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なぜ「1株1ドル」が1200倍に大化けしたのか…「ガラケーからスマホ」をはるかに上回る"AIバブル"の凄まじさ

プレジデントオンライン / 2024年6月17日 9時15分

エヌビディアのフアンCEO=2024年6月2日、台北 - 写真=ロイター/共同通信

■時価総額でアップルを上回り世界2位に

6月5日、米エヌビディアの株価は1224ドル40セントで取引を終了した。同社の時価総額は3兆118億ドル(1ドル=155円で約467兆円)となり、アップルの3兆34億ドルを上回りマイクロソフトに次ぐ世界第2位になった。20年前の株価は1ドル前後だったことを考えると、直近の株価は1200倍超に高騰している。

株価の推移を見る限り、世界経済の牽引役がスマホからAIへシフトしていることがわかる。AIは多くのデータを解析することで、一定の原因と結果を推論する。その推論によって、将来起きることや人々の望むものをある程度の精度で予測することが可能になる。それは、社会や経済の変化をより精緻に解析するに大きな福音となる。その意味では、AIの機能は革命的な進化といえる。

そのAIには、演算処理能力の高い先進の半導体が必要だ。その半導体を供給するのがエヌビディアだ。同社は、高速演算を支える“画像処理半導体(GPU)”市場で独走状態にある。さらに同社はGPUなどの開発を強化し、より汎用型の人工的な知能、それを社会に実装するロボットなどにつなげようとしている。

■“スマホ誕生”以上のインパクトが訪れる

今後、高い成長機会を求め、多くの企業がAI分野に参入するだろう。それに伴い競争は激化する。エヌビディアのAIチップを上回る半導体の開発を目指し、米AMDやインテル、スタートアップ企業もチップ開発を強化している。電力需要の増加で小型モジュール炉(SMR)や、夢の発電技術と呼ばれる“核融合発電”の開発競争も激化し始めた。

スマホはSNSなどの新しいビジネスを生み出し、リーマンショック後の世界経済の成長を支えた。AIのインパクトはそれを上回るだろう。インフレ懸念、地政学リスクなど世界経済の不安定性が高まる中、競争に優位に対応しAI関連分野の産業を振興できるか、主要国経済の成長にかなりの影響があることは間違いない。

■経済成長の牽引役はスマホからAIへ

6月5日の米国株式市場終了時点で、時価総額トップはマイクロソフトだった。同社はサム・アルトマン氏率いるオープンAIと関係を強化しAI分野の需要を取り込んでいる。2位はGPUなどの開発で業績が急拡大したエヌビディア、第3位はアップルだった。

エヌビディアのアップル超えは、AIがスマホに代わり世界経済を牽引し始めたことを明示している。2008年9月15日にリーマンショックが起きると、世界経済の成長率は急低下した。そのころアップルはiPhoneを投入し、アプリストアの運営も強化した。

アップルは、新しい産業を創出し経済の下支え役を果たした。米メタや中国バイトダンス傘下のティックトックなど、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)はその一つだ。世界的に“ギグワーカー”という新しい生き方も定着した。ところが、2017年頃からスマホ需要は飽和状態に近づいた。

■データセンター向けGPUで98%のシェアを確保したか

現在、高い成長の期待はスマホからAI分野へ急激にシフトしている。AIには、いまだ無限ともいえる伸びしろがある。現在進行形でAI分野は拡大中だ。AIで自動車の自動運転技術開発は勢いづいた。効率的な発送電、新薬開発、港湾などのオペレーション、生産プロセスなどのシミュレーションにもAIの需要は急増している。

マイクロソフト創業者であり、世界のIT革命に重要な役割を果たしたビル・ゲイツ氏は、「AIは私たちが生きている間に目にすることになる、最も大きな変革だ」と評している。AIチップ(AIの学習強化や駆動に必要な半導体)の需要が増加している。

AIに対する需要拡大を支える、中心的存在がエヌビディアだ。2023年、データセンター向けのGPU市場で、エヌビディアは世界の98%のシェアを確保したとの推計もある。2024年、25年も同社の先端AIチップ供給は、需要に追いつかない状況のようだ。

当面、高い成長が続くとの期待から、同社の時価総額はアップルを上回った。エヌビディアのシェアを奪うため、半導体分野での設計開発、製造技術をめぐる競争も激化し始めた。

■人間と同じように動くソフトウェアが生まれる

AIの登場は、世界の産業界の新陳代謝を促進している。今後の競争激化に対応するため、エヌビディアはGPUやAIトレーニングをサポートするソフトウェア(CUDA)の強化を急いでいる。また、同社は生成AIの先を見据えたプロジェクトにも着手した。より汎用性が高く、人間と同じように動くソフトウェアや装置の開発を目指している。

米国の有力IT先端企業は、特定の機能をもつソフトウェアを開発し成長した。表計算、文書作成、さらにはネット通販のアルゴリズムなどだ。ユーザーはスマホ上でアプリを操作し、資料作成や商品購入などを行う。

ただ今のところ、スマホに話しかけ、すべての必要性が瞬時に達成できるには至っていない。エヌビディアは、個人のアシスタントとして働き、必要な情報、知識、データを提供するAIを目指している。わたしたちはAIの提供内容を使い、報告書の作成や自己研鑽を効果的に実行できるようになる。

チャットボット
写真=iStock.com/hirun
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hirun

■感情を理解し、法令と常識に従った言動も必要

エヌビディアはその手段として、“ヒューマノイドロボット(人間のようなロボット)”向けのチップとソフトウェア開発も強化している。大規模言語モデル(LLM)と呼ばれるオープンAIなどのモデルを超越し、わたしたちのように自律的に思考し、行動する機械(ロボット)の創造を目指している。

ヒューマノイドロボットに搭載されるAIは、わたしたちの脳と同じような働きを発揮することになるとみられる。そこで求められる機能は、ユーザーが必要とする情報(検索の結果やソフトウェアの作成コードなど)の提供にとどまらない。

適正にエネルギーの効率性を高めながら、ロボットの動作を制御することも必要だ。喜怒哀楽などユーザーの感情を理解し、意思疎通することも求められる。法令を遵守し常識と良識に従った言動も必要だ。

汎用型AI、さらに高性能な人工知能の創造で、日常生活でそうした新しい装置が活動する可能性は高まる。エヌビディアは多くの消費者がイメージしていない社会を思い描き、チップやソフトウェアの開発体制を強化している。

■半導体分野でTSMCのシェアが変化する可能性も

エヌビディアやGAFAMなどのIT先端企業は、高性能なGPUの開発、調達体制を強化し、AIの性能向上をより重視するだろう。それに伴い、AI分野の成長機会は加速度的に増加するだろう。

一つの例はデータセンターだ。AIの学習強化にデータセンターは欠かせない。データセンターの増加で、経済、安全保障、日常生活や教育などの分野でAI利用は勢いづくだろう。AI需要増加で、半導体分野の変革を激化するはずだ。

半導体分野の専門家によると、エヌビディアのGPUは演算スピードが速いが、大量の電力を消費する課題がある。カナダの新興企業である“テンストレント”は、演算装置とHBM(広帯域幅メモリー、データ転送速度が速い記憶装置)の配置を工夫し、より高性能なAIチップの供給を目指すという。

テンストレントは、わが国のラピダスと協業しチップレット方式(複数の汎用型半導体を組み合わせ、特定の機能を発揮する製造方式)でのAIチップ生産と低価格化も目指す。AIチップ分野での開発競争の激化で、エヌビディアの優位性に変化が出ることもあるかもしれない。半導体製造分野でTSMCのシェアが変化する可能性もある。

■次世代のエネルギーは“地上の太陽”?

発電技術の重要性も高まっている。米国ではAI需要の増加で、発電関連株が上昇した。原子力発電所などを運営するヴィストラエナジーは、データセンターの電力需要増加で業績期待が高まり株価は上昇した。

次世代発電技術への期待も高まっている。マイクロソフトは“核融合発電”の新興企業、ヘリオン・エナジーと購入契約を締結した。核融合発電は、原子核同士を融合させ膨大なエネルギーが生じる反応を利用する。太陽が核融合で熱を発生していることから“地上の太陽”と呼ぶこともある。新技術の開発で既存の大企業の優位性が揺らぐこともあるだろう。

AI分野の成長加速で、既存分野の産業構造が変わったり、業界再編が加速したりする可能性は高まる。当面、世界経済全体で物価は高止まりし、金利上昇はかなり不安定に推移しそうだ。AI関連分野の成長機会を手に入れるため、先端分野の設備投資や研究開発体制を強化するか否か、企業の長期存続、主要国経済成長にかなりの重要な影響があるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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