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原因はおしゃれ路線の失敗だけではない…絶対王者ホンダ「N-BOX」がスズキ「スペーシア」に負けた意外な理由

プレジデントオンライン / 2024年6月20日 7時15分

「軽四輪車通称名別新車販売確報」より筆者作成

全軽自協の新車ランキング(2024年5月)で、スズキ・スペーシアが1位となり、23カ月連続で首位だったホンダ・N-BOXが2位となる波乱があった。自動車ライターの小沢コージさんは「N-BOXの首位陥落について『シンプル&クリーン路線の失敗』と論評されているが、最大の原因はそうではないだろう」という――。

■なぜホンダ・N-BOXが首位陥落したのか

ま、マジかよ……。今月半ば、不肖小沢は軽乗用車月販ランキングを見るなり目を疑いました。N-BOXが……スペーシアに負けているぜ。

その差たった578台とわずかではありますが負けは負け。小沢の記憶の限りではここ10年間、N-BOXが軽自動車販売で1位から落ちたことはほぼありません。正確には、初代N-BOXが2011年12月に発売されて以来、翌2012年度から(2014年度除く)昨2023年度まで軽自動車1位。実に11回も年間トップを獲得しているのです。

いわゆる白ナンバーの登録車を含んだ乗用車オールジャンルでも2017年度からずっと1位。厳密に言えば2020年度はトヨタヤリスに負けていますが、ヤリスは「ハッチバックのヤリス」と「SUVヤリスクロス」他の合算なので、単一ボディではN-BOXが7年連続で年度1位となります。

むろん今回は月間セールスなので年間セールスはどうなるかわかりません。ただ、今年に入って気になる動きがありました。

1月はいつも通りN-BOXが2位スペーシアを5000台以上抑えての1位だったのですが、2月はN-BOX1万6542台、スペーシア1万5066台と1500台切りの僅差。

3月は決算期でN-BOX2万360台とすごかったですが、スペーシアも1万7869台と2500台弱差でしたし、4月もN-BOX1万4947台にスペーシア1万2532台差と同様。

■フルモデルチェンジしたばかりなのに

今まで軽自動車1位のN-BOXと軽2位の車種の月の月販差はラクに5000台前後はありました。確実に差は縮まっており、この5月で逆転。もしや24年通年か24年度で大逆転する可能性が出てきました。

それ以上に気になる数字があります。それは毎月の「前年累計比」です。これまた2024年に入るなり激震で、N-BOXが1月から5月まで軒並み80%台に落ちているのに対し、スペーシアはほぼ130%台で、5月はなんと141%!

2車種の前年累計比
全軽自協「軽四輪車通称名別新車販売確報」より筆者作成

どちらの車種も去年10月から11月にフルモデルチェンジした新型なのです。発売1年どころか3カ月で“旧型より売れ行きが落ちた”3代目N-BOXに対し、逆に“去年の4割増しで売れてる”新型スペーシア。これだけ勢いが違えば、逆転も当たり前と言えば当たり前なのです。

3代目N-BOXが失速した理由はなんだったのでしょうか。

■ホンダの「シンプル&クリーン路線」

まず挙げられるのは、3代目N-BOXのいくつかの失策です。10月のフルモデルチェンジ時は正直小沢からみても「大丈夫かな?」と思う点がいくつかありました。

まずは「シンプル過ぎるデザイン戦略」であり、端的には「地味めなフロントマスク」です。骨格たるプラットフォームを変えなかった点はスペーシアも同じであり、そこはイーブン。ところがスペーシアが自慢の道具感あふれるパワフルデザインをさらに強化したコンテナフォルムできたのに対し、N-BOXは逆にシンプルにしました。

これは、現行ステップワゴンや今度出る新型フリード同様の、最近のホンダ開発陣が好む「シンプル&クリーン路線」です。まず標準ボディは「スッキリ雑貨デザイン」となり、クルマ好きでない女性にはウケそうですが、そうでない方からすると「どこが変わったんですか?」と言われそうなムード。

それ以上に小沢的に気になったのは本来ワイルドさを追究するはずのN-BOX CUSTOMのデザインです。

カスタムはカスタムで、N-BOX標準とは別目線でギラギラさせればいいものを、同じスッキリクリーン路線で、光るメッキ面積も減らしました。

ホンダデザイナー的にはそちらの方が理想だったのかもしれませんが、お客の好みは違うのではないでしょうか?

「すっきり塩ラーメン」は透き通った淡麗味でもいいかもしれませんが、「濃厚醤油とんこつ」まですっきり淡麗味とは……。そこは出た当初から不安を感じていました。

■新型スペーシアとの大きな違い

インテリアもおしゃれ路線に振り切ったのが気になっていました。

全車7インチデジタルメーター採用はいいのですが、メーター回りのゴテゴテ感がなくなり、すっきりデザインに。むろんコッチの方が好きな人がいるのも分かりますが、実際ここまで「すっきり」を求めている人はどれほどいるでしょう?

3代目N-BOXのインパネ
筆者撮影
おしゃれで、すっきりとした3代目N-BOXのインパネ - 筆者撮影

それから助手席前の大型トレイです。実は2代目N-BOXを所有する小沢ですが、物入れが豊富で、特に助手席前は便利で気に入っていました。とはいえティッシュや充電中のスマホが見えてしまい乱雑に見えてしまうのは否めない。

新型ではそれを嫌って、隠せる収納にしました。これまた賛否両論ですが、ホントに軽自動車ユーザーはそこまで潔癖性を求めるのかな? と疑問でした。

しかも競合スペーシアはそのN-BOXが捨てた助手席前大型トレイをさらに超大型にして採用してきたのです。

■「質感向上」か「わかりやすさ」か

走りに関しても新型N-BOX、スペーシアともに基本パワートレイン回りは旧型のブラッシュアップ程度で、新型スペーシアがノンターボに他のスズキ車で使っていた低燃費タイヤと空力を改善してきたぐらいでした。

しかしN-BOXが燃費スペックをほとんど変えずに、走りの質感、乗り心地、静粛性にこだわり、「質感向上」してきたのに対し、スペーシアは表面的なノンターボの燃費スペックを結構上げてきました。

加え装備面でもN-BOXにはない「スリムサーキュレーター」や「リア席USB」、前代未聞の「マルチユースフラップ」、「ステアリングヒーター」などを装備。

マルチユースフラップ
筆者撮影
オットマンとしても使える新型スペーシアの「マルチユースフラップ」 - 筆者撮影

走りや使い勝手面でも、N-BOXが目に見えづらい「質感向上」作戦できたのに対し、スペーシアは数字や装備面など「わかりやすいコンテンツ増加」作戦で対抗してきたのです。

これまたラーメンに例えれば、出汁の味を研ぎすませてきたN-BOXに対し、スペーシアは新たなる健康素材の初採用とトッピング量の増加で迫って来たようなものです。分かりやすさが違うのです。

■総合的にはN-BOXのほうが上だが…

とはいえ冷静に見て、小沢はN-BOXとスペーシアだったら今なお前車の方が総合的な質は高いと思います。根本的なホイールベースの長さからくる室内の広さ、加速フィールの気持ち良さ、静粛性、内装クオリティ、乗り心地、どれを取ってもアドバンテージはあるでしょう。実燃費もモード燃費ほどの差はないでしょうし、N-BOXが今回、本来の魅力たる質の高さをさらに上げてきた戦略もわからなくはないのです。

しかしスペーシアの方が、味だのなんだの云々以上に「新しくなった感」「お買い得さ」「飛び道具的装備」では確実に上回っていました。

新車が出揃った中で、どこ変わったの? と聞かれた時に長々とわかりやすく話せるのは間違いなくスペーシアの方なのです。その差が、1年経たずに販売8割台に落ちたN-BOXに表れていると思います。

スペーシアのインパネ
筆者撮影
N-BOXに比べて「こってり」感のあるスペーシアのインパネ - 筆者撮影

■真の要因はダイハツにあった

もう一つ、恐らく次に述べる要因がなければN-BOXが販売を絶妙に落としてたとしても、まだまだスペーシアには抜かれてなかったはずです。

なにしろざっくり月単位で、多い時には1万台以上の販売数の差があった両車。23年3月の決算期はN-BOXが2万7811台で、スペーシアが1万3137台。その差は1万4000台以上という完璧なるダブルスコア。

そう、実のところ最大の要因は、昨年12月20日に発覚したダイハツ認証不正問題です。え? ダイハツの不正がなぜスズキの販売に影響を? と思うかもしれませんが、業界事情に詳しい人ならピンと来るはずです。

■ダイハツ→スズキにユーザーが流れたワケ

12月20日に前代未聞の全車出荷停止を発表したダイハツ。以来、販売店では在庫は売っていたはずですが、新車が入らなくなり、販売は激減しました。

例えば24年1月、ダイハツで人気ナンバーワンのタントは4849台と辛うじて8位をキープしましが2月は1963台で12位。それ以外のミラ、ムーヴ、タフトは推して知るべしです。それまで順調に売れていたダイハツ乗用車は、ここ半年間、ほぼ新車市場から姿を消していたのです。

一方、ダイハツ車が買えなくなった潜在的な新規軽ユーザーはどこに行くのか?

もちろん家庭用なら買い控えもあり得ますが、軽は業務用だったり年度末の買い換えも多い商品です。行き場を失った客はどこに行くのか。

それは間違いなくスズキなのです。

確かにダイハツとスズキで価格設定だったり、商品構成が特に似通っていたりすることはあります。しかし、いまやホンダはもちろん、日産&三菱の軽ラインナップもある程度揃っています。ではなぜ、ほぼスズキに限ってなのか。

最大の違いはダイハツもスズキも昔から販売台数の半分かそれ以上を「業販」していることです。業販とは正規のメーカーお抱え大型ディーラーではなく、街の自動車屋や修理店、時にバイクショップなどで新車を売る販売形態です。特に大都市ではなく、郊外に多いやり方です。

両ブランドとも業販が多く、しかもダイハツを取り扱っている店で、スズキも取り扱っているケースは決して少なくないのです。

「おい、タント買えなくなったじゃないか! なに買えばいいんだよ?」と言われた業販店セールスがこう言うのは目に見えています。

「いやいや社長、ちょうどスズキ・スペーシアがありますから。しかも3代目が出たばかりだからモノはフレッシュでナイスタイミング!」

事実、タントは昨12月には1万1000台も売れていました。その半分がスペーシアに流れたと仮定しても、成功は火を見るより明らか。

N-BOXはそのほとんどが正規ディーラーで売られているので、業販店からのプッシュアップは見込めません。加えて、前述のおしゃれ路線から来るお客のとりこぼし。

この2つの要因が重なっての大逆転劇なのです。商品戦略の違いだけで、スペーシアの販売数4割アップは正直説明できません。

■激化する新軽スーパーハイト国民車バトル

もちろん3代目N-BOXは前述の通り、商品として軽トップクラスの質感や走りを変わらず備えています。価格も一見高くなりましたし、一部LEDフォグランプを省くなどの物足りなさも見られました。ただし、ベースグレードから電動スライドドアを標準設定し、カーテンエアバッグを付けるなど、ちゃんと中身を見れば納得できる部分もあるのです。

その当たりをちゃんと説明し、新型の味の良さを体感して頂ければ、まだまだN-BOXは安泰で6月以降のトップ返り咲きはあり得るでしょう。

しかし、一部3代目のもったいない設定は事実であり、個人的にはN-BOXカスタムに、ちょっとド派手な顔つきや、わかりやすい魅力を付けて欲しいところ。

思い切って後付けリアサーキュレーターやUSB、リーズナブルなナビ設定パッケージを追加するなどはありかもしれません。

さらに最後の奥の手たる「N-BOXギア」であり「N-BOXクロスター」の追加! つまりSUV版を作れば相当な起爆剤になるはず。

いよいよ激化する新軽スーパーハイト国民車バトルから目が離せないのです!

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小沢 コージ(おざわ・こーじ)
自動車ライター
1966(昭和41)年神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。退社後「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。主な著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はホンダN-BOX、キャンピングカーナッツRVなど。現在YouTube「KozziTV」も週3~4本配信中。

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(自動車ライター 小沢 コージ)

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