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なぜ「今年の新入社員はひどい」が毎年続くのか…高学歴で優秀なはずのZ世代に「仕事」を教えるときの3大要点

プレジデントオンライン / 2024年6月28日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/:chachamal

Z世代の部下にはどう接すればいいのか。社員教育コンサルタントの朝倉千恵子さんは「今の20代は上の世代と比べて人間関係の摩擦を経験してきていないので、とにかく幼い。仕事ができる人材に成長させるには、これまでとは違う接し方が必要になる」という――。

■風物詩となった「今年の新入社員」愚痴

Z世代の若者とのジェネレーションギャップに悩む声がいたるところから聞こえてきます。40代、50代の管理職世代にとっては“宇宙人”のような不可解な言動に、頭を抱えてしまっている人も少なくないようです。

とはいえ、毎年「過去に例を見ない暑さ」を更新する夏のお天気のように、これまでも「今年の新入社員は、ここ数年で最もひどい……」と言われ続けてきました。それでも、ときには問題児扱いされていた新入社員が、先輩たちを越える結果を出し、会社を支える人材にまで成長することもよくあります。

新時代の価値観を携えて、これまでにはないすごい活躍をする人材になるのか。ただ「使えない」「仕事ができない」「要領が悪い」だけの人材で終わってしまうのか。全ては本人の資質ではなく、新入社員・若手社員時代の職場環境とそこで培った仕事観によって決まる、と私は考えています。

Z世代の新入社員は私たちから見れば、分からない・不可解な存在であることは事実です。しかし同時にポテンシャルの塊でもあります。彼らとどう向き合うか次第で、会社の業績はもちろん、本人のこれからの成長、さらに私たち自身の仕事人生も大きく変わっていきます。

■「打たれ弱い若者」は親世代の責任でもある

40代、50代の管理職の方々とお話をしていると、必ずといっていいほど出てくるのがZ世代の若者たちが「打たれ弱い」「叱るとすぐに落ち込んでしまう」という話です。学校でも家庭でも厳しい躾を受けてこなかった人たちが、社会に出てすぐに厳しい注意指摘を受けると、そのギャップの大きさに戸惑ってしまうのも理解できます。

彼らが打たれ弱いのは事実ですが、それは彼ら自身がなにか努力を怠ったからとか、DNAレベルで弱いからとかそういう話ではないはずです。彼らの打たれ弱さを形成したのはその親であり、社会の環境です。

■親に叱られた経験が圧倒的に少ない

団塊世代以降、恋愛結婚が当たり前となり家族の形も変わりました。「友達家族」といった言葉が流行し、今の家族は一昔前の家族と比べて、色々な意味でとても仲が良いです。もちろん、それは良いことではあるのですが、だからこそ家庭の中で叱られた経験が今の20代の方々には圧倒的に少ないです。

実際、「最近の新入社員は少し叱っただけでヘコんでしまうので扱いづらい」と愚痴を漏らしていた人に、「じゃあ、あなた自身は息子さんや娘さんに対して、親として叱る教育をしていたの?」と聞くと、ほとんどの場合答えはノーです。子どもは可愛いし、嫌われたくないからこそ、甘やかしてしまったという人がとても多いです。

自分の子供は厳しく躾をしてきていないのに、同じ会社に入った若者に対しては「打たれ弱い」「当たり前のことができない」とネガティブな評価をするのは、少し虫が良すぎるかもしれませんね。

■上司からの注意・指摘は“ギフト”である

これまで叱られた経験がない人が、社会に出ていきなり0から100、白から黒というような急激な変化に直面すると戸惑ってしまうことになるかもしれませんが、ステップを踏み少しずつ環境に慣れさせることができれば、彼らの受け取り方も変わってきます。

そこで新入社員研修では、まず注意・指摘やフィードバックを受ける心構えから伝えています。

注意・指摘を受けると「叱られた」→「自分はダメだ」と必要以上に悲観的に受け取ってしまう人が少なくありません。しかし、そもそも注意・指摘をしてもらえる、というのは「有難い」ことなのです。

特に昨今はハラスメントの問題があり、上司も厳しいことを言いづらくなっていますし、ましてやお客様から率直なアドバイスがいただけることなんてまずありません。人は、興味がない人に対してはわざわざ注意・指摘はしません。嫌われたり、人間関係が悪くなったりすることを恐れて、思うことはあっても口をつぐむのです。

それでもあえて伝えるということは、その人に対して伸び代を感じ「もっと良くなってほしい」と思っているからこそ。注意・指摘や厳しいフィードバックは、「あなたはダメだ」というレッテルを貼っているのではなく、伸び代に期待してされているからこそいただけるものなのだと伝え、「フィードバックをもらえて良かった!」という感覚を醸成していきます。

■正解を求めすぎる“今時の若者”たち

私は企業研修の講師として、これまで20万人近いビジネスパーソンとお会いしてきました。毎年4月には業種業界問わず、さまざまな新入社員の方々と直接触れ合ってきました。社員教育の業界に身を置いて27年。世代ごとの人材の特徴や価値観の変化も、自分の目で見て、肌で感じてきました。

メンタルが弱い、対面でのコミュニケーションが取れない、周囲の目を気にしすぎる……Z世代の新入社員の特徴が語られる中で、実際に研修の現場で私たちが感じるZ世代の最大の特徴は「正解を求めすぎる」「失敗を怖がりすぎる」という点です。

寝室のベッドに一人で座っている女性の背面図
写真=iStock.com/Farknot_Architect
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Farknot_Architect

周囲の出方を伺う人はどの世代にもいましたが、最近ではそれがほぼ全員です。頓珍漢なことを言ってしまうのが怖いと、簡単な問いかけにも答えられません。とにかくチャレンジをしない。踏み出さない。「とりあえず、間違っていてもいいからやってみよう」という気持ちがないため、やればいいだけなのに、なぜかやらない人がほとんどです。

「はじめの一歩」が遅いので、何をするにしても初動が遅れてしまいます。せっかく高い能力を持っていても、その一瞬の遅れがビジネスの世界では命取りになってしまうこともあるため、見ていてもどかしさを感じてしまうこともあります。

■正解はGoogleに聞いても分からない

そこで、近年の新入社員研修では次のようなポイントを特に強調して伝えるようにしています。

①これから先は正解がないことのほうが多い

Z世代とは1990年代後半〜2010年代ごろに生まれた世代で、まさにデジタルネイティブ、SNSネイティブのはしりです。分からないことはすぐにGoogleに聞き、飲食店も映画も本もまずは口コミをチェックして「ハズレがなさそうなもの」を選ぶのが当たり前。

そうした生活の中でコスパやタイパといった効率意識が強くなり、間違った選択をして時間やお金を無駄にすることを極端に嫌います。実際、研修の受講生でも、小説をまずオチを確かめてから読む、という人がいて驚きました。

しかし、社会に出れば正解か不正解かが白黒はっきり分かれていることのほうが少ないものです。時と場合、立場によって見え方も変われば、正解も変わります。

正解が正解ではない可能性を理解した上で、あとは自分の経験体験を積み重ねていくしかありません。インターネットの集合知はとても便利で、これまで知らなかったことをたくさん教えてくれますが、本当に大切なことは自分の経験からしか学ぶことはできないのです。

■失敗が許される環境で練習させる

②研修の場ではどれだけ失敗しても構わない

いくら「失敗してもいい。それも経験」と伝えたところで、やはり現場での失敗は本人にとってもダメージが大きいものです。失敗してしまったという自責の念や恥ずかしさ、また時には会社に損失を出してしまったり、お客様を怒らせてしまったりすることもあります。

その点Off-JT(職場外での訓練・研修)の場は、どれだけ失敗しても構いません。あくまで“擬似体験”の場ですので、間違えても失敗しても誰も責めることはありません。練習の場でできないことは本番でもできないとした上でロールプレイングなどの実践練習を行います。

例えば、当社の研修では名刺交換の練習も、ただ基本のパターンを教えるだけではなく「相手が大人数だった場合」「先に名乗られてしまった場合」「名刺を落としてしまった場合」など、さまざまなシチュエーションを想定して練習を行います。

失敗が許される環境で練習しできるようになることで、現場に出てからの不安を少なくすることができます。

■「過ぎたるは及ばざるが如し」ではない

③成功する人と失敗する人がいるのではない

一般的に「成功する人」と「失敗する人」がいると思われていますが、それは全く違います。

・成功も失敗もできる人
・成功も失敗もできない人

に分かれると、私は考えています。

失敗するのが怖くて、チャレンジを避けていれば、おそらく大きな失敗をしてしまうことは少ないでしょう。けれどもそのあり方で大きな成功はあり得ません。ですので私はいつも「出過ぎる」ことを覚えてほしいという話をしています。

「今のは言いすぎた」「タイミングが早すぎた」「余計なことをやってしまった」などやり過ぎてしまったことは、周囲から怒られたり、本人も「やってしまった」と気づいたりすることができ、それが経験となり糧となります。反対に困るのは「足りない」パターン。目に見えないので、本人も周囲も気づくことがないうちに機会を失ってしまいます。

私は自社の社員に対しても「やり過ぎてしまった!」という失敗を責めることはありません。本人の考えがあった上での行動であれば、その経験は必ず未来に活きるからです。

「やり過ぎて失敗するのは歓迎です」と伝え続けることで、行くか行かないかで迷ったときに、行動するほうを選べるようになります。

失敗と成功の階段
写真=iStock.com/EtiAmmos
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EtiAmmos

■「まずは質より量」の時代は終わった

そんなZ世代の新入社員たちを育成していく上で、これまでとこれからで大きな違いがあるとすれば、「とにかく量をやらせる」あり方から、まず「正しい努力のやり方を教える」という方法への転換が起こっていることです。

量か質かという議論はこれまでもずっとされてきましたが、「まずは量をこなして、そこで質を見つけて高めていく」というスタンスが一般的でした。私がはじめて営業の仕事に入ったときも、何のやり方も教えられないまま、初日から名刺交換大会に駆り出されました。

とにかくたくさん量をこなし、そこで失敗したり恥をかいたりしながら、自分なりに工夫をして、うまくいくやり方を見出してきました。

しかし、今ではそのやり方は通用しづらくなってきました。量を重ねることの重要性は変わっていませんが、社会の変化のスピードが早過ぎてそれでは間に合わないこと、残業規制などがあってそもそも時間がないこと、そして正解が分からないままやらされる若者たちの心が保たないこと、などが理由です。

■「笑顔で挨拶を」より「上の歯を10本見せて」

そこで今は、「正しい努力のあり方を伝えた上で、量をやらせる」という方法にシフトしています。それも、抽象的表現は使わず、できるだけ具体的に教えます。

例えば「笑顔で挨拶をしましょう」と言っても、笑顔の基準は人それぞれです。本人は笑顔のつもりでも客観的に見ると全然笑っているように見えなかったり、「どういう笑顔がいいのか分からない」と悩んでしまったりしてしまうこともあります。そこで、「いい笑顔とは上の歯を10本見せて、目はこういう形に笑わせた表情のことを言います」と実例を見せ具体的に示した上で練習をさせます。

そんなことまでイチイチ伝えないといけないのか……と思われるかもしれませんが、伝えてください。抽象度の高い指導はまず通用しません。

ただし、Z世代の新入社員はとても素直な人が多いのも特徴です。何も知らないからこそ、真っ白なキャンバスのように、教えられたことをそのまま実践しようという人がとても多いです。こちらの教え方によってものすごく伸びる素養を持っている人がたくさんいるので、爆発的な成長も期待できます。

■小さな成長・成功を見つけ、評価する

毎年、新入社員研修を担当していてひしひしと感じるのが「年々、新入社員が幼くなっている」という点です。デジタルネイティブである今の20代の方々は、私たちがその世代だったころに比べて、賢く、スペックも高いと感じます。一方で、とにかく幼い。

その1つの原因は、人間関係の摩擦を経験してきていないからだと思います。インターネットで自分の趣味嗜好と合う人とばかりつながることができ、面倒くさい人間関係はすぐに切ることもできます。失敗を恐れて一歩踏み込むこともしないので、人間関係のトラブルも少ない。だからこそ、人間的な経験値があまりにも少ないのです。

幼いが故に、社会人として当たり前のこともほとんど知りません。しかし、それは言い換えればまだ「まっさら」な状態であるということ。ここからいかようにも成長していくことができます。

そこでぜひ取り入れていただきたいのが「小さな成長・成功を見つけ、評価すること」です。小さな成長・成功とは、昨日よりも今日、ほんの小さなことであっても成長したり、挑戦したり、工夫した結果うまくいったりした経験のことです。

■先輩・上司は決してバカにしてはいけない

成長は一朝一夕にはいきません。しかしそのプロセスはあまりにも地味で、努力を続けるのは簡単なことではありません。一歩一歩確実に成長し、努力を続けていくために最も大切なのが「成長していることを実感する」ことです。

小さな成長・成功の体験は小さすぎて時に本人も気づいていなかったり、その喜びをすぐに忘れてしまったりします。そこで日々「今日、自分ができるようになったこと」を見つけて言葉に出したり、紙に書いたりしてアウトプットすることを習慣化することで、自身の成長を実感し続けることができ、それが次の行動のモチベーションになります。

先輩や上司の立場にある方は、彼らの小さな成長・成功を「そんなこと⁉」とバカにするのではなく、挑戦した姿勢や一歩進んだ事実をしっかりと認めて承認をしてあげてください。今は、承認こそがやる気に直結します。

新入社員の育成には時間がかかります。これからは、これまで以上に基本的なことから教えなければならず、より長期戦になっていくでしょう。しかし、やった分だけ確実に前進します。「Z世代だから分からない」「仕事ができない」と匙を投げるのではなく、根気強く向き合い続けてください。

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朝倉 千恵子(あさくら・ちえこ)
新規開拓社長/「トップセールスレディ育成塾」主宰
1962年大阪生まれ。小学校教師、税理士事務所、証券ファイナンス会社などの勤務を経て、人材育成の企業に営業職として入社。営業未経験ながら、礼儀礼節を徹底した営業スタイルを確立し、3年で売上NO1、トップセールス賞を受賞。その後、自身の営業ノウハウを広く伝えるべく独立。2004年6月、株式会社新規開拓設立、同代表取締役に就任。女性の真の自立支援、社会的地位の向上を目指した、「トップセールスレディ育成塾」を主宰。開講から20年経ち、卒業生は延べ3800名を超える。これまでに著作は41冊(累計約48万部)刊行され、近著に『運を整える。』(内外出版社)がある。

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(新規開拓社長/「トップセールスレディ育成塾」主宰 朝倉 千恵子)

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