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産めば産むほど減税され、子供4人で所得税ゼロに…10年で出生率1.23→1.5に激増した"フォアグラで有名な国"

プレジデントオンライン / 2024年6月18日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tom Merton

出生率の低下に歯止めがかからない。岸田政権の「異次元の少子化対策」も効果が出るかはかなりあやしい。日本はどうすればいいのか。ジャーナリストの此花わかさんは「わずか約10年で出生率を1.23から1.5へ劇的に上昇させた中欧の国の施策では、出生率だけでなく貧困層が減り、税収もアップした」という――。

先日、東京都が少子化対策として、シングルを結婚させようとマッチング・アプリ運営に乗り出したというニュースにSNSでは批判の嵐が起こった。

それを引き合いにして「この国の施策を見よ」とばかりに、北欧やフランス、ドイツの子育て支援策とともにXなどで紹介・拡散されたのが、ハンガリーの家族政策だ。

出生率を上げる政策を日本では「少子化対策」と呼ぶが、このハンガリーでは「家族政策」と呼び、未婚・子どもがいない国民も恩恵を受ける包括的政策を展開している。

https://twitter.com/i/bookmarks?post_id=1798322197913849901

■1.23→1.59へ、欧州一の“出生率増加”したハンガリー

欧州の内陸国・ハンガリーは北海道と同じくらいの緯度で、国土の中央部をドナウ川が流れている。冬の寒さは厳しいが、夏の平均気温は22℃程度で湿度も低く過ごしやすい。パプリカ料理が有名で、フォアグラの一大産地としてもよく知られる。

パプリカ料理
パプリカ料理(写真提供=筆者)

そのハンガリーの出生率は、2010年以来1.23から1.59(2021年)まで少子化を劇的に改善した。その増加率はヨーロッパでナンバー1である。一方で、日本の出生率は過去最低を更新し、2023年は1.20となった。

西側諸国のリベラルからは極右政権だと批判されるハンガリーのオルバン政権だが、政策を見ると、実は日本と似た点がいくつかある。

例えば、ハンガリーと日本は短期間だけの移民政策を採用し、移民なしで出生率を上げようとしている。また、伝統的な家族の価値を大事にし、LGBTQを迫害はしないが、同性婚は禁止という点も似ている。

一方、大きく異なる点もある。ハンガリーの男女賃金格差は13.1%でOECD41カ国中25位。これは13.5%のドイツ(26位)、14.5%のイギリス(30位)、17.0%のアメリカ(34位)や17.1%のカナダ(35位)よりも小さい。21.3%(4位)の日本よりも格差がはるかに小さい。また、OECDが調査したワークライフバランス指数では8位にランクインし、36位の日本よりもずっと労働時間が少ない。

ひとり親家族や孤児への支援も手厚く、(詳細は「7割の別居親が養育費不払いの日本と大違い…渋る親の給料から国が徴収・立て替えもする東欧国に学ぶべき事」)西側諸国と遜色のない男女平等やクオリティオブライフ(QOL)を持ち合わせている。

そんなハンガリーから日本がローカライズできる政策はないのか。

現地に飛び、人口学者、経済学者、現地の若者から子育て家族に取材した筆者が発見したのは、ハンガリーの家族政策は日本が呼ぶ「異次元の少子化対策」ではなく、もっと重層的な政策からなる「経済安全保障政策」だったということだ。

■なぜハンガリーが大胆な家族政策を展開しているのか?

欧州経済社会評議会(EESC)の委員で全国大家族協会(NOE)の国際アドバイザーを務めるキンガ・ヨー氏によるとハンガリーの家族政策には4つの柱があり、これらの柱は、「子どもを“リスク”ではなく、“価値のあるもの”という社会意識にシフトする」ために2010年から展開され、随時アップデートされているという。

ここには、2010年のEU経済危機が背景にある。人口が1000万人もなく、社会主義時代に国内産業が発展してこなかったハンガリーにとって、この年は国家存亡にかかわる危機であった。国が貧すると若者や優秀な人材はより裕福な国へ流れ、人口はますます縮小する。

かといって、西側諸国のように積極的に移民を受け入れると、人口の少ない「ハンガリー人」は消滅してしまう。長年、西側諸国がさまざまな移民問題を抱えているのを見てきたオルバン政権は、西側のような移民政策はハンガリーのような小さな国には向かないと判断し、大胆な家族政策へ舵を切った。

キンガ・ヨー氏と全国大家族協会のオフィスにて
キンガ・ヨー氏と筆者(全国大家族協会のオフィスにて)

■産めば産むほど減税され、子供4人で所得税がゼロに…

経済インセンティブ、住宅購入支援プログラム、ワークライフバランス、NGOへの大規模支援、という4つの柱のなかで、「経済インセンティブ」と「住宅購入支援プログラム(CSOK)」が日本でよく言及されているが、これらは30以上にものぼるスキームから成り立っている。例えば以下のようなものだ。

・乳児ケア手当……出産後最長168日間の産休期間中、日給の100%に当たる乳児ケア手当が支給される。

・3年間の有給育児休暇……雇用保険に入っている(1年以上仕事に就いている)父親と母親、そして、両親がとらない場合は祖父母も申請できる育休。子どもが2歳になるまでは収入に応じた代替給付金(GYED)が7割の給料相当額支払われ、3歳になるまでは定額の乳児手当(GYES)の月額約1万2100円が支給される(2020年)。

・3人出産するとローンが免除される「出産ローン」……出産のために最大1000万フォリント(約436万円)を金融機関から無利子で借りられ、子どもが増えるたびに返済を遅らせ、元額が減額される。3人目が生まれるとローンは免除される。ハンガリー人口調査研究所のジョルト・シュぺダー所長が毎日新聞取材班に語ったところ、このスキームで出生数が1割増加したという。(毎日新聞取材班『世界少子化考 子供が増えれば幸せなのか』)

・住宅購入支援プログラム(CSOK)……第2子出産で1000万フォリント(約436万円)、第3子出産で1500万フォリント(約656万円)を低金利で借りられる。子供の数に応じて返済額が減っていく。

・4人産めば一生、母親の個人所得税免除……子どもが増えれば増えるほど減税される所得税減税策。

・7人乗り乗用車購入で250万フォリント(約107万円)の補助金……コロナで乗用車の生産が需要においつかないため現在は一時停止だが、再開する予定。

セーチェーニ・イシュトヴァーン大学の教授で、ハンガリー国際問題研究所のラースロー・ヴァシャ博士によると、これらの経済インセンティブと住宅購入支援プログラムは、少子化改善だけでなく、ハンガリーの経済全体を向上させたという。そもそも、ハンガリー人の約9割が賃貸ではなく、住宅を購入するから、これらの施策は「課題はあるが、経済効果をあげている」と語る。

「人々は家を買うと同時に様々な商品やサービスを買います。つまり、これは経済全体が活性化されるということ。とりわけ、住宅の需要が高まったことで建築業界の職が増えました。ハンガリーの7%を占めるジプシー少数民族の多くが社会主義時代後に失業しましたが、いまでは8割以上が働き、貧困層から中間層に移動しています。その効果で、2010年には11.2%だった失業率が、2022年には3.6%まで下がりました」

ヴァシャ博士
ヴァシャ博士(写真=本人提供)

■住宅需要が急激に増えたことで、住宅価格も高騰した!

こうした施策には、副作用もある。例えば、住宅支援プログラムのせいで、一部で需要が供給を上回り、住宅価格の急騰が起こったのだ。これについては、同博士はこう話す。

「政府は随時、住宅価格にあわせた支援額を調整する努力をしています。ただ、不動産価格が高い西部とそうでない東部に格差ができたことが課題ですね。例えば、オーストリアに近い西部の人気エリアに家を買った人は家を売却して、自分の仕事やライフパスにあわせて引っ越すことができますが、そうでない地域に家を買った人は、家が売れずに移動ができません。自由に移動できないと、自分の職場に近いところに住めなくなる労働者が出てきます。これは労働者本人にとっても、雇用する企業にとっても大きな問題になり得ます」

外国企業がハンガリーに続々と工場を開き、ハンガリーがヨーロッパの製造ハブとして発展していくなか、労働者が自由に動けないと人々はより高い収入の職につけないし、ビジネスも広がらない。

「ハンガリーの異次元の少子化対策」と日本で呼ばれている、経済インセンティブや住宅支援プログラムは一部にこうした課題が残るものの、出生率を上げるだけでなく、国内の雇用を生み、失業率を下げて、貧困層を減らすことに成功した。その上、人口流出を防ぐ目的もあるハンガリーの家族政策は、「経済安全保障政策」でもあると言えるだろう。

■財源は27%もの消費税!

ハンガリー政府はGDPの6%を家族政策に費やしており、これは世界一だと発表している。一体この財源はどこから来ているのだろうか。

「いまのところ27%の消費税が財源となっています。この高い消費税で、税収が増えました」と説明するヴァシャ博士。27%の消費税は世界一高く、これにスウェーデン、デンマーク、ノルウェーの25%、アイスランド、フィンランド、ギリシャの24%が続く。

日本で消費税を27%にしようものなら、政権交代が起こってしまうが、この高い消費税について国民の反応はどんなものか。ある中間層に聞いてみると……。

■クオリティオブライフが高いハンガリー

ブダペスト郊外に住む40代の女性会計士には共働きの夫と、5歳と8歳の子どもがいる。

「生活は楽ではないです。確かに、保育園から高校まで公立なら学費はほとんど無料ですが、子どもたちの英会話クラスやスイミングクラスなどにはお金がかかりますし、服代もかかります。だから、もっと給料のよい外資系の会社に転職するために、いま私は英語を猛勉強中です」

消費税が高いせいで、通常のショッピングや外食はできるだけ抑えなくてはいけないものの、毎週末、家族全員でスポーツやピクニックなどに出かけている。夏は2週間の旅行に出かけ、冬はスキー旅行に行く。こうして休日は家族全員でアクティビティを楽しむのが一般家庭の日常だそうだ。

ハンガリーでは保育園から高校まで無料。待機児童も存在しない。大学の学費は高校卒業時に受ける共通試験の成績により、無料でとれる単位が決まる。日本のような受験制度がないから塾もない。

ハンガリーの1人当たりの家計収入は日本の半分ほど(2023年:日本は約246万円、ハンガリーは約128万円)だが、生活の質は日本よりずっと高いように映る。

ただし、この女性の言う通り、ハンガリーには国内産業があまりないので、高収入を目指すには英語力は必須だ。小学校から英語が必須科目となっているが、教育熱心な親は幼稚園の頃から子どもに英会話レッスンを受けさせる。そのせいか、筆者が取材した15人以上の学生は全員が流暢な英語を話せた。

しかし、そもそも40代半ばの子どもを2人もつ女性がフルタイムで働き、転職できる雇用環境が日本とはまったく違う。会計士の女性は「私の知る限り、40代はもちろん50代の女性でも転職はできますね。最近では1~2年で転職をする人が多いぐらい雇用の流動性が高く、仕事はあります」と話す。

日本では、2026年から段階的な子ども・子育て支援法が施行され、これら支援金は公的医療保険に上乗せ徴収される。昨年6月に岸田文雄首相は、GDPの約2%だった「家族関係社会支出」を4%に倍増すると発表したが、子育て家族だけではなく、ハンガリーのように“国民全体”が恩恵を受ける包括的な政策が必須だ。そうでないとシングル世帯は不公平を感じ、若者はますます日本国外へ流出するだろう。

令和5年4月16日、岸田総理
令和5年4月16日、岸田総理(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

同時に、「子どもをもつことが“リスク”にならない」「何歳になってもキャリアアップや転職ができる」社会の仕組みを作らなければ、若者が希望をもてる国にならないのではないだろうか。

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此花 わか(このはな・わか)
ジャーナリスト
社会・文化を取材し、日本語と英語で発信するジャーナリスト。ライアン・ゴズリングやヒュー・ジャックマンなどのハリウッドスターから、宇宙飛行士や芥川賞作家まで様々なジャンルの人々へのインタビューも手掛ける。

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(ジャーナリスト 此花 わか)

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