遺産1億円の相続税が1220万円から770万円に下がった…「遺産総額を減らす」だけではない相続税の減らし方
プレジデントオンライン / 2024年6月18日 16時15分
※本稿は、大田貴広『相続のお金の残し方「裏」教科書 専門税理士が限界ギリギリまで教える“99%節税できて100%モメない”方法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■相続税対策は4ステップの順番が命
相続税対策は、次の4つを順番に実行することが大事です。
(2)遺産の分け方を決める
(3)不動産や生命保険の購入による評価額の引き下げ
(4)生前贈与
相続税対策は、この4つの順番を守らないとうまくいきません。まず押さえるべきところを押さえてから次のステップへ進まないと、落とし穴にはまる可能性があります。多くの方が、生前贈与や不動産購入という対策を提案されるままに実行します。実をいうと、その対策を鵜呑みにするのは大変危険です。
これまで実際に相続税申告を担当してきたお客様の中でも、後々になって「この対策はやらないほうが良かった」「かえって税金を数千万円損した」という方が一定数はいます。
「マンションを買ったのはいいけれど納税資金がなくて相続税を支払えない」「子供のために生前贈与をコツコツ頑張ってきたけれど対策が無駄になった」といった話はめずらしくありません。確かにこれらの一つ一つの対策は間違ってはいませんが、その対策が果たしてあなたに合うかは分からないのです。
正しい対策をするためには、(1)現状分析、(2)遺産の分け方を決める、(3)不動産や生命保険の購入による評価額の引き下げ、(4)生前贈与を順に実行し、その人ごとにカスタマイズする必要があります。
■納税額はどの程度になるか、まずは概算してみる
現状分析では、「相続税がどれくらいかかるかを知り、納税資金の準備をすること」が重要です。相続税の現状分析はよく健康診断に例えられます。相続税対策のための現状分析は現状の問題点を洗い出すという意味で、健康診断に近いと言えるでしょう。
現状分析もせずに、営業マンから不動産投資を提案されるのは、健康診断もしていないのに「ではひとまず脳を手術してみましょうか」といきなり医者から言われるようなものです。
まず相続税の概算を知り、納税資金がどれくらい必要なのかが分かれば、手元にどれくらいお金を残しておけばいいかが分かるので、不必要な対策をせずに済むのです。
相続税がどれくらいかかるかを知り、納税資金の準備をするためには計算の流れを掴みましょう。相続税と聞くと「どれくらいかかるか不安だな」という怖いイメージを持たれるかもしれませんが、蓋を開けてみると「意外とこの程度か」と思うことも少なくありません。
ここでは、遺産が1億円で配偶者と子供2人の家族を相続人に持つ方を例に、計算の流れを確認してみましょう。流れは5つのステップで見ていきます(図表1)。
ステップ1 遺産から相続税の基礎控除を差し引く
相続税の基礎控除は、3000万円+600万円×法定相続人の数です。この家族の場合、配偶者と子供2人で相続人は3人なので3000万円+600万円×3人で基礎控除は4800万円です。
もし遺産が基礎控除以下であれば相続税はかかりませんが、この家族の場合は遺産が1億円あり基礎控除の4800万円を上回るため相続税がかかります。1億円から4800万円を差し引くと5200万円です。この5200万円のことを課税遺産総額といいます。
ステップ2 法定相続分で割り振る
次に、課税遺産総額を各相続人に法定相続分で割り振ります。いきなり相続税の税率を乗じるのではなく、5200万円を仮に法定相続分で相続したものとみなして金額を割り振るのです。
法定相続分は、配偶者が1/2、子供が1/4ずつです。よって5200万円は配偶者2600万円(5200万円×1/2)と、子供2人1300万円(5200万円×1/4)ずつに割り振られます。
ステップ3 税率表に基づき税額を計算し、相続税の総額を算定
次に、割り振られた金額に応じ相続税の税率を乗じます(図表2)。配偶者は2600万円×15%−50万円で340万円、子供2人は1300万円×15%−50万円で145万円ずつとなり、これらを全て合計すると相続税の総額が630万円です。
![【図表2】相続税の速算表](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/a/1200wm/img_da77a9ba4c3acc3360bd3e4b5093721e402570.jpg)
ステップ4 実際に引き継いだ割合に応じて各人へ割り振る
家族全体の相続税が固まったので、次は実際に誰がいくら支払うのかを決めます。実際に遺産を引き継ぐ割合に応じて、630万円を割り振ります。仮にこの家族が法定相続分どおりに配偶者1/2、子供1/4ずつで遺産を引き継いだのであれば、配偶者は315万円(630万円×1/2)、子供2人は157.5万円(630万円×1/4)ずつ相続税を支払います。
ステップ5 各人の属性に応じて税額計算をする
配偶者や兄弟、また未成年者や障害者であるなど続柄や属性に応じて税額を加減算します。配偶者は「配偶者の税額軽減」という特例により最低でも1億6000万円までなら相続しても税金はかかりませんので、遺産1億円の場合の相続税は子供2人分を合わせた315万円(157.5万円×2人)となります。
■相続税を安くするには「額を減らす」か「人数を増やす」
相続税の計算の流れが把握できたところで、実際に、ご自身や親御様が亡くなった際にどれくらいの相続税がかかるのかを見ていきましょう。
簡単に相続税を把握できるツールとして、相続税早見表(図表3)を利用すると便利です。図を見ると分かる通り、相続税は遺産総額や相続人の数によって大きく変わります。
![【図表3】相続税額早見表](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/6/1200wm/img_96684241d831ee4140173f07392e9137406048.jpg)
鋭い方は気づかれたかと思いますが、相続税は「遺産総額を減らす」もしくは「相続人の人数を増やす」ことによって減少します。相続税対策は「遺産総額」「相続人の人数」の二つの項目を押さえておくと効果があるのです。これが全ての対策に共通する基本的な考え方ですので頭に入れておきましょう。
遺産総額を減らすには、
(2)生命保険の非課税枠を活用する
(3)不動産購入を検討する
(4)生前贈与をして財産を減らしていく
などが王道です。
相続人の人数を増やすには、養子縁組をするなどがあります。例えば遺産1億円で相続人が子供1人の場合、相続税は1220万円です。この家族が仮に養子縁組をして相続人を子供2人にすると、相続税は770万円まで下がり、450万円も節税効果があります。
さらに生命保険に1000万円加入し、生命保険の非課税枠1000万円(500万円×法定相続人の数)を活用することで相続税は620万円に下がりますので、当初の1220万円の約半分に抑えることができます。
このように生前から相続税に向き合っておくと、ちょっとした工夫で格段に効果が出ることもあるのです。
■納税資金の用意より重要なのは家族間のすりあわせ
相続税の現状分析では、「相続税がどれくらいかかるかを知り、納税資金が足りるかを見ればいい」と思っている方も多いです。ですが、これよりも重要なのは「ご家族間の意向のすり合わせをしておくこと」です。
![大田貴広『相続のお金の残し方「裏」教科書 専門税理士が限界ギリギリまで教える“99%節税できて100%モメない”方法』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/4/1200wm/img_5420f8f61d706969b89ca6f91542c26e146265.jpg)
すり合わせとは、財産を残す親の意向と財産をもらう子供の意向を、生前の段階でお互い把握することです。ようするに家族同士でミスマッチを起こさないようにすることが重要です。
例えば、お父さんの気持ちとしては「この不動産をもらってほしい」と思っていても、娘からすると「不動産は使わないのでもらっても困るなあ。どちらかというとお金が欲しいわ」と思っているかもしれません。
また仮に「全財産を長男に残したい」と思っていたとしても、他の兄弟からすると「いやいや私にももらう権利あるからもっと欲しいよ! もらえないのだったら弁護士立てて訴えてやる」といった感じで、事前にお互いの気持ちをすり合わせしなかったことでミスマッチが起きて、家族の仲が悪化してしまうかもしれません。
よって現状分析では、家族それぞれの意向をすり合わせし、後々争いにならないように対策をしておくことが重要です。
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円満相続税理士法人 代表社員
歴10年の相続専門税理士。遺産総額100億円超から数千万円まで幅広い案件を手掛け、通算300件以上の相続税申告を担当。相続税の相談実績は3000人を超える。著書に『相続のお金の残し方「裏」教科書 専門税理士が限界ギリギリまで教える“99%節税できて100%モメない”方法』(KADOKAWA)。
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(円満相続税理士法人 代表社員 大田 貴広)
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