1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

『虎に翼』は歴代最高の朝ドラになりつつある…ドラマ偏愛ライターが選ぶ「前半戦名場面ランキング」

プレジデントオンライン / 2024年6月18日 7時15分

2021(令和3)年10月30日、東京国際映画祭のオープニングセレモニーに登壇した伊藤沙莉 - 写真=WireImage/ゲッティ/共同通信イメージズ

NHK連続テレビ小説「虎に翼」が好調だ。ライターの吉田潮さんは「素晴らしいのは主人公を演じる伊藤沙莉だけではない。多くの魅力的なキャラクター、名場面の数々に印象的なセリフ、さらにはナレーションも素晴らしい。歴代最高の朝ドラになる可能性がある」という――。

■「虎に翼」魅力的なキャラクター、勝手にベスト3

話題の朝ドラ「虎に翼」。50話までの間に、怒りも悲しみも焦燥感も喪失感も経て、いよいよヒロインの佐田寅子(伊藤沙莉)が裁判官への道を歩き始めた。密度の濃い傑作なので、現段階で独自採点したところ、歴代朝ドラベスト3に届く点数だった(まだ半分あるのに!)。ここらで振り返って、3つの「ベスト3」にまとめてみる。

魅力的なキャラクター、勝手にベスト3

とぼけた人や呑気な人、細かい顔芸で笑わせてくれたキャラクターも多数いたし、繊細さゆえの悲劇を迎えたキャラクターもいて、甲乙つけがたし。順位をつけるのもどうかと思うが、「人としての気持ちのよさ」でピックアップしてみる。

3位 辛口&甘党の現実主義者 桂場等一郎(松山ケンイチ)

寅子に対して実にシビアなまなざしを送り続ける桂場。言葉少なく、無愛想な物言いだが、実は的を射たことしか言わない。寅子の母(石田ゆり子)を激怒させ、若造呼ばわりされたときも、後から思えばある種の予言だったとも。

ただし、寅子の素質や個性を誰よりも高く買っているフシがある。司法の在り方を「キレイな水が湧き出ている場所」と表現した寅子を「裁判官向きだ」と評したり、殊勝に礼を言う寅子に「薄っぺらいことを言うくらいなら、行動で示せばいい」と諭したり。

甘モノが好きで、こっそり食べようとするといつも寅子に邪魔されるのもご愛敬。

■1位は空襲で亡くなった同級生

2位 えげつない娘→できる妻→たくましい嫁へ 猪爪花江(森田望智)

寅子の同級生で、寅子の兄・直道(上川周作)と結婚した花江も、物語の随所でスパイスとなっている。

女学生時代に虎視眈々と直道との結婚を狙ったしたたかさ。寅子とは真逆で、結婚や家制度に抵抗せず、波風たてずに自分がほしいものを手に入れることを選んだ女だ。

劇中では「スンッ」と呼ばれる行為、つまり「決して自己主張せず、疑問や怒りを口に出さず、黙ってニコニコしてやりすごす」ことができる女である。花江の存在は「全員が寅子のように賢く強く闘える女ではない」という、世の「スンッ」派女性の共感を呼んだに違いない。

対比としての存在だが、ことあるごとに寅子に発想の転換や配慮のヒントを与えてくれる、バランサーとも言える。義父(岡部たかし)の最期には強烈なツッコミとダメ出しで、ぎくしゃくした猪爪家を正常化させた立役者でもある。

1位 舌鋒鋭く批判を厭わない山田よね(土居志央梨)

女子部の同級生・山田よねの言葉は常に厳しい。寅子も寅子で黙っちゃいないが、よねが吐き捨てる鋭いセリフは「そこまで言わなくても」と一瞬思わせる。でも、その背景には自立の矜持と確固たる信念がある。

寅子だけでなく、弁護士を志す仲間にとっては、沈思黙考させたり、反省させたり、奮起させる効果をもたらす。視聴者は共感まではいかなくとも、よねが寅子の無二の友と認定したはずだ。

そんなよねは空襲で亡くなったと人づてに聞かされていたが、生きていたことがわかってひと安心。今後「法曹界に殴りこんでくるはず!」と思っているのは私だけではないはず。

■寅子はふたりの名優によって作られている

ちなみに次点もちょっとだけ触れておこう。4位は漢(おとこ)の中の漢・轟太一(戸塚純貴)だ。男尊女卑の塊みたいなキャラと思いきや、轟は性差別をしない平等主義者。繊細な花岡(岩田剛典)を誰よりも理解していたし、勇猛果敢で勉強熱心な女学生たちへの敬意を言葉や態度でしめした、ただ一人の男である。

5位はなんといっても主人公の寅子である。沙莉の名演は既に書いたが(沙莉の記事)、沙莉に一体化した語りの尾野真千子も絶妙(私はマチナレと呼ぶ)。ふたりの名優によって作られる寅子の奥深さったら。

沙莉が寅子の血肉を、真千子が寅子の骨を形成。直情径行の寅子だが、沙莉が表情と動きで魅せる一方で、真千子が毒や怒り、孤独感や寂寥感も緩急をつけて語る。このタッグを考え付いた人、すごいよ!

NHK本社 渋谷、東京、2016年12月19日
写真=iStock.com/mizoula
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

■夫を亡くした女たちの再生

記憶に・歴史に残る珠玉のシーン ベスト5

思わず噴いた場面や胸のすく場面、その深さに唸った場面を選りすぐってみた。

3位 死を美化せずお涙頂戴にしない 直言の懺悔末期(第43話)

個人的に朝ドラで描かれる「死」が、涙を誘う魂胆丸見えで冗長だと萎える。ところが、だ。寅子の父・直言が死ぬ前に、家族に対する懺悔大会を開催したのは強烈に面白かった。

家族への文句や恨み節ともとれる懺悔の垂れ流し。言い終えてスッキリする直言もおかしかったし、家族の塩対応にも納得がいった。美化しない「死」の描き方に深い愛情を感じ、溜飲の下がる思いもあった。

2位 母が伝授する喪失感と向き合う秘策 (第44話)

夫の佐田優三(仲野太賀)を戦争で失った寅子。悲しみに暮れながらも生活は困窮。そんなときに母・はるが寅子にこっそりお金を渡すシーンは、胸に刺さった。

「これは自分のためだけに使いなさい。贅沢じゃない、必要なことです。私も花江さんも思いっきり贅沢しました」と言う。

こっそり泣きながら大福を食べた母、泣きながら屋台で酒を飲んだ花江の映像が映し出される。夫を亡くした女が悲しみと喪失感とこの先の不安感で押しつぶされそうになったとき、どうふんばったのか、を描いた名場面である。

さめざめと泣くだけでなく、ちょっぴり利己的になることも、立ち直るための栄養剤なのだ。

■女たちの本音と弱音をさらけ出した

1位 饅頭談義からの女の連帯(第15話)

私が大好きな「女の連帯」が凝縮されていた第15話。女子部宣伝もかねて、法廷劇を催すことになった寅子たち。題材は大学側から提供された実在の「毒饅頭事件」。詳細は割愛するが、要するに女性の同情を集めるために事実とは異なる、改竄(ざん)された内容だったと判明する。

寅子の家で饅頭を作りながら議論する仲間たち。女はいつの時代も都合よく使われるということ、大学側が無意識に女をなめているということを話し合う。

吉田恵里香、豊田美加『NHK連続テレビ小説 虎に翼 上』(NHK出版)
吉田恵里香、豊田美加『NHK連続テレビ小説 虎に翼 上』(NHK出版)

よねは怒りを露わにするが、そこに母も花江も参加して、弱音と本音をさらけ出し合う流れに。誰に対しても批判的なよねが、花江の参加によって、仲間に敬意を払っていることが伝わる。

また、選んだ道や考え方が違っても、話し合うことが大切だと説く場面でもあった。ただし、この議論をまとめたのが途中から入ってきて何もわかっていないくせになぜかしたり顔の兄・直道というオチ。大爆笑でもある。

寅子がよねに「あなたはそのままイヤな感じでいいから。怒り続けるのも弱音を吐くのと一緒。私たちの前ではそのままで」と伝える。ぶつかってこその連帯。本音をぶつけあってこその連帯。いろいろな要素が凝縮された名場面だったと思う。

■いつの時代も学歴コンプレックスはえげつない

次点も紹介。4位は「めっちゃ可愛い 寅子のローリング同衾(第37話)」だ。寅子と優三が社会的地位の向上のために結婚。初夜の場面を覚えているだろうか? 気を遣って手を出そうとしない優三に対し、寅子がゴロゴロと転がって同衾し、誘うのだよ。可愛い性欲に頬が緩んだ。これを「ローリング同衾」と名付けてみた。

5位は「男もスンッとなる 学閥コンプレックスの妙(第17話)」だ。自分を押し殺したり、押し黙る「スンッ」は何も女に限ったことではない。

脚本の妙と感心したのは第17話。寅子たち(男子学生も)が講義について甘味処で話している。そこに偶然、大庭梅子(平岩紙)の息子が登場。彼が帝国大学の学生とわかると、明律大学の男子たちが皆、急に無表情に。男も「スンッ」である。その理由は優三が解説。

明律の法学部生は帝大に強い憧れとコンプレックスを抱いているため、目の前にいたら嫉妬と羨望で普通ではいられなくなる、という。彼らの「スンッ」は令和にも通じるものが。男性の学歴コンプレックスはえげつないから。あ、女もか。

■「はて?」は今を生きる女性の代弁

疑問・反論・猛反対「はて?」ベスト3

今年の流行語にしたい、寅子の口癖「はて?」。全国の女性がこれを口癖にしたらいいのではと思うくらい、端的に女性の意識改革を推奨している。「はて?」ベスト3も紹介しておきたい。

3位 諦めや分断を求めない寅子の「はて?」(第10~11話)

よねと寅子の意見はことごとく異なる。法律を「武器」と捉えるよねに対して、寅子は「盾とか傘とか温かい毛布」と捉える。それを聞いた仲間は「考え方が違うならわかりあえない」と諦めモード。

これまでも女学生たちはことあるごとに諦めるクセがあった。そこにも寅子は「はて?」と問い、諦めるのも分断するのも違うと諭した。寅子はたとえ意見が相反していても議論する価値があると考えている。意見が異なっても志が同じ仲間なら糧にできると信じているのだ。ここに現代の女性も学ぶべきものがある、と強く感じた。

2位 「特別扱い」に怒りの「はて?」(第18話)

怒りのピクニック、覚えている人も多いはず。梅子の子供がいる前で、梅子の夫に愛人がいると話す下衆な男子学生・小橋(のちに前髪チョロ男こと名村辰)。それを機に花岡と寅子の間で議論に。

「夫は家族を養っているのだから、外で息抜きも必要、そのほうが家庭円満」と説いた花岡に、怒りの「はて?」をぶつける寅子。話せば話すほど、好青年の化けの皮が剝がれていき、しまいには「君たちはどこまで特別扱いを望むんだ?」と吐いて、虎(寅)の尾を踏む花岡。

根本的に見下されていることに激怒した寅子の「はて?」は今を生きる女性の代弁でもあった。

■私が拍手喝采だった「はて?」

1位 寅子の完全復活「はて?」(第50話)

地獄を経験し、婦人弁護士のプレッシャーと妊娠が重なり、法曹界から身を引かざるを得なくなった寅子。終戦、夫の死を経て、再び法曹界へ戻る。

民法改正に携わり、心の底から法律の世界で生きる喜びを感じた。ところが、恩師・穂高重親(小林薫)からまさかの提案が。女性の権利の尊重を説いてきたはずの穂高が別の仕事を紹介すると言い出す。

もちろん、一度は満身創痍で法曹界を去った寅子がまたつらい思いをしないように、という配慮ではあるが、寅子が「不本意に働いていて不幸」と決めつけたのだ。

寅子の口から久しぶりに出た「はて?」には拍手喝采だ。猛烈に怒りを覚え、自分が好きで仕事をしている旨を伝える寅子。つまりは「善意や同情という名の抑圧」である。寅子同様、怒りに震えたね。

■後半は滝藤憲一に注目

ちょっと異なる次元の話ではあるが、映画『ニンフォマニアック』を思い出した。

理解ある紳士と思った矢先、「これだから男は!」とヒロインを絶望させるラストシーン。男をひとくくりにしてはいけないとわかってはいるのだが、善意というのは厄介であることを肝に銘じておきたいと思った。

ま、結果的に寅子が完全復活、法曹界に根を張る礎にもなったので、穂高先生を糾弾するのはやめておこう。

ちなみに、4位は萌芽の「はて?」(第25話)だ。法律の立ち位置を「水源」と捉えた寅子に、内心で感銘を受けた桂場から「君は裁判官になりたいのか?」と言われての「はて?」。まだ女性は弁護士にしかなれないとき、新たな希望の花が芽吹いた、そんな瞬間の「はて?」だったと思う。

5位には、優三の「はて?」返し(第40話)を推したい。「はて?」は寅子の十八番だが、優三が寅子への愛情を改めて伝えるために「はて?」を使ったのだ。慈愛に満ちた「はて?」だった。

他にも、思いつくだけで「リーガルドラマとしての見どころベスト3」とか「寅子応援隊おじさんベスト3」とか「男も呪縛から解放されるベスト3」とか、湧いて出てくる。後半の幕開けにはどうやら滝藤賢一が大暴れするようなので、テンション高めで見守っていこうと思う。

----------

吉田 潮(よしだ・うしお)
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

----------

(ライター 吉田 潮)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください