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「希望の部署ではないのでやる気が出ません」人事もあきれた「入社1カ月で号泣→退職」した若手社員の言い分

プレジデントオンライン / 2024年6月14日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

入社後すぐに会社を辞める新入社員にはどんな共通点があるのか。外資系企業で産業医として年間1000人以上と面談をしている武神健之さんは「上司や同僚に諦められているケースが増えている。もう少し事前に考えられなかったのか、もう少しの期間頑張れば見えてくるものがあるのではないか、と思わされる理由が多いからではないか」という――。

■入社1年目としては“よくある働き方”だったA君

こんにちは。産業医の武神です。

コロナ禍の約3年間に新入社員たちとの産業医面談で多かった相談は、仕事量が多すぎて大変だとか、先輩たちが優しくないなど、ネガティブな内容ではありませんでした。むしろ社会人になるにあたって抱いていた期待やエネルギーがコロナ禍のため不完全燃焼……。そんな声が多いのが印象的でした。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

ポストコロナの新入社員たちはどうでしょうか。今回は、入社後すぐ(2年以内)にやめる新入社員の実態について考えてみたいと思います。

A君が初めて産業医面談に来たのは、入社して5カ月ほどたったころ、月の残業時間が80時間を超えたための長時間労働面談でした。

毎日8時前に出社し退社は21~22時頃で、この会社における入社1年目社員らしい生活を送っていました。多少の疲れはあるものの食事と睡眠はしっかりできており、疲労が蓄積しているとまでは言えない状態でしたが、どこか晴れない顔をしていたため、残りの面談時間で“雑談”をしました。

その中で分かったことは、仕事は大変だけれども日々学びになっている、だんだん分かってくることが楽しい、先輩や上司もいい人たちばかりで人間関係のストレスもほぼない。しかし、残業が多いこの働き方に、違和感を持っているとのことでした。

■残業時間は3つに分けて考える

私は、残業時間は3つに分けて考えることを産業医面談では社員に伝えています。

1つめは、入社/転職から間もなく、仕事に慣れていないために発生している残業時間。これは時間の経過とともに減ることが期待できる残業時間です。2つめは、業務過多、人員不足、職場の雰囲気(企業文化)などによる慢性的な残業時間で、残念ながら今後も減ることが期待できにくい残業時間です。3つめは、月末や四半期ごと、イベントに伴う忙しさなどの業務特有の残業時間で、これはある程度予測がつきやすく、なくなりはしないものの適応しやすい残業時間です。

A君にもこの考えを説明すると、今はまだ1年目だから残業が多くあり、来年は減る期待ができることは理解できると言ってくれました。しかし、先輩たちを見ていると、8時前出社はないものの、21時まで働いている人達ばかりであるとのことでした。

■「20時までには退社する生活がしたい」と退職

入社前に多くの社員たちが21~22時まで働いていることは知っていたし、それを納得の上入社したものの、いざ自分が働いてみると、平日は自分の時間が全く取れない生活が、こんなに味気のないものだとは思わなかったようでした。

夏に大学の同級生たちと会う機会が何回かあったが、自分は2次会からしか参加できなかったこと、残業時間が長くはない会社に入社した友人たちがうらやましく思えたことなども教えてくれました。

「僕は、仕事の忙しさや人間関係の大変さは耐えられると思っているんですけど、20時までには退社する生活がしたいんです」とA君は本音を語ってくれました。

その後何回か長時間労働者面談でA君と会うことはありましたが、どうしても残業時間について、割り切って考えることができないようでした。この会社で数年頑張れば得られる知識、実力、今後のキャリアの強みなどのメリットは十分わかるものの、“今”この生活に納得や満足はないといつも言っていました。

秋に1週間の有給休暇を取りましたが、休暇が明けても出社せず、同僚が連絡したところ、賃貸を解約し実家に戻ってしまっていました。そして、産業医面談では、第2新卒として今度は残業のない職場を探したいという言葉を残し、A君は年が変わる前に退職していきました。

後に人事に聞いた話では、残業が耐えられないという退職理由を聞いた部門長や先輩たちは、誰一人として止めることはなかったようでした。

ベンチに座って頭を抱えているビジネスマン
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■上司や同僚に「諦められる」ケースが増えてきた

仕事は、自分が望まない場合でも続けなればならないでしょうか。

産業医の私の答えは「否」です。望まぬ仕事をやっている時、ヒトのココロはもろく、ちょっとしたストレスでもしなやかに対処できないこともあります。メンタル不調になった時、自ら退職(転職)という選択肢を選ぶことができる人はすぐに不調から治ることを私はたくさん見てきました。健康を害してからでは遅いですから、冷静に考えた上で辞めるのであれば産業医としてはむしろその判断を応援したい気持ちです。

しかし同時に、「もうちょっと事前に考えられなかったのか」「もう少しの期間頑張れば、その中で見えてくるものがあるのではないか」、等々思ってしまうこともあります。それは若い社員に多い傾向にあると感じます。

多くの会社では新入社員は職場で期待されています。できたことは褒められ、落ち込んだ時は親身になり話を聞いてもらえ、周囲は若い社員が少しでも早く成長することを望んでくれています。しかし、たまに上司や同僚たちも諦めてしまうことがあります。

A君の場合がそうだったと思われますが、近年このように諦められてしまうケースが若い社員で散見されるようになってきました。最近の就職事情は売り手市場と聞きますから、この傾向は続くと思います。

■入社1カ月で「自分には不向きな業務内容」と主張したBさん

違う会社のBさんは、人事があきれてしまったケースとして、私の中で印象に残っているケースです。

Bさんは学生時代にインターンした第1希望の部署での入社はかないませんでしたが、会社からの声掛けもあり他部署で入社しました。新人研修も終わり1カ月たった頃、部門長に「異動したい」と直談判し断られるとその場で号泣。人事経由で産業医面談となりました。

面談で泣きながら訴えた内容はこんな感じでした。元々やりたいと思っていた部署ではないため、どうしてもやる気が起こらず新しい業務を覚えられない。同期たちができるようになっていくのを見ていると自信喪失と自己嫌悪の気持ちになり、思い出してしまい夜眠れない。自分には不向きな業務内容だから元々希望していた部署に異動させてくれればやる気も出るだろうし、そうすればうまくいくはずだ……。

私は、実際に仕事を始めてまだ1カ月程度で向き不向きは決められるものではないこと。たとえ与えられた仕事が自分の本意ではなかったとしても、その仕事をやる意味や意義を新たに考えて頑張ってみることも、社会人としては必要なこと。睡眠がとれないことが日中の業務に影響があるのであれば、医療機関を受診し相談すること、などを伝えさせていただきました。

Bさんはその後も遅刻や欠勤があり、業務にも明らかに支障をきたしているようでした。そして数週間後、彼女は上司に「適応障害。症状が悪化する可能性があるため異動が望ましい」と記載された診断書を提出しました。私の声は彼女には全く響いていなかったようでした。

膝に手を置いて面談をする女性
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■休職に入らず、そのまま退職していった

2回目の産業医面談では、主治医に勧められたものの内服薬は断ったことと、体調は前回よりも悪化しており、休職を考えるべき状態であることが確認できました。産業医面談の結果を受けた人事と部門は彼女に、このような診断書を提出したからといって異動できるわけではないこと、規則として1年たつまでは部署異動はできないこと、体調が悪いのであれば休職をすべきであることを説明しました。

最終的に彼女は休職に入らずそのまま退職したと後日人事に聞きました。

就活情報サイト「キャリタス」を運営するディスコが2月に実施した2023年春入社の社会人を対象に実施した「入社1年目社員のキャリア満足度調査」では、43%が転職活動中もしくは転職を検討中とのことです。また、パーソルキャリア「新卒入社直後のdoda登録動向」によると、転職サービス「doda(デューダ)」に4月に登録した新社会人の数が23年に過去最多を更新。調査を始めた11年と比べて約30倍になり、登録者全体の伸び率と比べても、新社会人の伸びが顕著だったとのことです。

■「新人がすぐに辞める現象」は増えるかもしれない

就職した新社会人たちが早速退職したり転職活動を始めたりしてしまうこの現象。私を含め上世代の社員からすると、なんとも言えない気持ちになってしまいます。

就職事情は売り手市場だからこそ、次も見つかると若者たちは考えるのでしょうか。もしくは、最近の新入社員たちはSNSのアカウントも複数匿名で持ち、嫌になったらアカウントリセットという環境で育ってきた“リセット世代”であることが影響しているのでしょうか。それとも、新型コロナ感染症による社会的ロックダウンの中、大学生活のほとんどを在宅学習で過ごしたことが、社会性の構築という人格形成に影響を及ぼしているのでしょうか。

産業医の私も、まだその答えはわかりません。しかし、会社と上世代は、今後このようなケースが増える可能性があることを覚悟した方がよさそうです。どの会社の企業文化にも、合う人と合わない人もいるわけで、去った人たちは理由はともかく相性が合わなかったのです。

退職のため、会社の荷物を整理する女性
写真=iStock.com/pcess609
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pcess609

■「褒めて所属感を高める」方法も違うかもしれない

では、残ってほしいと思える人材には、どうすればいいのでしょうか。この答えも私はわからなくなってきています。わかっているのは、「仕事は背中を見て覚えろ」というスタンスは全くもって時代遅れであることです。褒めることができる点を見つけて褒めて存在を承認し、会社(部署)での所属感・連帯感(エンゲージメント)を高めるという方法も、もはや違うのかもしれません。

皆様の会社の新入社員たちは、新社会人生活にそろそろ慣れてきた頃でしょうか。また、入社2年目の昨年の新入社員たちは、よき先輩として活躍できていますでしょうか。

日々の産業医面談の中で、この答えが見えてくることを願ってやみません。その時はここで共有させていただきます。

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武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、フォルクスワーゲングループ、BMWグループ、エリクソンジャパン、テンプル大学日本校、アドビージャパン、テスラ、S&Pといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト

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(医師 武神 健之)

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