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竹島を政治利用する「タマネギ男」とは全然違う…最悪の支持率でも韓国大統領が"反日"に手を出さない理由

プレジデントオンライン / 2024年6月24日 7時15分

2024年5月27日、韓国・ソウルで開催された韓中日首脳会談の傍ら、共同記者会見に臨む日本の岸田文雄首相(右)と握手する韓国の尹錫悦大統領(左)。 - 写真=EPA/時事通信フォト

韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の支持率が21%となり、過去最低を更新した。これからの日韓関係はどうなるのか。伊藤忠総研チーフエコノミストの武田淳さんは「支持率が低迷すると反日を政治利用する政権が多かったが、尹大統領は歴代政権とは違う」という――。

■日韓とも政権支持率が過去最低を更新

6月上旬に実施されたNHKの世論調査で岸田内閣の支持率が21%と政権発足以来の最低を記録したが、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の支持率も負けず劣らずの低迷ぶりである。調査会社の韓国ギャラップが5月31日に発表した尹大統領の支持率は、奇しくも岸田内閣と同じ21%に低下し、就任後の最低を更新した。

尹大統領を支持しない理由のトップは「経済・暮らし・物価」、つまり経済情勢の悪さで、回答者の15%が挙げた。そのほか、上位には「コミュニケーション不足」(9%)、「独断的・一方的」(6%)といった大統領個人の姿勢やキャラクターの問題も挙げられた。実際に尹大統領は、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の与党であり、現在の最大野党である「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表と就任以来、会談をしていなかった。

また、元検察トップで政治家の経験がなかったこともあり、受け答えが横柄で人の意見を聞かず印象が悪いという指摘をよく聞く。4月の議会選挙では、与党候補のうち選挙ポスターに尹大統領の写真を使わなかった候補が7割にも上るという報道もあるほど、党内でも人気がない。

■物価高、景気悪化に有効な策を打てなかった

不支持の最大の理由である経済情勢についても、2022年5月に尹大統領が就任した直後の6月、消費者物価上昇率が前年比で6%まで上昇、10~12月期には実質GDP成長率がコロナ前の平均的なペースだった3%を割り込んで低下するなど、景気が悪化した(図表1)。

物価の上昇は、日本と同様、ロシアのウクライナ侵攻を受けたエネルギーや穀物の国際価格高騰によるところが大きく、尹政権の責任ではないが、影響緩和や景気回復につながる有効な策を打ち出せなかったことが支持率の低下につながったと言えるだろう。

【図表】韓国の成長率とインフレ率

■家が買えない若年層の根強い不満

その景気であるが、今年1~3月期には実質GDP成長率が前年同期比+3.4%まで回復、6四半期ぶりに3%を超え、復調しつつある。

ただ、そのけん引役は半導体サイクルの底入れを受けて急回復している輸出であり、個人消費や設備投資といった国内需要の足取りは未だ緩慢である。なかでも、国民の経済活動そのものであり、その意味で世論に直結している個人消費は、1~3月期においても前年同期比+1.1%と小幅な伸びにとどまっている。

消費の回復が遅れている原因は、第一に物価の上昇が収まらないことである。消費者物価上昇率は昨年半ばに前年比3%前後まで鈍化したものの、以降は下げ渋っている。そうした中で、基本給(所定内給与)の伸びは前年比3%を若干上回る程度で伸び悩んでいるため、物価上昇分を除いた実質賃金はほとんど増えておらず、消費者の景況感は冴えない状況が続いている。

若年層の不満はより強い。失業率は全体では3%を下回り比較的低い水準にあるが、20代に限れば6%前後で高止まりしている。政策金利の引き上げもあり住宅価格の高騰には歯止めが掛かったものの、その水準は依然高く、一方で金利の上昇は返済負担の増加にもつながるため、かえって住宅を持てないという若者の不満を高めている面もある。

韓国・ソウルの明洞の通り
写真=iStock.com/pius99
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pius99

■4月の総選挙で惨敗、ねじれ国会で内政に手詰まり感

これら景気に対する不満の原因の多くは、何も今に始まったことではない。にもかかわらず、これまで効果的な対応策を打ち出せていないのは、尹大統領の与党「国民の力」が議会の過半数を持たない、いわゆる「ねじれ」の状態が続いている影響が大きい。

韓国の議会は一院制で定数300、任期は4年。与党の議席数は、今年4月10日に行われた議会選挙前で114、「共に民主党」の156議席を大きく下回っていた。尹大統領は今回の議会選挙で勢力拡大を目指したものの、結果は選挙前を下回る108議席しか確保できなかった(図表2)。大統領が弾劾訴追される可能のある100議席割れとはならなかったものの、惨敗と言える結果に終わった。

【図表】韓国国会の議席数

尹政権は年金・教育・労働を改革の3本柱に据え、国民の不満の解消や経済の活性化を目指してはいる。しかしながら、議会で過半数を持たないため立法措置は難航、大統領令のみでの対応を強いられているため、十分な成果が挙げられず支持率の回復につながっていない。

■文在寅氏の元側近は、竹島上陸でアピール

今後は、日韓関係への影響も懸念される。選挙の敗北を受けて議会での尹政権に対する批判が強まり、尹大統領が改善を進める日韓関係に対してもネガティブな動きが増える恐れがある。

それが世論に波及すれば、インバウンドや日本製品の販売に悪影響が出る可能性もあろう。今のところは、訪日韓国人数が4月も66.1万人と台湾や中国本土を上回る最多を維持、今年1月から4月までの累計でも全体1160万人中300万人、実に訪日外国人4人に1人が韓国人という状況にあり、影響は見られない。

第66代法務部長官 曺国氏
第66代法務部長官 曺国氏(写真=韓国法務部/KOGL/Wikimedia Commons)

しかしながら、日韓関係に悪影響を与えかねない動きも出始めている。野党第2党「祖国革新党」、といっても議席数わずか12であるが、その代表を務める曺国(チョ・グク)氏が5月13日、島根県の竹島(韓国名・独島)に上陸し、尹政権の対日政策を批判した。

この曺氏は、文在寅前大統領の側近とされ、元法務大臣ながら子供の不正入学などの罪で昨年2月に実刑判決を受け、現在、控訴中である。玉ねぎの皮のように疑惑が次々と出たことから「タマネギ男」と称され、今回の行動も自身の拠り所を求めるものであろうが、現状に不満を持つ一部の層の支持を得たことも事実である。今後の議会の情勢や野党の言動とその影響には留意が必要であろう。

■反日を利用せず、日米協調路線を継続

内政面で大きな制約と逆風を受ける尹政権であるが、外交は大統領の権限でできる範囲が広いため、その方向性に大きな変化はない。

今年5月27日には日本から岸田首相、中国から李強首相を招き、4年半ぶりとなる日中韓首脳会談をホスト国としてソウルで開催、朝鮮半島の政治的解決に向けて積極的な努力を続けることに合意したほか、日中韓FTAの交渉を再開すること、3カ国での首脳会談および外相会談を定期的に開催することも決めた。

日中韓サミット記念写真(出典=首相官邸ホームページ)
日中韓サミット記念写真(出典=首相官邸ホームページ)

この日中韓首脳会談は、当初、ホスト国交代のタイミングを意識し、昨年中の開催を目指していた。その点を突いて中国は、開催時期についての協力と引き換えに自国に有利な合意内容へ誘導しようとしたようであるが、韓国側はそれに乗らず、時期を遅らせてでも内容にこだわった。

その結果、共同宣言に「国連憲章の目的および原則、並びに法の支配および国際法に基づく国際秩序に対する我々のコミットメントを再確認した」と盛り込み、中国の国際秩序に対する挑戦的な行動を形式上とはいえ牽制することもできた。

上述の北朝鮮問題への対応やFTAを含めた3カ国での協議の場の継続を含め、今回の会合は東アジア地域の安定と経済発展に一定の成果があったと評価できよう。

■外交問題が成果を示しやすい数少ないテーマ

尹外交の基本である米国との協調路線は揺らいでいない。7月には、2回目となる日米韓首脳会談がワシントンで予定されており、北朝鮮を睨んだ日米韓の防衛体制強化や情報共有の円滑化、サイバーセキュリティーでの連携拡大のほか、中国を意識したサプライチェーン構築などの経済安全保障についても話し合われる見通しである。米国は中国との対峙において日韓の協力を求めており、尹大統領は日本と連携して、そうした役割期待に応えようとしているように見える。

米中の対立が厳しさを増す中で、ともすると日韓の分断を図り自国に有利な形で事を進めようとする可能性を排除できない両国に対して、日韓連携して向き合うことは一つの理に適った選択肢であろう。互いに内政問題では支持率の改善がままならない日韓首脳にとって、外交問題が成果を示しやすい数少ないテーマであることは共通している。

寄り添ってはためく太極旗と日章旗
写真=iStock.com/Aleksandra Aleshchenko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aleksandra Aleshchenko

■経済面では協力・共存関係ができている

経済面においても、そもそも日韓は相互補完関係にある。2023年の米中を含めた両国の貿易関係を見ると(図表3)、日本は中国に対し473億ドルもの貿易赤字だったが、韓国に対しては187億ドルの黒字であった。

【図表】日韓=米中の貿易関係(2023年)

一方の韓国は、その裏返しで日本に対して赤字となるが、中国に対しては53億ドルの黒字であった。これは、韓国が日本から生産用の機械や原材料を輸入し、中国へ半導体などの製品を輸出するという貿易構造を反映している。韓国の対中黒字は、この数年で大きく減少してはいるが、かつてはこうした関係がより明確であった。

また、韓国は同様の構図で米国から444億ドルもの黒字を稼いでいる。そして日本も、中国に対する赤字の一部を韓国からの黒字で補っている。すなわち、素材や製造用機械に高い競争力を持つ日本と最終製品の販売を得意とする韓国とは、貿易を通じて協力・共存しているわけである。

そのほか、エネルギー確保や少子高齢化は日韓共通の課題である。今回の日中韓首脳会談に合わせて行われた日韓首脳会談は、水素・アンモニア・量子分野に加えて、脱炭素や重要鉱物分野での協力を加速させることなどで一致した。このように、両国の間で協調できる部分は多いため、仮に選挙の結果を受けて議会で逆風が強まったとしても、産業界においては日韓の協力関係が続くと考えて良いだろう。

■日韓連携は日本のためにもなる

不評を買っていた尹大統領の態度にも、変化が見られる。4月22日には尹大統領が久しぶりに記者会見に応じ、29日には共に民主党の李在明代表と会談、野党と対話していく姿勢を示した。さらに5月9日には、批判の対象になりがちだった夫人の疑惑について謝罪までしている。

こうした一連の行動により、世論調査で一時は17%もの人が支持しない理由に挙げていた「コミュニケーション不足」が、冒頭で触れた通り9%へ低下している。

今後、尹大統領自身の変化や景気の改善に加え、産業界における日韓の協力関係が深まり、その成果が尹政権の支持につながるのであれば、3年後の大統領選での与党「国民の力」の勝利も視野に入ろう。韓国における保守政権の継続が、安全保障の観点から日本にとってメリットが大きいことは、前の革新政権時代の状況を振り返れば明らかである。

日中韓サミット 2024年5月26日
日中韓サミット 2024年5月26日(写真=首相官邸ホームページ/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

米国がトランプ政権となれば、その意味は一層重要になる。同盟国との連携強化よりも一対一でのディールを好むトランプ大統領にとって、日韓の連携は自国の外交戦略において障害以外の何物でもない。中国にとっても、同様に日韓の分断が外交交渉において自国の立場を優位にするだろう。

日本としては、一部で語られる感情論を横に置き、激変する国際社会において何が自国に有利な状況を作り出す要素となるのかという観点で、日韓関係の重要さを認識すべきであろう。

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武田 淳(たけだ・あつし)
伊藤忠総研社長・チーフエコノミスト
1990年3月、大阪大学工学部応用物理学科卒業、2022年3月、法政大学大学院経済学研究科修了。1990年4月、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。第一勧銀総合研究所(現みずほ総合研究所)、みずほ銀行総合コンサルティング部などを経て、2009年1月、伊藤忠商事入社、マクロ経済総括として内外政経情勢の調査業務に従事。2019年4月、伊藤忠総研へ出向。2023年4月より現職。テレビ東京「モーニングサテライト」でレギュラーコメンテーター、日経QUICK東京外為コメンテーター。

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(伊藤忠総研社長・チーフエコノミスト 武田 淳)

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