことや課題、後悔していることなどリアリティのある情報を集め、分析をしました。

それによって得た注意点はたくさんありますが、ハワイでチャレンジする日本企業を支援するために特に大切にしたことが2つあります。

■「目の前でうどんを作り、できたてを提供する」

まず1つめは、「守るべきもの」と「捨てるべきもの」を明確にすること。

どんな事業を立ち上げる場合でも言えることですが、大前提として、大切にしている理念や想いを軸に事業を組み立てていくことが必要です。

さまざまな視点から思考を巡らせたり、いろいろな意見を聞いたりして計画書に落とし込んでいるうちに、いつの間にか大切にしていたことを忘れてしまう。一見よさそうなことだけに目がいってしまい、悪い意味で、まったく思いもよらなかった形になってしまうことがあります。これは海外展開でも同じです。

また、本質を理解せずに流行っているものをマネしたり、過去の成功体験に引っ張られて自分たちの価値観を押し付けてしまったりしているうちは、10年単位で成功したと言えるものを創出することは難しいです。

丸亀製麺には、理念や想いが明確にありました。「お客さまの喜びのために価値を創造し、変化・成長を続けていく」というベースの理念があり、目の前でうどんをつくり、実演し、できたてを提供する。手間暇かけることを惜しまず、お客さまが喜ぶことを体験価値として提供し続けているのです。

■「日本食はおいしい」という前提では失敗する

効率を求める昨今の風潮とは逆の発想かもしれませんが、その理念や想いが人を惹きつける要因になっているのでしょう。この考えは海外展開でも重要で、コンセプトや戦略を考えていくうえでの軸になります。うどんを売るのではなく、「製麺所としての体験価値を売っている」そうなので、それはどの地域や国でも損なってはいけないと感じました。

では、日本で大切にしてきたものをそのまま提供すればいいのかというと、そうではないケースが多いのも事実です。ハイエンドを狙ったサービスですと、日本そのままのクオリティや体験価値が求められるケースもありますが、丸亀製麺の狙うマーケットは日常食であり、地域の大衆文化に溶け込むことが求められます。

ワイキキ店「UDON」のメニュー
ワイキキ店「UDON」のメニュー

私が見てきたいちばんの失敗パターンは、「日本の食はおいしく、ハワイの食はおいしくない。だから、日本の食をそのまま提供すれば成功する」という考え方です。このような考えで展開した事業者は、ほとんどが数年もたずに撤退しました。この現状を粟田社長に伝えると、こう即答しました。

「味は食文化や嗜好があるので、現地の人の意見を聞きながら考えよう」

生意気かもしれませんが、「さすがだな」と思いました。同じ助言をしても、「大丈夫だよ。日本クオリティを出せば流行るから」と言って聞く耳をもたない人がほとんどでしたから。

■天ぷらの衣は「分厚いほうがいい」

なぜ日本の外食企業がハワイでうまくいかないのかを理解するために、現地の経営者たちにもヒアリングを重ねたところ、ハッとさせられたことがあります。それはニーズの優先順位です。日本と違ってハワイでは、「ボリューム」「エンタメ性」「価格」「味」の順に価値を求められるというのです。

そのことを教えてくださった経営者の方々のお店は、軒並み繁盛していました。もちろん、味がどうでもいいわけではありませんが、ニーズを意識した設計が重要なのです。

「捨てるべき」と言うのは大げさかもしれませんが、こだわり過ぎず、地域の文化・習慣や嗜好に合わせていく。まさにローカライズさせる余白をもっておくことが大切です。ただしこれはけっこう大変な作業で、丸亀製麺でも苦労がありました。

オープン前に、現地のニーズや嗜好などを調査して試作したメニューを現地の人に実際に食べていただきフィードバックをもらう、テストマーケティングを実施しました。すると「日本の天ぷらは柔らかすぎる」「衣は分厚いほうがいい」など、日本国内ではありえない意見や要望が飛び交いました。

ワイキキ店「RICE BOWLS」のメニュー
ワイキキ店「RICE BOWLS」のメニュー

■「うどんにも天ぷらにもコーラが合う」驚きの結果も

なかでも最後まで頭を悩ませたのは、「うどんにも天ぷらにもコーラが合う」という日本人には驚くべきリサーチ結果と意見です。あまりにも日本とは感覚や発想がかけ離れていましたが、最終的には粟田社長が「これが世界なのかな」と決断され、導入を決定しました。

いまでは店内には、コーラ片手にうどんや天ぷらを食べている人が本当に多く、そのときの決断が、オープンから13年たっても行列が絶えない要因のひとつになっています。狙うマーケットと自社のことをよく理解をしたうえで海外展開すれば、日本企業が世界で喜ばれるサービスを提供する余地は十分にあるのです。

2つめは、交渉のベースを自分から用意すること。

未知の地域や商習慣のなかで事業を行う場合、現地の相場やルールを学んでおかないと、契約後にあとに引けなくなることがよくあります。最初は誰もが知らないことだらけなので、調べることは当然ですが、自分より詳しい人に相談することが必要です。「そんなの当たり前」と思うかもしれませんが、わからないまま契約をしてしまい、トラブルになってから相談をされるケースが多々あります。

■相手方の条件をベースに交渉してはいけない

契約前には、条件交渉する場面が必ずあります。そこで契約書を読まず、よくわからないままサインをするのは大問題です。相手が提示してきた金額や条件そのままに交渉を進めると、不利な状況をつくり出してしまいます。相手は理想額を提示しているので、内心では自分の許容範囲内で着地できればいいと考えていますし、相手をみて金額を変えてきている場合もあるからです。

もちろん契約は、賃貸借でも内装工事でもM&Aでも、相手が納得しなければ先に進みません。ですが相手方から提示された金額をベースに議論するのではなく、自分たちの現実的な金額や条件を提示して交渉することが大事です。

ただしあまりに相場からかけ離れた安い金額だと、こちらの要求は、にべもなく断られてしまいますので、事前にリサーチをしておく必要があります。なぜこの金額や条件が妥当なのかを事前に考えて交渉することは国内でも同じですが、まったく土地勘のない海外では、よりいっそう意識して挑むべきです。こうして、丸亀製麺のケースでは、賃貸借契約や内装工事の交渉で大きなトラブルもなく無事進行しました。

■「わからないときは自分より詳しい人を頼る」

先日、とあるカンファレンスで一緒に登壇した際に、粟田社長からはこう言葉をかけていただきました。「山中さんに相談したから理想の物件を取得できたし、いまがあります。わからないときは自分より詳しい人を頼るか、相談したうえで進めることが大事だと思っています」

成功の裏には、当たり前のことを当たり前に実行する姿勢があるのです。

ハワイ・ワイキキ店は、トリドールホールディングスの急成長を支える海外事業の出発点になりました。世界に通用するグローバルフードカンパニーになるべく躍進されている姿をみると、感慨深いものがあります。

粟田社長と出会ってからオープンするまでの約1年半、ヒト、モノ、カネ、情報の面で想定外のことは多々ありましたが、理念を守りながら地域に馴染(なじ)ませたことで、ワイキキ店は丸亀製麺の世界一店舗になったといえるのでは、ないでしょうか。

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山中 哲男(やまなか・てつお)
トイトマ 代表取締役社長
事業開発、事業戦略立案を専門としている。新規事業開発支援、既存事業の戦略立案をハンズオンで支援するトイトマを創業し、代表取締役に就任。同時期、米国ハワイ州にて日本企業に対し、海外進出支援、店舗M&A仲介にも従事し、丸亀製麺の海外1号店などを支援。地域開発の新たなファイナンススキームを構築し展開するため、NECキャピタルソリューションと共にクラフィットを創業し代表取締役に就任。ヒューマンライフコード、ダイブ、バルニバービ、フィット、ミナデインの社外取締役も務める。大阪・関西万博2025での様々な取り組みをレガシーとして残すため、経産省、内閣官房、博覧会協会と連携し、支援チームを発足。著書に『相談する力』(海士の風)などがある。

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(トイトマ 代表取締役社長 山中 哲男)

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