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ドタキャン連発で店が潰れる…飲食店主が「来店しない予約客」に科した"キャンセル料金"の是非

プレジデントオンライン / 2024年7月14日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

■日本での損害額は年間2000億円

飲食店などを予約したまま無断キャンセルする「ノーショー」(No Show)が問題になっている。経産省のレポートによると、損害額は年間2000億円。1日前、2日前までのキャンセルを含めると1兆6000億円に及ぶ。

この問題に対し、海外では後払いの慣行を見直したり、キャンセル料金を請求したりする動きが広まりつつある。なかには1人あたり100米ドル(6月11日のレートで約1万5700円)を請求するケースが増えているという。

ノーショーによる店側の損害は、めぐりめぐって、わたしたち一般利用者が支払う代金に転嫁されているのが実情だ。キャンセル料金の導入は、一部の人々による身勝手なキャンセルを防止する、有効策となるだろうか。

■ニューヨークでも「キャンセル料」を取る店が増えている

ニューヨーク・タイムズ紙は、キャンセル料金を導入したレストランを紹介している。

米ニューヨーク市ブルックリン地区で営業するアジア系レストラン「チノ・グランデ」は、2022年8月から20ドル(約3100円)キャンセル料金の導入に踏み切った。

総支配人兼共同オーナーのエリカ・ホール氏は、2022年初頭にニューヨーク市でソーシャルディスタンスのルールやワクチン接種義務が緩和されて以来、無断欠席やキャンセルが増加したと語る。キャンセル料の導入は変わりゆく環境に対応するためだった。

効果はてきめんだった。ノーショーは90%減少し、直前キャンセルも以前の3分の2に減少した。

ホール氏は、ニューヨーク・タイムズ紙に対し、「キャンセル料は、予約を現実のものだと認識させてくれる効果があります。(店との)約束であることを忘れないのです」と述べている。

直前でのキャンセルはまだ発生することがあるが、少なくともキャンセル料を避けるため、顧客は連絡を入れてくれるようになった。チノ・グランデでは、ディナー営業が始まる午後6時まで、予約のキャンセルを受け付けているという。

■通常料金の2倍のペナルティを科す店も

こうした動きはレストラン業界以外にも広がる。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、予約をキャンセルした場合の料金は、ホスピタリティ分野ではかつて、診療所やホテルでしか科せられなかった。しかしサロンやパーソナルトレーナーなどにも広がっていると指摘する。

理髪店で散髪をしている男
写真=iStock.com/ArtistGNDphotography
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ArtistGNDphotography

同紙は、「ノーショー料金」を導入したカリフォルニア州ハンティントンビーチにある理髪店「ハーバー・バーバー」を紹介している。

この店は昔ながらの理髪店で、予約は紙と鉛筆で行われていた。しかし、無断キャンセルが利益を圧迫する事態になったため、クルーパ氏はデジタル化に踏み切った。新システムでは、顧客のキャンセル履歴を一括して確認することができ、無断キャンセルの防止手段に幅が生まれた。

クルーパ氏は、無断キャンセルに対して最大100ドル(約1万6000円)の罰金を科すことを決めた。これは通常のカット料金の2倍だ。もっとも、無断キャンセルをした場合でも、初回であればペナルティはない。2回目の無断キャンセルでは、次回来店時にキャンセル料金が加算される。3回目の無断キャンセルともなると、出入り禁止を言い渡すことがある。厳しい措置だが、個人運営の店がいかにキャンセルに悩まされているかを物語る。

■「低評価の口コミ」を気にしている場合ではなくなった

店の評判が悪くなったり、客を失ったりするリスクをどう考えているのだろうか。店主のグレッグ・クルーパ氏は、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙に対し、「我々は大手チェーン店ではないので、企業イメージを気にする必要はないのです」と述べている。

もちろん客の反発がないわけではない。クルーパ氏が遅刻した子供のカットを断ると、200万人のTikTokフォロワーを持つという母親が現れ、否定的なレビューを投稿すると脅してきたこともあった。クルーパ氏は動じない。ブラックリストの機能を新たに管理システムに追加し、まっとうな顧客だけを相手に商売を続ける考えだ。

店がノーショー料金を導入せざるを得ない背景には、無断キャンセルが経営に与える深刻な影響がある。

英決済サービス大手のバークレイズカード・ペイメンツが公表した200人のレストラン経営者を対象にした調査によると、イギリスのレストランでディナー予約がキャンセルされると、店側の損失が客一人あたり平均89ポンド(約1万8000円)に上るという。インフレ、エネルギー価格の高騰、人手不足とあいまって、無断キャンセルが店の経営を圧迫している実態を浮かび上がらせた。

予防措置として、レストラン経営者の34%が予約時に客にクレジットカード情報の入力を求め、ノーショーの場合にキャンセル料金を請求している。これに加え、37%の経営者がキャンセル料の導入を計画中だという。

■「収入減を防ぐための経済的なセーフティネット」

英BBCは、ノーショーによる損失を避けるため、無断キャンセルの経験のある客からの予約を拒否する店の事例を紹介する。

レストランの屋外テーブルにろうそく
写真=iStock.com/Alena Kravchenko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Alena Kravchenko

英ウェールズのモーファ・ネビンにあるパブ兼レストラン「ブリンシナン」の経営者ハイディ・ベイクウェル氏は、昨夏起きた複数回の無断キャンセルにより、合計約2万ポンド(約400万円)の損失を被った。同店ではそれ以降、ブラックリストに載った客の予約を拒否。ベイクウェル氏は依然として課題は残っているが、状況は少しずつ改善されているという。

顧客がキャンセルする理由はさまざまだが、なかには意図的に必要のない予約を入れる、悪質なケースもある。BBCは、複数のレストランを同時に予約し、その日の夜になってから手持ちの店舗の中から食事場所を決める「一括予約」の風潮があると指摘する。コロナ以降に増えており、小規模ビジネスにとって大きな負担となっているという。

苦戦を強いられる店側の自衛措置について、好意的な意見も目立つ。米CBSニュースはボストン大学のアポストロス・アンプンタラス助教授は、キャンセル料が「客から多くの金を巻き上げる」ための施策ではないと指摘する。「収入減を防ぐための経済的なセーフティネット」であるほか、理想的には「ノーショーの数を減らすためのものである」という。

■サービス業界で進む「前払いのチケット」化

ノーショー料金は飲食業界以外ではすでに当たり前となっている。飛行機のチケットやコンサート代金、大型レジャー施設などでは客が前払いでチケットを購入し、自己都合のキャンセルに対して返金は応じないのが一般的だ。

飲食業界もこれに倣い、アメリカの一部レストランでは、予約時に前金を預かる試みが広がっている。

CBSニュースによると、米ニューヨーク市マンハッタンのレストラン「トリッシ」では、予約時に一人当たり50ドル(約7800円)のデポジット(預かり金・保証金)を請求している。客は、予約通りに来店すれば会計金額からデポジット分が引かれる。来店しない場合はデポジットは返金されない。この店では予約を12時間前までにキャンセルしても返金を受けることができるという。他のレストランでも25ドル(約3900円)ほどのデポジットを請求する店舗が出てきている。

コロンビアビジネススクールのスティーブン・ザゴー教授は、CBSニュースに対し、こうしたレストランの予約料金が「前払いのチケット」に似ていると指摘する。来店を動機づけ、責任を持って予約した店に足を運ぶよう促す枠組みだ。

■デジタル化の恩恵

決済手段のデジタル化によって理・美容業界でもノーショー料金の導入が進んでいる。

コーヒーショップでの非接触決済
写真=iStock.com/martin-dm
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/martin-dm

ウォール・ストリート・ジャーナル紙が米決済プラットフォーム「スクエア」のデータを報じたところによると、キャンセル料を請求する割合は、2021年の5%から2023年には16%にまで増加している。まだ少数派であるが、2年間で3倍以上に伸びている点は注目に値する。

スクエアがキャンセル料のシステムを導入したことで、事前にカード情報を収集する理髪店の割合は43%増加した。同社は、キャンセル料を科した店舗では、キャンセル数が平均45%減少し、とくに無断キャンセルは82%減少したとしている。

医療機関もノーショー料金の導入を進めている。カーネギーメロン大学のジョージ・ローウェンスタイン教授は、CNBCに対し、「予約を無断でキャンセルする患者は、他の患者が利用できる予約枠を占有しているのです」と指摘し、キャンセル料の導入が医療機関の効率を向上させる手段になると好意的な評価だ。

■子供の病気でもキャンセル料を請求された

前払い化・ノーショー料金の導入が広がる中、一部の客は新しいコンセプトに抵抗を示している。やむを得ない事情で来店できなくなった際など、高額なキャンセル料を科されることへの不満がある。

ニューヨーク・タイムズ紙は、ニューヨークに住む男性の声を紹介している。妻の誕生日を祝うために予約したミシュラン星付きレストランを、息子の急病によりキャンセルせざるを得なかった。だが、24時間前までのキャンセル期限をわずか30分過ぎていたことで、200ドル(約3万1000円)がカードに請求された。アザラ氏は同紙に対し、レストランの経済事情には理解を示しつつも、「本当に痛かった」と悔やむ。

サンフランシスコに住む女性は昨年秋、オンライン予約のキャンセルが正常に完了しておらず、キャンセル料50ドル(約7800円)を請求された。交渉の末、店から同額相当のギフトカードを受け取って、後日店に足を運んで使用した。ギフトカードがなければ「二度とあの店に足を運ぶことはなかったでしょう」と彼女は言う。店からすれば、低評価のレビューを付けられるおそれもあり、キャンセル料の導入がノーリスクとは言い切れない。

一方、食材の廃棄は死活問題だ。ホスピタリティ業界の専門家リリー・ジャン氏は、ニューヨーク・タイムズ紙に、「レストランは人々を罰したくないという気持ちを持っています」と述べる。予約キャンセルの問題がビジネスに与える影響がいかに大きいか、消費者に理解してもらうことが重要だと強調する。

■「誠実な客」を守る仕組み

客にとって、ノーショー料金のメリットは見えづらい。導入済みの店舗でも、戸惑いの声があるようだ。一方、直前のキャンセルや無断キャンセルが蔓延する飲食業界などではいま、店舗として何らかの手立てを講じざるを得ないのが実情だ。

より長期的な視点に立てば、予約した店舗に誠実に足を運んでいる客にとって、キャンセル料はより公平なしくみでもある。現状、キャンセルされた食材は店の損金となり、約束通り店に出向いて食事をした客たちが支払うことで、その損金は埋め合わせされている。キャンセルする側が、店に生じた損害の少なくとも一部を負担するしくみは、フェアなしくみだ。

ジョンソン・アンド・ウェールズ大学ホスピタリティ・マネジメント学部のブライアン・ウォーレナー教授(飲食オペレーション・マネジメント)は、CBSに、キャンセル料は「ほとんどのレストランが好まない行為、すなわち料理の値段を調整する(上げる)行為よりも、優れたモデル」であるとの見解を語る。ノーショー料金だけで損害を補塡(ほてん)することはできないが、無責任なキャンセルに対する抑止力になるとウォーレナー氏は論じる。

祝賀会 乾杯 屋外ダイニング
写真=iStock.com/Edwin Tan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Edwin Tan

日本でも大人数の予約キャンセルがしばしば問題になっている。廃棄される食材が惜しまれるのはもちろんのこと、私たちが支払っている料理代金やサービス代金の一部にその補塡分が含まれていると考えると、何とも言えない気持ちになる。身勝手な問題行動を抑制するため、キャンセル料金の導入はひとつの有効な手段と言えそうだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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