「完全な違法駐車」でも、車内に人がいるとお手上げ…警察官にできて、「緑の人」にはできないこと
プレジデントオンライン / 2024年6月16日 8時15分
■駐車違反で取り締まられるボーダーライン
ちょっと買い物しようと車を離れただけなのに、戻ったら黄色の駐禁ステッカーが貼られていた……という人も多いだろう。
このような悔しい思いをしないためには、駐車ルールの正しい知識を知っておく必要がある。どういう場合にアウトとなり、はたまたセーフになるのか、その境目を3つ挙げよう。
② たまたま警察官や駐車監視員に遭遇するか
③ 駐車監視員の取り締まりについては「確認事務」の対象か
■運転席に人がいても違反になるケース
① 駐車違反に当たるか
そんなの当たり前だ、と普通は思うだろう。しかしこれ、じつはけっこう奥が深いのだ。
そもそも「駐車」とは何か。道路交通法(以下、道交法)の第2条第1項第18号に定義がある。定義は2つに分かれる。ひとつ目はこれだ。
「人の乗降のための停止を除く」とあるが、人待ちはアウト。たとえば弁当店の前で同乗者が降りて弁当を受け取りに行き、運転者はクルマで待つなんて場合、そこが駐車禁止場所ならばっちり駐車違反になる。
丸カッコ内の場合を除き、どんな理由があっても、継続的に停止すれば、それは駐車なのである。運転者が乗っていても、エンジンをかけっぱなしでも、急な故障でレッカー車を待つ間でも、違反は違反だ。
■「放置駐車違反」のほうが反則金が高い
もうひとつの駐車の定義はこれだ。
運転者がクルマを離れて直ちに運転できない状態の駐車違反、これを「放置駐車違反」という。5分以内の貨物の積み降ろしであっても、駐車禁止場所にクルマを置いたまま運転者が店舗や倉庫へ入ってしまえば、放置駐車違反になる。カッコ書きの「特定自動運行中」とは、つまり運転者が存在しない自動運転の場合だ。
反則金は「放置駐車違反」のほうが高額だ。たとえば駐車禁止場所における普通車の駐車違反、その反則金額は、非放置が1万円、放置が1万5000円だ。
![駐車禁止の道路標識](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/3/1200wm/img_93c4963dde88f23189a5d79172f484fc250354.jpg)
■交差点近くの駐車はとにかく禁止
単なる駐車違反と、放置駐車違反、2つあるうえ、さらに「指定駐車違反」(以下、指定違反)と「法定駐車違反」(以下、法定違反)がある。指定違反とは、標識により駐車禁止と指定された場所での駐車違反だ。これは分かりやすい。
法定違反とは、標識とは関係なしに、そもそも道交法に定められた駐車違反だ。たとえば道交法第44条は第1項で、交差点内、横断歩道上、横断歩道や交差点の側端などから5m以内の部分、踏切の前後10m以内の部分などを、駐車も停車も禁止としている。
場所だけじゃなく、駐車方法の違反もある。たとえば第47条第2項はこう定めている。
駐車禁止の標識がなくても、右側駐車は法定違反になるのである。これを「左側端(さそくたん)に沿わない駐車」という。バイクの歩道駐車もこの違反に当たる。
以上をまとめると、駐車禁止の標識があればもちろん、なくても駐車違反になる場合がある。それら駐車違反には、普通の駐車違反と、放置駐車違反がある、ということだ。ややこしいけれども、運転者はみな知っていることを前提に取り締まりは行われる。「よく知らなかった」は通らない。
■違反車両が取り締まられるかは運次第
② たまたま警察官や駐車監視員に遭遇するか
「そんなアホな」と笑う方もおいでだろう。まあ、聞いてほしい。
街中で、緑色の制服を着て違法駐車の見回りをする2人組を見たことがあるだろう。彼ら「駐車監視員」の制度は2006年6月にスタートした。その前後、駐車取り締まり件数のワンツートップだった警視庁(いわば東京都警)と大阪府警が「瞬間違法駐車台数」をさかんに発表した。
瞬間の違法駐車台数と比べて検挙率はどれぐらいか、当時私は計算したものだ。「瞬間」を2時間程度としても、検挙率は1%に遠く届かなかった。駐車取り締まり件数が全国1、2位の東京、大阪でさえ、なのである。
『警察官僚が見た「日本の警察」』(講談社)という古い本がある。1999年3月初版だ。著者は平沢勝栄・衆議院議員。そこに、非常に珍しい話がでてくる。神奈川県警交通部の調査をもとに「潜在違反」を推計したところ、年間103億件。当時の神奈川県の交通取り締まりは年間48万件、検挙率は約0.005%……。
つまり、違法駐車に限らず、違反をしても、取り締まりを受ける確率は、きわめて微少なのである。がちがちの順法運転に徹する人以外にとって、交通取り締まりを受けるかどうかの境目、そのひとつは、残念ながら「運」といえるのである。
「この商店街は、ちょっと路上駐車して買い物する人が多い。そういうのはセーフなんだ」
「高速道路はみんな20キロオーバーぐらいで走っている。20キロならOKらしい」
「こういう見通しのきく場所で、停止線の手前できっちり一時停止するやつは初心者、下手くそだ」
なんて思っている人はいないだろうか? 結局は運次第なので、そのうちすかっと捕まるかもしれないのだ。
■「緑の人」のターゲットは放置車両だけ
③ 駐車監視員が取り締まるのは「放置駐車」だけ
警察庁の資料によると、全国に駐車監視員は約1900人いる。
駐車監視員(以下、監視員)ができる“仕事”は、じつは限られている。駐車監視員は、違法駐車の違反者本人が目の前にいても、違反切符を切ることができない。監視員ができるのは「放置車両の確認及び標章の取付け」(第51条の4第1項)だ。
■「人がいればセーフ」は駐車監視員の場合
「標章」=クルマのフロントガラスなどにぺたりと貼られる、あの黄色い駐禁ステッカーのこと。「確認標章」ともいう
![【図表1】放置車両確認標章取付件数(平成25年~令和4年)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/1/1200wm/img_2184572f399f97e7d6c69d4ef5ed786c336578.jpg)
ばっちり違法駐車でも、「放置車両」でなければ、監視員は手を出せない。明らかに駐車違反のクルマを見つけても監視員が素通りするのは、そういうわけなのだ。
■ステッカーを貼られる前に戻ればセーフ
監視員による取り締まりは、具体的には次のように行われる。
2、違法駐車を見つけたら、車内を覗いたりして「放置車両」に当たるかを確認する
3、放置車両とわかったら、警察から貸与されたデジカメで証拠写真を撮り、貸与された携帯端末に必要な事項を入力する
※デジカメと携帯端末が一体型の場合もある
4、貸与された携帯プリンターで標章を印刷する
5、標章を放置車両に貼りつける
※この貼りつけ、道交法的には「取り付け」という
4まで進んでも、5の前に運転者がクルマへ戻れば、監視員の取り締まりは終了となり、印刷した標章を取り付けずに去る。運転者がいれば放置駐車ではなくなるからだ。
「違法駐車したクルマへ戻ったら、監視員がクルマの中を覗き込んでいた。出て行ったら違反切符を切られる、ヤバイと思い、隠れて見ていた」
こんな行動を取ってしまうのは最悪だ。すぐに出て行けば、放置車両でなくなり、監視員は去るのだ。監視員にはそもそも違反切符を切る権限がないのだから。
■邪魔な違反車両をどうにかしたい場合は…
ここまで駐車違反のボーダーラインについて解説してきたが、違反車両に困っている人はどうすればいいのか。
110番通報すれば警察官が臨場する。明らかに違法駐車のクルマを現認して、警察官は何もせずに去る、それはちょっと考えにくい。もしも明らかに違法駐車があるのに、何もせずに去った場合、都道府県の公安委員会に対し通報者が「苦情申出」(警察法第79条)の手続きをすることができ、警察官は立場的にまずいことになってしまう。
実際、警察には駐車問題に関する110番通報が、1年間に85万件以上も寄せられている。
![【図表2】駐車問題に関する110番通報件数の推移(平成17年~令和4年)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/1/1200wm/img_613e632f32509a51365101c26e0ca8dc703735.jpg)
その場に違反者本人がいれば、警察官は最低限、クルマを移動するよう言うはずだ。放置車両なら標章を、携帯プリンターではなく手書きで作成し、放置車両に取り付けるだろう。
■ステッカーは警察官、交通巡視員も貼れる
標章の作成と取り付けは、警察官や、交通整理などを行う交通巡視員もできる。2022年のデータでは、標章の取り付け数はこうだ。
※公開データではなく、筆者が情報公開法の手続きを踏み手数料を払って入手
・警察官 23万8885件
・交通巡視員 639件 ※交通巡視員がいるのは全国で8県のみ
住宅街の道路には駐車禁止の標識がなかったりする。その場合でも、前述のとおり法定違反は成立する。そこが私道でも、道路の体裁をなし、不特定の人車が通行できるなら「交通の用に供するその他の場所」(第2条第1項第1号)に当たり、道交法のカバー範囲とされる。ただし、私道といってもさまざまなので、カバーされない場合もあることに注意が必要だ。
とにかく、駐車違反車両をどうにかしたい場合は、泣き寝入りするのではなく警察に相談してみたほうがいいだろう。
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交通ジャーナリスト
1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。傍聴した裁判は1万1000事件を超えた(2024年6月現在)。
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(交通ジャーナリスト 今井 亮一)
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