なぜ蓮舫氏は都知事選出馬を決断したのか…「負けても議員再選可能」「共産党が応援ビラ」という不穏な事実
プレジデントオンライン / 2024年6月10日 16時15分
■立憲「今回の東京都知事選は勝ちに行く」
7月7日、七夕に投開票される東京都知事選は、すでに安芸高田市の石丸伸二市長や元航空幕僚長の田母神俊雄氏、タレントの清水国明氏などが立候補を表明しているが、早くも現職の小池百合子都知事と立憲民主党参院議員の蓮舫氏による一騎打ちの様相を呈している。
ビッグネーム対決に注目が集まっているが、その背景には国政も巻き込んだ様々な思惑がひしめき合っている。
「今回の東京都知事選は勝ちに行く」
そう意気込むのは立憲の重鎮議員だ。
前回の2020年都知事選では現職の小池氏に勝利する展望が描けないことから立憲は候補者の擁立に難航、最後はこれまでも都知事選に出馬してきた宇都宮健児氏を支援したが、小池氏に約280万票もの差をつけられて敗れた。
そんな立憲が満を持して擁立したのが蓮舫氏というわけだ。
その背景には、小池氏の東京における選挙の強さ、神通力に陰りが見え始めたということがある。
■女帝・小池氏の「神通力」に陰りが見え始めた
元側近である小島敏郎氏による告発によって学歴詐称疑惑が再燃しており、4月に実施された東京15区補選ではタッグを組んだ乙武洋匡氏が5位で落選するなど惨敗している。
ただ、都知事選は小池氏本人の選挙だ。
知名度の高い蓮舫氏であっても、小池氏との戦いは一筋縄ではいかないだろう。
それでも蓮舫氏が出馬を決断したのには、国政の事情が複雑に絡み合っている。
岸田政権が裏金問題で大逆風を受けて低支持率に沈んでいる中、岸田文雄首相は9月の自民党総裁選で引きずり降ろされる前に衆議院を解散することを画策していた。
先に解散総選挙をしてしまえば、その次の総選挙は総裁選から遠くなり、議席を減らしたとしても再選の可能性が高くなると踏んだからだ。
しかし、4月の衆院3補選で惨敗を喫しただけでなく、5月の静岡県知事選でも自民が推薦した候補が敗北。
岸田首相の求心力はますます低下し、党内では解散見送り論が高まっていた。
■自民ナンバー2・茂木氏「岸田に解散総選挙はさせない」
こうした中で、岸田首相による早期解散の思惑が崩れるよう追い込んだのが、自民党ナンバー2の茂木敏充幹事長だと言われている。
茂木氏は近ごろ、周囲に「岸田じゃ選挙は戦えない」「岸田に解散総選挙はさせない」などと吹聴するようになっていた。
しかも、岸田首相が連敗を重ねる原因となった静岡県知事選で、自民党静岡県連が推してきた候補者の党本部推薦を強く進めたのも茂木氏だった。
静岡県知事選では立憲や国民民主党が推薦した元浜松市長の鈴木康友氏の優勢が事前の情勢調査などでも明らかになっていたため、自民は党本部推薦を見送って静観する説も浮上していたのだが、茂木氏はそれをかき消したわけだ。
自民党関係者は「知事選に勝てる見込みがあったというよりも、岸田首相が連敗を重ねても構わないという気持ちが強かったのではないか」と語る。
案の定、6月に入ってマスコミ各社は岸田首相が早期の衆院解散を見送ったと報じた。
岸田首相は低支持率のまま総裁選に突っ込んでいくことになり窮地に立たされている。
茂木氏はかねてより総理総裁を目指すことを公言しているため、その座を奪い取ろうという思惑も透けて見える。
■蓮舫氏が都知事選出馬を決断した背景
こうした政局が巡り巡って影響を与えたのが、蓮舫氏の都知事選出馬だ。
蓮舫氏はこれまでも都知事選が開催されるたびに擁立論が浮上していたが、出馬するためには参院議員を辞職する必要があることが、決断しきれないボトルネックになっていた。
国会議員を辞めて挑んだ都知事選で敗れることになれば、一時的であっても「ただの人」になりかねない。
そのため、都知事選出馬に向けた蓮舫氏への説得にあたっては、選挙で敗れた後の対応もセットになって考えられていた。
そこで重要になってくるのが解散総選挙の日程である。
岸田首相が早期解散を断念し、都知事選よりも後に衆院選があるということになれば、蓮舫氏は都知事選で敗れたとしても衆院鞍替えが可能となる。
早いうちに国会議員として復活することができれば、その影響力も保ち続けることができるだろう。
筆者は昨年8月、プレジデントオンラインに「立憲民主党の離党ドミノはこのままだと止まらない…離党を決断した現職議員にある2つの共通点」という記事を寄稿した。その中で、蓮舫氏が衆院鞍替えする候補地として新東京26区が挙がっており、その公認候補を巡るいざこざで松原仁衆院議員が立憲民主党を離党したことを詳報しているが、ついにこの想定が現実になりつつあるということだ。
■つきまとう「立憲共産党」というイメージ
なお、蓮舫氏が都知事選に敗れて新東京26区での出馬を決めた際には、松原陣営は「返り討ちにする」と意気込んでいるという。
さまざまな思惑が絡み合う中で都知事選への出馬が決まった蓮舫氏だが、その決断によって選挙への注目度が高まったのは間違いない。
立憲中堅議員の1人は「蓮舫氏が小池氏に勝てるかどうかは分からないが、少なくとも7月7日までの政治の話題は都知事選で一色になる。自民不在の中で立憲の存在感が高まるのは国政にとっても追い風になるだろう」と語った。
一方で別の立憲ベテラン議員は「蓮舫氏の出馬が吉と出るか、凶と出るか。また、立憲共産党というイメージがついてしまうのではないか」と気をもむ。
人口移動が激しく浮動票が多い東京都では、野党支持の中でも保守的な立場を取る連合同盟系から得られる組織票よりも、市民運動の参加者や共産党支持者によるリベラル票のほうが稼ぎやすいという事情もあり、立憲都連は基本的に連合と距離を取って、共産と仲良くする傾向にある。
蓮舫氏は国政政党からの推薦は受けずに、無所属で出馬して幅広く支援を呼びかける予定だが、共産は既に「蓮舫さんを都政へ押しあげ」という応援ビラを作成しており、その距離の近さは選挙戦でも指摘されるだろう。
■立憲・ベテラン議員が頭を抱える理由
もちろん、東京都における票の出方を分析した上での選挙戦略としては間違ってはいないのだが、一部の立憲議員が頭を抱えるのは、それが全国区で報道されることだ。
「もしかすると今秋にも総選挙があるかもしれないという中で、立憲と共産が全力で蓮舫氏を応援している様子が全国のテレビに映し出されるのは、立憲のイメージをさらにリベラルなものにさせてしまう。保守層が強い地盤で戦っている議員にとっては不利に働くのではないか」とベテラン議員は嘆く。
ただ、蓮舫氏というビッグネームの出馬は小池氏にも影響を与えているようだ。
小池氏はもともと5月29日に開かれた都議会定例会の所信表明演説で出馬表明をすると見られていたが、「都民が希望を持てる都政を展開する」とだけ述べて、知事選への対応については言及しなかった。
■なぜ小池氏は出馬を表明しないのか
その後、6月4日に自民の都議から小池氏に都知事選の出馬について質問し、そこで出馬表明をするという算段が政界で出回ったが、結局、自民の都議も小池氏に出馬について直接質問することはなく、ここでも小池氏が自身の出馬について述べることはなかった。
都議会関係者は語る。
「小池氏はもともと自民からの推薦を受けて都知事選に出馬する予定だったが、蓮舫氏が現れたことで方向転換を迫られた。蓮舫氏は小池都政について『自民党政治の延命に手を貸している』と批判しており、小池氏も裏金で大逆風の自民から推薦を受けるのはリスクだと考えているのだろう。すでに自民から直接推薦は受けず、間に確認団体を設立して支援を受ける方向で調整が進んでいるが、こうした調整の中で出馬表明が先送りされているようだ」
間に確認団体を設立することで自民から支援を受けていることをカモフラージュする戦法のようだが、そのこと自体がすでに報道されており、小池氏は小池氏で裏金問題で逆風の自民との距離の近さを指摘されてしまっている。
公明も小池氏を支援する方向であり、蓮舫氏が「立憲共産党」と言われるならば、こちらは「自公ファースト」とでも言えるだろうか。
国政の代理戦争の様相も呈している「小池百合子vs.蓮舫」という注目対決。
振り返れば2人ともテレビキャスター出身で、これまで巧みな発言で注目を集めて政界を渡り歩いてきた人物だ。
今回の都知事選出馬もメディアによる報道が過熱していくと見られるが、その結果は都政に、ひいては国政にどんな影響を与えるのか。
告示は6月20日に迫っている。
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ジャーナリスト
1992年生まれ。2015年に東京大学を卒業し、毎日新聞社に入社。宮崎、福岡で事件記者をした後、政治部で官邸や国会、政党や省庁などを取材。自民党の安倍晋三首相や立憲民主党の枝野幸男代表の番記者などを務めた。2023年に独立してフリーで活動。YouTubeチャンネル「記者VTuberブンヤ新太」ではバーチャルYouTuberとしてニュースに関する配信もしている。取材過程に参加してもらうオンラインサロンのような新しい報道を実践している。
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(ジャーナリスト 宮原 健太)
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