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だから「52歳現役」で今も日本トップ級…五輪8度レジェンドの"最高睡眠"できるフロ・メシ・寝具・エアコン

プレジデントオンライン / 2024年6月19日 17時15分

葛西 紀明スキージャンプ選手・監督。土屋ホーム所属。1972年、北海道生まれ。10歳でスキージャンプを始める。オリンピックには日本人最多の8度出場。23〜24年シーズンには4季ぶりに日本代表チームに復帰するなど、今なお選手として活躍し続けている。 - 写真提供=土屋ホーム

■老廃物を排出する3~5セットの交代浴

おかげさまで52歳になった今も現役。所属チームの監督を務める傍ら、今年2月には2年ぶりに国内大会で優勝しました。第一線で選手を続けていられるのは、睡眠で疲れをうまく取れているからかもしれません。

実は30代前半まで、睡眠について強く意識したことはありませんでした。もともと僕は体力が溢れているタイプ。睡眠時間が多少短くなっても疲れを感じることはありませんでした。しかし、さすがに30代も半ばに差しかかると、20代のころと同じようにはいかなくなってきた。そこからしっかり眠ることを心がけるようになりました。

まずこだわっているのは寝具です。マットレスは凹凸がついたディンプル形状のものを使っています。スキージャンプで大切なのは首、背中、腰です。このラインが硬くなるとジャンプのアプローチの姿勢がうまく組めません。ディンプル形状のマットレスは体の圧を分散してくれるので、どこかの部位に負担がかかるのを避けられます。

同じ理由で枕も厳選しています。合わない枕を使うと首が上がりにくくなり、それだけでアプローチの目線が変わってしまいます。調子を崩すきっかけになったこともあるので、硬めで小さく、首にフィットしてしっかり支えてくれるものを愛用しています。

寝間着は、おなかと腰に磁気が入って血行を良くするリカバリーウエアです。3年ほど愛用していますが、ただのTシャツ短パンで寝ていたときより調子はいいですね。

寝具一式は遠征にも持っていきます。海外のホテルのマットレスや枕は、僕には柔らかすぎるので、自分の寝具が欠かせません。マットレスは丸められるので海外にも簡単に運べるし、陸続きのヨーロッパを転戦するときは車で移動するので問題なし。遠征時の大事なお供です。

海外遠征で困るのは、お風呂。ヨーロッパのホテルはバスタブがないホテルも多いのですが、寝る前はじっくりお湯に浸かりたい。日本から入浴剤を持っていき、バスタブがある部屋ならここぞとばかりに1時間~1時間半くらいじっくり入ります。

普段も長風呂ですよ。ずっと浸かっているとのぼせるので、十数分浸かったら水を浴びて体を冷やし、また湯船に入る。サウナと同じ交代浴です。それを3~5セット繰り返します。

寝る前に長風呂したり、サウナに入る最大の目的は汗をかくこと。実際にそうなっているのかはわかりませんが、汗をかくと一緒に老廃物が出ていくような気がしてスッキリします。心地よい疲れとともにベッドに入れます。

意識的に汗をかくようにしているのは減量のためでもあります。スキージャンプは基本的に体重が軽いほうが有利です。なかには既定の体重より痩せすぎていて増量しなければいけない選手もいますが、僕も含めてたいていの選手は普段から減量に取り組んでいます。体重を適切にコントロールするのに、お風呂はもってこいです。

夕食は食べません。もともとは減量のために始めたことですが、これも深い睡眠に役立っているかもしれません。普段は朝にご飯やパンでエネルギーを摂って、お昼は野菜サラダだけ。シーズン中、さらに減量が必要なときは朝食も抜いてブラックコーヒーだけにします。正直、たまにお腹が空いて寝る前に冷蔵庫を開けたくなるときもあります。ただ、食欲よりも、勝ちたい気持ちのほうがずっと強い。おかげで空腹でも寝られる体になりました。

寝室の温度は低めに設定しています。僕の出身は北海道下川町。冬はマイナス30度になる極寒の地です。裕福な家ではなかったので、暖房は灯油ストーブではなく薪ストーブでした。薪ストーブは寝ている間に火が消えるため、明け方は外とほとんど変わらない室温になります。寒さをしのぐため、ずっしり重い布団にくるまって寝ていました。それが体に染みついているんでしょうね。今でも寒い中で布団の重さを感じながら横になったほうがよく眠れます。

室温だけでなく、乾燥にも気をつけています。空気が乾くと鼻やのどから体調を崩しやすくなってしまう。遠征先はもちろん、自宅でもわざと洗濯物は寝室に干して、湿度は50%前後にコントロールしています。

寝室の環境を整えて完全消灯。ベッドに入ったら、ものの数秒で眠りに落ちます。寝つきは『ドラえもん』ののび太より早い自信がありますよ(笑)。

朝の寝起きもいいほうです。念のために目覚ましをスマホで二重三重にかけますが、目覚ましより先に僕が起きる。起きた瞬間からオヤジギャグを言えるくらい、朝から元気です。

【図表】葛西紀明の脳と体に溜まった疲れを吹き飛ばす眠り方

■寝る前のお酒は良くないというが……

目覚めてからいきなりトップスピードで動けるのは、寝る前の入浴でしっかり汗を流して、体の疲れだけでなく脳の疲れも取れているからでしょう。

スキージャンプは考えるスポーツです。朝起きてカーテンを開けた瞬間から、「今日の風はどうかな。強めだからこう飛ぼうか」と考え始めます。ウオーミングアップしている間に何度も頭の中でシミュレーションするし、ジャンプスタート台に上がりながら最後の最後までチェックを繰り返します。飛んだ後も頭はジャンプのことでいっぱい。優勝できればいいのですが、負ければ悔しい気持ちが湧いてきて、今日はどこがよくなかったのかとまた考えこんでしまう。とにかく頭を使いっぱなしで、脳がへとへとになるんです。

脳の疲れを引きずってシーズンを過ごすと、だんだん頭がうまく働かなくなっていきます。我がチームのエース、伊藤有希選手は昨シーズン、ワールドカップ女子で2回優勝しました。ただ、性格が真面目で、ジャンプのことばかり考えてしまう。僕も経験がありますが、それだと最後まで脳がもたなくて、シーズン終盤に失速してしまいました。

シーズンを戦い抜くには、脳のメリハリをつけることが大切です。朝起きてから練習や試合が終わるまでは100%ジャンプについて考えればいいですが、寝る前にはむしろ頭からジャンプのことを追い出して、リラックスした状態でベッドに入る。そうすることで睡眠中に脳がリセットされて、朝からまた全開で動けるのだと思います。

頭から余計なものを追い出すために、ワインを飲むこともあります。寝る前のお酒は良くないという話も聞きますが、あまり難しく考えず、柔らかく生きたいですね。

実は50歳を過ぎてから急にショートスリーパーになりました。以前は7時間ほど寝ていましたが、年齢のせいか、早く目が覚めるんです。最初はアスリートだからもっとたくさん寝たほうがいいのではないかと焦りました。

でも元来、ポジティブに考えるタイプ。早く目覚めたら、「そのぶん早く練習できてラッキー」と思うようになりました。体や脳の疲れも問題ありません。睡眠時間が短くなったなら、深く眠ってカバーすればいい。次のシーズンもまた飛べるように、その工夫を続けていくつもりです。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月5日号)の一部を再編集したものです。

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葛西 紀明(かさい・のりあき)
スキージャンプ選手・監督
土屋ホーム所属。1972年、北海道生まれ。10歳でスキージャンプを始める。オリンピックには日本人最多の8度出場。23~24年シーズンには4季ぶりに日本代表チームに復帰するなど、今なお選手として活躍し続けている。

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(スキージャンプ選手・監督 葛西 紀明 構成=村上 敬)

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