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「7つのゼロ」の公約は「ほぼ未達成」なのに…元都庁幹部が指摘する「女帝・小池百合子都知事」の強さの秘密

プレジデントオンライン / 2024年6月9日 7時15分

2024年6月4日の東京都議会定例会で答弁する小池百合子知事 - 写真提供=共同通信社

7月7日投開票の東京都知事選に向けて、小池百合子都知事の動向に注目が集まっている。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「小池氏が3選に向けて立候補すれば、蓮舫氏との事実上の一騎打ちになる。学歴詐称疑惑というアキレス腱はあるが、致命的な失敗がないというのが小池氏の強みだ」という――。

■都知事選の前哨戦がスタート

6月4日に行われた東京都議会での代表質問。主な会派の代表者による質疑は、現職の小池百合子知事(71)と、最強の挑戦者、蓮舫参議院議員(56)との一大決戦の幕開けとも言える様相を呈した。

小池氏が、2期8年を振り返り、「チルドレンファーストの社会、安全・安心な社会の実現に大胆な発想で挑み、国をも動かしてきた」と実績を語れば、蓮舫氏が所属する立憲民主党の山口拓都議は、小池氏のカイロ大卒という「学歴詐称疑惑」について、成績証明書などの提出を強く求め、1期目で公約した「介護離職ゼロ」や「残業ゼロ」など「7つのゼロ」の達成度を厳しく追及した。

「きょうにも出馬表明か?」と報道陣が詰めかける中、議場に現れた小池氏は、オフホワイトのスーツ姿。ちなみに、「出馬表明があるのでは?」と見られた都議会開幕日の5月29日は青と白の格子のジャケット姿だった。

そういう日に出馬表明などない。なぜなら、小池氏の勝負カラーは緑だからである。

■「緑の小池氏」vs「白の連邦氏」

振り返れば、1992年、参議院議員に当選し、国会に初登院したときは濃い緑のジャケット。2017年、「希望の党」を立ち上げた際、首に巻いていたスカーフや筆者ら報道陣に披露した党のロゴも緑。そして同年、地域政党「都民ファーストの会」を発足させたときも、イメージカラーに緑を選択してきた。

対する蓮舫氏の勝負カラーは白だ。今回の都知事選の構図を、各メディアは「著名な女性候補による頂上決戦」、「劇場型と一点突破型の戦い」と位置づけ、中には「学歴詐称と国籍問題、すねに傷を持つ女帝と批判の女王との消去法」など揶揄するものもある。

都知事選に立候補した蓮舫氏
都知事選に立候補した蓮舫氏(写真=独立行政法人国立女性教育会館/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

筆者は、近く小池氏が、緑を基調にした服装で報道陣の前に姿を見せたとき、ともに衆議院への鞍替えを視野に入れての「緑のたぬきと白ギツネ」の戦いが本格的に始まると見ている。

■「国政に復帰し、もうひと花咲かせたい」

筆者が「衆議院への鞍替えを視野に」と述べたのには理由がある。自民党東京都連関係者によれば、4月28日に行われた衆議院補選(東京15区、島根1区、長崎3区)を前に、萩生田光一前政調会長が小池氏に東京15区からの出馬を打診している。

このときは、衆議院の解散総選挙の時期などが読めないことなどから見送られたが、この関係者の言葉を借りれば、7月15日には72歳を迎える小池氏の中で、「なるべく早く国政に復帰し、自民党に戻って、もうひと花咲かせたいとの思いは消えてはいない」という。

一方、過去にも都知事選候補に名前が取り沙汰されてきた蓮舫氏はどうだろうか。蓮舫氏が最終的に出馬を決断したのは5月26日の夜のことだ。立憲民主党の都連関係者は語る。

「5月1日の都知事選候補の選考委員会で、蓮舫さんに近い都連幹事長の手塚仁雄衆議院議員に『説得してみてくれ』という話が出ました。それまでは、一時、塩村文夏参議院議員でどうかという声もありましたが、塩村さんは45歳と若く実績が少ない。

結局、蓮舫さんが、手塚さんからの『都政から国政を動かそう』という言葉や、静岡県知事選挙で立憲民主党などが推した鈴木康友さんが勝ったのを受けて決断してくれましたから、いい戦いになると思っています」

■選挙に負けても蓮舫氏は損をしない

この頃、立憲民主党が行った情勢調査では、小池氏が40%、蓮舫氏が30%と十分逆転できるポイント差であったことも蓮舫氏の背中を押したと言っていい。

その蓮舫氏も、出馬を決断するまでは「衆議院に鞍替えしたい」との思いがあり、党側も衆議院の解散総選挙があれば、東京26区(目黒区・大田区)で蓮舫氏を公認する方向で調整を進めていた。

その26区はまだ候補者が空白となったままで、仮に、蓮舫氏が都知事選で敗れたとしても、衆議院に鞍替えする機会は担保される。しかも、総選挙の時期はそう遠くない。

鞍替えに成功すれば、9月に予定される立憲民主党の代表選挙で泉健太氏(49)が再選されたとしても、いずれ泉氏の対抗馬として、政治の師と仰ぐ野田佳彦元首相(67)を、同じ野田門下生の手塚氏らとともに推し立てることもできる。つまり、蓮舫氏からすれば、都知事選に出て何ひとつ損はないということになる。

■小池氏が優位である4つの理由

都知事選には、元航空幕僚長の田母神俊雄氏(75)や広島県安芸高田市長を務めた石丸伸二氏(41)らが出馬を表明しており、保守層や無党派層などの票の行方は予断を許さない。それでも、都知事選は小池氏vs蓮舫氏のガチンコ対決、しかも小池氏が優位という構図に変わりはない。

①都知事選には「現職は負けない神話」がある

過去に都知事選で現職が出馬した場合、負けたことがない。今回は出馬表明を遅らせ、蓮舫氏をじらすとともにメディアの注目を集めている。

②自公が推せば、基礎票で小池氏が大幅にリードする

2022年7月の参議院選挙の得票から基礎票を推測すると小池氏有利

小池氏の基礎票=約250万~260万票
自公3人(朝日健太郎、生稲晃子、竹谷とし子)と都民ファ1人(荒木千陽)の得票の合計から推測

蓮舫氏の基礎票=約220万~230万票
立憲2人(蓮舫、松尾明弘)と共産(山添拓)、れいわ(山本太郎)の得票の合計ら推測

③連合が小池氏支援に回る可能性もあり

立憲民主党の支持母体、連合の芳野友子会長は、小池氏を「連合東京の政策を理解してもらい関係性も良い」と評価している。連合は、蓮舫氏を共産党が支援することに抵抗感が強く、まとまって蓮舫氏を支援することは考えられない。

④小池氏は、2期8年の間に「これはひどい!」という決定的な失敗はしていない

■「7つのゼロ」はほとんど未達成だが…

特に④は重要だ。小池氏の公式ウェブサイトを見ると、「これまでのお仕事」として「待機児童の解消」「保育サービスの拡充」「男性の育児休業取得率アップ」「高校授業料の無償化」、それに「女性活躍の推進」といった項目について、グラフで達成度を「見える化」している。

小池百合子氏の公式ウェブサイトで紹介されている「実績」
小池百合子氏の公式ウェブサイトで紹介されている「実績」の一部

もちろん、対立候補の蓮舫氏が5月27日の出馬会見で、「小池都政をリセットする」と批判したように、小池氏が就任当初から公約として掲げてきた「7つのゼロ」は、「ペット殺処分ゼロ」を除き、ほとんど達成されていない。

小池都知事が掲げる「7つのゼロ」

・待機児童ゼロ
・介護離職ゼロ
・残業ゼロ
・都道電柱ゼロ
・満員電車ゼロ
・多摩格差ゼロ
・ペット殺処分ゼロ

それでも、2016年の知事就任当時よりはさまざまな面で改善されているということを、ウェブサイトでアピールしている。

■自民党への逆風は小池氏には吹かない?

元東京都庁幹部の澤章氏は言う。

「小池氏にとっては、初めて『守り』の選挙になりますよね。これまでは自分でイニシアチブを握って戦いを進めてきたのが、今回は蓮舫氏に突き上げられる形。とはいえ、個々の政策で問題だなと思うことはありますが、隙はないですよね。『これはひどい!』というミスはしていませんよね」

「このところ、衆議院の補欠選挙や地方の首長選挙で、政治とカネの問題に関して自民党に逆風が吹いていますが、その逆風が小池氏にも影響するかというと、それは別物だと思います。たとえば、東京・港区長選で自公が推薦した現職を破った清家愛さんと都庁で会って、意気投合した様子を見せましたね。それは逆風への危機感ではあるのですが、さらっと取り込むあたりは小池氏らしいと思います」

■元都庁幹部も認める小池氏の強さ

澤氏と言えば、東京都庁で、知事本局計画調整部長、中央卸売市場次長、選挙管理委員会事務局長などの要職を歴任しながら小池氏を間近で見てきた人物だ。著書『築地と豊洲』(都政新報社)や『ハダカの東京都庁』(文藝春秋)でも知られている。

その澤氏は、小池氏が今年1月4日に発表した「018サポート」(東京都内に在住する18歳以下の子どもに1人あたり月額5000円を支給する事業)を例に、「これは岸田文雄首相が年頭会見で発表した『異次元の少子化対策』にぶつけたもので、世間の目を自分へと向ける政治的なパフォーマンスだ」と批判している。また高校授業料の無償化に関しても、「埼玉、千葉、神奈川との地域間格差を助長してしまっている」と懸念を示す。

ただ、そんな澤氏でも、致命的な失敗がない小池氏の強さは認めているのだ。

■学歴詐称疑惑についてどう弁明するか

小池氏と蓮舫氏はともにテレビキャスター出身で知名度は抜群だが、それぞれにアキレス腱も抱えている。

小池氏の場合は、やはり「学歴詐称疑惑」だ。卒業したとされるカイロ大は、今のところお墨つきを与えているが、小池氏が都知事選で敗れ政治家でなくなった瞬間、手のひら返しをする可能性もなくはない。

小池氏が選挙戦で「学歴」に関してどう説明するかはもちろん注目だが、世に出る最初についた嘘を、最後までつき続けなければならないとすれば、それはあまりに哀しいと言うほかない。また、3期目に向け斬新さを打ち出せるかも焦点になる。

都庁
写真=iStock.com/K2_keyleter
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/K2_keyleter

■蓮舫氏も攻めの姿勢だけではいられない

蓮舫氏の場合は、日本と台湾の「国籍問題」以上に、その舌鋒の鋭さがアキレス腱となる。

国会での与野党対立を都知事選に持ち込み、ネガティブな部分にだけキャッチーなフレーズを用いているようではまず勝てない。選挙公約を発表したうえで、それらへの批判や小池氏との違いについても丁寧に答えなければならない。

たとえば、「8年前、『やりたいことは都政ではなく国政』と述べていたが、なぜ今度は都政なのか?」、「小池氏の政策をリセットして何をするのか?」という問いに、蓮舫氏はどう答えるのだろうか。

予算規模で見れば16.6兆円と、スウェーデンなどの国家予算に匹敵する東京都。そのトップを決める夏の首都決戦。全体で見れば、小池氏が「守り」、蓮舫氏は「攻め」の戦いになるが、公開討論会などが設定されれば、挑戦者である蓮舫氏にも一定の防御力が求められる戦いになる。

「緑のたぬきと白ギツネ」、「女帝と批判の女王」と、どうしても2人の対決に注目が集まるが、都知事選には毎回20人以上が立候補する。その中からどういう考えで誰を選ぶのか、有権者の「人を見る目」も試されている。

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清水 克彦(しみず・かつひこ)
政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学特任教授
愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。米国留学を経てキャスター、報道ワイド番組プロデューサー、大妻女子大学非常勤講師などを歴任。専門分野は現代政治、国際関係論、キャリア教育。著書は『日本有事』、『台湾有事』、『安倍政権の罠』、『ラジオ記者、走る』、『2025年大学入試大改革』ほか多数。

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(政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学特任教授 清水 克彦)

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