トップセールスは口下手なうえに超寡黙…キーエンスの営業が口のうまさやコミュ力に頼らず売れまくるワケ
プレジデントオンライン / 2024年6月12日 18時15分
※本稿は、プレジデントオンラインアカデミーの連載『キーエンス出身コンサルタントが伝授 売り込まずに売れる「営業の魔法」』の第1話を再編集したものです。
■あなたの営業は、なぜ売れないのか
「私は口下手なので、営業成績が上がりません……」
営業に売れない理由を聞くと、こう話す人が多くいます。断言しますが、口下手でもトップセールスになることは可能です。実際、私がかつてキーエンスで働いていたときにトップセールスになった人は、口下手なうえに超寡黙でした。どのくらいかというと、あまりにしゃべらなすぎてお客様から心配され、ソワソワされてしまうほどです。それでもこの人が売れていた理由は、ちゃんとお客様にとって何が「価値」となるのかを知り、それを相手に訴求し、きちんと価値のあるものを提供できていたからです。売れないセールスパーソンに足りていないのは、口のうまさではなく、この「価値」の追求だったのです。
お客様にとっての価値とは、会社の利益が増えることであったり、組織の生産性が上がることだったりします。さらに言えば、目の前の担当者にとっては、それを買うことで昇進につながったり、仕事が楽になったり、部下からのクレームがなくなったりすることです。お客様にとっての価値が何なのかを見つけ出して訴えることこそ本当のセールストークであるのに、それをしないで、ただ自社の「商品」を売ろうとする。これが、あなたを売れない営業パーソンにしている理由です。重要なのは、その商品が目の前の方のどんな問題を解決して、価値につながるかということをお客様自身に気づかせることなのです。
そのためには、お客様に商品の価値が伝わる方法で訴求しなければいけません。こちらの提案がどのような価値をもたらすか、きちんと順を追って伝えれば、お客様も納得して商品を購入してくれます。「納得感」に口のうまさやコミュ力は必須ではありません。どんな人でも、トップセールスパーソンになることは可能なのです。
■売れない営業は「特長」を語り、売れる営業は「利点」を語る
セールストークの例を挙げましょう。工場などで使われている、機械パーツを販売するケースを想定します。売れない営業パーソンは、初めての商談で次のように話します。
「わが社の商品は、このような機能があって、優れた点はこの点です。価格はこのくらいです。同業他社の販売価格と比較して、100円ほど安く提供できます」
このトークの悪い点は、ただ商品の「特長」を話しているにすぎないこと。興味がない人からすると「そうですか」という感想しか抱けず、実に眠たくなる話で、これでは受注につながらないに決まっています。売れない営業パーソンの主語は、いつも「私たち」。私たちの会社、私たちの商品、私たちの商品の機能、私たちの商品の特長……こういったことを延々と話しますが、お客様からすれば興味ありません。
一方、売れる営業パーソンは初手から「利点」を語ります。
「この商品の機能は御社のこの作業のこの工程においてこのように役立ちます。それによって生産性がこのように上がります」という話をします。
お客様にとって、どのようなメリットがあるかということが明確に語られています。売れる営業パーソンの商談は常に「お客様」が主語です。よく「お客様目線に立ちなさい」と言うでしょう? お客様目線で話すということはつまり、どのような変化が商品によってもたらされ、どのような利点があるかをお客様を、主語にして語るということです。どんないいことがあるかが、お客様にもわかりやすいので、「それいいね」と受注につながります。
「特長」を「利点」に変換するためのコツがあります。商品の特長に対し、「だから何?」を自問自答するのです。常に「お客様から『だから何?』と聞かれている」と想像しながら、トークを組み立てれば、おのずと利点が洗い出せます。
たとえば「自動プレゼン資料出力機能があります」と言ったとすると、これは特長の説明。そこで「だから何?」と聞かれたと考える。その答えは、「見栄えのいい資料を自動で出力できて、従業員様の手間を取る時間が60分削減できます。これがコスト削減につながります」となる。これは利点です。そんなふうに、商品が相手の価値につながっている、利点につながっているという仕組みを言語化していけばいいのです。
![営業トークは「自社視点」ではなく「お客様視点」の言葉に置き換える](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/0/1200wm/img_0084fc0881294148473539d383ce1621416493.jpg)
■トップセールスだけが知っている、必ず売れる「価値の訴求」法
キーエンスのセールスパーソンは、この利点をさらにブラッシュアップし、「価値」に変えて商談を行います。どういうことかというと、利点に対して「時間視点」と「人視点」の要素を掛け合わせて、相手にとって商品が「価値のあるもの」だと感じるように伝えるのです。
前述の自動プレゼン資料出力機能の例でいえば、「従業員様の時間が60分削減できます」という言い方をしていました。これは「利点」です。これに「人視点」から、「御社の場合、営業の方々が100名いらっしゃいますので――」という要素を加える。さらに、時間視点を加え、「年間でいうと2000時間の削減になります。1年間の1名当たり労働時間は約2080時間なので、2000時間の削減というと、従業員様1名分の年間労働時間にあたります」とセールストークを展開します。これが、「価値」を伝えるということです。「人件費に換算すると、従業員様1人分の1年間の人件費、おおよそ500万から600万のコスト削減につながります。いかがでしょうか?」そうするとお客様は、「500万、600万の価値がこの自動プレゼン資料出力機能にあるのか。いいじゃないか、この機能」となるわけです。
「利点」を「価値」に広げるためには、下準備、下調べがとても大事です。今の例で言えば、お客様の会社の従業員数とお客様の社内の業務を調べておけば、このプレゼンができるわけです。話すときには、「御社の組織体の中で営業の方々が100名いらっしゃるということを、IRで拝見しました。そうすると、想定ではありますが、従業員様の時間が合計2000時間削減できます。この一機能で500万円ぐらいのコスト削減になるかと思うのですが」といった形で進めます。
また、同じ利点であっても、相手によって価値は変わってきます。たとえば、相手が人事・総務部の担当者であれば、「業務効率化で残業が年間2000時間減り、残業代が750万円削減できる」ということが価値になりますが、営業企画部がお客様の場合は「業務効率化で事務作業が年間2000時間減ります。2000時間というと、約1年分ですから、その分営業活動に充てることができるとして、御社の営業担当の月間売上が平均300万円とすると、年間にして売上3600万円上げることが期待できますね」という伝え方が効果的になります。
■値下げ要求されないセールストークの鉄則
「商品の特長を伝えるだけでも、十分これまで売ることができていた」という人もいるでしょう。もちろん、お客様の中には特長を伝えるだけで商品を買ってくれる人もいます。ただ、そういうお客様は、自分の頭の中で「この商品の価値は何か」を自分で考えることができる“賢いお客様”です。ですから、「同じ機能がある商品って、ほかにもあるのではないか」と思って調べ、「やっぱりあった」と見つけてしまう。そうなると、必ず相見積もりを取ります。そして値下げを要求したり、最終購入してもらえなかったりする可能性が高くなります。賢いお客様は、有難いお客様ではあるのですが、“いいお客様”にはならないのです。自分で自分の利点に気づいていないお客様に、それまで気づいていなかった「価値」を訴求することが、トップセールスになるためには重要なのです。きちんと理屈立てて、商品の「価値」を説明していけば「たしかに、これは役立ちますね」とスムーズに商品を購入してもらえるわけです。
「キーエンスは体育会」というイメージから勘違いしている人も多いのですが、気合を入れて情熱的に行う商談がトップセールスパーソンのやり方というわけではありません。お客様にとっての商品の「価値」を理論的に分析してセールストークを構成し、わかりやすいよう順番立てて話していけば、必ず「ほしい」となります。だから、口のうまさや人格は営業成績に対してそれほど重要な要素ではない、ということなのです。
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戦略コンサルタント
株式会社キーエンスにてコンサルティングエンジニアとして、技術支援、重要顧客を担当。大手システム会社の業務システム構築支援をはじめ、年30社に及ぶシステム制作サポートを手掛けた経験が、「最小の人の命の時間と資本で、最大の付加価値を生み出す」という経営哲学、世界初のイノベーションを生む商品企画、ニーズの裏のニーズ®までを突き詰めるコンサルティングセールス、構造に特化した高収益化コンサルティングの基礎となっている。その後、企業向け研修会社の立ち上げに参画し、独立。年商10億円~4000億円規模の経営戦略コンサルティングなどを行い、月1億円、年10億円超の利益改善などを達成した企業を次々と輩出。企業が社会変化に適応し、中長期発展するための仕組みを提供している。著書に『構造が成果を創る』(中央経済社)、『キーエンス思考×ChatGPT時代の付加価値仕事術』(日経BP)、発刊10万部を突破した『付加価値のつくりかた』(かんき出版)がある。
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(戦略コンサルタント 田尻 望 構成=久保田正志 図版作成=大橋昭一)
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