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「エキセントリック」と評された…麻生氏との関係を悪化させ、6月解散を封じられた岸田首相は続投できるか

プレジデントオンライン / 2024年6月14日 7時15分

自民党役員会に臨む(左から)茂木敏充幹事長、岸田文雄首相、麻生太郎副総裁=2024年6月3日午後、国会内 - 写真=時事通信フォト

■総裁再選―衆院解散というプランB

岸田文雄首相(自民党総裁)が、9月の自民党総裁選前の衆院解散・総選挙を見送る方針を固めた。派閥の政治資金規正法違反事件やその後の対応への逆風が強く、内閣支持率が低迷したままで、当初に描いていた、総裁選前に解散して衆院選で民意を得て、総裁選を無風に近い形で再選するというシナリオが崩れたためだ。

岸田首相は、改正政治資金規正法の成立で政治不信の払拭を図り、経済の建て直しなどによって政権浮揚を図ったうえで、総裁再選を果たし、その勢いを駆って衆院を解散するというプランBを描く。

だが、規正法改正案をめぐって、首相が麻生太郎副総裁らの反対を押し切って公明党や日本維新の会と修正で合意するなど、統治機能不全は深刻で、今後、態勢を立て直したとしても、総裁再選に漕ぎつけられるかどうか、先行きは見通せない。

■「先送りできない課題に専念している」

首相がいよいよ窮地に追い込まれてきた。朝日新聞が6月4日朝刊で「今国会の解散見送り」「支持率低迷で判断」「9月の再選戦略に影響」などと報道したことで、それが可視化されたと言える。総裁選前に衆院を解散する政治力がなければ、総裁再選どころか再選出馬も危うくなるとされるからだ。

岸田首相は4日朝、首相官邸で記者団に「今は政治改革をはじめ、先送りできない課題に専念している。それらで結果を出すこと以外のことは考えていない」と述べた。

読売新聞も5日朝刊で「解散、総裁選以降」「首相調整、信頼回復に注力」と報じた。政治資金規正法違反事件、それを受けた内閣支持率は5月の世論調査で26%と低迷し、4月の衆院3補選、5月の静岡知事選などの地方選で相次いで敗北したこと、連立を組む公明党が総裁選前の解散に否定的で、山口那津男代表が4日、首相官邸で記者団に「国民の政治不信はなお根強い」と語ったことなどが背景にある、と解説している。

早期解散見送りの理由は、自民、公明両党の議席大幅減が予想されるというだけではない。岸田首相と麻生氏や茂木敏充幹事長との間に、政治資金規正法改正の落としどころをめぐって改めて距離が生じ、政権運営に影響を及ぼす事態になっているからだ。

5月31日、岸田首相が唐突に動いた。公明党の山口代表、日本維新の会の馬場伸幸代表とそれぞれ会談し、両党の要求をほぼ「丸のみ」することで、政治資金規正法改正の自民党案を修正することで合意したのだ。

自民党から再提出された政治資金規正法改正案は、公明党の要求を取り入れ、政治資金パーティー券購入者の公開基準額(現行20万円超)を10万円超から5万円超に引き下げること、維新の会の要求を受け、政党が議員に支出する政策活動費の支出をチェックする第三者機関を設置し、10年後に領収書などを公開することなどを盛り込んでいる。

■首相と麻生、茂木両氏に改めて距離

首相は5月31日夜、記者団に「法改正を今国会で確実に実現する、とした国民との約束を果たさなければ、政治への信頼回復ができないという強い思いから、思い切った、踏み込んだ案を提示する決断をした」と説明した。

自民党内には、パーティー券購入者の公開基準額を当初案の10万円超に留め置くべきだとの声が少なくない。中堅・若手は事務所の維持や私設秘書の雇用などにパーティー収入による政治資金が必要だ。自公の実務者協議を担う鈴木馨祐政調副会長(麻生派)が5月12日のNHK番組で「自民党の力を殺ぎたいという政局的な話と再発防止がごっちゃになっている」と発言したのもこのためだ。

公明党との連立離脱か、自民党の改正案に賛成かをめぐるギリギリの折衝もなかった。政権中枢にパイプがある公明党の高木陽介政調会長が入院していたことも痛手だった。

これに先立つ5月29日夜、麻生氏は、首相とパレスホテル東京の日本料理店で会食し、「譲歩しようと思わないこと。中長期的に党の将来を考えたら、若手が安定的に収入を確保できるようにすべきではないか」と問い掛け、茂木氏とともに5万円超への引き下げに難色を示した。首相は「今国会成立」が政権の生命線だとの思いを繰り返し語ったという。

森山裕総務会長は29日に首相と首相官邸で昼食をともにし、「自公連立維持」を優先するよう主張する。菅義偉前首相も30日午前、衆院議員会館を訪ねてきた首相に「連立を組んでいる以上、公明党に合わせるしかない」と進言したという。

党執行部の考えが二分される中、岸田首相は30日夕、国会対策の責任者の茂木氏ではなく、森山氏や渡海紀三朗政調会長の意向を取り入れ、公明党への譲歩を選択した。麻生氏はこれを聞き、首相に電話し、「現場の実務者は公明党と合意しているんですよ。それを上から変えるのはおかしい」と抗議したが、首相は「法案を通さないと党が終わる」と切り返した、と読売新聞に報じられている。

麻生氏は「党内は皆、怒っている。一番まともだと思っていた岸田が一番エキセントリックだった」と周辺に不快感を露わにした。

国会議事堂周辺の空撮
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■次期衆院選後の自公維連立への思惑か

岸田首相は、公明党との折衝と並行し、維新の会にも側近の木原誠二幹事長代理を通じて接触を図った。木原氏は29日夜、維新の遠藤敬国会対策委員長に電話で政策活動費の改革に関する再協議を申し入れ、翌30日には維新の要求をほぼ受け入れると伝えている。

首相としては、維新を取り込むことで、7月の東京都知事選への対応、国会終盤での憲法改正論議進展に向けての共闘を見据えるほか、次期衆院選で大幅に議席を減らした場合に連立協議に誘導する思惑があるのではないか、と取りざたされている。

維新には不満も残る。企業・団体献金の禁止が法案に盛り込まれなかったからだ。

自民党は5月31日の衆院政治改革特別委員会の理事懇談会で、新たな修正案を提示する。大野敬太郎与党筆頭理事は、自民党執行部の指示で10万円超と主張してきたこととの整合性を記者団に問われ、困惑気味に「総理の決断だ」と答えるしかなかった。

修正案はその後、維新との詰めが甘く、採決の延期を余儀なくされる。立憲民主党の安住淳国会対策委員長から「自民党は民主党政権をぼろくそに言うが、ここまでやったことはない。ひどい迷走だ」と揶揄する場面もあったが、6月7日に自公維の枠組みで衆院を通過し、今国会で成立する見通しだ。

■「将来に禍根を残す改革は避けるべきだ」

派閥の解散、政治倫理審査会出席に続く岸田首相の「独断専行」だが、今回はとりわけ麻生氏に不満が残った。これが首相の総裁再選・衆院解散戦略にも影を落としている。

麻生氏は、1月に岸田派を解散した際、首相に怒りをぶつけたが、3日後に会食に応じて矛を収め、首相のその後の仕事ぶりを見て総裁再選支持に回帰していた。今回は10年、20年先の自民党の将来がかかる事案にもかかわらず、世論に迎合し、自分の政権維持しか考えていない岸田首相に不信感すら覚えているのが実情だ。

麻生氏は6月8日、福岡市内で開かれた自民党福岡県連大会で講演し、政治資金規正法改正案に関連し、「政治活動の基盤を維持するために一定の政治資金が必要なのは言うまでもない」との立場から、「国会議員を目指す多くの若者が政治資金を確保できずに断念することは甚だ残念で、支援の道を閉ざすのはいかがなものか。政治資金の透明性の向上を図るのは当然だが、同時に将来に禍根を残すような改革は断固避けなければならない」と強調し、首相を公然と批判したのである。

森山氏が同じ8日、自民党鹿児島県連大会であいさつし、公明党の要求を受け入れたことについて、政治資金規正法違反事件に絡めて、「迷惑をかけたところが、迷惑を被ったところの言うことに謙虚に耳を傾けることは当然ではないか」と述べ、首相に理解を示したのとは、対照的だった。

■「派閥解消や党内処分で自ら墓穴」

首相を取り巻く環境も変化している。岸田派内からも、首相のこれまでの対応を疑問視する声が上がる。平井卓也広報本部長(元デジタル相)は5月15日、自民党東京都連との政治刷新車座対話の後、岸田首相の責任について「組織というのは上が責任を取るべきだ、と皆さんおっしゃっていた。9月の総裁選で考慮されるべきことだ」と指摘し、「収支報告書の不記載の問題を派閥解消や党内処分でどんどん分かりづらくし、党が自ら墓穴を掘った」と記者団に語ったのだ。

平井氏に同調する声は党内に少なくない。政治資金収支報告書への「不記載」という形式犯に過ぎなかったのに、朝日新聞などが「裏金」と報道したのに煽られ、岸田首相が自ら派閥を解散し、安倍派などへの厳しい処分に踏み込んだことへの疑問があるからだ。

自民党として、まず政治にカネがかかること、政策活動費や文書交通費を受け取っても足りず、パーティー収入が必要なこと、違法な使い方をしていないことを個々の議員に説明させる。東京地検の捜査結果を受け、政治資金報告書の修正を経て、岸田首相がスピーディーに不記載の責任(処分)を負ったうえで、政治資金の透明化という再発防止策の検討に移行していれば、こんな大きな問題にならなかったのではないか、との思いが党内にくすぶっているのである。

■「首相になってやりたい仕事はある」

党内には「ポスト岸田」への意欲を示す向きがぽつぽつと現れてきた。

まずは4月の補選の最中に幹事長辞任―総裁選出馬をにおわせ、その後、「辞めるなら、もっと別のタイミングで辞める」と嘯く茂木氏だ。5月19日のインターネット番組・ReHacQで「首相になってやりたい仕事はある。経済で言うと、生産性を上げて一人ひとりの所得を増やす。社会保障で言えば、人生100年時代に対応した制度に作り替える」などと抱負を語った。

石破茂元幹事長も準備を急ぐ。今年2月に政策勉強会を8カ月ぶりに再開したが、5月16日には自身の人となりを題材に勉強会(17人出席)を国会内で開いた。翌17日には都内で講演し、総裁選を念頭に「当選期数が長く、いろんな仕事を歴任してきた者は、皆考えねばならないのではないか。一切考えないことは自己否定になる」と述べ、5度目の出馬に意欲を示している。

3人目は、加藤勝信元官房長官(茂木派)だ。5月16日のインターネット番組・ニコニコ生放送で、「求められるものがあれば、しっかり応じていくのは基本だ」とし、総裁選出馬に含みを持たせた。同時に「常に何をするにしても、首相だったらどう考えるかという思いを持ちながら、これまで取り組んできた自負がある」と述べている。

■「岸田首相にはお辞めいただきたい」

前回21年の総裁選に出馬し、昨年10月に次も「戦わせていただく」と広言した高市早苗経済安全保障相も動く。5月21日に配信されたラジオNIKKEIの番組に出演し、岸田内閣の不人気ぶりについて「国民が望んでいることに、きちんと取り組めていないのではないかという危機感を持っている」とコメントした。自身が顧問を務める「保守団結の会」が15日に総裁選を念頭に提言をまとめる方針を確認した、と産経新聞に報じられている。

自民党の地方議員から岸田首相に退陣を突き付ける向きも出てきた。自民党は5月17日、宮城県連を対象に政治刷新車座対話を開いたが、宮城県議から「岸田首相にはお辞めいただきたい」「トップを含めて人心一新を図るべきだ」などと次々に本音が飛び出した。その後も長野県連や横浜市連などでの車座対話で、岸田退陣論が続出している。

その意味で、「岸田降ろし」は本格化していないまでも、その芽は出てきている。

自由民主党本部
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

■首相と麻生氏に「手打ち」はあるか

岸田首相は、どう態勢を立て直すのか。衆院解散カードを封じられた以上、人事カードを切るしかないとされるが、簡単ではない。首相周辺には、総裁選に臨むうえで、何かと足を引っ張る茂木幹事長を更迭し、森山氏に交代させるべきだとの考えがあるが、権力構造の変化を嫌う麻生氏が受け入れるはずもない。森山氏は、首相の信頼を得ながら、菅前首相や二階俊博元幹事長にも近く、公明党とのパイプも太い。幹事長に就けば、政治路線が変わる可能性もあるからだ。

菅氏は6日夜、東京・麻布十番の日本料理店で、HKTと呼ばれる萩生田光一前政調会長、加藤氏、武田良太元総務相の3氏に小泉進次郎元環境相を交えて会食したが、総裁選に向けて存在感を示すことに主眼があるのだろう。

こうした局面では、岸田首相にとって、溝ができている麻生氏との関係を修復することが先決だ。麻生氏周辺は「明らかに首相と距離を置いた。最終的には総裁再選支持に戻ると思うが、今は揺れている」と打ち明ける。麻生氏は今のところ、岸田首相から会食を呼びかけられても応じていない。近いうちに両氏の「手打ち」の場面は訪れるのだろうか。

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小田 尚(おだ・たかし)
政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て現職。2018~2023年国家公安委員会委員。

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(政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員 小田 尚)

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