所得400万円だと年70万円が健保で消える…あまりにも高い「国民健康保険料」を合法的に下げる3つの方法
プレジデントオンライン / 2024年6月28日 10時15分
■経費を正しく、くまなく申告できているか
前回は会社員が退職した後の公的医療保険にまつわる課題について取り上げた。退職後は「任意継続」「国民健康保険への加入」「被扶養者になる」「再就職」の選択肢があり、任意継続や国民健康保険を選べば、在職中と比べて保険料はほぼ間違いなく高くなるという話である。
今回、そして次回は国民健康保険(以下、国保)加入者に向けて「保険料を下げる3つの方法」を取り上げたい。
1つ目の方法は「所得を下げる」である。
なーんだと、ガッカリしただろうか。しかし私自身、確定申告を始めて7年目であるが、しっかり作成できたのは今年からだ。そう書くと、あらゆる支払いに領収書をもらって経費にしているように思われるかもしれないが、そういう意味ではない。
特にフリーランスや自営業者は、「青色申告」で「経費を正しく、くまなく申告できているか」ということだ。
確定申告には、法人にも個人事業主にも「青色申告」と「白色申告」の2種類がある。ざっくりと言うと青色申告のほうが作成が複雑で、白色申告のほうが簡易な作成で済む。
■「白色だから税務調査は入らない」は本当か?
有名雑誌の専属記者である知人の40代男性は、固定給だが業務委託契約だ(出版界には多い)。そのため毎年自身で確定申告をしているのだが、彼は売上(年収)600万円から経費を引き、所得180万円くらいで申告している。そして国保料は年間20万円弱という。
だが正直、普通はそこまで減額できないだろう。おそらく公私混同した領収書もあるだろうし、領収書そのものが存在しない経費もあるかもしれない。
彼にそのやり方を咎めると、「だって白色だから。税務調査は入らないし、もし入ってもお咎めが厳しくないでしょ」と言われてしまった。たしかにフリーランスの間では「白色は税務調査されない」という説がまことしやかに囁かれている。そういった類のネット記事や本を読んだこともある。
しかし、本当にそうだろうか?
私はフリーランスになって最初の2年間は白色で、ここ5年間は青色申告を選択しているが、白色よりも青色のほうがリスクなく所得をしっかり下げられ、国保料も安くなると実感している。
■所得400万円の国保料は70万円から60万円に減らせる
青色申告のメリットを税理士の服部修氏(服部会計事務所代表)に聞いた。
「ひとつは、個人事業主は最大で65万円までの青色申告特別控除を受けられること。記載方法や申告方法によって65万円、55万円、10万円と適用できる金額が変わりますが、白色申告では青色申告のような特別控除はありません」
国保料の基準となる課税所得を出す際、所得から差し引かれる控除は「基礎控除のみ」で、扶養控除や生命保険料控除、医療費控除などは差し引くことができない。しかし青色申告の場合は、青色申告特別控除も差し引くことができるのだ。
例えば売上から経費を引いた所得が400万円だったとして、基礎控除(43万円)を引くと357万円。この場合、東京都のある区における年間国保料は40歳以上単身世帯で約【70万円】だ(高い!)。しかし同条件で青色申告特別申告を満額適用して65万円を控除すると約【60万円】と、【10万円】も減額になる(それでも高いが)。もちろん国保料だけでなく、所得税も、住民税も安くなる。
※筆者註:所得による「国保料」は自治体により差があるため、保険料は住まいによって変わる。
「また青色申告では事業が赤字になった場合、その損失を翌3年間にわたって繰越を行うことが可能です(「純損失の繰越控除」)。ところが白色申告ではできません。さらにもう一つ、青色申告では事業を手伝う家族や親族への給与を経費にできます(「青色事業専従者特別控除」)。白色申告でもできるのですが、配偶者が年85万円、そのほかの親族は50万円といった上限があります。青色申告では常識を越えるような範囲でなければ、自由に設定することができるのです。ただし事前に届出手続きが必要です」(服部氏)
■「なぜ有利な青色申告を選ばないのか」と疑われる
それでは「税務調査」についてはどうだろうか。白色申告者には税務調査が入らないという説である。服部氏はこのような見方をする。
「もし私が国税局にいて税務調査を担当しているならば、白色申告の人を見た時に『なぜ青色申告を選ばないのか』と考えるでしょうね。前述したように青色申告にはさまざまな特典があるのです。特別控除があり、損失を翌年以降に繰越でき、親族に対しての給与も経費に認められる。けれどもそれらを選ばない。もちろん事前に税務署に青色申告承認申請書を提出しないといけませんから、そういった手続きを知らなかったという人はいるかもしれません。しかし、そうでなければ、なぜ本来申告者にとって有利なはずの青色申告を選ばないのか。そういった疑問から税務調査が入る可能性もありますし、悪質な税逃れがされていると判断された場合は7年前までさかのぼって調査されることもあります」
また青色申告では書類(帳簿)がきちんとしていることが前提のため、申告した時点で「自動承認」である。しかし白色申告の場合は、ざっくりとした作成でもOKのため、平たく言うと目をつけられる可能性が高いだろう。公にはされていないが、国税局には推計課税の資料があるはずだ。業種ごと、また売上や取引先などの状況による、概算の所得である。そこから毎年、大幅に逸脱するような申告をしていれば誰がみてもあやしい。
■自分一人なら経費と所得のバランスはほぼ一定
ちなみに毎年一人で仕事をし、誠実に帳簿づけをしていると、確定申告をするたびに売上と経費、所得のバランスがほぼ一定であることがわかる。私の場合は年間10万円を超える主な経費が下記6つで、どれも領収書や、交通費なら履歴、家賃なら使用面積といった裏付けがあるものだが、毎年だいたい同じ金額なのである。
「書籍購入費」(取材執筆の際に購入する本や資料費)
「接待交際費」(取材時の飲食や、取引先への手土産費)
「旅費交通費」(仕事関連の交通費・新幹線代、航空チケット、宿泊費も)
「外注工賃」(専門的な知識を教えてもらった取材先に支払う謝礼)
「荷造運賃」(取材に協力いただいた方にできあがった本や雑誌を送る運賃費、そのほか仕事関連の郵送費)
「地代家賃」(自宅の3分1を仕事のスペースとして使用しているため、家賃の3分の1を経費に計上)
私のような業種で、自分一人しかいなければ、「稼げる額(取材して執筆する量=売上)」には限界値があり、生活費をのぞくと、仕事にかけられる経費も自ずと上限がある。本が大量増刷したとか、講演が殺到したなどという外的要因がなければ、「売上-経費=所得(利益)」のバランスは変わらないのだ。
![誰もいない教室](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/4/1200wm/img_64f9d4930bb5d29edb892957ae2eb947527191.jpg)
■「青色申告の特別控除」を初めて55万円まで適用した
前述した通り、今年は確定申告がしっかり作成できた。というのは、「青色申告の特別控除」を初めて55万円まで適用したのだ。実は昨年まで正式な帳簿づけのやり方がわからず、10万円しか控除していなかった(10万円控除は、税務署に青色申告をするという届出さえ出せば、白色と変わらない簡易な帳簿づけで適用できる)。
しかし昨年10月にインボイス制度が導入され、これまで消費税納税を免除されてきた小規模事業者(2年前の収入が年間1000万円未満)に対しても、実質的に課税事業者になることを求められるようになった。私は悩んだ挙句、昨年9月に「適格請求書発行事業者」の登録申請を行って課税事業者となり、昨年10月から12月分の消費税を今年3月に納めた。今後はずっと消費税を支払っていかなくてはならないこともあり、青色申告特別控除を55万円まで受けようと思ったのだ。
あまり誇れるやり方ではないが、私の確定申告のやり方を紹介する。
仕事関連の領収書が発生したら、「誰のために、何に使ったか」を領収書そのものにメモし、「交際費」「消耗品」「荷造運費」などの項目ごとに封筒に入れておく。取材交通費はノートに移動区間と、誰に何の取材目的で会ったかを箇条書きで残し、横に交通系ICの履歴も貼っておく。そうして確定申告の時期になると丸2日間かけ、1年分をまとめて作成するのだ(本来、毎日もしくは毎月やらなければならない帳簿づけなので、今こうして文字にすると自分でもズボラだと思う)。
■オンラインサービスを使えば「65万円控除」が受けられる
昨年までは電卓を使って項目ごとに合算し、決算書に入力するというアナログな手法だったが、今年は青色申告のオンラインサービスを使って確定申告をした。すると電卓を使う必要なく、自動計算で、しかも55万円の控除が適用されるのだ。私が利用した「やよいの青色申告オンライン」は初年度無料、次年度も1万円台で利用できる。こうしたサービスはほかにも多数ある。
簡単に作成でき、これまでの10万円の控除と比べて、45万円も控除額に差がついた。もっと早くやれば良かったと思った。しかもその件を服部氏に話すと「なぜ65万円控除にしなかったの?」と尋ねられてしまった。55万円控除と、最大の65万円控除の差は「e-Taxで確定申告を行うかどうか」である(厳密には電子帳簿保存も必要だが、「やよいの青色申告」でその点はクリアされている)。
e-Taxまではできない気がしてチャレンジしなかったのだが、ちゃんと65万円控除を適用すれば、さらに数万円の税金が安くなったはずである。来年度こそ挑戦したい。
これは余談だが、青色申告で55万円控除までしたからこそ、所得500万円以下でしか適用できない「ひとり親控除」を今年の申告で初めて使うことができた。国保料には影響しないが、これでほかの税金を軽減することもできる。
![会計ソフトウェアに入力している女性の手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/c/1200wm/img_4c0aae290923dc608d6df2f19478e2ab346779.jpg)
■「減額制度は使えない」という思い込みはダメ
国保料を下げる2つ目の方法は、「減額制度」である。聞いたことがある人も多いだろう。前年の所得が一定基準以下の世帯には、7割・5割・2割と段階的に国保料を減額してもらえることがあるのだ。基本的に申請の必要はないが、自治体がその人の所得を把握していなければ減額されない。自分が基準に該当するのかどうか、住まいの自治体窓口で確認してほしい。
私も支払えないと思った時、居住地の国民健康保険を扱う窓口(都内)でたずねたことがある。しかし「通常、国保料の減額は直近3カ月の収入や家賃の金額などトータルで判定しますが、生活保護を受けられるかどうかというほど困窮している世帯が対象になります」と言われてしまった。
しかし、だからといって「自分は該当しない」と即座に決めつけないほうがいい。
ファイナンシャルプランナーの内藤眞弓氏(所属:生活設計塾クルー)はこう説明する。
「実際に減額されている世帯は800万世帯近くあるのです。相当な数ではないでしょうか。7割・5割・2割といった法定軽減だけでなく、各自治体が定める申請減額制度もあります。ですから困ったら、自分の状況を的確に伝えられるメモを持ち、やはり自治体の窓口に相談してみたほうがいいと思います」
■年収1000万円以上の人でも「保険料減額」はある
私の住まいの区のホームページでも、〈雇用保険に加入していて倒産や解雇などがあった場合〉に、国保料軽減制度がある。またコロナ禍では「コロナ特例減免」が実施されたが、災害や失業などで生活が著しく困難になった場合、保険料が減額・免除になるとされている。
「保険料が減額されている方は、低所得者が多いのは確かですが、中には年収300万、400万、500万円くらいの方もいて、時には1000万円以上の人もいるのです。倒産や疾病などやむを得ない事情があったのかもしれません」(内藤氏)
自営業やフリーランスなどで平均以上の収入を得ている人は、青色申告を利用する、突発的に経済的困窮が生じたら減額制度が使えないかを自治体に相談する、そして国保料を下げる3つ目の方法は、職種によって加入する「国保組合」か、「法人化」の検討だ。次回お伝えしよう。(続く第6回は6月29日10時公開)
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ジャーナリスト
1978年生まれ。本名・梨本恵里子。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)など。新著に、『野良猫たちの命をつなぐ 獣医モコ先生の決意』(金の星社)と『老けない最強食』(文春新書)がある。ニッポン放送「ドクターズボイス 根拠ある健康医療情報に迫る」でパーソナリティを務める。 過去放送分は、番組HPより聴取可能。
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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)
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