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プライベートで仕事を引きずる人の特徴とは…境界コントロールできる人が人生満足度や仕事のやる気が高い訳

プレジデントオンライン / 2024年6月28日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

■自分の裁量で公私を切り分けられているか

皆さんは仕事と私生活の切り分けができていますか。家でも仕事のことでイライラして家族に迷惑をかけていませんか。本当は有給休暇を取りたいのに職場で言い出せず、モヤモヤがたまっていませんか?

仕事と私生活の線引きを自分で管理することを「境界マネジメント」(Boundary Management)と言います。欧米では2000年頃から関連する研究が行われてきましたが日本ではほとんど知られておらず、初めて聞く人が多いと思います。

共働き世帯の増加や性別役割分担意識の希薄化が見られる中、仕事と私生活を両立させたり切り分けたいというニーズは確実に高まっています。働き方改革や男性の家事・育児参画、女性管理職の増加など社会的な機運や制度の後押しはあるものの「職場に浸透し、活用できているか」というと十分とは言えません。

特にコロナ以降、リモートで働く人が増えました。通勤時間が節約でき柔軟な働き方ができるようになったなどプラスがある一方で、働く場が自宅であるため切り替えが難しく、容量以上の仕事を抱え込んだり残業が増えてしまうなど苦労している人も増えているようです。

パーソル総合研究所では23年9〜10月、全国の正社員(20〜50代の男女)1021人を対象に「仕事と私生活の境界マネジメントに関する定量調査」を実施しました。

その結果、境界マネジメントができているか否かが、ビジネスパーソンの人生満足度や就業意欲などに大きく影響していることが明らかになりました。本項ではこの調査結果をもとに、ビジネスパーソンが人生をより充実させる仕事との関わり方や私生活との両立について、考えてみたいと思います。

■95%の人が「仕事と私生活は切り分けたい」と思っている

前提として、誰もが「仕事と私生活を切り分けなければならない」わけではありません。あえて公私を分けず「どこに居ても仕事のことを考えていたい。それが自分の人生の幸せなのだ」という人も、5%程度ですがいることがわかっています。そういう人は、無理に切り分けをする必要はないと思います。

一方95%の人は「仕事と私生活は切り分けたい」と思っているのです。問題は、その人たちが「自分は境界マネジメントができている」と思っているのかどうかです。

事前の聞き取りから境界マネジメントの方策として6要素を抽出しました。そのうえで、仕事と私生活の切り分けができている状態を「境界コントロール実感」で定義し、自分がどの程度の境界コントロール実感を得られているかを聞きました。

この問いにより、境界コントロールの重要性が改めて確認できました。境界コントロール実感が高いほど、継続就業意向や自発的貢献意欲、人生満足度が高まり、バーンアウト傾向が低減していることが明らかになったからです。

また、時間が十分にあれば切り分けがしやすく人生満足度を高められるのかと思いきや、時間不足感があっても境界コントロール実感さえ高ければ、時間不足感が低い人より高い人生満足度が得られることもわかりました。つまり、大切なのは「自分の裁量で私生活との両立ができている」という手応えなのです。

■希望を聞いてもらえない「20代男性」と「育児期男性」

まず、境界コントロール実感と人生満足度の関連性を属性別に分析し、どの層に境界コントロールがもっとも有効かを検証します。ここでは多くの人が「仕事と私生活の切り分けが人生への満足にもっともつながるのは、育児期の女性だろう」と思われるのではないでしょうか。

確かに育児期の女性は時間不足感が高く切実な切り分けのニーズを抱えていますが、人生満足度との関連では、実態は少し違っていました。「20代女性」「育児期女性」の境界コントロール実感と人生満足度の関連性はそれほど高くなく、もっとも強い相関が見られたのは「20代男性」「育児期男性」だったのです。「子どもが熱を出したから早退しなければならない」「学校行事に参加するので有休を取りたい」など、仕事と子育ての両立に苦労している女性の声はよく聞きます。社会的にも子育てを社会全体で支援していこうという機運があります。

その一方で、若手として職場でこなさなければならない仕事量の多い20代男性、積極的に子育てに参加したい育児期男性はなかなか希望を聞いてもらえず、境界マネジメントに苦労しているのかもしれません。

■「仕事をしているときが一番幸せ」な上司は要注意

ここでもう一つ、看過できない実態があります。50代男性では境界コントロール実感と人生満足度に、ほとんど関連性が見られなかったのです。つまり、この層にはそもそも境界マネジメントのニーズがなく、コントロールできたところでそれほど喜びを感じないということです。

もちろん、本人が仕事と私生活を切り分ける必要性を感じないのであれば、それ自体は問題ではありません。今の50代の多くは80年代バブル期に社会人になった世代ですから、仕事をしているときにいちばん幸せを感じるのかもしれません。

ですが、上司として職場のマネジメントをする際に自分の価値観をベースとしてしまうと、仕事と私生活を切り分けたい部下の思いを理解できないのではないでしょうか。境界マネジメントは個々が学び実践するセルフマネジメントのスキルとはいえ、上司の理解や職場の支援は不可欠です。

次に、境界コントロール実感がどの層に有効か、人事評価との関連性を見てみましょう。直近に受けた人事評価と境界コントロール実感の高低が、継続就業意向(今の会社で働き続けたいか)/管理職意向(昇進意欲があるか)/バーンアウト傾向(燃え尽き感の有無)とどう関連していくかを分類しました。

その結果、人事評価が平均5以上の社員については境界コントロール実感が高ければ軒並み継続就業意向が高くなることが明らかになりました。また、人事評価8〜10のハイパフォーマー層では境界コントロール実感の高低にかかわらず継続就業意向が高かったものの、境界コントロール実感が高いと管理職意向が高いのに対し、境界コントロール実感が低いとバーンアウト傾向になってしまう結果となっています。

会社としては、能力の高いハイパフォーマー層には転職せずに仕事を継続し、昇進して責任ある役職に就いてもらいたいと考えているはずです。であるならば、質量ともに仕事が過度にならないよう配慮しつつ、本人が働き方の裁量権をより多く持てるようにして、境界コントロール実感を得られるようにしてあげることです。

■境界マネジメントを機能させるための「6つの要素」

では、どうしたら境界マネジメントが機能するのか、境界コントロール実感を高めるには何をすればいいのかを考えていきます。

基本的に境界マネジメントはセルフマネジメントのスキルであり、ビジネスパーソンの一人一人が自分に合ったやり方を見つけ、工夫し、実践していくべきことです。あなたの人生はほかならぬあなた自身のものであり、あなたが理想を設計し、拡張し、責任を持ちます。こうした意識を「ライフ・オーナーシップ」(人生主権)と言います。

具体的な行動は、境界マネジメントの方策として他の人がどんな工夫をしているかを参考にするといいでしょう。筆者は定量分析から6つの要素を抽出しました(行動例は自由回答の内容を6要素に当てはめたもの)。

セルフマネジメントの6要素

【切断】予定していた退勤時間になったらきっぱりと仕事を止める。仕事要因を家に持ち帰らない。仕事の話は極力家族の前でしないなど。

【感情抑制】家では仕事のことを考えない。仕事が終わったら音楽を聴いたりアロマを焚いてリラックスする。散歩で気分転換するなど。

【計画】リモートワークでは終わりを決める。勤務時間外にはプライベートな予定を入れる。朝は早起きして一人の時間をつくるなど。

【縮小】家電を活用して家事や仕事をできるだけ時短にする。子育ては(親や親戚など)頼れる人に頼む。ダラダラとパソコンを開かないなど。

【調整】会社からの連絡は緊急時以外とらない。定時で帰れるよう仕事を調整する。休憩時間や離席中は周囲にそれとわかるように示すなど。

【優先】プロジェクトごとに仕事の優先順位をつける。定時を過ぎたら子どものことを第一にする。子どもの行事のときは必ず休みを取るなど。

これらの方策は「境界マネジメントのためにはこれをすべき」というタスクリストではありません。例えば、ある人にとって家事は縮小の項目でも、別の人にとっては気分転換として機能しているかもしれません。いろいろ試して自分に合ったスタイルを確立していくことが大切です。

■家族優先、途中抜けOK、上司の声掛けの有用性

上司の立場にある人は、部下が少しでも境界コントロール実感を得られるよう協力してあげてください。上司が業務都合ではなく個々の希望に応じて休みを取らせてあげたり、柔軟な働き方を許容していることが、境界マネジメントの実践に特に影響することがわかっています。

例えば、部下から早退や有休取得の申し出があったときに許可するだけでなく「家族優先でいいよ」「途中で抜けてもいいから」と声を掛けてあげるだけでも、当人の境界コントロール実感はぐんと高まります。

1on1での対話を通じて境界コントロール実感を得られているかどうか気にかけ、個々の事情や体調その他の希望に寄り添ったアドバイスができるといいでしょう。

人事管理部門は長時間労働の是正、有休取得の促進、柔軟で多様な働き方の許容(テレワークを理由に低評価しないなど)の制度整備が、社員の境界マネジメントの支援になります。そうした施策は先に述べた通り、社員の離職防止や自発的貢献意欲の向上につながりますし、特にハイパフォーマー層においては管理職意向を高めますので中長期的にも組織の進展につながっていくはずです。

まずは境界マネジメントの重要性や技法を社内で周知し、共有するところから始めてみることをおすすめします。境界マネジメントを実践することで、仕事も私生活も充実させることができます。一歩を踏み出し、より良いワークライフバランスを目指しましょう。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月5日号)の一部を再編集したものです。

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砂川 和泉(すながわ・いずみ)
パーソル総合研究所研究員
市場調査会社で10年以上、調査・分析業務に従事。働き方改革プロジェクトに参画。2018年より現職。女性の就労やキャリアに関する研究を行い、産業カウンセラーおよびキャリアコンサルタントの資格を持つ。

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(パーソル総合研究所研究員 砂川 和泉 構成=渡辺一朗)

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