「不人気の岸田文雄首相が風向きを変えた」旧統一教会の1カ月後の"最高裁判決"が与える超インパクト
プレジデントオンライン / 2024年6月12日 10時15分
令和4年11月8日、岸田総理は、総理大臣官邸で旧統一教会問題を受けた被害者救済等のための法案について会見を行いました。(写真=内閣官房内閣広報室/ CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)
■逆風吹き荒れる岸田首相の発言で風向きが変わった
地裁・高裁での敗訴が覆り、お金は戻ってくる――。その可能性が高まりました。
6月10日、最高裁判所で中野容子さん(60代・仮名)が、母親が旧統一教会(現世界平和統一家庭連合、以下教団)の信者時代に行った献金の返金(6580万円の賠償)を求めて訴えた裁判の弁論が開かれました。
現在、文部科学省は、教団に対する宗教法人法に基づく質問権の行使や、被害を訴える元信者らへの聞き取りなどを通じ、献金集めの手法や組織運営の実態などの調査結果を踏まえて、2023年10月、教団の解散命令を東京地方裁判所に請求していますが、この最高裁の判決はその行く末にも大きな影響を与えるのは必至で、注目を集めています。
信者だった母親は、献金時に教団側から「返還請求や不法行為を理由とする損害賠償請求など、裁判上・裁判外を含め、一切行わないことをここにお約束します」という念書を作成、署名させられて、さらにその様子をビデオで映されていたために、地裁(2021年5月)、高裁(2022年7月)では念書の有効性(不起訴合意の有効性)が認められて、敗訴となっています。
母親は念書作成から半年ほど後にアルツハイマー型の認知症の診断を受けましたが、地裁も高裁も、自ら希んで正常な判断能力によって作成されたと認め、念書は有効なものだと判断。教団に対して訴訟を起こす権利はないとして訴えを却下していました。
しかし2022年11月29日の衆議院予算委員会で岸田文雄首相が「法人等が寄付の勧誘に際して、個人に対し、念書を作成させ、あるいはビデオ撮影をしているということ自体が、法人等の勧誘の違法性を基礎づける要素の一つとなる」という答弁を行い、行政側の見解を示されたことで一気に風向きが変わりました。
弁論の陳述のなかで中野さんは一審、二審とも「(献金をさせた)勧誘行為の違法性の有無の事実認定さえも行わない判決だった」と指摘して、被害者家族とともに戦ってきた山口広弁護士、木村壮弁護士からも「不起訴合意の有効性を認めたことは誤った判決」であり「これを認めることは正義に反しており、重大な権利侵害にあたる」と話しています。
私も最高裁で傍聴する中、教団側は意図的かどうか不明ですが、今回の裁判の争点とはあまりかかわりのない「マインドコントロールは似非科学」といった的外れな主張を展開していました。この状況だと地裁、高裁で有効とされてきた念書の判断が見直される様相がさらに強まったとの思いを抱きました。判決は、7月11日に言い渡されます。
■最高裁が旧統一教会への解散命令請求を“認める”前触れ
この判決はとても大きな意味を持ちます。
なぜなら、教団側が「裁判時に返金請求をしない」といった念書や合意書を高額献金者に署名させるケースは他にもあり、組織的に指示をした疑いを持たれているからです。実際、教団は布教・物品販売において、マニュアルを駆使しての組織的な指示を行ってきた過去があり、この件もその一環と考えられています。
末端の信者による勝手な行動ではなく、教団による「組織的」な企て。それは元「中の人」である筆者も嫌というほど知っています。
例えば、教団の正体隠しの伝道の「勧誘マニュアル」です。ここには「命がけ笑顔」で街頭の人たちに、どんな状況下でも必死に声をかけることや、教団名を隠したビデオセンターに誘う時には架空の団体を名乗り、「言葉は何でも構わない」と嘘をつくことを推奨する文言も記載されています。
今回の最高裁で元信者だった母親の献金した額は1億円以上。他にも巨額の金銭的被害を受けた人が多いのですが、教団は金を集める時にどんなマニュアルによって指示してきたのか。その裏舞台を暴きたいと思います。
筆者の信者時代、教団は霊感商法で着物や宝石、絵画などを、ホテルなどを借りての展示会形式で販売していました。1988~89年にかけて、教団の青年支部に、勤労青年(働きながら、教団の活動をする信者)として所属しており、その時に、アベル(教団の上司)から講話の形で聞いた内容をメモ書きしたノートが手元に残っています。それは筆者自身が教団に対して起こした民事裁判の時にも提出して、東京地裁にて勝訴判決(2002年8月)を得る証拠の一つにもなっているものです。
展示販売会を行うにあたって、幹部信者や代表者らが責任者をつとめる販売会社から、信者社員が私たち末端の支部にやってきて、どのような手順と心構えで、会場に知人、友人などを連れてきて、販売するのかを話しました。
展示会動員のことが記されたページには「ART啓蒙・担当者教育」のタイトルがついています。ARTとは絵画のことで、「四位基台」と題された図があります。
父のところは「AD(アドバイザー)」となっていて、「ディレクター」の指示を受けて、絵画の説明・販売をします。母の立場には「担当」とあり、これが展示会に連れ込む、私たち末端の信者たちになります。さらにその下には、子供の立場として「ゲスト」と記載されており、絵画の展示館会場に誘い込まれる知人、友人たちのことです。
担当者のなすべきことに、神への「祈り」とともに、「報連相(報告・連絡・相談)」と書かれています。教団は販売契約の効率性をあげるために、常に(内部で指示を出す)ディレクターに、連れ込んだゲストの状況「購入を勧めている絵が気に入っているか否か」などを逐一、報告しなければなりません。
■全国一律の組織的な金集めの実態がさらに白日のもとに晒される
さらに展示会会場に誘う前には、電話などで次のことを事前に必ず話すべき5つの文言(「5大トーク」と教団内部でいわれていた)が続きます。
1.招待制になっている
2.時間は2~3時間かかる。
3.アドバイザーが説明してくれる。
4.私も買った。(すばらしい説明で見方がかわった)
5.買ったらよいですね。
ちなみに布教時にも、ビデオセンターに誘い込むための似た文言の「5大トーク」がありました。
展示会での接客の心構えとして「救いの心情を持つ」とあり、「ゲストが絵をかうということは、供え物を捧げるということである」(筆者が残したメモ原文ママ、以下同)ともあります。つまり、サタン世界に住む人たちを、旧統一教会の信者らが「(神の側に)救う」という気持ちをもって電話をかけて、神様のもとにお金を捧げさせる(絵を買う)ように促しなさいというわけです。また「愛を持つ人は美を持つ」などという、決め台詞的な文言もあります。
教団が教義をもとに組織的に金集めの販売活動をしてきたことは誰が見ても明らかです。しかし、こうした実態があるにもかかわらず、教団はこの事実を公に認めようとしません。
![世界平和統一家庭連合 本部(東京都渋谷区松濤1-1-2)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/1/1200wm/img_31542b5bbaafae02918661b7a63b0f67860897.jpg)
現在、元信者らの依頼を受けて全国統一教会被害対策弁護団が行っている集団交渉においても、元信者らが購入させられた商品代金の返金を求めていますが、教団本部側は応じていません。
物品販売などの霊感商法については「信者らが勝手にやったこと」という従来の主張をもとに商品を買った「販売会社に個別で交渉するように」と答えている状況です。しかしすでに、過去の民事裁判において、教団の使用者責任を認めた判決が多く出ており、もはや旧統一教会との一体性はどんなに否定しても、ぬぐえるものではありません。
冒頭の最高裁の判決が言い渡されるのは、ちょうど1カ月後です。
岸田首相の2022年秋の発言以降に風向きが変わり、念書の有効性を認めた教団側の勝訴判決が見直しとなれば、これまで念書を書かされて献金を諦めていた人たちも声をあげやすくなります。そうなれば、教団が過去に行った全国一律の組織的な金集めの実態がさらに白日のもとに晒されることになるでしょう。そうなると、旧統一教会への解散命令に向けた司法判断はゆるぎないものとなっていくに違いありません。
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ルポライター
悪質業者への潜入取材経験からジャーナリスト、ヤフーニュースオーサーとして活動。近著に詐欺商法の事例満載の『信じる者は、ダマされる。元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)がある。
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(ルポライター 多田 文明)
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