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「仏さんはエッチの相手を引っ張ってくる」住職による監禁・性暴行を告発した尼僧が提出した"音声データ"

プレジデントオンライン / 2024年6月11日 10時15分

記者会見に応じた叡敦さん - 撮影=鵜飼秀徳

■天台宗史上最悪の醜聞…高僧による尼僧への性加害

天台宗(総本山・比叡山延暦寺)の高僧による尼僧への性加害問題で、6月7日、同宗は被害を訴える尼僧から聴取を実施した。被害者の尼僧は、証拠となる音声データと加害者と交わした念書を提出した。

この問題は四国に自坊をもつ住職A氏が、尼僧を「マインドコントロール」し、14年間にわたって監禁、性暴行、恫喝などを続けていたとするもの。尼僧は複雑性PTSDを患い、現在も治療中だ。加害僧侶の師である高僧、大阿闍梨B氏も性加害を黙認していた。

宗門からの聴取を終えた尼僧は同日、京都市内で記者会見を開いた。会見では性加害を公にしてからたびたび、別の尼僧から「世界中の尼僧が非常に困っている。申し立てを取り下げるように」などの圧力を受けていることを明らかにした――。

事の経緯を改めて整理してみよう。

被害の申し立てと、2人の加害僧侶の僧籍剥奪を求めているのは50代の尼僧、叡敦(えいちょう)さん。上申書などによると、叡敦さんは2009年夏、遠縁にあたる大阿闍梨B氏から一番弟子のA氏を紹介された。それをきっかけに、A氏の叡敦さんに対するストーカー行為が始まった。

大阿闍梨B氏は、千日回峰行と呼ばれる難行を達成し「生き仏」と称される高僧(大僧正)である。師からの要請と圧力を拒めない立場の叡敦さんは、A氏によって寺に監禁状態にされた。そして、A氏による性加害や暴行、暴言を繰り返し受けることになった。

「私の言葉が仏の言葉であるように、Aの言葉は仏の言葉だ」などと大阿闍梨B氏から諭され続けた叡敦さんは14年もの間、逃げ出すことができない状態になった。叡敦さんは2023年冬にようやく救出され、天台宗にたいし、2人の僧籍剥奪の懲戒を求めて陳情書と、証拠書類を提出。この度、2度目の聴取が実施された。

以上のことは2024年3月5日配信の本コラム「尼僧を強姦し14年間監禁・性加害…住職に蛮行を促し尼僧を『ロボット玩具』にした80代“生き仏”の地獄の所業」にて、詳述した通りである。

聞き取り調査を終えた叡敦さんは同日午後、弁護士らとともに京都市内で記者会見を開き、心境を吐露した。

■「(お観音さんの代わりにエッチする)これが坊さんという役目や」

「告発するだけでも大変でした。告発後は体調を崩し、点滴も受けました。性暴力についての突っ込んだ話だったので、途中で調子が悪くなりそうでしたが、なんとか過ごすことができました」

会見では、新たな事実が明らかになった。

叡敦さんと代理人の佐藤倫子弁護士は、天台宗宗務総長宛に証拠となる音声データを提出。その音声データにはA氏は、叡敦さんにたいして「お前はアホや。お前は最初から阿闍梨(B氏のこと)に売られたんや。お前は遊女や」なとど言い放っていたことなどが記録されていた。叡敦さんがそれでもB氏を信じていると訴えたところ、A氏は「お前はどんだけおめでたいんや」などと突き放したという。

あろうことか、A氏は叡敦さんの他にも複数の女性信者を監禁し、性加害に及んでいたという。ある女性信者は、A氏の殺害を計画するまで追い詰められた。女性が包丁を持ち出したところ、叡敦さんが「被害者が加害者になったらあかん」などと諭して、事なきを得たこともあった。

音声データには、他にもA氏があたかも叡敦さんらとの性行為が僧侶としての務めであることを強調した内容も含まれていた。

「お観音さんがエッチしてくれるんやったら、こっちはいらんのや。これが坊さんという役目や」
「仏さんはエッチはしてくれんよ。でもエッチで悩んでる人がおったら、代わりにお前がエッチしてやらないかんと言われるんや。エッチの相手を引っ張ってくるんや、仏さんは」(いずれも、音声データの原文ママ)

などのやりとりが残されていた。

叡敦さんはその後、親族や女性シェルターなどの支援者の助けを借り、2018(平成30)年に警察に相談。翌年に被害届と告訴状を提出したが、A氏は不起訴に。

「私はひどく落ち込みました。今まで努力したことが全て水の泡となり、これは仏さまから出された答えなのだと思ってしまいました。死ぬしかないと思いました」(叡敦さん)

A氏を告発したことで叡敦さんはB氏から大声で叱責されたという。「お前、身内を訴えて、どうするんじゃ!」などと怒鳴られた上、「お不動さんのお慈悲なのだ」と言って、A氏の元に戻るように諭されたという。

叡敦さんは、仮に寺に戻っても強姦され続けると考え、寺に戻る条件としてA氏にたいして念書の作成を依頼。A氏は、手書き念書をしたためた(写真)。

加害者のA氏が叡敦さんの求めに応じて書いた最初の念書。毛筆に半紙で記載され、A氏の印鑑が押されている
撮影=鵜飼秀徳
加害者のA氏が叡敦さんの求めに応じて書いた最初の念書。毛筆に半紙で記載され、A氏の印鑑が押されている - 撮影=鵜飼秀徳

そこには、「今後、異性行為はいたしません」「貴殿の関わられる人達が社会的に私の立場をあやうくしないことを宣誓願います」などと、自分に都合のよいことばかりが書かれていた。

最終的にはA氏は、

「二度と貴殿の意思に反しての性行為や、人格を否定するような言動や暴力、そして恫喝などを繰り返さないことを誓約いたします(令和元年12月27日)」

との念書に署名、捺印した。それでも、A氏の性加害や恫喝は止むことはなく、相変わらず大阿闍梨B氏はA氏の擁護を続け、叡敦さんを苦しめ続けたという。

■他の女性僧侶から性被害者への冷ややかな声が暗示する「闇の深さ」

叡敦さんは所属する天台宗に2人の懲戒を申し立てた後も、2次被害に苦しめられた。佐藤弁護士は憤る。

「今年2月以降、叡敦さんの元に他の宗派の尼僧を名乗る人物から、電話が3回ありました。『こんなことはやめろ、迷惑だ』と言われました。また、ネット上で叡敦さんを励ましたある尼僧さんのことを『売名だ』とも言っていました。告発するだけでもストレスを感じているのに、(仏教界)内部の尼僧の人から言われたことで、叡敦さんは自分のやったことが迷惑をかけているのではと悩んで、具合を悪くしました」

さらには今年4月の上旬には、別の人物と思われる尼僧が面会を求め、やはり、同様のことを言われたという。その尼僧は叡敦さんに直接、次のように言及した。

「コロナ禍によって宗教離れが加速しているのに、尼僧の世界にとってはほんとうに迷惑な話です。今すぐ申し立てを取り下げなさい」
「こんなことをしてもしかたないでしょ。世界中の尼僧が非常に困ることになることをよく考えなさい」
「弁護士を通じて和解しなさい。どこかお寺を与えてもらって話を収めるようにしなさい」

叡敦さんはこうした動きに対してどんな思いだったのか。

「自分のやっていることが迷惑なのだろうかと、悩んでいます。加害者に長期間、SOSを出してきたがどうにもならず、天台宗に訴えれば、隠蔽され続けてきたことが解決に向かうのではと信じてきてやってきました。しかし、実際の聴取では加害者への“かたより”を感じます。閉じられた宗教界の中では、上下関係が厳しく、なかなかそれを覆すのは難しいと思います。しかし、宗教の中でこのような被害を受けている人のためにも、宗教を広めていくためにも、私はやめるわけにはいきません」

佐藤倫子弁護士(左)と叡敦さん
撮影=鵜飼秀徳
佐藤倫子弁護士(左)と叡敦さん - 撮影=鵜飼秀徳

一連の内部からの批判的な声を踏まえ、佐藤弁護士はこう述べる。

「大阿闍梨が超絶偉いことが、よくわかりました。なので、天台宗の内局の人が調査しても、正しい判断ができるのは難しいと思います。ぜひ、第三者委員会を立ち上げ、公正な判断をしてもらいたい。今後、民事訴訟に踏み切るかどうかについては、加害者2人の懲戒、擯斥(ひんせき)の有無をみて検討したい」

次々に明らかになる天台宗の醜聞。ある天台宗関係者は「A氏の破門は免れないだろうが、宗門が大阿闍梨をも追放するのは難しいと思う。しかし、それでは世間は許さないだろう。天台宗始まって以来のスキャンダルだ」と話した。

筆者は、仏教界の「権威主義」のすべてを否定するつもりはない。厳しい修行と徳を積み、尊敬を集める僧侶も少なくないからだ。しかし、その一方で、残念ながら、僧侶である前に「人として」問題を抱える僧侶がいることも確かだ。

天台宗には、速やかに自浄作用を働かせることが求められる。他方で理解者であるべき女性僧侶の中から、性被害者に対する冷ややかな声が上がっていることに、本件の「闇の深さ」を感じざるを得ないのも正直なところである。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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