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日テレ系番組「どうなの課」は、なぜTBSに"移籍"したのか…テレビ局と制作会社の「上下関係」に起きている大異変

プレジデントオンライン / 2024年6月24日 10時15分

画像=中京テレビ「それって⁉実際どうなの課」公式サイトより

TBS系の特番「巷のウワサ大検証!それって実際どうなの会」(6月3日放送)が、3月末で終了した日本テレビ系「それって⁉実際どうなの課」(中京テレビ制作)にそっくりだったとネット上で話題になった。裏側にはどんな事情があるのか。元テレビ東京社員で桜美林大学教授の田淵俊彦さんは「これまで番組の他局移籍はタブーだったが、すでにそういった常識は存在しない。それはテレビ局がすでに『裸の王様』になっているからだ」という――。

■日テレ系の人気番組「どうなの課」とそっくり

6月3日夜にTBS系で放送されたバラエティ特番「巷のウワサ大検証!それって実際どうなの会(以下、「どうなの会」と略す)」を見て、誰もが驚いたのではないだろうか。

3月末まで日本テレビ系でレギュラー放送されていた「それって⁉実際どうなの課(以下、「どうなの課」と略す)」にタイトルから出演者、内容に至るまでそっくりだったからだ。

これまで、番組の放送時間帯が変わったり、同じキャストのまま番組をリニューアルしたりすることはあっても、ほぼ同じ形で他局へ番組が移籍することはなかった。前代未聞の出来事と言っていいだろう。この出来事には、視聴者よりも特に業界人がひっくり返ったのではないだろうか。

なぜ、このようなことが起こったのか。「パクリ番組」と指摘する声もあるが、本当にそうなのか。私は今回の「どうなの会」はパクリでもないし、まったく問題でもないと考えている。むしろ今回の出来事を肯定的にとらえている。その理由をこれから述べたい。

■テレビ業界のタブーだった番組の「他局移籍」

そもそも、なぜ今回の番組の他局移籍が「前代未聞」と言われるのか。

スポーツの世界では野球選手が球団を移籍することはよくあるが、テレビ業界では「タブー」とされてきた。それは私が常日頃から指摘しているテレビ局の「性癖」とも言える「横並び主義」が影響している。

テレビ局は自分だけが突出することを嫌う。他局が報道していないネタには手を出したがらないし、他局を批判したり責めたりすることを極端に避けようとする。

ジャニー喜多川氏の性加害問題でも、他局の出方を横にらみするあまり初動が遅れ、非難を浴びた。日本テレビが昨年放送したドラマ「セクシー田中さん」をめぐる改変問題に関しても、新聞・雑誌メディアが報じても、テレビはほとんど無視状態だった。日テレと小学館の報告書が出されたときは、ニュース番組で短く放送しただけだった。

■どこの局でもやっている「大家族」「大食い」「警察密着」との違い

この「性癖」を裏付けるような経験を私もしたことがある。

20年ほど前になるが、当時私はテレビ東京制作というテレ東の子会社に出向していた。そのころ、ある会議で知り合った他局の制作局次長からヘッドハンティングを受けた。入社後の待遇や条件まで具体的に提示されて、「社長面接を受けてほしい」と言われた。

だが、履歴書を提出したとたんにその局次長が青ざめた。「田淵さんはテレ東の社員だったんだ……」。その人は、私を制作会社の人間だと思い込んでいたのだ。結局、この話は「他局の人材は引き抜けない」ということでご破算となった。いまでは、こういった他局間の人材移籍も容易になった。

以上の例からもわかるように、テレビ局は意外と封建的なところがあって、他局の「テリトリーを侵さない」という不文律がある。それは番組においても同じだ。

ある局で「マグロ漁」が当たれば、他局もマグロ漁特番を組むように、「二匹目のドジョウ」を狙おうとするテレビ制作者は出てくる。「大家族」「大食い」「警察密着」の3ジャンルはどのチャンネルでも番組が組まれているが、決して「同じ番組」を他局に移動させて放送することはなかった。

■「芸能界のパワーゲーム」という指摘も

今回のTBS系「どうなの会」は、日テレ系「どうなの課」と「同じ番組」と誰もが認めるだろう。司会の生瀬勝久氏、その傍らにいる大島美幸氏(森三中)、実験するお笑い芸人も同じ、世の中のウワサを検証するという番組コンセプトもダイエット企画も同じ。さらにはセットやテロップ、ナレーションという演出面まで同じ作りであったからだ。

TBS FREE「巷のウワサ大検証!それって実際どうなの会」公式サイトより
TBS FREE「巷のウワサ大検証!それって実際どうなの会」公式サイトより

ここまで同じなのは、その経緯を聞けば納得がいく。テレビのバラエティ番組を長年制作し、業界の事情に詳しい2人の制作会社経営者に取材した内容を整理すると経緯はこうだ。

「どうなの課」は日テレ系列の中京テレビが制作していたが、同局は3月末で番組が終了することを決めた。この番組を立ち上げたプロデューサーは、局上層部の決定に納得がいかず、会社を辞めてTBSに番組を持ち込んだ。この移籍の裏には、芸能界のパワーゲームが隠されている。元・中京テレビのプロデューサーの糸引きをしたのは制作会社の極東電視台だと言われているからだ。

実際に番組最後に流れるスタッフロールを見てみると、「どうなの課」のときには「制作協力」であった極東電視台は「どうなの会」では「製作」としてTBSと並んでいる。局とクレジットが同列と言うことは、著作権を保持できている、それだけ力が強い、すなわち何らかの功績があったと考えていいだろう。昨年2023年10月1日付で、極東電視台は66%の株式を取得したアミューズの連結子会社となっている。

■変化した制作会社とテレビ局のパワーバランス

中京テレビは今回の事態に激怒し、極東電視台を「出入り禁止」したいところだろうが、そんなことはできないだろう。中京テレビの極東電視台への依存度はとても高いからだ。

極東電視台は、日テレ系で全国ネットされる「オモウマい店」、ローカル放送の「前略、大とくさん」「PS純金」「ぐっと」などのレギュラー番組のほか、帯ワイド「キャッチ!」、さらには「どうなの課」の後番組「こどもディレクター」も制作している。出入り禁止にして困るのは中京テレビのほうだ。

日テレでは、極東電視台は目玉番組「世界の果てまでイッテQ!」「有吉ゼミ」「月曜から夜ふかし」などを制作している。そこにアミューズという後ろ盾まであるのだから、そんな勢力に大きな口をきける勇気はいまのテレビ局にはない。

日テレと中京テレビにとってせめてもの慰みは、博多華丸・大吉両氏と森川葵氏が降りてくれたことだ。所属はそれぞれ吉本興業とスターダストであるから、事務所のほうが忖度したか、局が頼み込んだということだろう。

以上のような経緯を理解してもらったうえで、再度、今回のポイントを整理してみたい。

① なぜ番組の「他局移籍」は、これまで「タブー」だったのか
② 「他局移籍」が行われた理由、原因は何か
③ 今後のテレビ制作・テレビ局に与える影響

■かつて「他局移籍」は例外だった

まず①「なぜ番組の『他局移籍』は、これまで『タブー』だったのか」を検証してゆきたい。実は「タブー」とは言いながらも、これまでも番組の「局間移籍」は存在した。

アニメは基本的に複数企業からの出資で映像制作をおこなう「製作委員会方式」を取っているため、局間移籍は比較的“障害なく”おこなわれるケースが多かった。例えば、「進撃の巨人」は毎日放送からNHKへ、「僕のヒーローアカデミア」は毎日放送から読売テレビへと移った。

バラエティにおいても、よく業界内で話題にあがる「東野・岡村の旅猿 プライベートでごめんなさい…」は当初はTBSの正月特番として放送されたが、2回目以降の放送は日テレに移った。だが、この場合は一度放送しただけであったこと、視聴率が振るわなかったので終了したという理由があったことが功を奏して問題になっていない。現在はシーズン25まで至っている。

このように、試験的に「パイロット版」を制作して放送して視聴者の反応を見たり、視聴率を計ったりすることはよくある。実際に私も前述のテレビ東京制作というテレ東系列の制作会社に出向していた際に、テレ東に「あまりにも予算がかかりすぎて無理」と判断された企画を、日テレに持ち込んで「モクスペ」という特番枠で実現化したことがある。

この場合も、テレ東は「やらない」と断ったので丸く収まった。だが、一度終了した番組が再度「特番」として復活することがよくあるため、終了した番組を他局に流用するのは考えづらい。しかも、「どうなの課」の製著(「製作著作」の略)」は中京テレビだ。「制作協力」の極東電視台には著作権はない。したがって、番組が終了しても何となくその番組の「著作権」は中京テレビに残っているというのがこれまでの暗黙の了解だった。

テレビの収録
写真=iStock.com/flyingv43
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/flyingv43

■「どの局も他局でヒットした番組を虎視眈々と狙っていますよ」

しかし、今回はそれらすべてのセオリーを覆すかたちとなった。ここには、テレビ局の旧態依然の考え方が関係している。テレビ局は何となく「仁義」を重んじるような風潮がある。「企画を通してあげたのだから、その部分は恩義に感じてね」といった押しつけにも近い気持ちがある。そこにあるのは“上から目線の”考え方だ。

「そんなのはいまどきないだろう」と考えるのは甘い。テレビ局は企画を提出した局員や制作会社に対しては、常に優位的立場であるからだ。企画を採択するかどうかは胸三寸、番組を続けるか打ち切るかは局の気持ち次第である。だから、これまで番組の「局間移籍」は「タブー」だったのだ。そんな「裏切り行為」が許されるわけがない。

だが、この考え方はもはや古い。それを証明したのが今回の事件だ。

前掲の制作会社経営者のひとりは、局からの独立組である。局員時代には数々のヒットバラエティを生み出したその彼は、「どの局も他局でヒットした番組を虎視眈々と狙っていますよ」と証言する。彼が手がけた番組を知っている局から、「あの○○(ヒットした番組名)をうちでもやってくれないかな」と言われることがよくあるという。

しかし、彼は「それはやらないことにしている」。その理由は、在籍していた局への忖度である。他局もそうかもしれないが、古巣の局も発注元や企画を通してくれる相手になる可能性がある。何かあったときの制裁は怖い。

■テレビが「企画」を独占した時代は終わった

次に、②「『他局移籍』が行われた理由、原因は何か」である。

上述したように、「他局移籍」を「タブー」とする考え方はすでに昔のものだ。そうなってきた理由としては、テレビ業界のパワーバランスが崩れてきたことが挙げられるだろう。

これまでテレビ番組制作のピラミッド構造の頂点に君臨していたのはテレビ局であった。しかし、これがいま崩れようとしている。「メディアの雄」として長い間、うまい汁を吸ってきたテレビ局は、インターネット配信というまったく新しいシステムの出現によってその座を奪われようとしている。いや、すでに奪われつつある。「ヒト・モノ・カネ」の「ヒト」にあたる人材と「モノ」にあたる企画を独占してこられた時代は終わりを告げた。ヒトはテレビ業界から流出し、今度は企画も流出し始めたというわけだ。

しかし、私はこの現象は悪くないことだと思っている。それが③の「今後のテレビ制作・テレビ局に与える影響」の答えとなる。今後、こういったケースは増えると私は観ている。週刊誌やサイト記事などでは、日本テレビや中京テレビの誤算であったかのように書かれているが、そうではないと私は指摘したい。今回のことは、起こるべくして起こった。

テレビのリモコンを持つ人の手
写真=iStock.com/bymuratdeniz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bymuratdeniz

■人材と企画を疎かにしてきた「ツケ」

その原因は、テレビ局に長年蓄積された「ヒトやモノの還流不全」にある。「人材と企画を疎かにしてきたこと」の「ツケ」が廻ってきたのだ。

テレビ局という組織は現場のクリエイターを軽んじ、ないがしろにしてきた感がある。今回の事件もしかりだ。もし「どうなの課」の担当Pが、会社から「今回は会社の事情でいったん終わるけど、必ずリベンジしよう」「頑張って特番で復活させよう」というふうに言ってもらっていたら、ここまでこじれることはなかっただろう。

ヒトやモノを効果的に還流しきれていないテレビ局の構造的な欠陥や古い体質、人材や企画に対する無頓着さという「膿」が、配信との過当競争時代に直面したことで一気に噴き出したのだ。

テレビ局はこれまでのように「メディアの雄」という存在ではないことを自覚するべきである。テレビの「寡占化時代」はとっくに終わっている。そしていまこそ謙虚になり、原点に立ち戻り、視聴者や現場のクリエイターたちからの信頼を取り戻す努力をするべきだ。そうでないと、本当にそっぽを向かれてしまい、「裸の王様」化してしまう。いや、すでにそうなりつつあるのだ。

具体的には、「コンテンツ・ファースト」「クリエイター・ファースト」の考え方に一日も早くシフトし、コンテンツ(企画)や現場のクリエイターをどう厚遇してゆくかといった施策を練るべきだ。そのためには、企画立案者との詳細な契約書の取り決めなども必要になってくるかもしれない。

■テレビ局の事情を視聴者に押し付けてはいけない

「よい企画」や「よい番組」というのは打出の小槌のように次々に簡単に生み出せるものではない。現場のクリエイターは丹精を込めて企画を練り、日々、それを精査することを怠らない。そういったたゆまない努力から企画が生まれることを局の経営陣は理解するべきだ。

制作会社にとっても「企画は命」だ。自社企画として成立した番組を簡単に終了されたくないのは誰しも同じである。地上波だけではなく、インターネット上の配信の場にも映像ビジネスの商機が広がった。そのため、「よい企画」が足りない。枯渇しようとしている「コンテンツ」という「宝物」をテレビ業界“全体で”守ってゆく試みが必要である。

自局の事情もあるだろう。資金的やほかの事情で番組を続けられないときもあるに違いない。そんなときには、貴重な企画をほかの場所で有効利用してゆくこともありなのではないか。

いま、テレビ業界は「戦国時代」にある。その正念場を皆で力を合わせて乗り切るためにも、自局のことだけを考えていてはいけない。そこに必要なのは優れたコンテンツは「共有」するという考え方だ。それが、現場で日々汗を流して頑張っているクリエイターたちという「ヒト」を活かす一番の道なのではないだろうか。

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田淵 俊彦(たぶち・としひこ)
元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授
1964年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100カ国以上。「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」をテーマにした社会派ドキュメンタリーのほか、ドラマのプロデュースも手掛ける。2023年3月にテレビ東京を退社し、現在は桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。著書に『混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書)、『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える“テレ東流”逆転発想の秘密』(方丈社)、『発達障害と少年犯罪』(新潮新書)、『ストーカー加害者 私から、逃げてください』(河出書房新社)、『秘境に学ぶ幸せのかたち』(講談社)など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。

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(元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授 田淵 俊彦)

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