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ここ一番"ブーストをかける仕事"に備える日常習慣とは…超人気イラストレーター「ミカ・ピカゾ」納得の回答

プレジデントオンライン / 2024年6月14日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Motos e Paisagens

任天堂の人気ゲーム『ファイアーエムブレム エンゲージ』のキャラクターデザインや「日清のどん兵衛」コラボCM、歌手Adoのファーストアルバム『狂言』の広告ビジュアルを担当。X(旧ツイッター)のフォロワー数は120万人を超え、今春には4回目となる個展を開催するなど、今もっとも勢いのあるイラストレーターMikaPikazo氏。彼女にこれまでのキャリアを紐解いてもらうと同時に、クリエイターとしてどのような睡眠習慣の遍歴を辿ってきたのかを語ってもらった。

■睡眠を激変させたブラジル生活

クリエイターは創作に命をかけていて、寝る間も惜しんで没頭するというイメージを抱いている人は多いでしょう。でも、私は2年ほど前から夜中の2時に寝て朝9時に起きる、規則正しい生活を続けています。就寝時間こそ一般的なビジネスパーソンよりも遅めですが、毎日しっかり7時間睡眠です。

実は今の生活習慣に落ち着くまでには紆余曲折があります。中高生のときは深夜まで友達と遊び、絵を描く毎日。睡眠時間は短めで、毎朝、眠い目をこすりながら学校に通っていました。

その生活が劇的に変わったのは、高校卒業後、ブラジルに渡ってからです。ブラジルでは、アニメや漫画が好きな人向けの教室でイラストの描き方を教えながら、自分でもイラストを描いてSNSで発表していました。

日本にいた頃は夜遅くまでイラストを描いていたので、当初はブラジルでもそうしようと考えていました。でも、ブラジルには夕方になると台風のように激しい雨(スコール)の降る時期があります。私が住んでいたサンパウロ郊外は自然豊かな土地柄で、大雨になるとよく電信柱が倒れて、そのたびに停電になりました。停電になると夕方から辺り一帯は真っ暗で、パソコンの充電が切れて絵を描けません。

電気が点かないときはロウソクに火を灯し、その光源を頼りに紙とペンで絵を描く手段もあると思いますよね。しかし、夜に光を灯すと、その明かりに日本では見たことないような虫や動物が吸い寄せられてくるので、絵を描くどころではありません。そうなると、夜は寝てしまうのが一番。明け方には電気が復旧しているので、朝5時に起きてイラストを描く生活になりました。

朝型の生活習慣にシフトした際に、健康面で大きな変化がありました。以前よりも集中力が増したのです。日本とブラジルの時差は約12時間。日本でみんなが仕事や学校から帰ってきて、SNSを眺めてイラストを楽しむのが23〜24時だとすると、その時間帯はブラジルでは午前中にあたります。

本来であれば、午前中にイラストを制作して昼頃に作品を投稿したかったのですが、私が住んでいたところはネット回線が非常に弱く、イラストは到底アップロードできませんでした。そのため、イラストが完成したらバスで1時間かけて勤めていたイラスト教室まで行き、そこの回線でアップロードする必要があります。そうなってくると、朝9〜10時までには作品を仕上げて家を出発しないと間に合いません。

日本にいた頃は、時間を決めず気分に合わせて描いていました。気分が乗らなければ続きは明日にして、ほかのことをしてもいい。完全に自由です。でも、ブラジルからイラストを発信するとなると、日本のみんなに見てもらいたければ早朝に描くしかなかった。選択肢がなかったからこそ集中できたし、毎日継続できたのだと思います。

幸い、夜型から朝型への切り替えは苦ではなかったです。サンパウロ郊外に住んでいた頃は、ニワトリやガチョウを飼っていて、寝室の下に動物の小屋がありました。夜明けとともにどこかのニワトリが鳴き始めます。一羽が鳴くと共鳴して大合唱。目覚まし時計いらずで、嫌でも目が覚めました。

ただ、早寝早起きの習慣が続いたのはブラジルにいた2年半だけ。日本に帰国して停電のない生活に戻ると、夜に早く寝る必要がなくなって睡眠が1日3〜4時間のショートスリーパーになりました。また、明け方まで描き続け、ちょっと眠ってお昼前からまた描くという日もあり、20代前半は生活のリズムが完全に崩れていました。まさに「不健康なクリエイター」の生活でしたし、当時はそうやって創作に取り組む自分自身が好きでした。

■仕事が増えたときこそよく寝るべき理由

ブラジルから帰国した後はとにかく絵を描き続けたので、睡眠時間を削ることで健康を犠牲にしたかもしれません。しかし、この経験は必要なプロセスだった気がします。創作に限らないと思いますが、今の自分には何がどこまでできるのかと、目一杯に挑戦することでしか掴み取れないものがあると思います。私自身、イラストのお仕事もやれば、キャラクターデザインのお仕事もやって、1日2〜3枚は作品を描いていました。仕事量は多かったですが、そこで突き詰めて得たものが今の自分のベースになっています。

転機は2年前に開催した展示会です。この展示会では、今の自分の持てる力をすべて出し切るつもりで臨みました。その結果、自分がそのとき出せる100点のものを作りあげ、展示会をスタッフ全員で完成させた瞬間に感動しました。「よく頑張った」「自分の絵、好きだな」と素直に思えました。

実はそれまでは「もっと描かないと自分はだめだ」と、強迫観念で描いていたところもありました。でも、手応えのある展示会を経て、自分の可能性をより信じられるようになった。自分に自信がないから描くのではなく、自分を信じていろんなことに挑戦したい気持ちがさらに強くなってきたのです。

実際にさまざまなプロジェクトをやり始めて気づいたのは、イラストと他の仕事では違う種類の頭を使っているということです。イラストのみをやっていたときは、睡眠時間が短くてもそれだけに専念すればパワーで乗り切れました。しかし、種類の異なる新しいプロジェクトを並行してやり始めると、アイデアを生み、各所と連絡し、一緒に作業するクリエイターやスタッフとコンセプトや目標を共有するなど、イラストを描く以外の時間が増えました。そうすると、短い睡眠時間では思考が追いつかなくなる場面が出てきました。

新しいチャンスがあるのに、頭が働かなくて逃すのは惜しい。それで睡眠時間を削って描くのをやめて、7時間は眠るように生活習慣を変えました。

しっかり眠ると、頭の働きはやはり違います。創作のレベルも上がりました。寝てない状態で描いていたときは、次の日にあらためてイラストを見て「ここは描き足りてない」と後悔することもありました。目が疲れていて見えてないことがある。没頭して集中しているようでも、どこか散漫になっていたのでしょう。でも、今はより完成度の高いものを出せるようになった。これは睡眠の効果だと思います。

もともと寝つきが悪く、ネガティブな考えや不安に押しつぶされて眠れないことも多かったです。以前の短時間睡眠はそういう性格に関係していると思います。ですが、去年の12月からジムに通い始めたことで、さらにぐっすり眠れるようになりました。散歩が趣味ですが、それも距離を延ばして、最近は多い日で10キロメートル近く歩いています。運動習慣ができたおかげか、体重は半年で10キログラム以上もダウンしました。

睡眠習慣が安定した今でも、展示会前の2週間など、睡眠を削って作品の制作に没頭しなければいけない時期はあります。でも、普段から健康的な生活をしていれば、いざというときに多少の無理がききます。本当に必要なときにブーストをかけたいから、普段からいい睡眠を取ってコンディションを整える。これは創作に限らず、どのようなジャンルでもプロが備えておかなければいけない心構えかもしれません。

【図表】成功を掴むためには良質な睡眠が不可欠

■環境を変えると自分の実力がわかる

そもそも私が創作に興味を持ち始めたのは3歳になったくらいの頃です。家ではいつもアニメや漫画、特撮やおもちゃ、ゲームに熱中。中学生になると音楽も好きになり、海外のアーティストにハマっていました。

一人っ子で、家では一人で過ごすことが多く、何かに没頭して過ごす時間が圧倒的に長かった。そんなときに自分を元気づけてくれた存在がクリエイターであり、いつしか私も自分がつくったもので世界中の人たちに楽しんでもらいたいと思うようになりました。その思いは今も同じです。「子どもの頃の自分が今の私の作品を見たら、面白がってくれるかな」という視点が創作の軸になっています。

クリエイターのなかでもとくにイラストレーターの道を選んだのは、まぎれもなく自分が一番向き合うことができたのが、イラストだったからです。高校生の頃はサブカル音楽が好きな友達とバンドを組んでライブもやっていました。でも演奏するより、バンドのアーティスト写真やバンドTシャツ、ライブの告知ポスターを作るほうが楽しかった。バンドメンバーから「そういうのばっかりやって、全然楽器の練習しないね」と言われて、やっぱり自分は絵を描いたりデザインを作ったりすることが向いていると痛感。

好きなことがたくさんあって、やってみたいとは思っていても、実際に行動に移してやっていることが、自分に本当に向いているものだと思います。

高校生活を送っていて、ふと自分は今後どうしていこうと考えることがありました。まず浮かんだのは美大への進学でしたが、自分が美大に行く意味を当時感じていませんでした。そんなあるとき、ブラジルに引っ越す親戚から「よかったら遊びに来ない?」と誘われました。もともとブラジルの音楽や『シティ・オブ・ゴッド』というブラジル映画が好きだったこともあって、後先考えずにブラジルに渡りました。自分の将来がどうこうというより、面白そうだから、というのが本音です。

結果的に、ブラジルに渡ったことは自分の人生にとってかけがえのない経験になりました。日本にいたときは頑張らなくてもなんとかなる場面が多かったです。自分は頑張っているつもりでも、今思うとぼんやり過ごしていました。しかし、ブラジルだとそうはいきません。渡航費こそ親に出してもらいましたが、生活費は自腹。日本にいたときと同じように怠惰に生活すると、すぐにお金がなくなっていきます。

ブラジル社会で周囲を見渡すと、昼間は一生懸命会社で働き、夜はより高度な教育を受けるため、また給料の高い職業に就くために夜間大学へ通っている人が多くいました。みんな自分で未来を切り拓こうとしていました。一方で、私はうまくいかないことがあると環境や誰かのせいにして努力してこなかった。ブラジルに来て自分のぬるい部分を精神面でも金銭面でも全身につきつけられて、挫折感を覚えました。

このままノリで生きながら「自分は何者かになれる」と信じても、イラストはうまくならないし、人生も良くならない。やるなら全身全霊でやらないとダメだと気づいて、早起きしてイラストを描いては投稿する生活に切り替えました。日本にいるときは「自分はイラストがうまい」くらいに思っていたので、ブラジルに来ていなかったら勘違いに気づく機会もなく、中途半端に終わっていたでしょうね。

■夢を叶えたければまずは睡眠習慣を整える

日本に帰国してからは、とにかく寝る間を惜しんで描きまくりました。全力で打ち込めたのは、25歳までにイラストレーターとして大成できなければ諦めると決めていたからです。

2023年に開催されたMika Pikazo氏の個展「ILY GIRL」のメインビジュアル
2023年に開催されたMika Pikazo氏の個展「ILY GIRL」のメインビジュアル。鮮やかな色彩表現で世界中のファンを魅了している。

自分の中で25歳は、大学生が社会に出てひと通りのことを経験して大人になる年齢でした。逆に言うと、それまでは子どもの延長で、いろいろ挑戦して失敗できるし、反省して成長もできる。それが社会的に許されるうちに、そのとき自分が投げられるボールをすべて投げて、どう返ってくるのかを試したかった。何も返ってこなければ、自分はそこまで。25歳を超えても「いつかきっと自分には何かの力が宿って夢を叶えられる」と思い込むと怠惰な人生になりそうなので、区切りを設けてすべてを注ぎ込むことにしたわけです。

描くだけでなく、SNSでも積極的に発信しました。ただ、近年思うのが、SNSで良い評価を受けることだけが、表現の手段ではないということです。投稿した作品がバズるのは何かしらの共感を得た結果なので、悪いのではなく、素晴らしいことです。しかし、「これをやれば見てもらえる」を意識しすぎると、しだいに他の選択肢が怖くなって、省くようになります。見せ方が偏(かたよ)れば、表現の幅も狭まるでしょう。自分はそういった偏った考えになっていると感じたとき、あえてまったく今まで投げたことのないボールを考えて、外に投げてみるようにしています。

大切なのは、みんなが何に共感を持ってくれたのか、そして自分が何をしたいのかを考えること。きっとそこには人間の根源的なものがあるはずです。流行りのツールは時代とともに変化しますが、根源的なものを掴んでいたら、ツールが変わってこれまでの見せ方が通用しなくなっても、きっと面白がってもらえます。また、それを時間が経ったあとに面白い形で再現することができると思います。

SNSで誰かの投稿や活躍を見て、「それに比べて自分はどうなんだろう」と不安になる人も多いと思います。さまざまなものを見て、今これが流行るのか、こんなアイデアがあるのかと刺激を受けることはあると思います。でも、SNSで流れてきた何かを見て「自分はダメだ」と自信をなくして動けなくなってしまうのはもったいないです。自信を失って行動しなくなったり、作るのが嫌になるくらいなら、見ないほうがいい。それよりも自分が気持ちよく取り組んだり、作ったりすることに時間を注ぎたいです。

私が大事にしているのは「自分の手が届かないような素晴らしいものを作っている人を見て、自分ができることを考え、思いついたことをやってみる」です。自分が作り続けることができるのは憧れる存在や、成し遂げたい目標が頑張らないと到底掴み取ることができないからです。もちろん、自分と近い人や自分がいる環境を見て不安になったり、比べてしまうこともあります。

でも比べるなら、自分から一見遠いところにいて、面白いことを実現している人がいいですね。たとえばイギリスのGorillazというバーチャルキャラクターのバンドが私は大好きで、キャラクターを使った実験的ライブ・映像作品に憧れています。日本では、KingGnuやMILLENNIUM PARADEのクリエイティブを手がけるPERIMETRONというクリエイティブチームは、既存の枠にとらわれずに格好良い創作に挑戦していてすごい。Perfumeなどの演出を手がけるライゾマティクスの真鍋大度(だいと)さんの作品は、あっと驚かせるようなテクノロジー技術に取り組まれていて、高校生のときから憧れです。作っているものの分野は違いますが、私ももっと表現の幅を広げていいんだと、強く勇気をもらっています。

実際、これからは今までの自分の表現だけにとどまらずに、頭に浮かんでいたけど作り方がわからなかったものにも挑戦したいですね。イラストに物語を加えてみたり、イラストを拡張して空間を作ったり。アニメーションMVも修業していつか手がけてみたいし、そこに実写を交ぜるのも面白い。アイデアはいろいろあります。

クリエイターとしての人生にゴールはなく、だからこそ自分自身に可能性が生まれます。ただ、その時々にチャンスに巡り合っても、体や頭がついてこないのはもったいない。クリエイターとして生きるためにも、これからも睡眠をとっていくこと、体を労ることを大事にしていきたいです。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月5日号)の一部を再編集したものです。

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Mika Pikazo(ミカ・ピカゾ)
イラストレーター
1993年、東京都生まれ。ゲーム『ファイアーエムブレム エンゲージ』でキャラクターデザインを手がける。2024年5月10日から6月1日まで開催された展示会「UNDER VOYAGER」は大盛況のうちに幕を閉じた。画集『MikaPikaZo』(ビー・エヌ・エヌ新社)が好評発売中。

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(イラストレーター Mika Pikazo 構成=村上 敬 イラストレーション=Mika Pikazo)

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