本当のお金持ちは100円ショップでも1点しか買わない…貯められない人ほど「100均での爆買い」をするワケ
プレジデントオンライン / 2024年6月13日 9時15分
■年間1人当たり1万円弱を「100円グッズ」に使っている
民間調査会社・帝国データバンクによると、「100均」市場が初の1兆円を突破したという。
2023年度の売上高は約1兆200億円の見込みで、日本の総人口は1億2429万人ほどだから、全国民が一人当たり1万円弱の100円グッズを買っていることになる。背景にあるのは、物価高による節約志向だ。
100円ショップは安さの代名詞、ここに行けば何でも安く買える。いや買う予定がなくても、安いものがないかとなんとなく店を覗いてしまう。節約好きをぐいぐい引き寄せるワンダーランドだが、安い、いや甘い蜜にはご用心。そこには、消費者の心をそそる、巧みな罠が張り巡らされているのだ。
あなたが節約目的で100円ショップに通っているのにちっともお金が貯まらないと感じているなら、次のような罠にはまっているからに違いない。
■「全部100円」で思考が停止する
【100円ショップの罠①】「どれでも100円」が誘う思考停止パワー
買い物とは骨が折れるものだ。特にこの物価高の世の中、1円でも安く買いたいのが人情で、我々は値札を見ては一喜一憂する。モヤシ30円はまあ妥当だろうが、キャベツひと球300円は高すぎだ。980円のAランチと1050円のBランチ、この内容に見合う価格はどっちだろう。
このように、我々は常にモノやサービスの価値とつけられた価格が妥当かどうか、代金を払う前にジャッジしている。これが、我々が暮らす資本主義の世界だ。
そんなややこしいことを考えずにポンポン買えれば、いかに楽か。それを考えたのが、100円ショップ「ダイソー」創業者の故・矢野博丈氏。多くの商品を扱う中、別々の値段を付けるのが面倒で、思わず客に「全部100円でいい」と言ってしまったところから100円均一が始まったとの逸話がある。
売る側は商品に値札をつける手間が省けるし、レジ作業も売り上げ計算も楽になる。お客も、いちいち「これは高い? 安い?」をジャッジしなくてよくなった。しかし、これが第一の罠だった。
矢野氏がそこまで狙ったかはともかく、「全部100円」と聞いた客は、いちいち悩まずにポンポン商品をレジかごに入れるようになる。高いか安いかを判断することなく、嬉々として。買う気がなかった余計なものまで気楽に買ってしまうのは、この思考停止パワーが効いているからだ。
その結果、いざレジで合計金額を聞いた時に、「えっ、そんなに買ったっけ?」とビックリすることになる。1兆円市場を支えているのは、節約のつもりで100円ショップに行っては買い過ぎてしまう人々というわけだ。
■買い物の動機が知らぬ間にすり替えられる
【100円ショップの罠②】「安いからついでに買っておこう」の心の囁き
節約好きの人ほど安さに弱い。「お買い得」より「半額」より、ダイレクトに響くのが「100円」という数字で、どう考えても安い。これが100円で買えますと聞くと、その商品が欲しいか欲しくないかよりも「これが100円なら買っておこう」という思考に傾く。必要だからではなく、「安いから」が購入の動機にすり替わっている。
そもそも100円ショップとは、ついで買いと衝動買いで成り立つ薄利多売のビジネスモデルだ。100円の商品が一つ売れても利益は知れている。
全てを均一価格にすることで利益利率が低いものと高いものとを混在させ、それをごちゃまぜに買ってもらうからこそ利益のつじつまが合うのだ。あれこれ買ってもらうために最も大事なのが、「安さの演出」というわけだ。
目的の品物を買うために出かけたはずが、店内を眺めるうちに「こんなものまで100円なのか」「これがあったら便利かも、100円だし」「せっかく来たし、100円ならついでに買っておこう」と、予定外のものをどんどんカゴに入れてしまう。
たとえ失敗しても、ダブって買ってしまっても、「100円ならいいか」が、そういう人の口癖だ。多分、家の引き出しには100均のハサミやらドライバーやら電子レンジ調理ができる便利グッズやらがぎっしり詰まっているだろう。
もし、以前買ったものをどこにしまったかわからなくなったとしても、また買えばいいのだ、100円だし。これが5000円や1万円なら慎重になるが、100円の商品なら、たとえ無くしても失敗しても、ダブって買っても痛みを感じない。1円も無駄にしたくないと思うのが、真の節約家のはずなのだが――。
■1回あたりの購入数は「3個以上」の人が7割
【100円ショップの罠③】「ドケチな人に思われたくない」の虚栄心
いや、自分は衝動買いなどしないという強い意志の持ち主でも、100円ショップで商品を一個だけ持ってレジに向かうのには勇気がいる。
たった1つだけを買うは気恥ずかしいと感じてしまう。節約のため、安く済ませるためにわざわざ来たのに、たった100円分しか買わないドケチな人と思われるのは誰だってイヤなものだからだ。
つい周囲に見栄を張って、せめてもう一個くらい、他に買うものはないかと探し始め、気づくと3個4個……と余計なものを買っている。
マイボイスコムが2023年に調査した「100円ショップの利用に関するアンケート」では、1回あたり「3個以上」購入する人が全体の7割、「4個以上」でも全体の4割強を占める。やはり、たった1個だけで済ませる人はなかなかいない(上記調査では全体の7.3%)。
お金は節約したい、でも100円しか使わないケチな人には見られたくない――そのいじらしい庶民の心理をうまく突くのが100円ショップの巧妙なところだ。100円のもの1つ買いに来たはずが、気づくとレジで1000円以上も支払っていた――という覚えがある人は、まんまとその罠にはまっているにちがいない。
■500g入りの薄力粉は、300gに減り、棚から消えた…
【100円ショップの罠④】「最安のはず」という錯覚、思い込み
いくら安いと言っても、100円ショップの商品が市中で最安価格とは限らない。ドラッグストアで買った方が安い洗剤もあるし、ペットボトル飲料は流通のPBなら100円以下でも見つかる。
さらに言うなら、100円ショップには半額セールも見切り品処分もない(店舗によってはたまにあるが)。しかも、客寄せ商品である食品は、ここ数年ステルス値上げがはなはだしい。
昨今では200円以上の商品が並ぶのは当たり前になったが、食品だけは100円を維持しているため、内容量を減らすしかないアイテムも多いのだ。
2022年頃、ウクライナ情勢などを受け小麦粉の価格が高騰したことがある。その際に100円ショップでの価格を調べたところ、2022年3月には一袋500g入りだった薄力粉が、8月には300gにまで減っていた。2024年の現在では、同じブランドの薄力粉を店頭で見つけることができなかった。儲からないものは店頭から消えていく運命だ。
■本当に庶民の味方なのか
文房具類にもそれを感じる。A4書類を整理するため、毎年同じクリアポケット付きファイルを買っているのだが、ポケットの数があきらかに減った。また不祝儀袋を買ったところ、お金を入れる中封筒がついておらず、そこまでコストカットするかと驚いたこともあった。
仕方がない、それも100円ショップの宿命だ。売値を固定する以上、いかに原価コストを削るかが命題となる。だが製造を海外に頼ってきた商品も多く、昨今の円安、原材料費やエネルギー価格の高騰、人件費の負担などでコストは膨らむ一方。
かつては現金商売で利益を出してきた面もあったが、コロナ以降はキャッシュレス決済へも対応せざるを得ず、事業者への決済手数料もじわり利益を削ることになる。となると、今後も売れ筋商品の絞り込みや、ステルス値上げに向かうのはやむを得ないだろう。
100円ショップに置かれた商品が、本当に他の店で買うより安くてお買い得なのか、それともただのイメージだけなのか。賢い消費者ならそこを見極めることが必要になる。
■家に100円グッズが散らばっていたら赤信号
庶民の味方100円ショップは、日々こうして我々にお金を使わせている。買うべきか買わざるべきかを考えなくてもよく、「安さ」で余計なついで買いを誘い、一つだけだと気恥ずかしいので予定外の商品も買わせ、気づけば結構な金額を払っている。が、キャッシュレス決済ができるようになったので、そんな細かいことはいちいち気にしない。
もし、家中を見まわして、あちこちに100円グッズが散らばっていたり、引き出しの中にも溢れているようなら赤信号だ。モノが多い家ほどお金は貯まらないのは鉄則だ。しかも、罪悪感を覚える大きな浪費より、無意識にちょこちょこ買っている小さな浪費の方がたちが悪い。
ダイエットでいえば、メインの食事のカロリーは抑えていても、チョコだのスナックだのとちょいちょい間食しているようなものだ。
大丈夫、対策はいくつかある。レジに向かう前に、必ず買い物カゴの中を見て、まずは数を数えよう。ここが均一価格のいいところで、いくら払うのかざっと計算ができる。
次に「あったら便利かも」と選んだものは棚に戻す。“あったら便利”は、“なくても困らぬ”だからだ。「100円だから買っておくか」の理由で入れたものも、不要不急の品でなければやはり戻す。本当に必要になった時に買えばいい。
そうするうちに、カゴの中はずいぶんさっぱりするはずだ。もし、中に一つしか残らなければ、躊躇せずセルフレジへ向かおう。機械なら、あなたを「1個しか買わないケチくさい奴」とは思わない。いや、堂々と考えればいいのだ、「必要なものを安く買う、そのために私は100円ショップに来たのだ」と。
お金持ちは1円、いや100円たりともお金をムダにはしないはず。その訓練だと思って、胸を張ろうではないか。
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消費経済ジャーナリスト
『レタスクラブ』『ESSE』など生活情報誌の編集者として20年以上、節約・マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析してきた経験から、「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない 』(以上、講談社)ほか。
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(消費経済ジャーナリスト 松崎 のり子)
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