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前澤友作氏が勝訴しても「なりすまし」は止まらない…フェイスブックが詐欺広告排除に後ろ向きな根本原因

プレジデントオンライン / 2024年6月17日 16時15分

メタ社は世界中で訴訟を受けている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Kira-Yan

SNS上で著名人になりすまし、投資などを呼びかけるニセ広告が広がっている。この問題で、ZOZO創業者の前澤友作氏は、Facebookなどを提供するメタ社に対し、1円の損害賠償とニセ広告の差し止めを求めて提訴している。ジャーナリストの岩田太郎さんは「裁判では前澤氏の求める『1円の損害賠償』は認められるかもしれないが、メタ社の責任については否定されるかもしれない」という――。

■前澤友作氏はメタ社を訴えた

米テック大手メタ社のFacebookやInstagram、短文投稿サイトのX(旧Twitter)などで、セレブになりすましたSNS型投資詐欺が多発している。

衣料品通販大手ZOZO(ゾゾ)創業者の前澤友作氏(48)は5月、メタ社を相手取り訴訟を起こした。メタ社が前澤氏の氏名や肖像を無断で使用した広告の掲載を許可したとして、1円の損害賠償と掲載差し止めを求めている。

前澤氏はさらに、詐欺広告対策についての具体的な内容の提示、責任者への証人尋問、そしてプラットフォーム事業者の規制を含めた迅速な対応を求めている。

■メタ社は「対策に多額の投資」と繰り返すが……

実はメタ社を訴えているのは前澤氏だけではない。いま同社は世界中で詐欺広告に関する訴訟を受けている。

カタールの著名ビジネスマンや、オーストラリアの富豪実業家、英国のファイナンシャル・プランナーなどのほか、著名実業家イーロン・マスク氏も同社の被害者だ。

前澤氏のケースは「氷山の一角」である。

これだけ訴訟されているにもかかわらず、メタ社は「対策に多額の投資をしている」と繰り返すばかりで、一向に被害がなくならないのが現状だ。

■被害額は約277億9000万円にも上る

前澤友作氏になりすました広告がFacebookとInstagram上に大量掲載されるようになったのは2023年春ごろ。前澤氏自身が開設した通報窓口には、広告によって金銭をだまし取られた相談が、提訴の時点で96件も寄せられたという。

警察庁の調べによると、2023年の1年間におけるSNS型投資詐欺の被害額は、約277億9000万円にも上る。同年だけでも、SNS型投資詐欺の認知件数は1月の85件から12月には369件と急増している。

前澤氏は今回の訴訟の狙いについて、「損害賠償請求はあえて1円にしました。彼らの行為が違法なのか合法なのかまずははっきりさせたい」とXに投稿した。

■「テイラー・スウィフト裁判」を踏まえたものか

これは、米著名歌手テイラー・スウィフト氏(34)の裁判を想起させる。2013年に、元ラジオDJのデヴィッド・ミューラー氏にお尻を触られたとして、2年後の2015年にセクハラ裁判で提訴し、損害賠償として1ドル(約155円)の支払いを求めた裁判だ。

コロラド州デンバーの連邦地裁の陪審は2017年にスウィフト氏の主張を認め、裁判所は被告のミューラー氏に1ドルの支払いを命じた。この裁判の目的について、テイラー本人はお金のためではなく、世論喚起が目的であったと語っている。

1ドル紙幣
写真=iStock.com/CrackerClips
テイラー・スウィフトは1ドルの損害賠償を勝ち取った(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/CrackerClips

■ジャネット・ジャクソン氏の元夫もメタ社を訴えた

中東カタールの大富豪ウィサム・アル・マナ氏(49)は、20世紀最高のポップスターであった故マイケル・ジャクソンの妹で、シンガーのジャネット・ジャクソン氏の元夫としても知られる。

アル・マナ氏は、2020年にメタ社をアイルランドの首都ダブリンの裁判所で訴えた。2019年を通して同氏になりすました暗号資産の詐欺広告をFacebookに掲載されたからだ。

メタ社側は2023年12月に詐欺広告掲載の事実を認め、「偽広告でアル・マナ氏の評判に傷がつき、同氏に苦痛を与え、当惑させたことに対して謝罪する」との声明を発表した。

英フィナンシャル・タイムズ紙はこの裁判の意義について、「(著名人が)高額の裁判費用をいとわず数年にわたる裁判を戦うことは、一般的にテック大手に対する抑止力として働く」と分析した。

■メタ社は約束を事実上反故にしている

しかし、メタ社の謝罪や口約束があっても、詐欺は一向になくならないようだ。

2019年、英国の著名ファイナンシャル・プランナーのマーティン・ルイス氏がなりすまし投資広告で被害を受けたとしてメタ社を提訴した。この際には、メタ社が300万ポンド(約5億9113万円)を詐欺防止啓発団体に寄付し、さらに「詐欺広告を事前に排除できるツール」を開発すると約束していた。

だが、その後メタ社がどのようなツールを開発したのか、またどのように運用されているのか、詳細は明らかにされていない。その後も2023年に前澤友作氏の詐欺広告が大量出稿されており、詐欺被害は拡大する一方だ。メタ社の対応には疑問が残る。

メタヨーロッパ本社
写真=iStock.com/Derick Hudson
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Derick Hudson

■「テスラ社に騙された」と苦情が寄せられている

米電気自動車大手テスラのイーロン・マスク氏も詐欺広告による被害者の一人だ。

米フォーブス誌の調査によると、FacebookやInstagram、さらにはXにもマスク氏を騙る暗号資産関連の投資詐欺広告が繰り返し掲載されていた。

金銭をだまし取られた人たちが連邦政府あてに「テスラ社に騙された」と苦情を寄せる事態になっているという。

たとえば、実在しない暗号資産の「テスラ・トークン」への投資を勧誘する広告が、マスク氏の写真とともに掲載されていたという。1200ドル(約19万円)分のビットコインを支払った人がその全額を失ったケースなど、騙された人は枚挙にいとまがない。

テスラ
写真=iStock.com/baileystock
「テスラ社に騙された」と苦情が寄せられている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/baileystock

■イーロン・マスク氏の場合は「自業自得」

ただ、イーロン・マスク氏の場合は、彼の普段からの振る舞いにも原因があるようだ。マスク氏自身も「ドージコイン」という暗号通貨を推薦しており、またマスク氏の詐欺広告は自身が経営する「X」にも掲載されていた。

要するにXの出稿基準を緩いままにしていたのはマスク氏の自業自得ではないか、というわけだ。

そのためか、マスク氏は前澤氏やルイス氏、アル・マナ氏のようにメタ社を訴えてはいない。

オーストラリア鉱業界の富豪であるアンドリュー・フォレスト氏も詐欺広告の被害者だ。

オーストラリアのABC放送によると、オーストラリアは世界有数の「SNS投資詐欺大国」だという。フォレスト氏を騙る詐欺広告によって、67万豪ドル(約7000万円)を失った女性もいる。

フォレスト氏は、2019年にメタ社に書簡を送付して改善を求めたが、詐欺広告はいまだに表示されるようだ。

■オーストラリアでは刑事裁判になった

フォレスト氏は業を煮やし、2022年にメタ社を刑事告訴している。「オーストラリアの反マネーロンダリング法に抵触する違法広告が自社のプラットフォームにあふれていることを知りながら、メタ社はそれを放置して巨額の収益を得ている」というのがフォレスト氏の主張だ。

だがメタ社は罪状を否認。西オーストラリア州地方裁判所は去る4月に、証拠不十分として退けている。

刑事裁判では要求される証拠のレベルが高いことが災いした格好だ。

フォレスト氏はこれで諦めたわけではなく、2022年にメタ本社のある米カリフォルニア州で民事訴訟を起こした。

この裁判では、「広告主が直接自社の広告を簡単に作成できるメタ社のセルフサーブ広告が、詐欺師たちの仕事を顕著にやりやすくした」と訴えている。

一方、メタ社は、裁判所がこの訴えを棄却するよう求めている。

■刑事責任の証明はハードルが高い

米カリフォルニア州はメタ社のお膝元であり、フォレスト氏が勝訴できるかどうかは不透明だろう。

ただ、カリフォルニア州の住民も、メタ社には不満をつのらせているようだ。

カリフォルニア州在住の消費者がメタ社に対して集団民事訴訟を起こしている。「同社は積極的に詐欺広告をプラットフォーム上に勧誘し、詐欺師たちを奨励・幇助(ほうじょ)している」と訴えているのだ。

カリフォルニア州連邦地裁は2022年、「メタ社が詐欺広告の流通に積極的に関与した証拠がない」として、原告側に敗訴を言い渡している。

このように、メタ社は目下、世界中で訴えられているが、同社の民事・刑事責任を証明することはハードルが高い模様だ。

仮に裁判を通じてメタ社から「詐欺広告の対策を実施する」との約束を引き出したとしても、メタ社の対策の内容は詳細不明で、しかも効果がない。メタ社に実効性のある対策を求めるのがいかに困難かがわかる。

自分のレーンだけがハードルが高い不公平な陸上競技場のイメージ
写真=iStock.com/komta
刑事責任の証明はハードルが高い(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/komta

■前澤氏の主張が認められない可能性

前澤氏の訴訟はどうなるだろうか。あくまで筆者の予想ではあるが、海外での訴訟を見る限り、「1円の損害賠償」は可能性があるだろうが、メタ社が詐欺広告を放置していることについて「彼らの行為が違法なのか合法なのかまずははっきりさせたい」という点については、前澤氏が訴状で主張する「メタ社の不法行為」の主張が認められないかもしれない。

自民党の合同勉強会に出席する前澤友作氏、2024年4月10日
写真=時事通信フォト
前澤氏の主張が認められない可能性がある(自民党の合同勉強会に出席する前澤友作氏、2024年4月10日) - 写真=時事通信フォト

メタ社は「対策はしているが、現在の技術では詐欺広告のすべてを捕捉できない」と反論することが予想される。

また、この主張が虚偽だと証明する証拠を原告側が用意するのは困難である。一方、日本政府は6月にまとめる予定の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」で、メタ社などプラットフォーム事業者に広告審査基準の公表や、詐欺に使われたアカウントの迅速な削除などを要請する対策を盛り込むと、朝日新聞が報じた。しかし、これはあくまでも「お願い」に過ぎず、運用はメタ社次第であるため、あまり効果はないことが予想される。なぜなら問題の核心は、メタ社のビジネスモデルそのものである「ターゲット広告」にあるからだ。

■根本原因は「メタ社の広告ビジネスの仕組み」にある

詐欺広告が蔓延している根本原因が、メタ社の広告ビジネスの「エコシステム」、すなわちユーザーの関心に沿って広告が表示される仕組みにあるのは間違いない。

メタ社は広範な個人データ収集を通して、ユーザーのみならず、非ユーザーの興味関心とネット上の行動まで知り尽くしている。

投資詐欺広告がよく配信されている人たちは、おそらく過去に何らかの形で投資や金儲けに興味を示したことがある。

詐欺師の側はそうした層を狙い撃ちにするノウハウを持っており、残念ながら、ワナに引っかかる人は必ず一定の割合でいるのである。

■Facebookが「カモになりやすい人」を探して来る

ブルームバーグ傘下のビジネスウィーク誌は、2018年、そうした詐欺師の一人にインタビューしている。詐欺師は「Facebookの広告配信アルゴリズムはわれわれのために、わざわざカモになりやすい人を探して来てくれる」と語った。

メタ社が詐欺広告に故意に関与しているわけではない。だが、メタ社が運営するビジネスモデルが、構造的に詐欺を生みやすいものであるのは確かだろう。

■「Facebook・Instagram・Xを使わない」が唯一の対策

そもそも、技術的に対策できないというメタ社の主張は本当だろうか。

詐欺サイトとしてフラグが立てられたURLをクリックしようとすると警告文を出す、といった仕組みを用意することは現在の技術でもできるのではないか。ほかにもメタ社の技術力をもってすればできることはたくさんあるはずだ。

現時点ではメタ社の後ろ向きな姿勢ばかりが目立つが、今後はさらなる取り組みが求められるだろう。

また、消費者側も、詐欺広告がまかり通るFacebookやInstagram、Xなどを使わない、あるいは利用回数・時間を減らすことで、テック大手に詐欺広告対策を迫る必要があるかもしれない。

ユーザーの利用が減ると、SNS企業は広告料収入が減るからだ。おそらく、メタ社にとってこれがイチバン堪えるだろう。

消費者自身がプラットフォーマーに対してもっと力を行使していく必要があるのかもしれない。

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岩田 太郎(いわた・たろう)
在米ジャーナリスト
米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。米国の経済を広く深く分析した記事を『現代ビジネス』『新潮社フォーサイト』『JBpress』『ビジネス+IT』『週刊エコノミスト』『ダイヤモンド・チェーンストア』などさまざまなメディアに寄稿している。noteでも記事を執筆中。

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(在米ジャーナリスト 岩田 太郎)

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