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「利上げすると住宅ローン金利が~」と騒いではいけない…パックン&エミンが利上げは必須と口を揃える理由

プレジデントオンライン / 2024年7月4日 17時15分

お笑い芸人のパックンさん(右)とエコノミストのエミン・ユルマズさん。 - 撮影=遠藤素子

円安はさらに進むのか、円高に戻るのか。見通しが難しい中で消費者も企業も動きにくい状況が続いている。お笑い芸人のパックンことパトリック・ハーランさんとエコノミストのエミン・ユルマズさんに、円安の行方と日銀の利上げ、FRBの利下げの見通しについて語ってもらった――。

■1ドル200円でも誰もが納得する政策とは

――エミンさんは前回の対談で円安がさらに進んで「1ドル200円もあり得る」とおっしゃっていますが、最近の状況を踏まえて考えに変化はありますか。

【エミン】大きな変化はありません。日本も大きく金融政策を変えていませんし、インフレの状況も変わっていないからです。1ドル200円は普通にありうるでしょうね。

【パックン】1ドル200円はドルが高すぎると僕は思いますよ。これも前回の対談のときと変わっていません。ただ前回は「1ドル135円くらいがしっくりくる」と言いましたけど、「もう少し上でもいいかな」と思っています。150円前後の水準がしばらく続く可能性も十分にあるとは思いますね。

ただ、為替レートよりも問題なのは、日本の人たちの収入だと思います。日本の会社員の給与が部長クラスで米国の小学校の先生以下というのは、やっぱり納得できません。長期的に日本のみなさんの収入を倍増させるか、為替を調整するか、どちらかが必要だと思います。

以前、朝日新聞にも書きましたけど、日本には生活費に困っている人が多い。いまの為替レートでもいいから、賃金を倍増させれば解決しますよ。購買力の問題だから。余剰金が増えれば、為替レートが変わらなくてもいいし、200円になってもかまいません。

■円安の流れを止めるための選択肢は1つしかない

――エミンさんは円安をどうすべきだと思いますか。

【エミン】これは、金融政策を調整するしかありません。日本の賃金はそう簡単に上がらないでしょう。少しずつは上がるかもしれけど、目先は厳しいので金融政策をゼロ金利のままにするのは不可能です。金融政策をある程度正常化させれば、少なくとも円安の流れは止まると思いますよ。

ただ、為替の水準そのものにさほど意味はなくて、パトリックさんがおっしゃるように変動が止まれば、その他のものはそれに合わせてきます。1ドル150円であれば150円、130円であれば130円で止まれば、他のものはそれに合わせてくるのですが、円安の流れが止まらないのが一番危険です。

もしくは不安定な動きもよくありません。輸入業者にしても輸出業者にしても、為替の想定ができなくなってしまうので、取引を控えるようになります。

消費者も同じです。ここにきて日本の航空会社からも苦言が出始めています。みんなが海外旅行へ行くのを控えているからです。仮に1ドル150円であっても、変動が止まれば海外旅行に行くはずです。半年後、1年後にどうなるかがわからないから、動きようがない。ある程度は為替を安定させないといけないのですが、それは金融政策で対応するしかないでしょうね。

■住宅ローンの金利は上がっても損はしない

――それは日銀が利上げの方向性を明確に打ち出すということですか。

【エミン】そうです。これまでそれを躊躇してきましたし、メディアも「住宅ローンの金利が上がる」とか「中小企業の資金調達が難しくなる」などと騒いでいますが、それは仕方ないことです。お金はタダじゃありません。金利はお金のレンタル料ですから、いままでがおかしかったのです。金利が上がったときに対応できるところは生き残るし、できないところは排除されていく。それが経済の原理に沿った、きわめて合理的なやり方です。

住宅にしてもゼロ金利を続けたことで家の価格が上がって、買いたい人が買えなくなっています。資材価格が高騰しているし、人手不足で建設会社が苦戦しています。ただでさえ建設業界は人がいないのに、そうした弊害が起きているのです。

国民全員が得するような解決策はあり得ません。ある程度の経済合理性に沿って行動しなければいけないでしょう。住宅ローンを抱えている人の返済額が増えたとしても、それをやらなければ、それ以外のコストがすべて増えてしまいます。

【パックン】僕もそう思いますね。「金利が上がると住宅ローンが~」と騒ぐのは、バカバカしいと思いますね。

――それはなぜですか。

【パックン】すでに住宅ローンを組んでいる人の場合、固定金利であれば金利が上がっても影響はないですし、変動金利にしてもすぐには上がりません。1%上がるのに10年かかかったり、返済額の上昇率が制限されたりするわけです。だから、それほど気にする必要はない。エミンさんがおっしゃるように、また、ずっと金利が低かったせいで物件価格は高騰しています。その影響の方が大きいと思いますよ。

「日本はずっと金利が低かったせいで物件価格が高騰しています。そのほうが影響が大きい」とパックンさん。
撮影=遠藤素子
「日本はずっと金利が低かったせいで物件価格が高騰しています。そのほうが影響が大きい」とパックンさん。 - 撮影=遠藤素子

■日銀が金利を上げると増税が必要になる⁉

――金利が上がった場合にほかにどんな影響が考えられますか。

【パックン】財政再建が難しくなるということですね。日本の国債の利払いが増えますからね。ただ「新しい国債を発行して穴埋めをすればいい」という考え方もあるし、MMT(現代貨幣理論)では「いくらお札を刷ってもかまわない」と言っています。伝統的な経済学で考えれば、問題があるかもしれませんけど。

いま、日本の債務残高は対GDP比で2.6倍ぐらいになっています。金利が上がったときに増えた利息の支払いを補うには、国債を増やすか、税収を増やすかしかありません。税収を増やすには増税が必要になって、みんなの家計がさらに逼迫(ひっぱく)します。

いまは定額減税で人気を取ろうとしているのに、定額減税の4万円をはるかに超えるような増税になれば、政治家は「それは困るよ」となるでしょう。定額減税は1年だけですが、税率を上げると何年も続くことになりますから、影響が大きいのです。

金利を上げたときに日本の財政再建をどうするのか、気になりますね。

【図表】主要先進国の債務残高(対GDP比)

■アメリカは株高を維持するために利下げする

――一方でアメリカの利下げも為替レートに影響を及ぼすと思いますが、いかがでしょうか。

【エミン】ひょっとしたら年内に2回の利下げがあるかもしれないと思っています。アメリカはアメリカでさまざまな問題を抱えているからです。日本ほどではありませんが、同じような問題を抱えています。

アメリカもいま、年間の国債の利払いが1兆ドルを超えてきています。これ以上の金利上昇は、アメリカにとっても相当に厳しくなります。もう1つ、いまの株高を維持したいでしょうから、その意味でも利下げはすると思います。

ただ、いままでの状況を見ると、1、2、3月の雇用統計の数字がきわめて強かったですし、CPI(消費者物価指数)も強かった。ただ、4月の数字は弱くなっていましたから、ここからアメリカの雇用統計の数字が悪化してくるんじゃないかなと思いますね。

ただこれは、はっきり言って出来レースなんですよ。実はこれまでも本当の数字はそこまで良くなかった。ヘッドラインの数字はきわめて強かったけれど、中身は悪かったのです。

ここにきてヘッドラインの数字も悪化してきているのは、これもおそらく選挙対策だと思う。これ以上はヘッドラインの数字を強く見せる必要がない。それよりも利下げの口実をつくったほうがいいということでしょう。

そうなると、この前の雇用統計も悪かったし、CPIも月次では予想よりは弱かったので、もう1、2回悪い数字が出ると、利下げの口実にはなると思う。9月と12月に利下げする可能性があるのではないか。

「アメリカは9月と12月に利下げする可能性がある」とエミンさん。
撮影=遠藤素子
「アメリカは9月と12月に利下げする可能性がある」とエミンさん。 - 撮影=遠藤素子

■アメリカのインフレを退治するには利上げが必要

――パックンさんはいかがでしょう。

【パックン】難しいな。アメリカ人はいま、雇用よりも物価上昇を気にしていると思うんです。選挙に向けて雇用を増やすよりも、物価上昇を抑えるほうが政権にとっては大事ですよ。物価上昇を抑えるには利上げが必要です。

だからFRB(連邦準備制度理事会)が利下げを考えるか、利上げを考えるか、もしくはホールドを考えるか。FRBにとってその判断は選挙対策ではないと思いますけど、アメリカ人の国民感情を考えると、株も元気だし、雇用統計も悪くない。だったら物価上昇を抑えてほしいと思う人が多いと思う。

さきほども住宅の話題が出ましたけど、いまのアメリカは家賃もすごく高いです。住宅の購入価格だけでなく、家賃もバカ高いから、利下げで住宅ローンの金利が低くなって不動産価格が上昇するようなことが起きれば、アメリカの国民は「実体経済が悪い」と感じます。

FRBは選挙がなくても国民感情をそれなりに気にしていると思います。だから7月に利下げする確率はけっこう低いでしょう。でもわからない。ブラックボックスです。

【エミン】インフレを本当に気にしているのであれば、利上げをしなければならないですね。

【パックン】本当はね。でも、利上げするほどのインフレじゃない。ただ、利下げをするとインフレになってしまう。そういう考え方だと思います。

■FRBはインフレとの戦いを犠牲にしても株高を守る

【エミン】FRBにとって重要なのは、メインストリート(産業界)ではなく、ウォールストリート(金融業界)でしょ。それはいまに始まったことではなく、財務長官のジャネット・イエレン氏もFRB議長のジェローム・パウエル氏も元FRB議長のベン・バーナンキ氏も、みんなどちらかというとウォールストリートの側の人たちだから、株高を維持するためなら、インフレとの戦いを犠牲にすると思っています。

難しいのは、本当の意味でのインフレをやっつけるには、景気を壊さなければいけないということです。おそらく日本もそうだけど、アメリカもこのままではインフレが収まることはありません。

「インフレファイター」として知られるポール・ボルカー氏は、1979年8月にFRB議長に就任して、めちゃくちゃ金利を上げました。当時のアメリカは、第2次石油危機の影響で、深刻なインフレ状態にありました。それをやっつけるために金利を上げたのです。そのときと同じように、ここからさらに金利を3%ぐらい上げて、すべてを一度クラッシュさせれば収まると思うけど。

■アメリカの株式市場が元気な理由は明白

【パックン】でも昨年の春から、ずっと株は元気でしょ。少しのアップダウンはあるけど元気だから、それほど気にしなくていいんじゃない?

【エミン】なぜ株が元気かというと、アメリカのフィナンシャル・コンディションが緩和的な状況にあるからです。シカゴ連銀が算出しているFCI(フィナンシャル・コンディション・インデックス)をみると、ものすごく緩和的な状況にあります。

金利が5.5%でもアメリカの引き締めは、ほぼ効いてないというか、いまだに緩和的なのです。これが引き締め方向に動かないとダメですね。

*長短金利、信用スプレッド、ドル相場、株価など幅広い市場や経済の動向からお金の巡りやすさなどを測る指標。

【パックン】インフレ対策にね。

【エミン】そう。引き締め方向に動くとインフレ対策になるけど、いまはまったくそうなっていない。

もう1つ、コロナのときにばらまいたお金は2.1兆ドルですけど、その貯蓄が3月に底をついて、いまはマイナスになってきています。いままではその分が余剰キャッシュとして、消費に回っていた面がありましたけど、それがいよいよ底をついてきたということは、消費が弱くなる可能性があります。

実際に小売の数字は弱くなっていますから、その意味ではリテール(個人消費)が弱くなったり、アメリカの消費全体が落ち込んで、インフレは少し収まるかもしれません。

バイデン政権が1つ成功したのは、戦略備蓄を使って原油を放出して、原油価格が上がらないようにしたこと。そのおかげで大きな原油高にはなりませんでした。

ただ、根本的な問題としてインフレを抑えるなら、本当はもう少し利上げをしなければならない。ただ、それをすると株式相場が崩れる危険があったので、株高を守りインフレとの闘いも続けるという、いいとこどりの政策になってしまった。

それでインフレが収まるわけはありません。株高でインフレが収まるわけがないことはよく考えればわかります。

■日本は国民感情も企業も利上げを容認している⁉

【パックン】株を持っているエミンさんには悪くない話だね。

【エミン】僕は金融側の人だからね。株高になることに対してまったく問題はないですよ。ただ、エコノミストとして分析していて単純に思うのは、株高を維持するために一般国民を犠牲にしているということです。それは日本も一緒です。

【パックン】日本はどうだろう? 日本の政治家は、国民の生活より株価を気にしているかなあ。

【エミン】まあ、日本の政治家は何も考えてないかもしれないけど。

【パックン】(笑)。

【エミン】日本は「とにかく金利を上げるな」というのが政治のスタンス。自分たちが関係している企業が金利上昇をものすごく嫌っているからね。その意味では政治家のスタンスは明確だけど、ここにきてあまりにも円安になったから、ビジネス界からもさすがに苦言が出始めている。

経団連も中小企業の団体も円安に異論を唱えているでしょ。それで少し、政治のスタンスも変わってきています。いまは少し金利を上げてでも円安を抑えろといった雰囲気にはなってきているんじゃないかな。

【パックン】ということは、日本はアメリカと違って国民感情も、企業も金利希望も汲み取っていると。アメリカは、メインストリートとウォールストリートで意見が分かれていますけど、日本は両方一致するということですね。

■株の保有率の低い日本は株高の恩恵を受けにくい

【エミン】いや。日本はアメリカと違って株式の保有率が10%しかないから、株高の恩恵を受けている人が少ないということです。日銀の「生活意識に関するアンケート調査」(2024年3月調査)によると、前年対比で「景気が良くなった」と思っている人は約10%しかいません。

株を保有している人は株高の恩恵で「景気が良くなった」と思っているけれど、そうじゃない人たちは「景気が悪くなった」と思っているのです。それに対して、アメリカは多くの人が株を持っているから。

【パックン】6割は持っていますね。ただ、実際に株価が高く、失業率が低くて、実質賃金もGPDも増えているのに、アメリカの調査会社の「ザ・ハリス・ポール」の世論調査によると、55%の人がアメリカは不景気、リセッションだと思っているそうです。アメリカ人も日本人も実体経済に不満があるんですね。

【エミン】それはおそらく株価だけが理由じゃないね。

【パックン】政治的な理由で答えている人もいるし。

【エミン】いるでしょうね。ただ日本では株を持っていない人は明確に「景気が良くなっていない」と答えているから、株高になっても多くの国民は恩恵を受けていない。もしくはそれを感じていない。

■「日本の利上げ」+「アメリカの利下げ」で円高はどこまで進むか

――アメリカが利下げをして、日銀が利上げをした場合、為替はどのくらい円高方向へ動くでしょうか。

【エミン】為替の予想はまったく意味がない。ただ、アメリカが何%利下げして、日本が何%利上げするかにもよるけど、1ドル130円程度で落ち着けば、日本側もアメリカ側もおそらく……。

【パックン】満足。

【エミン】そう。満足できると思う。

【パックン】僕も130円台がしっくりくるから、そのあたりがいいと思う。日米の金利差はいま5%ぐらいだけど、それが3%に減っても、日本にお金を移動したほうが得とはいえない。3%の損になるし為替手数料もある。だから、世界のお金が円買いになるとは思えない。もちろん、日本の金利が5%でアメリカが1%に入れ替わったら話は違うけど。

【エミン】金利差が縮まっても円買いにはならないかもしれないけど、問題はいまの実質金利の差だよね。アメリカの金利が5.5%でインフレ率が3%だとすれば、実質金利は差し引き2.5%でしょ。日本は金利0%でインフレ率はアメリカと同じ3%程度だから、実質金利はマイナス3%。実質金利の差は5%以上あるわけ。

たとえば、日本のインフレがもう少し落ち着いてくる、あるいは日本が利上げしてアメリカが利下げする。それによって実質金利の差が3%以下に収まれば、円キャリートレード(金利の低い円で借入、その資金を外貨に転換して運用する手法)の魅力がなくなって「別の通貨でやろう」となる。それはある程度、円安に歯止めをかけると思う。

パトリックさんがおっしゃる通り、本格的な円買いが起きなくても、少なくともいまの円売りは止まるでしょう。それだけでも効果はあると思う。

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パトリック・ハーラン(ぱとりっく・はーらん)
お笑い芸人
芸名パックン。1970年、米・コロラド州出身。93年、ハーバード大学比較宗教学部卒業。同年来日。福井県で英語教師を務めた後、97年、吉田眞と「パックンマックン」を結成。著書に『逆境力』(SB新書)など。

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エミン・ユルマズ(えみん・ゆるまず)
エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年から2024年まで複眼経済塾の取締役・塾頭を務めた。2024年にレディーバードキャピタルを設立。著書に『夢をお金で諦めたくないと思ったら 一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)、『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)、『大インフレ時代! 日本株が強い』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)などがある。

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(お笑い芸人 パトリック・ハーラン、エコノミスト エミン・ユルマズ スタイリング=末次秀彦(パックン)衣装協力=perky room STYLIA(エミン) 構成=向山 勇)

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