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1つ390円、3つで990円…全国21カ所ある「ユニクロの花束」が、靴下とまったく同じ売り方をしている理由

プレジデントオンライン / 2024年6月26日 10時15分

ユニクロの店頭に構えられたフラワーコーナー - 写真=プレジデント社提供

ユニクロは全国21店舗で花束を売っている。季節の生花は1束390円、3束990円だ。なぜそうした売り方になったのか。マーケティングコンサルタントの北沢みささんが解説する――。

※本稿は、北沢みさ『社会に良いことをする ユニクロ柳井正に学ぶサステナビリティ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■柳井正と佐藤可士和が17年間続ける「禅問答」

クリエイティブディレクター・佐藤可士和氏とユニクロとの関係は、2006年ユニクロがニューヨークのSOHOにグローバル旗艦店をオープンさせる際に、佐藤氏にグローバルブランド戦略のクリエイティブディレクションを依頼したことから始まる。

当時、携帯電話のデザインで注目されていた佐藤氏をテレビ番組で見たファーストリテイリングの柳井正会長兼社長(以下、柳井社長)が、「この人に会いたい! この人を呼んでください!」と言ったというのは有名なエピソードである。

以来17年間、佐藤氏と柳井社長は毎週のように対面し「新しい服とは」「店とは」「デザインとは」といった、まるで禅問答のような会話を続けている。

佐藤氏は店をブランド発信のメディアと捉え直し、2006年以来、ユニクロの海外のグローバル旗艦店を「全世界に向けたショーケース」としてデザイン。それをニューヨーク、ロンドン、パリ、上海などへと展開してきた。

「一番はじめの『ニューヨーク SOHO店』はもちろんグローバルにおけるブランド戦略なので、社会の中でブランドの存在を際立たせることが目的でした。でもこの17年でユニクロ自体もすごく大きく成長したし、もっと利他的なことが社会から求められるようになってきた。

もちろん環境のこともありますが、その店が地域にとってどういう意味合いを持つかということを意識するようになったんです。店が服を買うためだけの場ではなくて、もっと複合的な役割を持っていかないとブランドとして社会に広く受け入れられないんじゃないか、と考えるようになっていきました」(佐藤氏)

■店は「服を買うためだけの場」ではダメ

社会から受け入れられ支持され続けるために、どんなブランドになって、どんな店を作っていくべきなのか。その答えを模索しながらも、確実な手応えがあったのは、2020年春に日本で3店舗の新店をオープンしたことだという。

まず4月の「UNIQLO PARK横浜ベイサイド店」(神奈川県横浜市:売り場面積660坪)では、ファミリー層の多い商圏に合わせて店舗の周りや屋上を誰でも入れる公園にした。店舗の外側全体にすべり台、ボルダリングやクライミングなどを配し、子供たちが自由に遊べるようになっている。

屋上のジャングルジムからは東京湾を一望できる。それまでユニクロの店舗はあくまで買い物をする場所であって、いかに商品を見やすく、選びやすく、買いやすくするかということに注力されてきた。

しかし、UNIQLOPARK横浜ベイサイド店は初めて、「人が集う場所を作る」ということにチャレンジした。そして、この店舗で初めて、ユニクロは花を販売し始める。

「店は買い物する場所」から「店は買い物しなくても、人が集まれる場所」であるというこのフォーマットに手応えを感じながら、ユニクロは2020年6月に「ユニクロ原宿店」(東京都渋谷区:同600坪)、そして銀座の「UNIQLO TOKYO」(東京都中央区:同1500坪)をオープンさせる。

原宿店ではポップカルチャーの発信基地として若者が集まるよう、多くのブランド・アーティストとの協業コーナーを作った。UNIQLO TOKYOではコーヒースタンドを作り、地元・銀座にある老舗喫茶店のスイーツも提供している。

■どうしてフラワーコーナーがと驚かれる

ユニクロが花を売っているということを知っている人はまだ少ない。先日もテレビのバラエティ番組で、ある経済評論家の「たとえばいまユニクロでも花を売っていますが……」という発言に、スタジオにいたタレント全員が「え? ユニクロが花ですか?」「知ってた? 私知らなかった」などと驚いていた。

ユニクロは2020年春に、日本で3つのグローバル旗艦店や大型店をオープンさせた。花の販売はこのタイミングからスタートし、ちょうど3年が経過したところだ。

花の保管・管理をするバックルームも含めて、ある程度のスペースを確保できないと花の陳列もできないので、どこの店舗でも販売できるわけではないが、それでも現在全国の21店舗(2024年1月時点)のユニクロにフラワーコーナーがある。

2020年春といえば、コロナ禍1年目で世界中が未知の疫病に恐れおののいている最中である。

そんな中、ユニクロは相次いで3店舗の新店をオープン。しかも4月の「UNIQLO PARK横浜ベイサイド店」(神奈川県横浜市)は売り場面積660坪、同6月の「ユニクロ原宿店」(東京都渋谷区)は同600坪、そして銀座の「UNIQLO TOKYO」(東京都中央区)は実に同1500坪という規模なのである。

そんな巨大店舗を立て続けにオープンさせることに、葛藤はなかったのだろうか。

■花屋が街の記憶をつむぐ

「もちろん、その判断はものすごく難しいことでした。2020年のオリンピックイヤーを目指して相当な時間と労力をかけて準備してきたのに、オープン直前にコロナ禍になってしまった。誰も歩いていない原宿や銀座にこんな巨大な店をオープンさせるべきなのか、僕自身にも不安があったし、柳井社長とも何度も何度も話し合いました。

でも同時に、すごく気持ちが塞いでいて、日本中に閉塞感があったので、ユニクロとして社会に何を提供できるのか、少しでも皆様にホッとしていただけるようなことを提供できればということを、毎日話し合っていました」(佐藤氏)

クリエイティブ・ディレクターの佐藤可士和氏
写真=プレジデント社提供
クリエイティブディレクター・佐藤可士和氏 - 写真=プレジデント社提供

「そんなとき、柳井社長が『花を売ろう』と言い出されました。それも大げさな花束ではなくて、ユニクロらしい値段で、誰もが好きな花を気軽にパッと買って帰れるような、そんなサービスを街に提供しよう、と。

もちろん、はじめに聞いたときは、えっ? 花ですか? と思いました。でも、よくよく考えていくと、何年か前に『LifeWear』というコンセプトも作っていましたから、花もユニクロの服と同じく、人々の生活を豊かにしてくれるものだな、と納得できました。結果的に、店舗に花を置くのはとてもいい効果があったと思っています」(佐藤氏)

実は、いまのUNIQLO TOKYOに改装する前の「マロニエゲート」でも、その前にあった「プランタン銀座」でも、同じ場所に花屋があった。裏通りに面したエントランスの外側にあふれる花々は、道行く人の目を楽しませていた。

「そうなんです。街を歩いていて、この辺にこんな店があったとか、花屋があっていい香りがしたといった、街の記憶みたいなものってありますよね。そういうことも大切にしたいと思いました。だからUNIQLO TOKYOでも、あえて同じ場所にフラワーコーナーを作ったんです」(佐藤氏)

■あいさつ以外にお客を見送れるものはないか

柳井社長が「花を売ろう」と言った背景には、もう一つ、コロナの感染拡大防止の観点から、店内でスタッフによるお客様への声がけがしにくくなったことも関係する。

かつてのユニクロの店舗では、常にスタッフの「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」という声が飛び交っていた。それが、コロナ禍ですっかり聞こえなくなっていたのだ。

常日頃から店舗巡回をしている柳井社長は、そのことをとても寂しく感じ、何かスタッフの挨拶に代わってお客様を歓迎したり、お見送りするようなものがないかと考えていたという。その解決策の一つが、花だったというわけだ。

とはいえ、ユニクロが花を販売するのは2020年4月オープンのUNIQLO PARK横浜ベイサイド店がはじめで、社内のどの部署にも経験がない。そのため店舗の設計を担当した店舗開発チームも、他部署と一緒に花の売り方から考えることになった。

「花の売り方も陳列の仕方も、社内に何もノウハウもないわけです。誰も売った経験がないから、どんな什器が必要なのか、フェイシングはどうするのか、そもそも保管や管理はどうしたらいいのか……。試行錯誤の連続でした」と語るのは、出店開発部店舗設計施工チームの髙木肇子シニアマネージャーだ。

シニアマネージャーの髙木肇子氏
写真=プレジデント社提供
髙木肇子シニアマネージャー - 写真=プレジデント社提供

■「これはユニクロのソックスと同じなんだ」

髙木氏が入社したのは2012年。ドバイで設計の仕事に従事していたときに旅行先のニューヨークでユニクロSOHO店を訪れた際、機能的な商品が美しく陳列された店舗プレゼンテーションを見て、あらためて日本人であることに誇りを持ったことが入社のきっかけだという。

以来、技術者として常に店舗スタッフの話を聞き、店頭でどういうことをやろうとしているのかを考えて設計してきた。しかし、今回は聞く相手がいない。

「でも、ようやく『これはユニクロのソックスと同じなんだ』ということに気づきました。1つ390円、3つで990円。お客様は、これはいくらだろうとかあれこれ考える必要なく、どれでも好きなものを3つ選んでいただけばいい。

とにかく簡単に選びやすく、手に取りやすく陳列しました。花を入れて持ち帰る袋にはあらかじめ水を入れてありますから、そのままレジに持っていって、持ち帰っていただけます」(髙木氏)

■「やるにはどうしたらいいか」を考える

北沢みさ『社会に良いことをする ユニクロ柳井正に学ぶサステナビリティ』(プレジデント社)
北沢みさ『社会に良いことをする ユニクロ柳井正に学ぶサステナビリティ』(プレジデント社)

花を扱うにあたり、花の管理をするバックルームにも工夫した。花のために温度管理するのはもちろん、スタッフの作業しやすさを考えて排水用シンクの高さも調整した。いまも時々設計チームのメンバーが自ら店頭に立って花の販売をしながら、什器や陳列方法、動線や設備を修正している。

柳井社長から「花を売ろう」と言われたとき、社内の誰もが「まさか」と思ったに違いない。しかし「できるかどうか」ではなく、「やるにはどうしたらいいか」を考えて、一気に全員が動き出すのがユニクロの社風なのだろう。

花を売るというプランはすぐさま取締役会を通過し、定款も書き換えた。こうして生まれたユニクロの店舗の一角にある花売り場は、いまでは街の風景の一部となっている。

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北沢 みさ(きたざわ・みさ)
MK Commerce&Communication代表
東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。メーカー、テレビ局などを経て1999年ファーストリテイリングに入社。ユニクロの初代PRマネージャーとしてブランディングとPRを担当。2018年に独立後は、マーケティングおよびECのコンサルタントとして、小売・アパレル業界を中心に複数企業を支援中。

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(MK Commerce&Communication代表 北沢 みさ)

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