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岸田政権を正面から批判できず、都知事選もスルー…維新が迷走を深める「大阪万博」以上に厄介な問題

プレジデントオンライン / 2024年6月20日 7時15分

合意文書を交わす日本維新の会の馬場代表(左)と岸田首相=2024年5月31日午前、国会 - 写真提供=共同通信社

7月7日投開票の東京都知事選で、日本維新の会は独自候補の擁立を見送った。評論家の八幡和郎さんは「新人候補を柔軟にリクルートできることが維新の強みだが、身辺調査が甘く所属議員や立候補予定者の不祥事が続発している。大阪万博の赤字問題もあり、維新には逆風が吹いている」という――。

■連立政権入りを狙っているようにみえる

日本維新の会が迷走気味である。野党第1党を目指しているのかと思ったが、このところ、連立政権入りを狙っているようにみえる。だが、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)などで政権交代の歴史を論じてきた立場から言うと愚策だ。自民に対抗する野党第1党をめざす姿勢でないと、街頭演説していても盛り上がらないと新人候補者が嘆いている。

自民党でも岸田文雄首相が、内閣支持率が過去最悪の状況で解散を模索していたようだが、どの政党の幹部も若い議員や候補者への思いやりがない。清和会の裏金事件でも、派閥幹部は軽い処分で済み、次期総選挙での議席は確保できそうだが、派閥の指示に従っただけの若い議員は裏金議員と批判されて厳しい情勢だ。

私は、維新の「政権交代の受け皿となりうる政治勢力」としての立ち位置について、いいところに目を付けたと評価している。いま世界の政治地図は、古典的な保守と革新、右と左という区分では割り切れない傾向だ。

そこで、たとえば、フランスのマクロン大統領の中道政党のように、左と右と両方の既得権益に切り込んで大掃除をする政治勢力が出て、規制緩和や細かい政策の整理をして一括給付金などで国民に還元する流れがある。維新の会が大阪で試みているのもその方向だ。

■維新の強みは「新人リクルート」

前回の衆院選(2021年)では、自民が261議席、立民が96議席、維新が41議席、公明が32議席だった。そして、2022年の参院選では、維新が比例区で自民党の34.4%に次いで14.8%を獲得し、立憲民主党の12.8%や公明党の11.7%を上回って第2位となった。

この勢いに乗り、次の衆院選では立民が議席を減らす一方、維新は倍増して80議席あたりで野党第1党の座を争うと見られていた。

維新の強みは、新人候補のリクルートを柔軟にできることだ。自民党は、小選挙区で189人が当選し、重複立候補した比例代表で56人が当選している。このほかに、無所属自民系が4人おり、公明党に選挙区を譲ったのが9区あるので、落選者は30余りだけだ。

自民党の候補者枠は非常に狭いため、有望な保守系の新人は維新に行くしかないし、立民など野党系から離党を希望する人にとっても維新は行きやすい党だ。

霞が関からも、共同親権実現の立役者である総務官僚の渡辺泰之、西村康稔前経済産業大臣に挑戦する国交技官の加古貴一郎、稲田朋美の政策秘書だった大河内茂太、河村建夫元衆議院議員の子の河村建一といった実力派も名乗りを上げている。

■身内の不祥事と万博批判のWパンチ

ところが、自民党が旧統一教会問題や裏金問題で自爆して窮地に立ち、批判することだけには強い立民や共産が生き生きとしてきた。

しかも、維新は議員や立候補予定者の「身体検査」が甘く、不祥事が続発し、大阪万博の赤字も心配されて、無駄を批判して成長してきた維新はしんどい状況になってきた。

最近の週刊誌などの衆院選予想では、自公は過半数の233議席を確保できるか微妙で、維新は50議席くらい、立民はその3倍の150議席ほど獲得する勢いとされている。

選挙演説中に手を振る候補者
写真=iStock.com/imacoconut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imacoconut

この事態を前に、維新幹部からは野党第1党を目指す発言は影を潜め、自公維連立もあるようなニュアンスの発言も出ている。

政治資金規正法改正について、公明と維新の要求を入れて修正した案が成立したが、公明は「自公連立の危機」といわれるほど抵抗し、自民党内で不満が爆発するほど厳しい「5万円超の政治資金パーティー券購入を公表する」という修正を吞ませた。それに対して、野党である維新は妥協する必要がないのに、分かりにくい妥協をした。

こうした経緯もあり、衆院選の前か後かはともかく、維新が連立政権入りを模索しようとしているとされているが、すこし前のめり過ぎる。

■維新と自民の選挙協力はほぼ不可能

選挙前に連立入りしてしまえば、支持率がかなり落ちるし、それより深刻な問題は、選挙区の調整をどうするかである。

自民党と公明党のあいだでは公明党が候補者を擁立する9選挙区で自民党が候補者を立てずに公明党候補を推しており、この選挙協力をあと何選挙区か増やすかをめぐって厳しい交渉が行われている。

しかし、維新は小選挙区選出の現職議員が16人おり、党本部によると次期衆院選には159選挙区で擁立を決めているから、公明党と同じような自民との選挙協力は不可能である。

比例票で考えると、自民党と公明党の持つ票数はだいたい3対1くらいである。それを9つの小選挙区を譲ることと、比例で若干の協力をすることだけでよい、という自民党にとって圧倒的に得な条件で自公連立は成り立っている。

そのかわり、公明党の主張を尊重して政策が立案されることで、公明党の支持者は満足している。

また、公明党の閣僚ポストは国土交通相だけなので、衆参両院議員の合計が公明党とほぼ同じ維新は、それと同等以上の閣僚を出すことはできない。

しかも、衆議院小選挙区や参議院地方区で、公明党は自民党の得票数の20%以上の票を出しているとされるが、維新の支持者は党として自民党に投票するように呼びかけても指示に従うとは思えず、自民にとって公明と同等の価値はない。

■維新主導の政権樹立を目指すべき

いま、維新がすべきは、思いっきり現政権を批判して、立民に流れそうな無党派層を取り込むことだ。立民や国民民主との候補者調整もある程度はして、自公を過半数割れに追い込み、維新主導の政権樹立を目指すべきである。

状況は、1993年の細川護熙政権の成立時に似ている。総選挙で自民党は第1党だが過半数に及ばず、自民党と一部の党の連立や、自民党から渡辺美智雄氏などが離党して首相になるという噂もあった。

しかし、新生党の小沢一郎氏が根回しをして、野党第1党だった社会党の山花貞夫委員長でなく日本新党の細川代表を首相に担いだ。その前例にならえば、維新の馬場伸幸代表が首相になれる可能性もあるし、胸を張って政権を狙うべきだ。

あるいは、皇位継承問題での成案を一人で潰した頑なさがネックになるが、野田佳彦元首相といった立民や国民民主党のベテラン議員とか、それ以上に石破茂氏に代表される自民党の「非主流派」を離党させて首班にすることも可能だ。

維新はたとえば、次の衆院選までの憲法改正発議、企業団体献金の禁止、ベーシックインカムの導入、医療改革、道州制と「大阪副首都」など数項目だけを政治協力の条件とすればいい。もちろん、野党内で交渉がまとまるかわからないから、自公と連立も選択肢としては排除する必要はない。

■大阪万博は絶対に成功させなければならない

維新にとって2025年開催の大阪・関西万博は、強みのはずが逆風になっている。ウクライナ危機で物価が高騰しているのは運が悪いが、計画が甘かったことも否定できない。

とはいっても、開催が近づいたら1970年の大阪万博ほどかは別として盛り上がりそうだ。能登半島地震の復興の支障になるという批判は、「『被災地を元通りに復興する』には異議がある…能登半島を生まれ変わらせる”創造的復興”」でも書いたように馬鹿げているし、この万博を成功させることは関西にとってとても大事なことであって、失敗に追い込んでも何もいいことはない。

南海電気鉄道の車両が大阪・関西万博のラッピングで彩られている
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

維新が万博を成功させたいのであれば、大阪やその周辺であまり政治的冒険をするべきであるまい。他の党派による万博への批判を招くし、その支援団体の人々の万博へ行きたいという気持ちも萎えさせる。

とくに、これまで是々非々で維新による府政・市政に臨み、大阪都構想の住民投票でもいちおう賛成にまわった公明党の現職に対抗して、維新が対立候補を立てたのは、万博の成功にも、大阪都構想について捲土重来を狙うにもマイナスである。

■東京都知事選挙を見送ったのは失敗

7月7日投開票の東京都知事選挙で、二重国籍を隠して政治家になった蓮舫氏が立候補したことは、学歴粉飾疑惑の小池百合子知事にとって天佑だ。維新にとっても絶好のチャンスなのに、候補者も立てなければ推薦もしない不戦敗状態である。

もっとも、選挙戦の推移によっては前広島県安芸高田市長の石丸伸二候補に好感を示すとか、「蓮舫知事」阻止を口実に小池知事に傾斜するとかはあるかもしれないが、とにかく残念だ。

それから、維新について気になるのは、地方議員などの不祥事の多さである。維新は候補者に旗は使わす一方で、身辺調査をしっかりしない、資金は個人任せ、ちゃんと選挙区内の住所に住んで、選挙違反もせず、当選したら経費の使い方もきちんとする、といった当たり前の指導も不十分である。

そして、問題が露見したら、処分の基準がよく分からないまま、悪質かどうかより組織に迷惑かどうかだけでトカゲの尻尾切りをするという冷たさも残念だ。

■「大阪重視」はいいが「大阪本位」は困る

今年1月の京都市長選挙は象徴的だった。京都党という地域政党の創始者である村山祥栄・元京都市議を推薦し、告示直前の世論調査では、自民・公明・立民が揃って推薦した候補者に勝つかもしれないと言われていたが、村山氏が参加者のいない政治資金パーティーを開催したとして維新などは推薦を取り消し、結果的には3位に終わった。

本人がうかつだったのが悪いが、維新にとって非常に大事な選挙だからこそ、資金も出すべきだし、しっかりしたスタッフを送り込めば起きなかった事件だ。

どの程度悪質かも判断せず切り捨てたが、出口調査では維新支持者の投票先トップは村山氏だった。

維新の大阪重視という姿勢は東京一極集中対策としては正しいと思うが、大阪の都合で党運営がされているという印象は損だ。

野党第1党、そして維新主導の政権樹立を目指すためには、こうした“欠点”はできるだけ早く解消していくことが絶対に必要だ。

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八幡 和郎(やわた・かずお)
歴史家、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。

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(歴史家、評論家 八幡 和郎)

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