「留学していました」だけでは有利にならない…面接官が海外業務志望者を判断する2つのポイント
プレジデントオンライン / 2024年6月14日 10時15分
■海外業務を希望しているが思い通りにいかない
20代男性の方からのご相談です――大学卒業後、しばらく働いていましたが、退職して米国へ語学留学をしていました。今年になって帰国し、海外業務にたずさわる仕事を探していますが、そのような仕事が見つかりません。英語を使ったり、海外へ出張や赴任をして働きたいのですが、「数年間、国内業務にたずさわってから」「必ず海外業務を担当できるとは約束できない」という返事ばかりです。海外事業がさかんな企業を受験していますが、こんな返答しか得られず不本意です。どう思われますか。
私は海外業務にたずさわった経験が長いため、海外事業の仕事に就きたい人から相談を受けることがあります。これはよくある質問の典型例といえます。
そのまま求職し続ければ、希望の職種に就けるのかもしれませんが、ここでは考え方についてアドバイスしましょう。
■「英語をよくわかっている」だけでは不十分
就職試験を受けるに当たって、どのくらいの準備ができているか。次の質問に答えることでテストしてみましょう。
「留学されていたとのことですが、実際の英語力はどのくらいでしょうか」
この質問に対する答えで、あなたがどんな力を持った人かわかります。
「私は何年もアメリカに住んでいましたから、英語で困ることはありません」と答えた人がいたとしましょう。
これは面接における適切な、あるいは十分な答え方ではありません。
面接では、「英語をよくわかっている」と述べるだけでなく、それを客観的に証明するもの(=面接官がより具体的に受験者の英語力を把握できる説明)が必要だからです。
海外で学校を卒業していれば、そのことについて。そうでなければ英語能力試験のスコアなど。
あなたには「試験の点数で証明しなくても、自分は実際にコミュニケーションがとれている。試験で何点という人よりも、自分のほうが上手に会話できる」と思えるかもしれません。
しかし残念ながら、それが本当だとしても、その理屈で納得してくれる企業は少ないでしょう。
ただ海外で暮らしていたとか、学校に通っていたという説明だけでは、就職活動が有利に導かれることは稀です。
そのことを認識して、それなりの準備をしてきた人かどうか――まずは、ここで大きな篩(ふるい)に掛けられるでしょう。
採用する側(面接官)が、受験者の英語力を把握する力を持っていることも、持っていないこともありますが、いずれの場合でも、何らか具体的な判断材料を提示することが必要です。
それを理解しているかどうかは、面接官が受験者の(語学力とは別の)力を見定める際のポイントにもなるでしょう。
就活をする人は、それをわかった上で、準備を整えていることが大事なのです。
■まともな英語を身につけているか
語学に堪能な人材を豊富に採用している企業であれば、社内に受験者の語学力を見極めるノウハウがあるはずですが、そうした企業を受験する場合には、受験者間の競争もそれなりのものになると考えられますから、なおさら準備が必要になるでしょう。
実際に英語圏で生活をしてきた人たちの中には、試験のスコアで実力を判断されるなんて本意ではないと感じる人もいるようですが、英語圏でどれだけ長く生活していようとも、まともに英語を身につけていない人も多いことを忘れてはいけません。
したがって、数多くの受験者に会う面接官が、「自分はよくできます」あるいは「やる気があります」という売り込みの文句だけで信用してくれる、そんなことは有り得ないと自覚すべきでしょう。
私は顧客企業からの依頼で、海外事業にたずさわる人材の採用面接で面接官をすることがあります。その際の私の役割は、語学スキルや海外経験について尋ね、現在の実力と伸びしろに見当をつけることです。
一度、面接官として地方の大学へ出向き、学生を面接したときのことです。
学部4年の学生が、自分の語学スキルをアピールし、在学中には留学だけでなく、ワーキングホリデイのような制度を活用して、1年半ほど英語圏で働いていた経験があり、非常に高いレベルで英語を扱えると話しました。
日本で英語を勉強しただけの人たちと違い、自分は英語でのコミュニケーションスキルに長けているとも言います。
![卒業を祝う学生](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/4/1200wm/img_e458a6f41d4e18fd048d428a9fd7e174401101.jpg)
■英語での自己紹介を拒否する学生
そこで私が「それでは、手短に英語で自己紹介をしていただけますか」と言うと、「えっ……」と返答したまま、何も話そうとしません。
「どうぞ。Please go ahead and introduce yourself in English.」と促しても、「い、いまですか。準備していませんので……」と答えるのです。
「大丈夫です。簡単でいいですから。さっき話されたことを英語で話してみてください」と言うと、黙り込んでしまいました。
こちらは別に意地悪をしているわけではないのです。3人もいる面接官(私はそのうちの1人)の前で、大アピールをするので、どのくらいのレベルの話かを確認しようとしただけです。
しかし、学生は「いえ、できません。やりません」と述べたのです。
面接官をしていると、こういう受験者もめずらしくはないのです。
■留学していなくても伸びしろが大きい人もいる
一般的に、英語圏で高校を卒業して、それから大学も卒業したということであれば、それなりの語学スキルはあると考えられます。
しかし大学から留学した人などは、卒業する段階になっても、学生っぽい日常会話ができる程度で、読み書きにいたっては、ほとんどNGという人も、実は非常に多いのです。
その一方で、日本の大学生で、留学経験はないか、ごく短期間の経験しかない人でも、基本をしっかりと押さえていて、伸びしろが大きく、今後かなりの上達を期待できる人もいるのです。
このくらいお伝えすれば、十二分におわかりいただけるのではないでしょうか。
語学のスキルを売りにして求職する際には、「留学していました」は、必ずしも必要な要件でもないのです。
![何が必要ですか?](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/b/1200wm/img_ebcacaefd97e6905e49916c0aebd34b0396300.jpg)
■グローバル人材は常に不足している
さあ、それでは「留学していました」は、海外業務にたずさわりたい人にとって、まったく売りにならないことなのか。
実はそういうことでもありません。
ここまでシビアな話をしましたが、あなたが(海外業務にたずさわってはいないが)すでに会社に雇用されている立場であれば、海外で暮らしていたとか、留学していたというのは、海外業務に抜擢(ばってき)されるにあたって、大きなアドバンテージとなります。
私も深くたずさわっている製造企業の(特に)生産現場で働く人たちを例に挙げれば、海外業務で活躍できる語学スキルを持つ人材は、常に不足しています。
海外の製造拠点で働きたいという人材も少なく、グローバル人材の確保に苦労している企業は少なくありません。
生産業務で経験を積んでいて、相談者の方のように、やる気も語学スキルもある人材となれば重宝されるでしょう。
採用面接に挑んだ会社で、海外事業にたずさわるのは「数年間、国内業務にたずさわってから」「必ず海外業務を担当できるかは定かでない」といった意味のことを言われるのは、まるでおかしいことではありません。
まどろっこしい返答に聞こえ、そんな返事では入社を決意していいのか判断できないと感じるかもしれません。
しかし、その返答自体は正直で、しかるべきものと言えるでしょう。
■海外経験プラスαが必要
海外業務に抜擢されるにあたっては、語学力や海外体験以外に、何らかのプロフェッションを持っていることが重要になります。
もともとどんな専門性を持っているか、これまでどんな業務にたずさわってきたかという点が考慮されるでしょう。
前出の製造企業の生産現場で働く人たちは、(大まかに例を挙げれば)生産技術、生産管理、現場管理、品質管理などが専門分野ですが、多くが海外で働きたいとは思っておらず、外国語によるコミュニケーションや異文化下での業務には消極的という人たちです。
そのため、これらの両方を得意とする、あるいは熱心に取り組める人材であれば、選ばれる可能性は高いでしょう。
すでにその会社に勤務していて、海外業務にたずさわることを希望している段階になれば、たとえば英語能力試験で点数を稼ぐのが苦手だとしても、前向きな姿勢が評価され、多めに見てもらえることもあると思います。
![目標を持った人の成功イメージ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/c/1200wm/img_8c86d30d0c45c0941253ac8314ed7b15375916.jpg)
■自分の仕事を外国語でもこなせるか
専門性の高い仕事をしている人は、外国語でもその仕事をこなせるようになると、引っ張りだこになります。
私は長年、海外事業全般にたずさわってきましたが、日本人の経理担当者で英語が得意という人には会ったことがありませんでした。両方に明るいとなれば、その人にしかできない活躍ができるでしょう。
もっとも「自分のプロフェッション+それを外国語でもこなす力」は、キャリアを積み重ねながら身につけていくものです。
質問者の方は、これからそれを確実にするつもりで、取り組んでいかれるとよいでしょう。
■「ただの外国好き」と評価されないために
就職活動では、面接官が自分の語学やコミュニケーションの力を理解しようとしないことや、留学経験を評価しないことに苛立ったりするかもしれませんが、就職活動中は、そうした気持ちは直隠(ひたかく)しにし、「ナイスガイ」として振舞うことをお勧めします。
「相手がわかろうとしていないのに、何がナイスガイだ⁉」と憤慨されるかもしれません。
しかし面接官が、あなたのことを「海外で仕事をしたいだけの人」「ただの外国好き」と評価し、それがあなたの評判となってしまったら、あまりにもったいない話です。
どのように会社に貢献したいか。そこであなたの海外経験なりが、どう役立つと考えるのか。これを熟考している印象を与えるようにしたいところです。
むしろ、あまり簡単に採用される会社だと、入社してからあなたが「この人から学びたい」と思う先輩などは少ないところかもしれません。
日本企業から海外業務がなくなることはありません。
活躍する人材は、今後も求められ続けますから、よく考えた上でTake it easy.でいきましょうと、お伝えしておきたいと思います。
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サイドマン経営・代表
もともとグローバル人材育成を専門とする経営コンサルタントだが、近年は会社組織などに存在する「ハラスメントの行為者」のカウンセラーとしての業務が増加中。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科では、非常勤講師としてコミュニケーションに関連した科目を受け持っている。著書に『好きになられる能力 ライカビリティ』(光文社)『英語で学ぶトヨタ生産方式』(研究社)『英語で仕事をしたい人の必修14講』(慶應義塾大学出版会)など多数。
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(サイドマン経営・代表 松崎 久純)
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