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「年寄りにはわからないから」と敬遠していると脳が老いる…高齢者が本当に使うべき「デジタルツール」とは

プレジデントオンライン / 2024年6月26日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pornpak Khunatorn

年をとっても元気でいるにはどうすればいいか。脳神経内科医の内野勝行さんは「退屈な生活を送っていると脳の衰えが加速してしまう。高齢者こそ最新のデジタル機器を活用して脳に刺激を与えたほうがいい」という――。

※本稿は、内野勝行『退屈ボケの処方箋 脳はスマホで若返る』(辰巳出版)の一部を再編集したものです。

■刺激のない生活が脳の衰えを加速する

人間の脳は、大きく大脳・小脳・脳幹の三つの領域に分けられます。

もっとも大きい大脳は、記憶や思考、感情、言葉、理性などさまざまな機能を司っており、担当する機能は部位によって違います。

小脳は頭の後ろのほうにあり、主に運動能力や身体を整える能力を司っています。そして脳の「付け根」にある脳幹は、呼吸や意識など、生命の基本的な機能を担当しています。

歳を重ねると、この脳が全体的に萎縮していきます。萎縮を止めるのは難しいのですが、やはり身体と同じように、栄養不足にならないように注意したり、トレーニングをしたりすることで衰えにブレーキをかけることは可能です。

そして、脳にとってのトレーニングが、刺激を受け取ったり、感情を揺さぶられたり、考えたりすることです。逆に、なんの刺激もない退屈な生活が脳に悪いのは、家にこもっていると身体の運動能力が落ちるのと同じですね。

■若者には悪影響でもシニアには役立つものもある

ゲームやSNSに時間を費やすことは、たしかに若い世代にとってはマイナスかもしれません。しかし、シニアにとってはどうでしょうか?

新奇な情報に接することなく退屈な毎日を送るシニアにとっては、そういった刺激は救世主になり得ます。脳を活性化してくれるのです。

怪しげな出会いや誹謗中傷など悪い側面ばかりが注目されがちなSNSも、シニアに対してはとても大きな価値があります。社交性は加齢とともに落ちていく傾向がありますが、それを補ってくれるからです。

SNSでのやりとりだって、シニアにとっては貴重なコミュニケーションです。

時にエスカレートして熱くなることがあっても、それは脳への刺激でもあります。

物事を思い出す際には脳のシナプスが活性化します。しかし今の若い世代はスマホで検索してしまうため活性化しづらく、スマホは脳が衰える要因になっている、という説があります。

それはそれで一理あるのですが、やはりシニアにとっては事情が違います。シニアのシナプスは過去の積み重ねで十分に発達しているので、「あれ、なんだっけ?」と思い出す時間は、言ってしまえば必要ありません。

それよりは、さっとスマホで検索して時間を節約したほうがいいでしょう。脳が違えば、スマホとの付き合い方も変わるのです。

■ドーパミンは加齢とともに減っていく

「ドーパミン」という名前を聞いたことがあるかもしれません。これは脳内の神経伝達物質で、心地よさや意欲と関係があることがわかっています。仕事や趣味などで大きな達成を成し遂げたときに、脳内ではドーパミンがドバッと分泌され、快感ややる気が生まれるのです。

ところがこのドーパミンは、加齢とともに減っていくことがわかっています。シニアの生活がなんとなく退屈に感じられてしまうことには、脳科学的な根拠もあるのです。一日中、鬱々とテレビを見続けているようなシニアの脳では、ドーパミンが枯渇してしまっているのでしょう。

でも、何歳であってもドーパミンを出すことは可能です。その手っ取り早い方法が、新しい刺激に接することです。そしてそのためにはデジタルが最適なんです。

■シニア向けのシンプルなスマホではドーパミンが出にくい

スマホの中には新しい情報が膨大にあります。そういった刺激に接するたびに、脳内ではドーパミンが分泌されます。

それ以前に、はじめて手に取ったスマホでは、使い方がわからない場面にも多く出くわすでしょう。そういうときも、ドーパミン分泌のチャンスです。

「どうすればいいんだろう?」→「わかった!」という発見の喜びが、ドーパミンを引き出します。ですから、使い慣れた家電やテレビに囲まれて一日を過ごすシニアよりも、積極的に新しいデジタル機器を使うシニアのほうが元気なのは当然なのです。

この観点から見ると、シニア向けに機能を減らし、使いやすさに特化したようなスマホは、実はよくないのです。「使い方がわかった!」という発見の喜びがなく、ドーパミンが出にくいからです。

ぜひ、若い人々と同じものを使ってみてください。そしてドバドバとドーパミンを出し、脳を若返らせてください。

スマホを使用する高齢者の手元
写真=iStock.com/VioNettaStock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VioNettaStock

■過去の素敵な思い出を反芻するのは脳に良い

デジタルの有効な活用方法はまだまだあります。

認知症の患者さんによく行う「回想法」という治療があります。これはアメリカではじまった心理療法なのですが、認知症の方に、過去のいい思い出を回想してもらうことで、いわゆる「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンやオキシトシンを分泌させるものです。すると脳が活性化して、認知症の進行を抑えたり、自尊心が高まるといった効果が期待されています。

認知症の方は最近の記憶はなくしてしまいますが、昔の記憶は脳の奥深くに残っています。それを掘り起こすと、「そういえばあんなこともあった、こんなこともあった」と関連する記憶がどんどん引き出されていき、脳の中の循環がよくなります。

ちなみに、回想法はうつ病や自律神経失調症の方にも使われる療法です。そういう方は、得てしてネガティブな考えをぐるぐるとループしてしまうのですが、いい思い出に触れることで、その負のループを断ち切れる効果があります。脳にとって、よい記憶を思い出すことは、とてもいいことなのです。

そして、この回想法に近いことが誰でも、より効果的に行えるのがデジタルです。

過去に旅行した場所にまた行くのは簡単ではありませんが、Googleマップを見れば、あっという間にその場所の光景が見られます。ストリートビューという機能を使えば、その場を歩くように散策できるでしょう。

■50年前の青春の1曲をすぐに探し出せる

また、大昔に見た映画やテレビ番組なども、ネット上に残っている場合はしばしばあります。タイトルを思い出せなくても、「ニューヨーク 独身男性 バツイチ 映画」などといった断片的なキーワードから正解にたどり着けるのも、ネットのすごいところです。

なつかしい音楽も過去のいい記憶を呼び起こしてくれますが、ありとあらゆる音楽があふれているYouTubeなどのサイトなら、知る人ぞ知る一曲も見つかります。あなたが卒業した小学校の校歌も、おそらく見つかるのではないでしょうか。

「あの曲はなんだったっけ……」と思い出せない曲があっても大丈夫。「フンフーン♪」という鼻歌から曲名を当ててくれる検索アプリはいくつもあります。

キリがないのでこのあたりにしますが、とにかく、過去の思い出を見つけやすいのもデジタルの特徴です。30年ぶり、50年ぶりに、昔楽しんだ光景や映画、音楽と再会できたら、当時の記憶がブワッとよみがえるに違いありません。そのとき、脳は一気に活性化しています。

■外を出歩く体力はなくてもバーチャルの世界は闊歩できる

デジタルの世界には、VR(バーチャル・リアリティー)など仮想体験があふれています。

内野勝行『退屈ボケの処方箋 脳はスマホで若返る』(辰巳出版)
内野勝行『退屈ボケの処方箋 脳はスマホで若返る』(辰巳出版)

「VRに夢中になると現実を忘れてしまう」などと批判されることもある仮想現実ですが、やはりシニアが元気に過ごすためには効果的です。シニアは若い世代ほど身軽には動けませんが、代わりにバーチャルな世界でいろいろなことを体験できるでしょう。

猛烈に暑い夏や寒い冬は、快適な部屋にいながら、旅行を仮想体験してみましょう。YouTubeには世界中の動画があふれていますし、ゲームや映画を楽しんでもいいでしょう。かつて旅行に行った場所の映像などを見ると、記憶を司る脳の部位である海馬への刺激にもなります。

ちなみに、「寝る前にスマホを見ると睡眠のリズムが崩れる」と言われるのは、パソコンやスマホの画面が発するブルーライトという光線が太陽光にも含まれているため、それを見ることで身体が目覚めてしまうからです。

しかし私はよく患者さんに、「朝、起きたらスマホを見て!」と言います。ブルーライトを利用して身体を目覚めさせるというわけです。シニアの方は体内時計が狂いがちですが、スマホを利用することで、逆に整えることもできるのです。

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内野 勝行(うちの・かつゆき)
脳神経内科医、金町駅前脳神経内科院長
帝京大学医学部医学科卒業後、都内の神経内科外来や千葉県の鏡戸病院副院長を経て現職。TBS「林先生が驚く初耳学」などの医療監修も務め、テレビ出演多数。著書・監修書には『1日1杯脳のおそうじスープ』『疲れをとりたきゃ腎臓をもみなさい』(ともにアスコム)など。

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(脳神経内科医、金町駅前脳神経内科院長 内野 勝行)

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