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なぜ巨大IT企業の「日本への建設ラッシュ」が起きているのか…「これからは中国より日本」というIT業界の本音

プレジデントオンライン / 2024年6月24日 8時15分

宮城県大衡村に新設される半導体工場のモデルとなる台湾PSMCの新工場=2024年5月2日、台湾北西部苗栗県 - 写真=共同通信社

■半導体大手・エヌビディアが時価総額で世界首位に

足許、国内で半導体の工場、データセンターの建設ペースが加速している。わが国経済を概括すると、個人消費の伸び悩み・自動車の認証不正問題などの悪材料と、半導体とAI向けデータセンターの“建設ラッシュ”の好材料が混在する状況だ。ただ、半導体・データセンターの建設ラッシュは今後も続くとみられ、長い目で見てわが国経済の下支えになるはずだ。

半導体工場の建設増加は、世界的なAI分野の成長加速によるところが大きい。その証拠に18日、米エヌビディアの時価総額は3兆3400億ドル(約527兆円)に達し、マイクロソフトを抜いて世界最大の企業となった。

AIチップの需要は旺盛で、当面、供給は需要に追いつきそうもない。それに伴い、AIチップ開発に参入する企業も増えた。そうした状況下、世界の有力半導体企業は半導体部材メーカーが集積するわが国を重視し始めており、これからも半導体工場の建設ラッシュが続くとみられる。

■台湾は九州に“大規模産業都市”を構想か

AIの成長には、データセンターの機能が欠かせない。データセンターは、AIの成長に必要不可欠の要素だ。高性能のAIチップを搭載したデータセンターの導入で、トレーニングの成果も高まる。自国民のデータ(住所、職業、性別など)の安全な管理のためにも、大型のデータセンターの必要性は高まる。

今後、AIチップの供給力、データセンターの増加は、経済安全保障により多くの影響を与える。企業は収益源の拡充をめざして、半導体・AI分野で設備投資を増やすことになるだろう。政府は政策面からその動きを支援し、本格的な景気の回復につなげることが重要だ。

AIの加速度的な成長で、世界的な産業構造は急速に変化している。足許、わが国でも、半導体工場やデータセンターの建設ラッシュが起きている。

5月下旬、台湾の郭智輝経済部長(経済相)は九州に、より大規模な産業都市を整備したいとの考えを示した。現在、TSMCは台湾の“新竹科学園区(サイエンスパーク)”で、回路線幅3ナノ(ナノは10億分の1)メートルの最先端AIチップなどを製造している。

■三菱電機、ローム、キオクシア…続々と工場建設進む

一方、台湾で半導体人材は不足している。中国からの圧力や地震など災害の懸念もある。水や電力の不足も発生した。課題の克服、より効率的な事業運営を確立するため、TSMCは熊本県で第3工場の建設の可能性に言及した。

熊本県で三菱電機は、液晶パネル工場をパワー半導体の生産に転用する方針だ。宮崎県では、ロームがパワー半導体工場を建設する。米マイクロンテクノロジーは、広島工場をHBM(広帯域幅メモリ、データ転送が速い記憶装置)の主力生産拠点にする計画だ。HBMは、画像処理半導体(GPU)などの演算装置と組み合わせAIに使われるケースが多い。

三重県では、キオクシア(旧東芝メモリ)と米ウエスタンデジタルが四日市工場の生産能力の拡張に取り組んでいる。HBMで先行する韓国のSKハイニックスは、キオクシアへの生産委託を増やすことを検討しているようだ。

宮城県で半導体工場を建設予定のSBIホールディングスと、台湾の力晶積成電子製造(PSMC)は計画を拡張するという。北海道で2ナノ、さらに1ナノメートルの製造ライン稼働を目指すラピダスは、工場建設を急ぎ2025年からの量産開始を目指している。

高度な処理ユニットを備えたプリント回路基板
写真=iStock.com/SweetBunFactory
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SweetBunFactory

■AI需要でデータセンターも建設ラッシュ

政府はラピダスへの融資を保証する方針だ。ラピダスは、米国のIBM研究所などに社員を派遣し関連技術の習熟を目指している。ラピダスは、世界で唯一極端紫外線を用いた露光装置を供給できるオランダASMLや、AIチップ分野でエヌビディアを追い上げるカナダのテンストレントとも協業する計画のようだ。

国内でデータセンターの建設も急ピッチで進む。2024年の国内データセンター投資は、昨年から1.5倍の5000億円程度に増加するとの予想もある。これまで、企業のデータ保存やクラウドコンピューティングサービスの利用で、データセンターの需要は増えた。

足許、わが国全体で安心・安全なデータ利用の需要も急上昇中だ。AI分野の急速な成長で、著作権、行動履歴、納税実績や勤め先などの個人データの重要性は高まる。IT先端企業はAIにより多くのデータを学習させ、推論能力を向上させることを目指している。

■米4社が計4兆円規模の“対日投資”を発表

データの所有権や利用許諾などを明確に管理することは、市民生活にとって決定的に重要だ。そのために岸田政権は、政府クラウドの整備に取り組んでいる。政府クラウドとは、国や地方自治体共通のクラウドコンピューティング基盤をいう。関連分野で米国のグーグル、アマゾン、マイクロソフト、オラクルは計4兆円規模の対日データセンター投資を相次いで表明した。

足許、千葉県印西市などでデータセンター建設が急増中だ。印西市では、海外企業に加え、三菱商事と米デジタル・リアルティ・トラストの合弁会社、MCデジタル・リアルティも大規模なデータセンターを運営し、貸し出しは順調に伸びているようだ。

通信大手のソフトバンクは、液晶パネルを生産したシャープの堺工場の一部を買い取り、AI向けのデータセンターを構築する。堺事業所の土地の6割を取得して電源や冷却設備を導入し、2025年の稼働を目指す。操業が止まった工場、使われなくなった建物をデータセンターに転用するケースは増えそうだ。

■AI分野の成長は、日本経済の構造を大きく変える

ソフトバンクは、北海道苫小牧市でも国内最大級のデータセンターを建設する計画だ。同社は大量の電力を賄うために、再生可能エネルギー利用も進める。北海道では、さくらインターネットも最大1000億円をデータセンター建設に投じる計画という。

さくらインターネットは、国内勢で初めて政府クラウドに認定された。同社は石狩市のデータセンターに1万基のエヌビディアの“B200”チップを搭載し、AI処理能力を高める方針だ。

世界全体で、効率的な企業の事業運営や経済安全保障体制の整備に向け、AIの研究開発は加速している。AI利用により、高性能なチップの必要性は高まる。半導体用の部材などの関連産業が集積している、わが国での半導体工場建設は増えている。AI利用やデータ主権確立もあり、データセンター建設も増えるだろう。

AI分野の成長は、わが国の経済の構造を大きく変える可能性を秘める。NTTは電力企業と組んで、温室効果ガスの排出が少ないデータセンターの運営に取り組んでいる。同社は“夢の半導体”と呼ばれる“光半導体”の研究開発も急ぐ。高速なチップをデータセンターに実装し、AI処理能力と省エネの向上を目指して成長する戦略は明確だ。

■揺らぐ自動車業界を支える次の基幹産業に

米国や中国も、AI分野での需要創出を目指して半導体やデータセンター関連分野の産業政策を実施している。米国はTSMCなどへの補助金を積み増し、迅速な工場建設と稼働を求めている。中国は、政府系ファンドの資金量を引き上げた。ただ、両国の課題は多い。サプライチェーンの集積の遅れ、人材不足、そして素材創出・製造技術の不十分さなど、一朝一夕に解決することはできない。

既存の製造技術を組み合わせて、AIに対応した高性能のチップを低コストで製造する。インテルが、わが国の企業とチップレット関連の共同研究・開発を行うのはそのためだろう。

ほぼ同じタイミングで、同社のアイルランド工場の部分売却も明らかになった。インテルは、イスラエルでの工場建設計画を中止するとの報道もあった。エヌビディアを追いかけるインテルは、わが国半導体産業を重視しているとの見方もある。

わが国の企業にとって、そうした変化を確実に収益につなげる重要なチャンスだ。重要なことは、成長期待の高い分野で設備投資や研究開発を積み増し、高付加価値の(まねできない)製造技術に磨きをかけることだ。その場合、政府の支援策の重要性も高まる。

足許、認証不正問題でわが国経済を支えてきた、自動車の生産体制はやや不安定だ。それを埋め合わせるためにも、半導体工場・データセンターの建設ラッシュを成長産業の育成、中長期的な経済の回復につなげることは重要だ。その意味では、今、わが国経済は重要な局面を迎えている。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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