「歓送迎会の幹事、やってくれない?」はまるでダメ…若手がいきいきと幹事を引き受ける"声かけフレーズ"
プレジデントオンライン / 2024年7月2日 16時15分
※本稿は、井手やすたか『伝え方図鑑』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■伝え方の工夫で伝わる内容が変わる
同じ会社にいて、ほとんど同じ仕事をしているのに、
なぜかその人の言うことが魅力的に聞こえる。
そんな体験をしたことはありませんか。それが「伝え方」の違いであることに、なんとなくお気づきの方も多いのでは、と思います。
なぜ、おなじお願いごとでも、あの人が言えば通るのか。
なぜ、おなじ報告でも、あの人から受ければ成果を感じるのか。
なぜ、おなじ説明でも、あの人から聞けばわかりやすいのか。
なぜ、おなじ雑談でも、あの人と話していると楽しいのか。
本稿は、この「なぜ」の数々にせまるものです。
ことばには「何を伝えるか」と「どう伝えるか」があるのですが、日常生活では、人は「何を伝えるか」のほうを意識して生きています。
何をお願いしようか。
何を報告しようか。
何を説明しようか。
何を雑談で話そうか。
人に何かを伝えるときの判断を、「何を」の部分にまず大きく使ってしまっているんですね。ふつうの人は、その「何を」が決まってしまった時点で、あまり深く考えず、思うままにそれを伝えてしまいます。
でも、本当に重要なのは、それを「どう」伝えるかです。伝え方の工夫しだいで、伝わる内容が大きく変わります。良くもなる。悪くもなる。伝えたい内容の「価値」が変わるといっても過言ではありません。その最も大きな変数が「伝え方」にあるのです。
■優れた伝え方を「伝え型」として図式化
うまくいく伝え方とは何なのか、世の中に数多ある具体的な事例を読み込んでいくうちに、私は思いました。
①うまくいく伝え方の「事例」を知るだけだと、「なるほどそういう伝え方があるのか」で終わってしまう
②その伝え方がなぜうまくいくのか、その「意味の構造」を本質的に理解することが大事
③さらに図式化することで、「あてはめるだけで使える」ようにすれば、すぐに役立つものになる
というわけで、優れた伝え方を誰にでもわかりやすく、誰にでも使えるようにするために、いろんな「伝え型」を図式化しようと考えたのです。
100種類の包丁を図鑑にするとして、その特徴だけを羅列しても意味がありません。どんな食材に向いてるか、なぜその刃の形なのか、どんな料理にベストなのか、理解してはじめて料理人の役に立ちます。
伝え方は、道具です。目的に合わせて使いこなすことがゴールであり、そのための「伝え型」、という形式。
このあと、具体的な状況の中で、いかに「伝え型」が機能するか、の事例を見ていただければと思います。
■「歓送迎会の幹事、やってくれない?」とは言いたくない
ケース「歓送迎会の幹事のお願い」:歓送迎会の幹事を若手にお願いしたい係長Aさん
この事例では、日常生活で最も悩む機会が多そうな「その人の負担になるからちょっと頼みづらいけど、頼む必要がある」シチュエーションを想定し、使えそうな「伝え型」をいくつか当てはめていきたいと思います。
とある部署の係長であるAさん。人事異動の季節に歓送迎会が開かれることになりました。こういった会の幹事は若手社員が担当するのが恒例。Bさんに頼もうと目星はつけたものの、最近の若い人は飲み会にあまり積極的でないという時代でもあるため、Aさんはその伝え方に悩んでいます。
【選ばせるの型】
「歓送迎会の幹事、やってくれない?」と本題をそのままぶつけると、どんな人でもちょっと尻込みしてしまいます。そこでこの型の出番です。幹事をやったとして、その先の選択肢、たとえばお店の候補をいくつか提示し、その選択権をBさんに与えてみるのはどうでしょうか。
「今度の歓送迎会Bくんに幹事を頼みたくて。ごはんがおいしい和食系、円卓を囲める中華系、おしゃれなイタリアン系、どれがいいと思う?」
この聞き方であれば、幹事を任命されてしまった事実に少し嫌な気持ちは少し感じるかもしれませんが、その先の、会場の選択権を任されたことでBさんに自主性が生まれそうな気がします。
![「選ばせる」の型](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/6/1200wm/img_a6453e6d535e8ca4934d557c74fd7122207648.jpg)
■「ヒントとなるような一言」で誘う
【センタリングの型】
そう考えると、今回はこちらの型を使うこともできそうですね。
Aさん「歓送迎会って、いろんな人と話せたほうがいいよね。お座敷やテーブルは席が固定されるし、立食にすると疲れるし、なんかこう、輪になって話せるようなお店があるといいんだけど……」
Bさん「だったら、中華とかどうですか? テーブルが円卓で話しやすいと思います」
Aさん「それだ! いいね、中華!どこかいいお店知ってる?」
Bさん「去年新人の歓迎会で使ったお店がよかったので、電話してみますよ!」
![「センタリング」の型](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/a/1200wm/img_9aeccba353ad06c76c12a37954f4e471237796.jpg)
【ハードル下げの型】
この型は、お願いしたいことを伝えたあとに、次々とそのハードルを下げるような情報を足していきます。
「今後の歓送迎会の幹事やってくれないかな?
お店選びが面倒なら去年と同じ場所でもいいし。
人数も来週には決まるからそのあとお店に電話してくれれば。
あとは参加者にメール送るだけでOK!」
今回の場合は、幹事の仕事の手順を想像させることで簡単だと思わせる内容にしています。ハードルを下げる要素はケースによって変わると思うので適宜判断するのがいいでしょう。ただし、たとえばここで「今度おごるからさ」といった条件を持ち出すのは、ハードルを下げるのではなく、報酬を与えることになり違う意味になってくるのでご注意を。
![「ハードル下げ」の型](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/7/1200wm/img_d7b6a0b9784dffd8f51618acc5b55646213581.jpg)
■感謝を挟みながらお願いごとを伝える
【感謝の型】
「Bくん、いつも部の催し物に協力してくれてありがとう。この手のお願いごとってなかなか申し訳ない気持ちになることが多いんだけど、Bくんにはいつも気持ちよく受けてもらって助かってる! ちなみに今度また歓送迎会があるんだけど……幹事お願いできないかな? ごめん! ありがとう!」
シンプルに日頃の感謝を挟みながらお願いごとを伝える方法です。ふつうに頼むよりは少しだけうれしい気持ちで受け止めることができますが、上記の例で丁寧な伝え方をしたように、感謝の内容にリアリティがないと「とってつけた」ようになりがちなのでご注意を。
![「感謝」の型](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/0/1200wm/img_2070af512e7537f4af006ebf97fdfe67192718.jpg)
【ほめるの型】【オンリーワンの型】
2つの発想を組み合わせて使うこともできます。
「Bくん、今度の歓送迎会の幹事をお願いできないかな? 今回異動しちゃう田中さんとも、次に異動してくる佐藤さんとも仲いいでしょ? ほら、こういう会って、誘われる人によって全然気分が変わってくるからさ。Bくんに仕切ってもらえるとみんなうれしいと思うんだ」
もしBさんが、人当たりのいい人気者だったとしたら、そういう部分を見つけて褒め称えながら適任だという説得力につなげることができます。こういうふうに言われて、うれしくない人はいないと思います。
![「ほめる」の型](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/7/1200wm/img_8778854abb53dd13f2a22cab0823ac66183824.jpg)
![「オンリーワン」の型](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/a/1200wm/img_ba6f568f75e500435a3a8f61d99104d0213859.jpg)
■負担を「自分と相手で分ける」ことを伝えるのも効果的
【協力の型】
この型は、伝え方だけではなく、具体的な行動を足すことで成立する型です。
![井手やすたか『伝え方図鑑』(SBクリエイティブ)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/5/1200wm/img_259026f82be04933b3983c333cfaa4f8117538.jpg)
「Bくん、今度の歓送迎会、幹事をお願いできないかな?あんまり負担かけたくないから、僕のほうで去年までに開催したお店のリストを送っておく。人数も来週には決まると思うから、Bくんはお店を押さえるのと、当日の進行をお願いできない?」
この型以前のものと比べると、Aさん自身が動く手間が増えています。お願いごとのハードルが高いと判断される場合は、こういうふうに負担を自分と相手で分けることを説得の材料にして伝えることも効果的ですね。または、自分にも負担があることがもともと決まっている場合のお願いごとは、こういう伝え方をしてみるという手もあります。
![「協力」の型](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/a/1200wm/img_5af45edc8b8c8a466cadbf24264a2ac3179356.jpg)
さて、いろいろなケースに当てはめて展開してみましたが、どれが正解というのはケースによると思います。Bさんの性格やAさんとの関係、社風やタイミング、会の規模によってハードルも変わるでしょう。大切なのは、何か1つお願いごとをするにしても、いろんな伝え方のパターンが選べること、それぞれのケースで最適な伝え方が変わってくることを知っているかどうかです。一度ご自身でもいろんな型に当てはめて実践してみることをおすすめします。
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博報堂ケトル コピーライター/クリエイティブ・ディレクター
1980年生まれ、佐賀県出身。2004年東京大学経済学部卒業、博報堂に入社。マーケティング戦略プランナーを経て、2008年からコピーライターに転身。2024年現在、コピーライターとして培った「言葉の技術」を得意とするクリエイティブ・ディレクターとして、数々の広告キャンペーンやブランド戦略、PRでの話題化、商品開発/事業開発など幅広い案件を手掛けながら、社内外でコピーライティングやコミュニケーションに関する研修・講義などを精力的に行っている。2022年、出身地・佐賀市の情報発信強化アドバイザーに就任。国内外の主要な広告賞を20種以上受賞。Cannes Lions、AdFest、D&AD、NY Fes、LIA、Spikes Asiaなどの国際賞や、TCC新人賞/TCC賞ファイナリスト、ACC、日本ネーミング大賞、PRアワード、朝日広告賞、広告電通賞、グッドデザイン賞ベスト100、ギャラクシー賞、ユーキャン新語・流行語大賞などの国内賞も。
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(博報堂ケトル コピーライター/クリエイティブ・ディレクター 井手 やすたか)
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