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「人から嫌なことを言われると数年単位で引きずる」無職53歳長男が老親の資産8000万円と家を総取りのワケ

プレジデントオンライン / 2024年6月15日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robin Beckham

70代後半の両親の悩みの種は、誰ともコミュニケーションが取れずに孤独な人生を送っている53歳長男だ。20代で少しアルバイトをした以外は働けず、40代以降は家の外へ出るのも難しい。幸い両親には豊富な資産と十分な年金と駅近の持ち家がある。FPの畠中雅子さんが将来の家計シミュレーションをした席で、親の蓄えと気持ちを知ったことで長男は前向きに生きられるように。「僕のためにたくさん貯蓄をしてくれていて、本当にありがとう」と突然発言し、両親は涙を流したのだが――。

■誰ともコミュニケーションが取れずに孤独な人生の50歳長男

東海地方に住む川崎たかしさん(仮名・53歳)は、子どもの頃から人とコミュニケーションをとるのが苦手だった。人との会話のタイミングがうまくつかめず、相手が引いてしまっても自分の話を一方的にしてしまう特性を持っている。中学生までは、休み時間をひとりで過ごす機会が多かったとしても、何とか学校に通うことはできた。

だが、高校生になると、友人たちに自分の悪口を言われているのではないかという妄想にとりつかれるようになり、1年生のGW明けから不登校気味になった。

結果的に、高校1年生の夏休み明けに高校を中退。その1年後、通信制高校に転学し、5年かかって、高校を卒業した。通信制の高校を卒業するのもやっとだったために、大学への進学はあきらめた。

20代の頃は、アルバイトを何回か経験したが、覚えが悪いことを指摘されるばかり。長いところでも2カ月、短いところだと、1週間くらいでクビになったり、自分で辞めたりしてきた。30代を迎える頃からは、人と話すのがコワくなり、外出もできる限り避けてきた。外出できるのは、深夜のコンビニだけ。それ以外の時間は、自宅にこもって、パソコンに向かう日々を過ごした。

さらに40代に入ると、深夜のコンビニにも行けなくなり、自宅からも出られなくなった。30代から40代にかけては、たかしさんにとって暗黒時代だったそうで、何度か自殺未遂を起こしている。自殺未遂の経緯などについては、どうしてもたずねることができなかった。

自殺未遂をしたこともあり、母親はたかしさんに対して腫れ物を触るように接してきた。たかしさんの希望は、できる限り叶えてきたそうだ。

いっぽう、父親から直接文句は言われないものの「働けないだけではなく、家からも出られない息子を不甲斐なく思っているのではないか」と感じてしまうため、父親とはできる限り会話を避けて暮らしてきたそうだ。

■両親の年金は十分あり、貯蓄も約8000万円あるが、自由には使えない

川崎家のライフプランの相談は、もともとたかしさん本人が望んだもの。たかしさんに促されて、母親から筆者あてに申し込みの電話がきた。そして面談の数日前に、たかしさんから今までの経緯や現在の心境をつづったメールが届いた。

そのメールには、長いあいだ父親の機嫌に怯えて暮らしており、父親と暮らしている現状がとてもつらいこと。生活保護を受けて、ひとり暮らしをしたいが、可能かどうかを面談日でいいので教えてほしいこと。人から嫌なことを言われると、数年単位で引きずってしまうので、できるだけ厳しいアドバイスはしないでほしいということなどが、メールの文面にびっしりと綴られていた。

寝室の闇の中で携帯を使用する人
写真=iStock.com/Ake Ngiamsanguan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ake Ngiamsanguan

そんな川崎家との面談当日。数日前までは、ご両親だけが私の事務所にお越しになり、たかしさんはオンラインの形で面談に参加することになっていた。新しい場所に行くと、緊張して話ができなくなる可能性があるとのことで、面談とオンラインを組み合わせたご相談になる予定だった。

だが、面談の前日。たかしさんから、「自分も面談の場所に行こうと思う」と言い出されたという。実際、父親、母親、そしてたかしさんの3人との面談相談が実現した。

面談の際、最初は、今までの生活状況などについて説明をしてもらい、その次に、川崎家の資産状況を確認した。

【川崎家の家族構成】
父親(79歳)
母親(77歳)
長女(56歳) 結婚して海外在住、帰国予定なし
長男(53歳) 当事者

【資産状況】
父親の貯蓄 3400万円 年金24万円
母親の貯蓄 4500万円 年金16万円
長男の貯蓄 800万円(親からの贈与) 国民年金保険料は20歳から親が支払い中

川崎家の資産状況としては、父親の貯蓄が3400万円くらい。年金額は企業年金も含め、手取りで24万円ほど。退職時に貯蓄は5000万円を超えていたが、年金では足りない生活費の負担や特別支出の負担で、3000万円台まで減ってきたそうだ。

■「生活保護を受けながら、アパートで独り暮らしはできませんか?」

川崎家は父親の年金で生活費をまかない、母親の年金には手を付けずに暮らしてきたという。母親は親族の会社でずっと働いてきたので、手取りで16万円くらいの年金をもらっている。母親も退職金をもらっており、父親のお金で生活していたため、母親の貯蓄は退職時よりも増えて、4500万円ほどになっているとのこと。

父親もたかしさんも、母親の貯蓄額については、私のところに相談に来るまで、まったく知らなかったらしい。面談時に母親の貯蓄額をはじめて知った2人は、非常に驚いていた。その様子を見て、「本当に、今まで知らなかったんだな」という事実が伝わってくるくらいの驚き方だった。

たかしさんは面談前、「グループホームなら、費用負担が少ない状態で住めるのではないか」と考えていたそうだ。たしかに、障害年金を受給していたり、障害者手帳を取得していたりする場合などは、グループホームに少ない負担で住めるケースもある。

面談の際、グループホームでの暮らしをすることの是非について問われたが、人の気配に弱いたかしさんにとって、人間関係が密なグループホームで暮らすのは難しいだろうとアドバイスをした。たかしさんにとっては緊張する存在であっても、息子に気を遣ってくれる父親との暮らしを継続したほうが、たかしさんの心は穏やかでいられると考えられたからだ。

そのことをたかしさんに伝えると、次にたかしさんは、「生活保護を受けながら、アパートで独り暮らしをすることはできませんか?」と聞いてきた。

この問いに対して筆者はこう回答した。

「ご両親だけでなく、たかしさん自身も貯蓄をお持ちですから、生活保護を受けるのは無理ですね。全財産が10万円を切れば、申請はできるかもしれませんが、今の資産状況ですと、そのような未来がくることもないと思います」

続けて、次のように提案をした。

「現在の資産状況では、生活保護を利用して別居することを考えても意味がありません。ご両親の貯蓄額を考えますと、働かないままでもたかしさんの暮らしは成り立ちそうですので、このまま親子3人で、穏やかに暮らすことを考えてはいかがでしょうか。親御さんからの仕送りを受ければ、家を出ることも不可能ではありませんが、狭いアパートの1室で暮らすよりも、今の住まいにいたほうが、生活音に悩まされる機会は少ないはずです」

電子レンジで飲み物を温めるシーン
写真=iStock.com/uncle_daeng
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/uncle_daeng

■姉は相続放棄をするというが、念のために遺言書の作成を

ところで、たかしさんには海外に住む姉がいる。相続の際は、姉にも同等の権利があるが、そのことについて尋ねると、父親が答えてくれた。

「情けない話ですが、この子の姉とは絶縁状態と言いますか、もう何年も連絡すら取っていません。以前、相続などについて話し合った際、相続は放棄する代わりに、弟の面倒は一切みないとはっきり言われました。もう日本に帰ってくるつもりもないようですし、姉に何かを期待するのは諦めています」

姉が相続を放棄するのであれば、遺された財産はすべてたかしさんが相続することになる。ただし、実際に相続が発生した際、法定相続分がほしいと主張される可能性はゼロとはいえない。そこで、財産のすべてをたかしさんに相続させる旨の遺言書を作成することを勧めた。遺言書があったとしても、子ども(この場合は姉)には「遺留分(本来の相続分の半分など)」をもらう権利があるが、それでも本来の相続分よりは少ない金額を渡せば済む。

両親とも、たかしさんに財産のすべてを譲る旨の遺言書を作成することになった。遺留分の請求については不透明な部分が残ったとしても、親亡き後のたかしさんの生活は、親が遺してくれるお金でまかなっていける目途が立った。

次は、親亡き後のたかしさんの生活について確認してみた。

国民年金の保険料は、たかしさんが20歳の時から、ずっと親が支払ってきている。親が亡くなった場合、それ以降は保険料の免除申請するとしても、65歳からは老齢基礎年金も受給できる。外出をほとんどしないたかしさんは、自分のために使うお金は月に数千円程度なので、親亡き後の生活費は住宅費を除けば10万円を下回ることが予想される。年金がもらえるまでは貯蓄の取り崩しが多くなりそうだが、年金がもらえるようになった後は、貯蓄を取り崩すペースは鈍くなるはずだ。

年金手帳とミニチュア
写真=iStock.com/minokuniya
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/minokuniya

問題は、築年数が40年を超えている自宅のこと。両親としては、修繕をしながら今の家に住み続けていくつもりだというが、たかしさんが人生の最期まで住み続けていくのは難しそうである。幸い、川崎家の自宅は、駅から徒歩数分という好立地にあるため、父親か母親が亡くなった時点で「古家あり」の形で売却し、売却で得た資金でマンションに住み替えるプランを提案した。

住み替えの話を聞いたたかしさんは、最初は抵抗感を示していた。これに対して筆者はこんな見通しを伝えた。

「もともと生活保護を受けて、アパートでひとり暮らしをするプランを考えていましたよね。アパートでのひとり暮らしに比べれば、今の家を売ったお金で住み替えができて、持ち家の安心感を継続できます。将来、ひとりになったとき、賃貸住宅では老朽化による住み替えに遭遇するかもしれませんので、たかしさんには最期まで住み続けられる家の確保が重要だと思います」

納得してくれたたかしさんは、面談前は「父親と離れて暮らしたい」と言っていたが、面談が進むにつれ、変化が現れてきた。以前は父親が自分のことを疎ましく思っていると感じていたわけだが、面談を通して父親が自分をかなり気にかけてくれていることを実感したそうだ。その結果、父親と別居のプランを検討する必要はないと感じたらしい。

そして、相談が終わりかけたとき、たかしさんは次のような言葉を発した。

■「僕のために2人とも貯蓄をしてくれていて、本当にありがとう」

「おとうさん、おかあさん、今までいろいろと迷惑をかけてきたのに、僕のために2人ともたくさん貯蓄をしてくれていて、本当にありがとう」

その言葉を聞いた父親も母親も驚き、相談の場で嬉しい涙を流す結果となった。もちろん、聞いていた私も本当に驚いた。面談前に受け取ったメールには、「自分は生きていても仕方がない。周りに迷惑をかけるだけだから、死んだほうがいいのではないか」というような言葉もつづられていたが、面談が進むにつれ、たかしさんからネガティブな言葉が消え、最後は親に感謝の言葉まで伝えられるようになっていったからだ。

第三者から見れば、働けない息子を抱える一家である実態は変わっていないだろう。だが、親子の心情は面談を通して間違いなく変化した。人とコミュニケーションを取ることの難しさに悩み苦しみ、自分が存在すること自体に罪悪感を抱いていたたかしさんにとって、「今のまま、生きていてもいいんだ」ということ、そして「働けない自分の生活について、親はきちんと考えてくれていたんだ」という事実を理解できたことは、大きな変化につながったようである。

面談が終わった日の夜、たかしさんからメールが届いた。

「今日は長時間、話を聞いてくださってありがとうございました。今は頭の中がいっぱいになっているので、うまく説明ができないのですが、父親が自分の将来について真剣に考えてくれていたことがわかって、今まで父親を避けるように暮らしてきたことを申し訳なく感じました。これからは両親に感謝しながら、できるだけ心配をかけずにすむように、もう少し会話を増やそうと考えています。親子で話し合う機会を増やし、自分がすべきことがわからなくなったり、新たな課題が出てきたりしたら、また親子で相談に行ってもいいですか」

最初に届いたメールの文面とは、まったく異なる前向きな内容だった。

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畠中 雅子(はたなか・まさこ)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」「高齢期のお金を考える会」主宰。『お金のプロに相談してみた! 息子、娘が中高年ひきこもりでもどうにかなるってほんとうですか? 親亡き後、子どもが「孤独」と「貧困」にならない生活設計』など著書、監修書は70冊を超える。

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(ファイナンシャルプランナー 畠中 雅子)

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