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「トーマスをなくした」と泣く子を慰めたい…リッツ・カールトンの「上司の許可なしで30万円」という神対応

プレジデントオンライン / 2024年6月25日 8時15分

写真提供=共同通信社

部下の能力を引き出すにはどうすればいいのか。ハーバード・ビジネススクールのフランシス・フライ教授と起業家のアン・モリス氏の共著『変化を起こすリーダーはまず信頼を構築する 生き残る組織に変えるリーダーシップ』(日本能率協会マネジメントセンター)より、一部を紹介する――。

■部下には指示を出すより、任せたほうがいい

スピードを妨げる多くの障害は、つまるところ比較的単純な組織の物理法則に帰着する。決断を要するあらゆる事柄が、一点を通って流れていくような決定権の文化を築いた場合、スピードは非常に直接的な形で犠牲になる。その小さな穴をほんのわずかにでも広げれば(つまりは、重要な意思決定者を1人から2人に増やすという場合もあるだろう)、組織の「戦闘のリズム」の速度を劇的に上げられる。

より野心的な言いかたをしよう。あなたの会社のスピードを上げる最速の方法は、より多くの決定ができるよう、より多くの人たちに権限を与えることだ。かなりの危険があったり、指揮系統が不可欠であったりする業界(例えば、医療業界)では常識にそぐわないように感じられるかもしれないが、もっとも危険が高いときこそ、あなたがいなくても正しい決断を下せるよう、必要な情報を他の人たちがもっていることが、もっとも重要なことなのだ。動きが緩慢で予測可能な状況であるなら、皆に指示を出せばいい。ただ、それ以外の状況であれば、皆に思考方法を教えるのがより確実だ。

■米軍最高幹部がみずから権力を手放したワケ

そう考えると、エンパワメント・リーダーシップについての非常に説得力のある考えのいくつかが、戦争の不透明さから生まれたのも当然である。統合参謀本部の元議長、マーティン・デンプシー大将は、アメリカ陸軍をより速く、より良くしようと試みた際、まず権力を手放すことから始めた。デンプシーはこの新たな方法を「ミッション・コマンド」と呼んで、陸軍のリーダーシップのビジョンを明確に示した。スピードがこれまで以上に重要となり、状況が絶えず変化している現代の戦場において、自ら決断を下す方法を部下に教えることに重点を置いた方法だ

デンプシーの世界観にはまだ到達できそうにないという人は、「とても良い計画」に何か新たな試みをもたらすことを考えてみよう。昨日の熱心な取り組みで、厳密で楽観的な改革戦略がはっきりし、自分がなぜそれをおこなっているのかを説明できるようになった。今度は、実行にあたってどの決断、つまり、どの部分に自分が必要ないかをチームに知らせよう。

これはまた、意思決定についてより広く話し合うのに絶好の機会でもある。あなたの支えとなる豊富な決定のフレームワークを活用しよう。その多くは、自分が関与したい、あるいは相談してほしい、あるいは事後報告してほしいのがどんな場合なのかをはっきりと示せるよう後押ししてくれるはずだ。フレームワークをひとつ選び、そして、お察しのとおり、賢明な実験をおこなおう。

*デンプシーが構築したリーダーシップ・モデルは、19世紀のプロイセンの優れた陸軍元帥、大モルトケと呼ばれるヘルムート・フォン・モルトケの考えかたに基づいている。

■上司の許可なしで「2000ドル(約30万円)」まで使っていい

今日は、権限委譲(エンパワメント)の経営、分権的意思決定を可能にする構造改革にもぜひ乗り出してもらいたい。私たちが好きな例は、リッツ・カールトンの方針、宿泊客の課題を自ら解決するために、マネジャーからの面倒な承認なしに1件につき2000ドルまで費やせる権限を全従業員に与える方針だ。

創業者のホルスト・シュルツは、この方針について尋ねられた際に次のように語った。「何年も前にこのやりかたを取り入れたときには、リッツ・カールトン・フランチャイズのオーナーたちから訴えるぞと脅されたよ」シュルツは笑いをこらえながら、ほとんどの件は2000ドルという最高額にはほど遠い金額で解決できていると指摘した。「皿に盛ったクッキーや昼食程度で十分なんだ」

経験上、多くのリーダーは、権限委譲を感情レベルで受け入れるか抵抗するかのどちらかで、その論理についてとことんまで考え抜いていない。シュルツが、懐疑的なフランチャイズのオーナーについて語っているのはそういうことだ。「仮に上限の2000ドルまで使うことになったとしても、そういった宿泊客は生活に20万ドルは費やすような人たちだ。つまり、私たちが気にかけるべき唯一の ―唯一の― ことは、彼らにこれからも宿泊客でいてもらうことなんだ」これは、シュルツが生み出したこのやりかたが口コミで話題になるよりも前の話だ。

ザ・リッツ・カールトン・ミレニア シンガポールのデラックスルーム
ザ・リッツ・カールトン・ミレニア シンガポールのデラックスルーム(写真=Own work/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

■宿泊客のおもちゃを「救出」した話の教訓

リッツ・カールトンのある従業員が、宿泊客の息子の「きかんしゃトーマス」の玩具を「救出」した話は、アーンドメディア(訳注:第三者であるユーザーが情報を発信する媒体)で途方もない価値を生み出した。

家族旅行でリッツ・カールトンに滞在していたその子どもがトーマスの玩具をなくしてしまったため、発想豊かで積極的な従業員は玩具店に行って代わりのものを購入した(推定費用:16ドル99セント)。それから、ホテルの様々な場所でトーマスの写真を撮った。厨房で下ごしらえしたり、爽やかな朝のひと泳ぎを楽しんでいる写真だ。そして、トーマスが姿を消した理由を説明する手紙を添えて、悲しみに暮れていた若き所有者のもとにトーマスを送り返したのだ。

この魔法のような出来事が可能となったのも、従業員への権限委譲という、同社のブランドイメージに合った経営改革と、その資金を出すための予算項目があったためだ。

■米軍出身のMIT教授が語った「改革の成果」

同僚に権限を委譲することは、スピードだけでなく、パフォーマンスの向上、仕事への満足度の高まり、対人信頼感の深まりなど、他のメリットもある。

フランシス・フライ、アン・モリス『変化を起こすリーダーはまず信頼を構築する 生き残る組織に変えるリーダーシップ』(日本能率協会マネジメントセンター)
フランシス・フライ、アン・モリス『変化を起こすリーダーはまず信頼を構築する 生き残る組織に変えるリーダーシップ』(日本能率協会マネジメントセンター)

私たちは、勲章を授与された元中隊長エミリー・ハネンバーグに、デンプシー大将の真新しいリーダーシップの考えかたの影響についてインタビューしたことがある。10年間の兵役中にハネンバーグは見事に頭角を現し、「ミッション・コマンド」に携わる新たな将校を訓練するための、マサチューセッツ工科大学の軍事学教授に選ばれた。ハネンバーグは、部隊のパフォーマンス、士気、さらに、そう、スピードの向上を強調したが、何よりも注目すべきは、そのモデルによって兵士たちの自身の能力に対する認識が変わったことだと語った。

「私たちは当然のことながらより速く動くようになりましたが、もっとも大きな影響を受けたのは自信です。自分の影響の及ぶ範囲で人を率いることを任されると、自分にできるとは思ってもみなかったことができるのだとわかります。それによって、自分自身との関係が変わるのです」

より専門的でない私たちのことばで表現すると、こんなふうになる。チームをエンパワメントする方法を模索していると、スピードが訪れ、同僚は幸せになり、能力を開花させていく。

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フランシス・フライ ハーバード・ビジネススクール教授
戦略、経営、文化における卓越性を計画することによって、リーダーがどのように組織と個々人が成功する状況を生み出すかを調査する研究をおこなっている。定期的に、業績向上の梃子となるダイバーシティやインクルージョンの推進を含めた大規模な改革や組織的変革に乗り出す企業と共に働いている。2017年、ウーバーで初のリーダーシップ、戦略担当上級副社長を務め、リーダーシップと文化に関して世間から大きな批判を浴びていた同社の立て直しに尽力した。

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アン・モリス 起業家、リーダーシップ・コーチ
ザ・リーダーシップ・コンソーシアムの創設者。同組織は、これまでに類を見ないリーダーシップ促進機関で、女性やピープル・オブ・カラーの人たちが最高幹部の職務につくための準備を手助けしている。アンは、過去20年間、使命を重視する企業を育て、率いてきた。さらに、リーダーシップ、文化、大きな変革に関して世界各国の組織や政府と共に働いてきた。その顧客は、初期段階のテック企業の創業者から国家競争力の強化に取り組む公的機関のリーダーまで多岐にわたる。

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(ハーバード・ビジネススクール教授 フランシス・フライ、起業家、リーダーシップ・コーチ アン・モリス)

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