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失業した若者が階段や公園で行き倒れている…不動産バブルがはじけた中国の「ゾンビ経済」の実態

プレジデントオンライン / 2024年7月5日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pcess609

円安で外国人観光客が増える中、かつて日本で爆買いをしていた中国人観光客は減った。なぜなのか。評論家の宮崎正弘さんは「不動産バブルが破綻し、若者が大量に失業している。海外旅行に出かける余裕がなくなり、中国国内の旅行が主流となっている」という――。

※本稿は、宮崎正弘『悪のススメ 国際政治、普遍の論理』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

■中国の経済繁栄は「去った」

「中国経済は繁栄を続ける」などと多くのエコノミストや某経済新聞が煽ったが、やっぱり嘘だった。

マーガレット・ミッチェルの名作『風と共に去りぬ』。英語はGone With The Windである。

「去った」(Gone)と『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』が皮肉を込めて報じた(2024年2月16日)。中国の経済繁栄が終わり、不動産バブルが破綻し、贅沢を楽しんだ時代が去ったと多くの中国人が認識している実態を正直に伝えたのだ。

香港は2024年3月に「安全保障条例」を改定し、外国企業、報道機関にも規制を加えた。

このためVOA(ボイス・オブ・アメリカ)は香港オフィスを閉鎖する。当該『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』とて、いつまで自由な報道が可能だろうか?

この老舗英字紙は1987年にルパート・マードックのニューズ・コープに買収され、1993年にはマレーシアの華僑・ロバート・クオック(郭鶴年)のケリー・メディア社の傘下に入った。2015年には馬雲(ばうん)のアリババグループに買収された。英国植民地時代は香港政庁の御用新聞と言われた。アリババは中国共産党と対立し、馬雲が事実上、海外へ逃亡しているため、新聞経営の継続が危ぶまれている。

■中国人の旅は「安い、近い、短い」

中国の旧正月といえば獅子舞ならぬ龍舞が練り歩く。世界中にあるチャイナタウンの名物で、凄まじい人出がある。

コロナ禍があけて、旅行ブームが再開、旧正月の8日間の連休には90億人が移動すると当局が薔薇色の予測を出していた。旧正月休みがあけ、職場に戻ったところ会社が閉鎖されていたというケースも頻発した。失業者は職探しの連続である。

2024年2月14日の一日だけの中国新幹線乗客は1425万人だった。上海から杭州、蘇州などの名勝見学が圧倒的で短距離が特徴だ。1月14日から1月26日までに中国の国内新幹線を利用した人は2億3000万人だった。

合い言葉は「安い、近い、短い」(安近短)。杭州から香港への「日帰り」ツアーも新記録となり、また、日頃地方の庶民とは無縁の北京、上海、哈爾浜(ハルビン)への国内旅行も盛況だった。海外旅行には出かける余裕がなくなり国内旅行ですませたのだ。

■庶民の「路上ギャンブラー」が増加

香港旅行がなぜ「日帰り」かといえば、店が完全に休みとなって買い物ができないからである。また、香港ディズニーランドはアトラクションが少なくて魅力に乏しく、幸運の占い、神頼みは黄大山へ行く。そもそも香港人は自由を弾圧されたため、中国人を歓迎しない。

代わりに中国人が集中したのはマカオだった。通年でも一日平均12万人の博徒(ばくと)が襲来するが、旧正月は一日平均20万人、旧正月5日間で90万人にものぼった。不景気だと、逆にギャンブラーが増える。

宝くじ売り場が増えた。ショッピングモールから地下鉄の出入り口、路上、ついには宝くじつき喫茶店も登場。3分の1ほどがスクラッチオフ(インスタント籤(くじ))だ。中国には公営ギャンブルとしての競馬、競輪、競艇がない。パチンコもないから庶民は小銭を賭けあって路上でトランプで遊ぶ。金持ちはマカオへ行く。公営の宝くじは「福祉籤」、「スポーツ籤」、そしてスクラッチオフである。

トランプ
写真=iStock.com/MarcoSilvestri
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarcoSilvestri

2023年の宝くじ売上げは、じつに37%増となって、806億ドル、日本円で12兆円を突破した。日本の宝くじ売上げは2022年度統計で8324億円だから、中国の宝くじ売上げは日本の12倍強となる。いかに異常な数値であるかが分かる。若者の就職難ストレスが大きな原因という。

■「爆買い中国人」は消え、売れ筋も変化

海外旅行の行き先はタイ、次にマレーシア、シンガポールである。いずれも中国人にはビザは不要。コロナ禍以前、中国人のアンケートで「一番行きたい国」のトップは日本だった。

2019年のピーク時、中国人の日本旅行は960万人だった。2023年は回復基調だったといえども往時の4分の1の240万人だった。

インバウンドを期待した旅行業者の思惑は大きくはずれ、ツアー客が殆どいなくなった。個人旅行が増えたのはビザの関係と言われる。日本において嘗ての「爆買い」はなくなった。来日客は宝石、宝飾品、骨董に狙いを定めた。たとえば年代物のウイスキー。昭和の郷愁が残るフィルムカメラも骨董品とされ、彼らの投機対象となる。

一本30万円もする包丁に名前を彫ってもらう一点買い。ブランド物もまだ人気があるが換金能力の高い順番に物色しているのが実態だ。日本製の日常実用品も人気がある。とくに医薬品、それも目薬から胃腸薬、化粧品、オロナイン軟膏の人気は高く、ドン・キホーテでは「消せるボールペン」やステンレスボトルなど、日本人にはあまり興味をひかれない品物が売れる。

■今の中国人は円安の日本すら行けない

日本への外国人観光客のインバウンドは盛んだが、最大の理由は円安である。ドルの所有者なら嘗て200ドルだったビジネスホテルが120ドルくらいで宿泊できる。レストランは北東アジアのなかで一番安い。

「おもてなし」は世界的に有名で珍しくもない。しかし、観光地で騒がしかった中国人が殆どいない。どこへ行ったのか?

中国経済のブームは終わっているのである。

中国は外国籍も含めて、企業のなかに共産党細胞を設置せよと命じた。次に企業のなかにも軍隊組織をつくれと言い出した。ワルは身内も信用しないのだ。

■暇なので軍事訓練に励む「党営企業」

じつは中国企業に勤める多くは潜在的失業者である。社員には、草むしりの代わりに軍事訓練を強要し、不満の爆発を抑えこんでいるのである。これを「軍事的脅威になる」とまともにとらえる必要はない。

外国企業、合弁企業にも例外なく共産党細胞がある。国有企業では党書記がいて、仕事は無能だが、社長より偉い。国有企業というより党営企業である。企業の内部に「人民武装部」を設置した企業が数十社あることが判明した。英紙『フィナンシャル・タイムズ』やインドの『ザ・タイムズ・オブ・インディア』などが2月21日付けで一斉に伝えた。

日本との合弁企業のなかにも人民武装部が設置されていた。習近平の強迫観念ともいえる軍事体制構築の「企業内再編」だが、ボランティアの社員で組織され、中国共産党への服従は絶対だ。人民解放軍の指揮下に位置づけられ、「軍事訓練」や「政治教育」などが企業活動の一環として行われる。

ボランティアとは名ばかりで、いやいやながらノルマをこなしているのが実態だろうと想像できる。企業活動が暇になったからに違いない。繁栄し、多忙をきわめていたら軍事訓練など社内でやっていられるか!

某社ではボランティア社員が「民兵」に早変わりし、30人余が参加していたのである。中国進出の際に求められる「合弁」の形態は、中国側が51%、日本側が49%という組み合わせが多く、社内の管理は中国人が担当するため内部で何が行われているのか、日本側は把握できないのである。

日本企業ばかりか、中国に進出したドイツ大手企業のなかにも人民武装部の存在が明らかとなった。

■失業した若者は「ゾンビスタイル」に

「死んだはずの死体が腐ったままで甦る」。それがゾンビだ。

ルーツはブードゥー教で、語源はコンゴの神「ンザンビ(Nzambi)」に由来する。ハイチではいまもブードゥーが信仰されている。ゾンビの中国語訳は「蛇神」、あるいは「喪屍」。日本語訳をあえて探せば「活性死者」か。

中国映画や漫画でゾンビは普遍化し、2022年1月24日のSNSではゾンビの撮影に成功した映像(フェイクだろう)がTikTokを通して世界に流れて社会問題となった。近年の中国は若者が大量に失業し、階段で転げたまま寝込んだり、公園でうつぶせで寝たりする不作法な行為が増えた。これを「ゾンビスタイル」と言うようになった。

倒産しているのにしぶとく営業している不動産デベロッパーの恒大集団や碧桂園がすべてを象徴する。不動産デベロッパーが軒並み外貨建て社債の利息も支払えないのだから「デフォルト」は明らかだが、中国では正式には倒産として扱われない。これぞゾンビ企業、そして中国経済とは妖怪のような企業がのたうつ「ゾンビ経済」である。ゾンビだから不思議でも何でもないと思えばそれまで。まじめに考えると損をするぞ。

恒大集団
写真=iStock.com/LewisTsePuiLung
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LewisTsePuiLung

■中国が発表するデータを信じてはいけない

経済成長が明らかに停滞しているのに、GDPは成長していると夢遊病のように喧伝する国家統計局は“3割水増し”が常識であり、「公式統計は信用に値しない」と明言したのは李克強前首相その人だった(上海のプールで急死した李克強元首相は暗殺されたと殆どの中国人が思っている)。

たとえば、2023年1月~11月の不動産投資はマイナス9%台だという。そんなに低いはずはない。マンションは随所に建ったけれど殆どが空き屋。2024年2月現在、工事中断が350万戸以上ある(中断物件だけで完成後の幽霊マンションは数え切れない。一説に30億人分だと言われていると『日本経済新聞』が伝えた)。マンションの販売はほぼ90%落ち込んでいる。

投資対象別でみると、住宅=マイナス9%、オフィスビル=マイナス10%、商業ビル=マイナス16.9%。失業率は都市部失業率が5%だそうだ。2023年7月に若者の失業が21%台として以来、2024年1月まで発表はなかった。真相に近い若者の失業率は50%近い。

■中国の株式市場が暴落しない理由

最も奇っ怪なのが株式市場である。経済が不況どころか苦況に陥ったのだから、株価はもっと下がる、というより暴落するはずなのに、中国の株式市場はそれほど下落していない。

なぜか? 国家安全部が厳重に「空売り」を監視し、「金融安全の強力な守護者になる」と共産党が指令を出しているからである。

共産党は現状を「一部の外国と投機筋があらゆる手段を用いて中国の金融市場を撹乱し、空売りを繰り返し、我が国における金融の混乱を引き起こそうとしている」と分析している。自らの責任を棚に上げて他人の所為に、それも陰謀論にすり替えているのだ。

経済議論でも真実を言う人はいなくなった。なぜならSNSで、「中国衰退」と言えば秘密警察がすぐに取り締まるからだ。エコノミストは本当のことを言えない状態である。

■共産党の陰謀論を信じてしまう国民

国家の経済運営と無関係の国家安全部(秘密警察組織)は「経済安全を守る壁を築こう」という論評を公式HPに掲載した。「中央経済工作会議の精神」を受けて、国家安全部も「全力をあげて中国経済の安全を守る」ことにしたのだという。

宮崎正弘『悪のススメ 国際政治、普遍の論理』(ワニブックス)
宮崎正弘『悪のススメ 国際政治、普遍の論理』(ワニブックス)

国家安全部は、「中国経済をおとしめる動きがネット上で飛び交うが、本質は『中国衰退』という虚偽の言説をつくり上げ、中国の特色ある社会主義体制を攻撃し続けることにある。こうした論調は『国家の経済安全を危害する』として徹底的に取り締まる」とした。

『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』(2023年12月23日)によると、同年4月にネット上の3万4000のアカウントを閉鎖し、2万7000件の噂情報を審査し、対象は6300人に達したそうだ。

外国の所為で株価が下落しているなど子供だましの嘘放送にすぎない。しかし朝から晩まで一年365日嘘放送が繰り返されている中国では、ものごとを深く考えない人には「そうか、外国の陰謀なんだ」という偽造の論理が通じやすいのである。

中国のSNSは洗脳装置となった。

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宮崎 正弘(みやざき・まさひろ)
評論家
1946年金沢生まれ。早稲田大学中退。「日本学生新聞」編集長、雑誌『浪曼』企画室長を経て、貿易会社を経営。1982年『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。国際政治、経済などをテーマに独自の取材で情報を解析する評論を展開。中国ウオッチャーとして知られ、全省にわたり取材活動を続けている。中国、台湾に関する著作は5冊が中国語に翻訳されている。代表作に『中国大分裂』(ネスコ)、『出身地でわかる中国人』(PHP新書)など著作は300冊近い。最新作は『誰も書けなかったディープ・ステートのシン・真実』(宝島社)、『ステルス・ドラゴンの正体 習近平、世界制覇の野望』(ワニブックス)。

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(評論家 宮崎 正弘)

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