注意されても、酒もタバコもやめなくていい…和田秀樹が「医者の言いなりでは人生を損する」と説く理由
プレジデントオンライン / 2024年6月29日 10時15分
※本稿は、和田秀樹『本当の人生 人生後半は思い通りに生きる』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
■あなたは「長生き」をしたいのか
私は本当の人生において、大切なのはどのように生きるかの自己決定だと考えています。
遊んで暮らそうとか、世間に名を残したいと思うとか、賢い人間になりたいとか、素敵なパートナーを見つけて幸せだと思えるように暮らすとか、いろいろな生き方があるでしょう。一つでなくてもいいのですが、選択はしないといけません。
その中で重要な選択になるのが、とにかく長生きを目指すのか、少しくらい長生きできなくてもいいから好きなように暮らしたいと考えるかの選択です。
この10年から20年の間に定着した考え方に、尊厳死というものがあります。
延命治療を求めないという自己決定をして、尊厳のある状態で、自然に近い形で死にたいという考え方なのでしょう。
ただ、老年医療を長年やってきて、あるいは、医者というものを長年やってきて、死ぬ間際には、本人の意識がないことがほとんどで、いろいろな延命治療はそれほど苦しいものではないし、本人がつらい思いをそんなにするものではないというのが実感です。
■認知症になってからのほうが「死ぬのが怖くなる」
要するに、尊厳死というのは、周囲から見て、かわいそうな状態だからとか、お金の無駄だから治療をやめようというような形で決められることが実情です。
もちろん、意識や判断力がしっかりしているときに表明し、終末期にそれを実行してもらうということなのでしょうが、人間というのは、理屈通りでない生き物のようで、よく寝たきりになってまで生きていたくないと言う人がいますが、いざ寝たきりになってみると、もっと生きていたいとか、それでもにこやかに食事を食べる姿などを見ることがあって、やはりなってみないとわからないものだと痛感します。
あるいは、認知症というのも「認知症になったら安楽死」などと過激なことを言う人もいましたが、私の経験から言わせてもらうと、認知症になってからのほうが死ぬのが怖くなるようです。
■「医療によって長生きできる」はどこまで信じていいのか
実際、私の患者さんで徘徊する人はかなりの数でいるのですが、家に帰ってこられない(最終的にはみんな見つかりましたが)人はいても、徘徊中に車にはねられた人はいません。やはり怖いので上手に逃げるのでしょう。
だから早いうちから延命治療はやめてくれという意思の表示に、どのくらいの意味があるのかわからないのです。
ただ、一方で、現代医学というのは、所詮は延命治療だという感覚はあります。
たとえば、血圧の薬を飲み、酒をやめ、塩分を控えても、死ぬのが遅れることはあっても、死を避けることはできません。さらに言うと、日本では医者の言うことを聞いた人とそうでない人で、どちらが長生きできるかという大規模比較調査もありません。欧米のデータをもとに医療によって長生きできると言っているだけで、体質も食生活も違うので、どこまで信じていいのかはわかりません。
ということで、私は、これからの食生活とか、生活習慣とか、服薬については、医者が決めるのでなく、自己決定をしていいと思っています。
![患者に症状を説明する男性医師](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/7/1200wm/img_d7fbf59fa949acfcab677ca0c519ca31144703.jpg)
■お酒もタバコもやめるかどうかは自分で決めていい
たとえば、血圧が高い人に関して、高いままのほうが頭が冴えるという人は珍しくありません。高齢になるほど、誰もが動脈硬化が進み、血管の壁が厚くなるので、ある程度以上血圧が高くないと脳に十分な酸素がいかないからです。
その場合、多少寿命が短くなっても頭が冴えているほうがいいのか、薬を飲んでだるい状態が続くが長生きの確率が高いほうをとるかは(前述のように、これがそれほどあてにならないのですが)、自分で決めることです。
塩分を控えろと言われて味気のないものを残りの人生食べ続けるのか、多少寿命が短くなる可能性があっても、自分の食べたい味付けのものを食べるのかも、自分で決めることでしょう。
お酒をやめるとか、タバコをやめるとかも、自分で決めていいことです。
本当の人生における自己決定というのは、自分が本音で生きたいように生きる自己決定です。
■医者の言う「基準値」を緩めてもいい
本当の自分が、どんなことをしてでも長生きしたいと本音で思うなら、医者の言うことを聞いてもいいでしょう。ただ、実は統計データと反することを医者が言う(たとえば、宮城県の大規模調査でやや太めのBMI25~30未満の人がいちばん長生きしているというデータがあるのに、BMI22の標準体重を目指せというようなことを言う)場合は、長生きを優先するなら医者の言うことより、統計データにしたがったほうがいいとは思いますが。
本当の自分が、そんながまんをするくらいなら、そこまで長生きできなくてもいいと思うのであれば、医者の言うことは聞かなくていいのです。
もちろん、自分も多少の不安があるので、一部だけなら聞くというのもありでしょう。
たとえば、お酒はやめられないが、減塩しょうゆを使うとか、薬を飲むのならがまんできるので、そのあたりで妥協する(本当の自分であっても妥協することはあっていいと思います)ということはしていいと思います。
あるいは、医者の決めた基準が厳しすぎるので、それをちょっと緩めるという考え方もあります。
私の場合は、血圧が正常まで下がると頭がぼんやりするのですが、元の血圧(最高血圧220mmHg)なら明らかに心不全に悪いので、薬を飲んで170mmHgを目標にしていますし、血糖値も高めでコントロールしていますが、もとが高すぎる(660mg/dl)ので、朝の血糖値を300mg/dlを目標にするような自己決定をしています。それより高い日はちゃんと薬を飲むということです。
■医者の言いなりではなく、「妥協点」を見つける
もちろん、タバコを吸っているほうがストレスの解消になるし、今さらやめたくないというのも自己決定してかまわないと私は考えています。以前勤務していた浴風会病院に併設した老人ホームでの追跡調査では、ホームに入る年齢までタバコを吸っていた人は、喫煙者でも非喫煙者と比べて生存曲線に差がないというデータもあります。
検査数値の正常化のため、本当の人生の最大の楽しみの一つである食生活とか飲酒とかをやめてしまっていいのかは、本当の人生をどう生きるかのために考えるべきことですし、医者の言うことを参考にして自己決定するのはともかくとして、医者の言いなりになる必要がないというのが私の信念です。
![和田秀樹『本当の人生 人生後半は思い通りに生きる』(PHP新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/8/1200wm/img_581f76b96d4bfe85cc6d4e5ffb52883f150710.jpg)
ただ、医者の言うことと自分の希望の妥協点を見出だすという考え方はあっていいと思います。私が名医と尊敬する鎌田實先生は、菅原文太さんの最後の主治医でしたが、膀胱がんの手術を嫌がる菅原さんの意思は尊重しながら、放射線治療なら受けるということで妥協点を見出したそうです。血圧の高い患者さんについても、薬が嫌だという場合、生活指導なら受けるというのならそこで手を打ったそうですし、酒をやめるのが嫌と言う患者さんに薬ならいいというのならそこで治療方針を決めたそうです。これが患者と治療者の「共同決定」というものです。
配偶者と今後の生き方の方針が違う場合、別れるという選択肢もありますが、配偶者と自分で共同決定するという選択もあるのです。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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