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「空き家が増える=マンション価格が下がる」わけではない…大学教授が「空き家問題は虚像」と断言する理由

プレジデントオンライン / 2024年6月28日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

空き家が増えると中古マンション価格も下がるのか。都市計画が専門の麗澤大学工学部教授の宗健さんは「そもそも空き家率は調査によって結果が大きく異なるため注意が必要だ。また、空き家率が上昇したとしてもマンション価格への影響は限定的である。不動産価格は社会情勢から受ける影響が大きいからだ」という――。

■「空き家率が過去最高」と言うけれど…

4月に発表された「令和5年住宅・土地統計調査」(総務省統計局)では、「空き家数は900万戸と過去最多、空き家率も13.8%と過去最高」とされており、空き家は大きな社会問題だとされている。しかし、住宅・土地統計調査の空き家は実態より多くカウントされている可能性が高く、実際は問題ではないレベルだ。詳しく説明しよう。

空家問題をあおる主張のほとんどは、住宅・土地統計調査の空き家数・空き家率を元にしているようだが、住宅土地統計調査(以下「住調」という)は、さまざまな調査項目の一部に空き家に関するものが含まれているだけで、そもそも空き家の把握を主目的とした調査ではない。

また、国勢調査のような全数調査ではなく、「1調査単位区当たり17住戸、計約340万住戸・世帯」を対象とした抽出調査となっている。

しかも、郵送や調査員への手渡しのほか、インターネットでの回答も可能とはいえ、調査対象の全員が回答しているわけではない。

■「住宅・土地統計調査」の空き家調査は目視に頼っている

そして、回答が得られなかった場合については、令和5年の調査方法には「調査員等が建物の外観を確認したり、世帯や建物の管理者に確認するなどして作成した」と、平成25年の調査方法には「空き家などの居住世帯のない住宅については,調査員が外観等から判断することにより,調査項目の一部について調査した」と記載されている。

つまり、調査対象が空き家だった場合には、そもそも調査の回答が得られないが、実は居住者がいるのに(空き家でないのに)回答がない場合でも、調査員が空き家だと判断すれば、その家は空き家にカウントされることになる。

そして、国土交通省の2009年の「空家実態調査」に、「外観上明らかに空家と判断できる住宅が少なかった。二次的住宅などは外観から判断できなかった。集合住宅はオートロックが多く中に入れなかった」とあるように、外観で空家かどうかを判断することは相当難しい。

住調は抽出調査であるため、もともと誤差を含んでいるが、空家かどうかを調査員の目視判断に頼っているため空家数が過大に見積もられている可能性が高い。逆に居住有り住宅数は過小に見積もられている可能性が高い。

■住調と国勢調査では、世帯数が大きく異なる

居住有り住宅数は、本来、世帯数と同程度か世帯数よりも多くなるはず(学生や単身赴任の場合があるからだ)だが、令和5年住調の住宅総数は約6502万戸で、そのうち居住世帯有り住宅総数は約5564万戸となっている。

一方で、調査が行われた2023年1月1日現在の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」の世帯数は約6026万世帯となっている。

その差は、6026-5564=462万世帯と非常に大きく、国勢調査の世帯数6026万に対して居住住宅数が5564万しかないのは明らかにおかしい。これは、少なくとも数百万の単位で、実際には人が住んでいるにもかかわらず空家だと判断された住宅があることを強く示唆している。

もし、462万戸が空家でないとすれば、空家約900万戸は実際には438万戸となり、空き家率は6.7%となる。そして、住民票を移していない学生や単身赴任の世帯があること、住居ではなく事務所等で使用されている住宅があることを考慮すれば、空き家率が6.7%より低い可能性は極めて高く、空き家率も空き家数も実際には問題となるような水準ではない可能性が極めて高い。

家具のない部屋
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

■民間調査・自治体調査の空き家率とも違っている

民間でも住宅の入居率は公表されており、例えば日本賃貸住宅管理協会が発表している「日管協短観」の2022年度データでは、会員の管理する賃貸住宅の入居率は、全体で95.3%、委託管理で94.0%となっており、サブリースでは97.3%と極めて高い水準になっている。

これは、住調(「平成30年住宅・土地統計調査」総務省統計局)の賃貸住宅空き家率22.7%(令和5年住調の賃貸住宅空き家率はまだ発表されていない)よりも大幅に低い。

自治体も住調とは別の独自の空家実態調査を実施しているところが多い。

例えば、空家数が日本一多いことで、将来性がないと指摘されることもある世田谷区(島根県と鳥取県の人口よりも多い約92万人の日本一の人口を抱える市区町村だから空家の絶対数が多いのも当たり前だ)も空家実態調査を行っている。

平成29(2017)年11月に発表されている「世田谷区空家等実態調査報告書【暫定版】」では、空家の可能性が高い建物は966棟と記載されている。

これは平成30年住調(令和5年住調の市区町村別空家数はまだ発表されていない)の世田谷区の空家数5万250戸とは桁違いに少なく、そのほとんどが戸建ての空家だと考えられる住調のその他の住宅の空家数1万2580戸と比べても桁違いに少ない。

世田谷区以外でも、令和5(2023)年3月に発表された「荒川区空き家実態調査報告書」では空き家率は3.2%とされており、平成30年住調の11.8%とは全く数値が違う。

地方でも例えば埼玉県久喜市が2021年3月に発表した「久喜市空家等実態調査報告書」では、空き家数は1779件とされており、平成30年住調のその他空き家3260戸の半数程度、新潟県村上市の「令和4年度村上市空家実態調査」では、空家数は1987軒とこちらも平成30年住調のその他空家数2780戸より3割程度も少ない。

■空き家率が不動産価格や家賃に与える影響は小さい

一部の人たちは、空き家によって不動産価格が大きく下落すると主張している。例えば世田谷区の住調の空家数が多いことで、世田谷区の不動産価値が下落すると主張している。

しかし、筆者の2017年の論文「地域の空き家率が家賃に与える影響」や2018年の論文「地域の共同住宅空室率が中古マンション価格に与える影響」では、地域の空き家率が家賃や中古マンション価格に与える影響は限定的であることが示されている。

例えば、家賃は、東京23区では空き家率が1%上昇したとき0.13%下落し、福岡市では0.06%下落する。中古マンション価格は、東京23区では地域の空き家率が1%上昇したときに0.12%下落する一方、福岡市では0.75%上昇する。

最近は、コロナ禍による新築着工の減少や、東京圏への人口流入の増加、インフレ傾向などもあり、家賃もマンション価格も上昇傾向にあるが、そうした社会情勢による家賃・不動産価格の変動に比べれば、空き家率による影響は極めて小さい。

もし空き家率が家賃や不動産価格に影響を及ぼすとしても、そもそもの空家数が過大に算出されている可能性が高いということを考慮すれば、例えば世田谷区の家賃や不動産価格が下落するという予想はおそらく高い確率で外れるだろう。

住宅の模型
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■「空き家を活用して移住促進」には無理がある

さまざまな地域で、さまざまな空家対策が行われているが、地域社会にとって空家は結果であり、原因ではない。

空き家が増えたから地域の活気が失われたわけではなく、人が減って、それが空き家を生み、同時に地域の活気を失わせた。

不動産価格も家賃も同じで、空き家が原因ではなく、人が減ったという事象が空き家を生み、不動産価格と家賃を下落させた。空き家が直接不動産価格と家賃を下落させたわけではない。

このような同じ一つの原因から生まれる複数の結果に関係があるように見えることを疑似相関という。だとすれば、地域の空き家をゼロにしても、基本的には地域はなにも変わらない。

地域の空き家を利活用しようとする取り組みもあるが、地域の古民家や旧宅等の利活用と、単なる古家では状況が全く違う。40年以上前の旧耐震物件の古家は、耐震性や断熱性、間取りや外観デザインなど、現代の水準ではとても積極的に住もうと思えるものではない。

そうした古家をどうにかするよりも、移住者を集めるなら新築住宅を供給するほうが、効果があるだろう。

そして、とても人が住みたいと思えるようなものではない古い空き家は、利活用を考えるよりも積極的な滅失を促進すべきだろう。

■「空き家が問題だ」を疑ってみたほうがいい

現在の状況は、社会全体が「空き家が問題だ」と思い込んでいる状況であり、筆者の主張はなかなか受け入れられないし広まらない。

こうした思い込みは、個人の場合は「メンタルモデル」とか「認知バイアス」と言われるが、それが社会全体に存在するわけだ。

メディア関係者からは、「空き家問題が深刻化しています!」というのなら記事になるが、「実は空き家はそんなに多くはありません」というのは記事にならない、とよく言われる。

だとしても、現在の日本は財政的にも人口動態的にも政治的にも、解決すべき社会課題のすべてに取り組む余裕はない。

だとすれば、社会課題に対して優先順位を付けなければならず、空き家が原因ではなく結果だとすれば、他に優先すべき社会課題があるだろう。

そして、こうした社会課題への優先順位を考える時には、住調のような一つのデータだけに根拠を求めるのではなく、複数のデータを組み合わせ、全体がどのような状況になっているのかを客観的に把握する、科学的な視点が欠かせないだろう。

また、住宅・土地統計調査を責めるのは少し酷な部分があることも申し添えておく。統計調査は継続性が大切であり、調査方法を安易に変えられないという制約があるためだ。その意味では、特に情報を発信する人たちには、データを見る科学的な姿勢が大切であることはいうまでもない。

空き家問題とは、そうした科学的視点の欠如がもたらしている虚像である可能性があるのだ。

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宗 健(そう・たけし)
麗澤大学工学部教授
博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。

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(麗澤大学工学部教授 宗 健)

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