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認証不正問題、本当に悪いのは国交省とトヨタのどちらなのか…欧米で使われる「アンフェア」の本当の意味

プレジデントオンライン / 2024年6月21日 16時15分

2024年5月5日、国土交通省、観光庁、海上保安庁が入る中央合同庁舎第3号館(東京都千代田区霞が関) - 写真=時事通信フォト

■豊田章男会長への賛成比率が12.64ポイントも下落

トヨタ自動車など自動車各社による「型式認証」を巡る不正の影響は予想以上に大きい。日本ではメディアの報道が控え目なこともあってか、あまり深刻に受け止める向きは多くないが、日本を代表するトップ企業の不正は、日本という国の信用も大きく揺るがしている。

それがトヨタ自動車の株主総会にも表れた。6月18日に開いた株主総会では豊田章男会長ら10人の取締役選任議案などが諮られた。異変が起きたのは会社提案の第1号議案。取締役候補10人のうち、豊田章男会長への賛成比率が71.93%と突出して低かったのだ。2番目に低かった早川茂副会長でも89.53%の賛成票を獲得、佐藤恒治社長の95.44%など残りの7人は92%から97%の賛成票を得た。つまり豊田会長が突出して低かったのだ。1年前の株主総会での豊田氏への賛成率84.57%だったので、12.64ポイントも下落したことになる。

豊田氏に反対票が大きく増えた原因は認証不正であることは明らか。機関投資家に議決権行使を助言するインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)とグラスルイスが、選任議案に反対するよう推奨していた。ISSは認証不正について「(豊田氏に)最終的な責任があると考えるべきだ」と指摘していた。こうした反対推奨に、外国人投資家が従った結果だと見られている。

■トヨタの経営に対する国際的な信用が毀損した

もっとも、トヨタ自動車株のうち「外国法人等」が保有しているのは21%程度。国内の機関投資家の一部も再任反対に動いた可能性が高い。国内機関投資家は議決権行使の基準を持っており、不祥事が起きた場合など責任がある取締役の再任に反対することなどが盛り込まれているためだ。

とはいえ、議決権行使助言会社が圧倒的に影響力を持つのは海外の投資家で、豊田会長への批判票がこれだけ多くなったということは、トヨタの経営に対する国際的な信用が大きく毀損(きそん)したことを示している。

不正を巡る豊田会長の不用意な発言が不信感を広げた面もある。

6月3日に開いた記者会見での発言に朝日新聞が噛みつき、「トヨタでも認証不正 会長『撲滅は無理』『完璧な会社ではない』」という見出しを立てた。2022年にはグループの日野自動車で不正が発覚。2023年は子会社のダイハツ工業でも大規模な認証不正が露見して全車種の出荷を一時停止する事態に直面した。1月30日の会見では、ダイハツの問題はあくまで同社の風土の問題だとし、トヨタ自動車に関しては「私の知っている限りはない」(豊田氏)と発言していた。にもかかわらず不正が明らかになったことへの反省が見られないと映ったわけだ。

■欧米の「アンフェア」は「人間のクズ」と同じ意味

さらに検査についても、国の基準よりも厳しい条件で検査していたと説明したことも、責任逃れのように受け取られた。6月の会見では国の認証制度について豊田氏は「このタイミングで私の口から言えない」としたものの、「(制度と実態に)ギャップはある」とも述べていた。ルールは破ったかもしれないが、ルール自体に問題があると言っているようにも感じられたのだ。

自動車雑誌などの専門誌などは、国の基準より厳しい基準で検査を行っていた点に触れ、国交省の頭が固いのだとトヨタを擁護するトーンの記事が掲載された。これに対して、国交省は、判明した不正行為6事例は、国の基準だけでなく日韓や欧州を含む62カ国・地域が採用する「国連基準」にも反しており、欧州などでも量産できない可能性が高いとする見解を公表したと報じられた。

欧米はこの手の「不正」に厳しい。偶然に起きた誤りは許すが、意図的な不正や改竄(かいざん)は徹底的に追求する。独フォルクスワーゲンの排ガス不正では、これまでに3兆5000億円を超える罰金や賠償金を支払わされた。競争を不正に勝ち抜こうとすることに欧米は厳しいのだ。日本では「アンフェア」という言葉を軽く受け流す傾向があるが、欧米で「アンフェア」と糾弾されるのは「人間のクズ」と言われるのに等しい。つまり、その代償は大きいのだ。

フォルクスワーゲンのエンブレム
写真=iStock.com/deepblue4you
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/deepblue4you

■四半世紀前に起きた問題に酷似している

トップ企業が不正に手を染めていた事実は、日本という国に対する信用度を一気に落とす危険性を秘めている。かつて、1990年代後半に、日本の銀行の信用が地に落ち、金利を上乗せしなければグローバルマーケットで資金調達できない「ジャパン・プレミアム」問題が発生したことがある。バブル期には日本の銀行は世界ランキングの上位を占めるなど金融市場を席巻したが、バブル崩壊によって、日本の銀行などが公表している決算書はまったく信用できない、というムードが広がった。

日本の会計基準や銀行管理の基準がグローバル・スタンダードから食い違っていたこと、また見た目をグローバル・スタンダードに合わせるために様々な操作を行っていたことが発覚。「日本は信用できない」という烙印を押されたのだ。その後、日本は会計基準などをグローバル・スタンダードに合わせることを余儀なくされた。

自動車業界で起きていることは、四半世紀前に起きた問題に酷似している。

■品質検査の偽装や書類改竄は「日本のお家芸」

第二次世界大戦後、日本が経済大国へとのし上がってきた背景には「高品質」という評価を得たことがあった。当初は米国などの商品をモノマネした低価格品を売る国という評価だったが、独自に技術力を磨き、新製品を生み出して、いつしか、高品質のものを低価格で売る素晴らしい国という評価を勝ち取った。「メイド・イン・ジャパン」は品質を保証するブランドになったのだ。

ところがバブル崩壊後、品質を巡る不正が相次いでいる。この20年、品質検査の偽装や書類の改竄などが、まるで日本のお家芸のようになっている。2021年に社長が辞任に追い込まれた三菱電機では35年にわたって検査不正をしていたことが発覚。現場で不正を行うことが当たり前になっているなど、「組織的な不正だったと認めざるを得ない」と会見で述べていた。2022年10月までの調査では本社事業所で197件もの不正が発見されている。しかも、こうした不正が、本社の指示で行われていたものではなく、現場の判断で行われていたことが明らかになっている。

設備を検査する男性
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■「日本の品質」に対する世界の評価は高くないのかもしれない

豊田社長が当初、トヨタでの不正は「私の知る限りはない」と言っていたのも正直な答えだったのだろう。だが、こうした現場の不正カルチャーが日本企業に広がっているとすると、事態はさらに深刻だ。それを一掃するのは並大抵ではないからだ。

かつて、コマツの社長会長を務めた坂根正弘さんが、「怒らないから問題をすべて報告せよと言ってもトップには上がってこない」と嘆いていた。それでも坂根氏は折れずに過去の負の遺産を処理すべく事実解明を進めた。三菱電機は洗いざらい調べ尽くしたと言っているが、それで不正カルチャーが一掃できたのかはまだ分からない。まして、これから不正の温床である社風改革を迫られるトヨタの場合、一朝一夕にはいかないだろう。

日々露見する企業の不正に慣れた我々が思っているほど、もはや「日本の品質」に対する世界の評価は高くないのかもしれない。為替がこれだけ円安になっているのも、日本のモノもサービスも、高い値段では売れなくなっていることの表れなのだと考えるべきなのだろうか。ルールは破っていても品質に問題はない、というのが日本人の主張だと分かったら、誰も「世界一の品質」だと言って買ってくれなくなるだろう。それほど、日本一の会社で発覚した不正の影響は大きいと覚悟しておかなければならない。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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