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子ども2人を育てる出費は「5000万円の住宅購入」と同じ…経営コンサルが考えた「東京で子を持つ」最終手段

プレジデントオンライン / 2024年6月18日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Moarave

東京都の合計特殊出生率が0.99となった。東京で子育てをするハードルは高まるばかりだ。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「『東京において経済的な事情で子どもをあきらめない方法』を相談されたらどう答えるかを考えてみた。6つの戦略が提案できる」という――。

■「子供は贅沢品」に反論できない現状

東京都の合計特殊出生率が0.99と1を割り込みました。このニュースを聞いて思い出した言葉があります。TBSのNEWS DIGの報道に登場した若者が普通に、「子供は“贅沢品”だと思ってます」というコメントをしていたのです(※)

残念なことに、私もこのコメントに共感しました。今年3月には東京23区の新築マンションの平均価格が1億2476万円になりました。普通の生活をしている普通の人に手が届く価格ではありません。インフレの中、実質賃金は下がり続けています。豊かではない世帯にとって東京は住みにくい街です。

そういった経済の実態を知っている立場だからこそ、

「子供は“嗜好品”だと思っています。“贅沢品”だと思ってます。……(中略)……余裕がある人が良い車に乗ったりとか、良い家に住んでいるとか、そういうものの一つに『なっちゃったな』と思います」(※)

そう言われると、まったく反論することはできません。

※TBS NEWS DIG「『子供は“嗜好品”“贅沢品”だと』“異次元”の少子化対策の陰で…結婚・子どもを諦め始めた若者たち【報道特集】」2023年4月1日

ちなみにこれは神奈川県在住の方のコメントですが、この記事ではさらに物価が高い東京23区に舞台を置き換えて、子ども問題を考えてみたいと思います。

■東京23区には16もの「消滅可能性自治体」がある

さて、人口戦略会議によれば人口推計に基づいた消滅可能性自治体が全国に744あるのですが、そのうちの16は東京23区にあります。それは新宿区や渋谷区、豊島区などで、ブラックホール型自治体と呼ばれています。その意味するところは、外部からの人口を吸い込むだけで、その転入スピードが落ちれば人口は消滅の方向に向かうというものです。

仕事はあり、文化も発展していて、楽しい街だけれども、そこに住むコストが高い。今はそれでも人は流入してくるけれども、中では子どもはあまり生まれない。なぜなら贅沢品だから。この状況はもはや絶望の街です。

さて、少子化対策の検討は過去30年続けてきた歴史がある国に任せるとして、戦略コンサルタントの私はこの問題について、視点を逆にして検討してみたいと思います。

仮に誰かの依頼で「それでも東京23区に住みながら、子どもが欲しいのだけど、どうしたらいいか?」と頼まれた場合に、どのような「子ども戦略」を考えることができるでしょうか? 一緒に考えてみましょう。

■「経済的な事情で子どもをあきらめない方法」を考えてみた

この記事に関してはあらかじめ2つのことをお断りしておきたいと思います。ひとつめに本来、家族をどうしていくかを考えることは個人の自由です。個々人の事情も当然あります。子どもが欲しいけれどもどうしてもできないという人も世の中にはたくさんいます。今回考えることはあくまで、「経済的な事情で子どもをあきらめようと考えている人からコンサルの依頼を受けたとして、どうすればあきらめずに済むかを考えた」という戦略の話だとお考えください。

もうひとつ、この問題はそもそも正論では解決できない社会問題になっているということです。子どもを「贅沢品」と表現すること自体、嫌悪感を抱く人も多いでしょう。その戦略を考えるにあたってはいったん、社会的な道徳意識を脇に置いていきたいと思います。なぜなら、そうすることによって反対に根深い社会の問題が浮かび上がると私は考えているからです。

さて、具体的に戦略を考えることにしましょう。私は戦略立案の専門家です。戦略は実務的には「持たざるものの勝ち筋を考える」ケースの方が多いものです。資源が足りないとか立場が弱いという前提で、それでも最大限良い未来を手にするための方策を考えるケースが多いのです。

目標を達成するためのステップ
写真=iStock.com/Shutter2U
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Shutter2U

■都心の若者が子どもをあきらめる「3つの要因」

その視点でいえば、持たざる者が何かを手に入れるためには、何かをあきらめて、あることに集中することが戦略の骨子になります。では東京に住んでいる人が子どもを手に入れるために、何をあきらめて何に集中することになるのでしょうか。

この視点で、都心の若者が子どもをあきらめる3つの要因をもとに戦略を考えてみましょう。その3つとは、

1.保育所など子育て支援の環境が悪い
2.そもそも結婚を選べない
3.すべてのコストが高くお金が足りない

順に考えてみましょう。

【要因1】保育所など子育て支援の環境が悪い

少子化は共働きが当たり前の世の中になって以降、加速しています。仕事があるのに子育てまで手がまわらない。行政はその対策として保育所を拡充し待機児童ゼロを目指しています。

全国的に待機児童ゼロを達成した自治体は増えています。東京23区でも待機児童ゼロの自治体は2021年の12から2023年には21まで増えています。ただ個人にとっては保育所が自宅の近くにあるのかが問題です。

早い段階から待機児童ゼロだったのは千代田区、港区など都心部の富裕層が多い地域である一方で、町田市、国分寺市、調布市、立川市など相対的に賃料が低い都下ではまだ待機児童が解消されていません。

■「引っ越し」と「転職」に備えておく

ここでの戦略の前提は「経済的な事情でいったん子どもをあきらめた人が、それでも子どもが欲しいと考えた場合」ですから、港区に住むというのは解決にはなりません。ただ、何をあきらめて何を重視するかを考えるヒントはここにあります。

戦略としては、

①移住しやすい身軽な生活を選ぶ
②転職もしやすくしておく

というふたつの基本戦略が重要なことがわかります。

プレジデントオンラインでも以前記事になったように、保育所が見つけやすい地域は駅単位で見れば23区内にいくつもあります。現在の住所が保育所を見つけにくい地域にあるのであれば、子どもが生まれて保育所が必要になる際に移住しやすくしておくという戦略が重要なことがわかります。

目指したい未来の夢に対して厳しい条件になるかもしれませんが、子どもを持つために持ち家をあきらめる、手放すという決断は必要かもしれません。

同時に職場も移住のボトルネックになるケースが多いものです。子どもが生まれた後でも、仕事の性格上、子育てができないというケースも起きるかもしれません。

つまり東京で子どもを持つためには、身軽に引っ越しができるようにするとともに、子どもを持つ前に一度か二度、転職も経験しておいて、いつでも仕事を変えられるオプションを手にいれておくのが戦略的な生き方になるのです。

引越し
写真=iStock.com/DMP
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DMP

■「夫婦の子どもの数」はあまり変わっていない

【要因2】そもそも結婚を選べない

ここからはこども家庭庁など行政があまり力になってくれない課題に対する戦略を考えます。

少子化の問題に一段階踏み込むと、実は夫婦の出生率は国民が思っているほどは下がってはいません。夫婦の完結出生子ども数という数字があります。1977年の調査では2.19人だった子どもの数は2010年にはじめて2を割って1.96人となり、2021年の調査では1.90人と過去最低となりました。下がっているのですが、実は過去50年近く、夫婦の子どもの数は平均して2人前後という点では大きく変わってはいません。

ここからわかることは、結婚をしない人が増えていて、その増加が少子化の一番の原因だということです。

それで東京都などは行政として独自のマッチングアプリを開発して少子化に歯止めをかけようとしています。ただ若者の立場では余計なお世話かもしれません。現実にはマッチングアプリはかなり浸透して市民権も得ています。最近では5組に1組がマッチングアプリがきっかけで結婚するぐらい利用も進んでいます。問題は、相手がいても経済的な理由から結婚を選ばないカップルが増えていることです。

■「子どもを優先するために相手を変える」という戦略もある

さて、この記事では少子化対策には踏み込みません。そうではなく「経済的な理由から子どもをあきらめている読者」に対して、戦略を考えるのがテーマです。この前提で結婚できないという問題への解はどこにあるのでしょう?

子どもを得るためには何かをあきらめることが戦略だと申し上げました。社会通念的には不適切だと言われると思いますが、論理的には以下の戦略が考えられます。

③子どもを優先するために相手を変える
④結婚よりも子どもを優先する

順に考えていきましょう。

この戦略の前提では、問題は「あなたは子どもが欲しい。しかし彼氏ないしは彼女は別の考えを持っている」ということだと仮定します。揺れているというケースもあると思いますが、シンプルに議論を進めます。

あなたが子どもが欲しいのであれば、家族計画についてコンセンサスがとれない相手とは長期的には家族になれないかもしれません。時間をかけて説得していくという手もありますが、戦略とは選択です。子どもを得ることを最優先するのであれば相手を選び直す必要があります。

結婚指輪
写真=iStock.com/Rawf8
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawf8

■同棲や事実婚という選択肢もある

ここでこの記事では一番批判が集まる議論をします。子どもと結婚を両立させる必要があるのかという議論です。

これはみなさんもよくご存知の話ですが、わが国の離婚率は増加しています。年間の婚姻件数が約50万件で、離婚件数が約17万件であることから俗に「3組に1組が離婚する」と言われています。

子どもが欲しいから結婚する/したけれども、離婚にかかるエネルギーが大きすぎるというのは、現実的には悩み事としては大きいものです。それを知っているからこそ、結果として「子どもよりも結婚しないことを選ぶ」人も一定数います。

もしそれが課題だとすれば、戦略としては逆の発想をしてはどうでしょうか。結婚ではなく同棲ないしは事実婚を選ぶという判断です。

子どもを優先するために何かをあきらめるのが戦略だと何度も申し上げています。だとすれば「持ち家をあきらめて身軽になる」「仕事をいつでも転職できるようにしておく」のと同じレベルで「パートナーに関しても身軽になる」という選択肢は「あり」なのではないでしょうか。あくまで戦略としての考えではありますが。

■子ども2人を育てる出費は「5000万円の住宅購入」と同じ

【要因3】すべてのコストが高く、お金が足りない

そもそも経済的な理由から「子どもは贅沢品」と考える人にとっては、この問題が一番大きいでしょう。今は収入があっても、非正規労働で将来への不安がぬぐえないという理由もここに入ります。この問題は戦略で解消できるのでしょうか?

そもそも子ども1人を育てるために、どれだけのコストがかかるかご存知でしょうか。いくつか試算がありますが、代表的でかつ低めの数字を挙げると、大学卒業までに合計2500万円かかるというのが一般的な数字です。

社会的な道徳議論を脇に置いて冷静に考えると、子どもを持つということは若者にとってはフェラーリを1台購入することとコストは同じです。子ども2人なら5000万円の住宅を購入するのと同じ出費です。数字で見ると「子どもは家や車と同じ贅沢品」という意見は確かに共感できる数字です。

では戦略的な視点ではこの問題をどう解決すべきでしょうか?

⑤何かについて2500万円分の将来の出費をあきらめる家計計画をたてる
⑥頭金を用意する

という戦略が考えられます。順に見ていきます。

■将来にわたって「月10万円弱」を捻出し続けられるか

子育ての総コストが2500万円だと言いました。大卒までの22年間で割れば、年間120万円弱。つまり月10万円弱が子どもを持つことに踏み切るために、経済的に覚悟すべき出費です。

繰り返しになりますが、この記事は「それでも子どもが欲しい若者」に対する戦略提言です。実は国の少子化対策が不十分な理由もここにあるのですが、月10万円を子育て世代に出せるだけの予算は国にはありません。しかし個人の視点なら、月10万円を捻出する方法を考えられないとは言えないでしょう。

冒頭のTBSのNEWS DIGに登場した若者のケースでは、カップルがともに非正規労働で、それぞれ30万円と20万円の手取りです。ご本人たちは子どもを持たないという前提での生活をされていますが、同じ境遇で「それでも子どもが欲しい」という方の場合、この条件ならば月10万円の捻出は、私は可能だと思います。

ただし現実的な問題はそこではないと私も思います。今、月10万円が捻出できるかどうかではなくて、将来の不安抜きにそれを22年間続けられるかどうかの方が、若者にとっては大きな問題だということです。

投資とビジネスのコンセプト
写真=iStock.com/MonthiraYodtiwong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MonthiraYodtiwong

■「400万円の頭金を新NISAで積み立てる」という戦略

そこでこれは社会通念上、一番批判を集める概念だと思うのですが、経済戦略的には子どもをもつための「頭金」を貯めるべきです。あくまで経済の専門家としての意見を言うと「どうしても子どもが欲しい」「でも不安定で将来が不安だ」という前提でいえば、その前に400万円の頭金を新NISAで積み立てるという戦略を採用すべきです。

住宅を買うときの頭金は即座に支払いますが、子どもを手にする際の頭金は逆にできる限りぎりぎりまで手をつけるべきではありません。

たとえば400万円の頭金を新NISAで流行のS&P500連動型投資信託で運用したとしたら、子どもが大学を卒業するころには残高は2000万円を超えることが、少なくとも過去100年の実績からは期待できます。

そうやって「もし手をつけなければ子育て費用と同じレベルに増える金融資産がある」「いざとなればいつでもそれを使える」という心の支えがあれば、将来の経済不安に対する保険になります。ここで申し上げている戦略の意味は、そういうことなのです。

成長する木とお金の山
写真=iStock.com/arthon meekodong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/arthon meekodong

■「東京都の出生率0.99」は社会の現実を表している

さて、話をまとめましょう。日本という国は、特に東京、横浜、大宮といった都心部に関して言えば、ほんとうに「子どもを持つことが贅沢品だ」という状況に陥ってしまったのだと私も思います。

それが社会通念的に、そして道徳的にいいかどうか、賛否の意見が百出するとは思いますが、普通に過ごしているだけだと、この環境では子どもを得ることは難しいでしょう。東京都の特殊出生率が0.99だというのはもはや、それがこの社会の現実だということです。そしてそれを乗り越えるには、何らかの割り切り、何かについてのあきらめが必要だというのが今回の記事の前提です。

さて最後にひとつ興味深い調査結果をお話しします。30年以上前にある機関が健康年齢に影響を及ぼす要因について調査した結果です。健康寿命を短くする要因には影響の大きいものが3つあります。第3位は「過度な飲酒」、第2位は「喫煙の習慣」なのですが、それらを抜いて一番寿命が短いのが「生涯独身」だというのです。

「家に帰ったら家族がいる」というのは現代社会では当たり前の環境ではなくなってきています。しかしもし健康な生涯を送ることの方があなたの人生にとって大切なことであれば、ここでお話ししたように戦略の優先順位を変えることは、思った以上に重要な人生の選択になるかもしれません。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AIクソ上司」の脅威』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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