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想像力が豊かな子なら、時間を忘れて夢中になる…16世紀の「ことわざ名画」で学ぶ"作文ドリル"

プレジデントオンライン / 2024年7月4日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hanapon1002

わが子の「非認知能力」を伸ばすには、どうすればいいのか。イデア国語教室を主宰する久松由理さんは「私の教室では十数年前から、アメリカやイギリスの母国語教育を手本に、読書と作文、アートや哲学を使った観察作文を実践しています。これをやれば、非認知能力をぐんぐん伸ばすことができます」という――。

※本稿は久松由理『10歳からの考える力を伸ばす 名画で学ぶ作文ドリル』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■AIに勝てる「人間ならではの能力」とは何か

これまで日本の学校や進学塾では、知識を暗記する力や、解き方の定まった問題を効率的に解く力に長けた子を「優秀」と評価してきました。でも、こうした力は、もう人間がどう頑張ってもAI(人工知能)にかないません。これからは、AIに真似のできない、人間ならではの能力に磨(みが)きをかけた子が「優秀」と評される時代になるのです。

AIがどんなに発展してもカバーできない人間ならではの能力とは、共感力、想像力、創造性、コミュニケーション力、学ぶ意欲、人間性などの「非認知能力」とよばれる力。

これらの力は、私たちが豊かで幸せな人生を築くために欠かせない力として、世界で注目されています。日本でも近年、総合型選抜入試など「非認知能力」を含めて総合的に人物を評価する新しいスタイルの大学入試枠が急増し、重要視されるようになりました。

また、人々の価値観や社会システムが目まぐるしく変化する予測不能なこれからの時代を生きるには、「答えのない問いを考え抜く思考力」や「未知の状況に対処する判断力」、「自分の価値を言語化する表現力」といった「新学力」も、しっかり身につけておく必要があるでしょう。

■素晴らしい記述力が身につく思考問題

私の教室では十数年前から、アメリカやイギリスの母国語教育を手本に、読書と作文、哲学、アートを用いた新しい国語教育を実践してきました。このドリルには、教室生たちがアート鑑賞を楽しみながら「非認知能力」と「新学力」をぐんぐん伸ばし、素晴らしい記述力を手に入れてきたユニークな思考問題がつめこまれています。

久松由理『10歳からの考える力を伸ばす 名画で学ぶ作文ドリル』(かんき出版)
久松由理『10歳からの考える力を伸ばす 名画で学ぶ作文ドリル』(かんき出版)

計算や暗記の勉強ばかりしてきた人にとっては、慣れるまでちょっとむずかしく感じるドリルでしょう。一方、想像力豊かでクリエイティブな人にとっては、時間を忘れて夢中になれるドリルだと思います。

このドリルに挑戦すると、自分のお子さんが、あるいはみなさんご自身が、新時代の学力観にアップデートできているかどうかがはっきりとわかります。目先の偏差値や順位に一喜一憂する古い学力観を捨て去り、輝かしい未来を創る新しい時代の学びに全力で舵(かじ)を切っていただく、本書がそのきっかけとなれば幸いです。

次のページ以降で、入門編のドリルの一例を紹介いたします。ぜひお子様とご一緒に取り組んでみてください。

問題を解(と)くときの注意点

1.書かれていることをきちんと読むこと
解説(かいせつ)や問題文をきちんと読まず、さっと作文問題だけを解いてしまうと、このドリルで身につけてほしい教養(きょうよう)や、文章を読む力が育ちません。書かれていることをすみずみまで読んでから問題にとりかかりましょう。

2.自分で答えを書く前に、作文例(れい)を見ないこと
先に作文例を見ると、どうしてもその答えを真似(まね)したり、意識(いしき)したりします。自分なりの作文が書けるまでじっくり考え、発想力や創造性(そうぞうせい)を伸(の)ばしましょう。


作文問題には、「これが正解!」という決まった答えがありません。そのためこのドリルでは、私の教え子が実際に書いた作文などを一例として載せています。お子さんが名画からどんなことを感じ、なにを考えたのかを言葉にできるよう、作文例を参考に導いてあげてください。

■例題:絵の中で起きていることを作文で書いてみよう

まずは、作文を上手に書くための基本(きほん)、「一文作文」の練習からはじめましょう。

見たことを言葉で正しく表現(ひょうげん)するのは、案外(あんがい)むずかしいもの。ですから、作文を書く前には「書きたい物事」をじっくり観察(かんさつ)することが大切です!

観察するのは、100以上のことわざが描写(びょうしゃ)された「ネーデルラントの諺(ことわざ)」という絵画。この絵を描(えが)いたピーテル・ブリューゲル(父)は、事実を見たままに表現することが追求(ついきゅう)されたルネサンス期(※注)に、感情豊(ゆた)かな民衆の生活を描き「農民画家」ともよばれました。

注:ルネサンスは、教会(神)よりも人間を尊重した古代ギリシアやローマの文化を復活(ふっかつ)させようという運動で、14世紀(せいき)のイタリアにはじまり、16世紀まで西ヨーロッパ各地(かくち)に広がりました。

『ネーデルランドの諺』ピーテル・ブリューゲル(父)、1559年、ベルリン美術館絵画館蔵に番号等を追加
『ネーデルラントの諺』ピーテル・ブリューゲル(父)、1559年、ベルリン美術館絵画館蔵に番号等を追加(写真=WwG8mD89xbELbQ/PD-old-100-expired/Wikimedia commons)

絵の中には、いろいろなことをしている人がいますね。この絵の中で起きていることをよく見て、5W1Hで作文してみましょう。5W1Hとは、次の6つです。

5W1Hとは…
WHEN(いつ)
WHERE(どこで)
WHO(だれが)
WHY(なぜ、なんのために)
HOW(どんなふうに)
WHAT(なにをした)

では、絵の中央の(例)の近く「ブタに囲(かこ)まれた男の人」をよく見てください。この男性がしていることを、5W1Hで作文してみましょう。

ピーテル・ブリューゲルの「ネーデルラントの諺」より
一文作文の例

ある日(いつ)、
まちの広場で(どこで)、
男の人が(だれが)、
ブタにすかれようとして(なんのために)、
パラパラと(どんなふうに)、
ブタの前に花をまいた(なにをした)。

 

こんなふうに、見たことを言葉にして5W1Hの順に並べると、きれいな一文になります。

この男性が表しているのは「ブタの前にバラをまく」というネーデルラントのことわざ。ブタはバラの値(ね)うちを知らないから、あげても意味がない。つまり「価値(かち)のわからない者には、どんな貴重(きちょう)なものも役に立たない」ということです。

■絵をよく観察し「5W1H」で書き出す

では、あなたも絵をよく見て、一文作文してみましょう。

問題
次の(1)~(5)の絵は、「ネーデルラントの諺」の中から5人の人物を選(えら)び、それぞれを拡大したものです。
(1)の人の作文例を読んでから、(2)~(5)の人がしていることを、5W1Hで作文してみましょう。絵を見てもわからない「なんのために」は、自由に想像(そうぞう)して書いてください。


ピーテル・ブリューゲルの「ネーデルラントの諺」より
(1)の人の一文作文例

いつ ある日
どこで 町の広場で
だれが 赤い服をきた女の人が
なんのために(想像しよう) 男の人が寒そうだったから
どんなふうに 後ろからそっと
なにをした ブルーのマントをきせかけた。

 

ピーテル・ブリューゲルの「ネーデルラントの諺」より
(2)の人で練習してみよう!

いつ(____________)
どこで(____________)
だれが(____________)
なんのために(____________)
どんなふうに(____________)
なにをした(____________)

 

うまく書けましたか? (2)の男性は、ネーデルラントのことわざ「かべに頭をぶつける」(無理(むり)なことは無理)を表現しているのですが、見たままを作文すると次のようになります。

(2)の人の一文作文例:1
 ある朝、かべの前で、ナイフを持った男の人が、強くなりたいから、必死(ひっし)で、かべに頭を打ちつけていた。

(2)の人の一文作文例:2
ある日、家の前で、片足(かたあし)だけはだしの男が、戦(たたかい)いの訓練のため、ぐりぐりと、頭をかべにおしつけていた。

絵を見て感じることはみんなちがうので、「なんのために」の部分は、それぞれ別(べつ)の理由になるでしょう。これが正解! という決まった答えはありませんから、見たことが正確(せいかく)に書けていればOKです。

■いろんな人物で練習してみよう

はじめはむずかしいと感じても、練習を重ねるうちにすらすら書けるようになります。(3)〜(5)の人で、どんどん一文作文を書いてみましょう。

ピーテル・ブリューゲルの「ネーデルラントの諺」より
(3)の人
いつ(____________)
どこで(____________)
だれが(____________)
なんのために(____________)
どんなふうに(____________)
なにをした(____________)
 

ピーテル・ブリューゲルの「ネーデルラントの諺」より
(4)の人
いつ(____________)
どこで(____________)
だれが(____________)
なんのために(____________)
どんなふうに(____________)
なにをした(____________)
 

ピーテル・ブリューゲルの「ネーデルラントの諺」より
(5)の人
いつ(____________)
どこで(____________)
だれが(____________)
なんのために(____________)
どんなふうに(____________)
なにをした(____________)
 

さて、みなさんには、(3)〜(5)の3人がなにをしているように見えましたか?

(3)は「子牛がおぼれた後に穴(あな)をふさぐ」(手遅(おく)れで意味がない)

(4)は「かゆをひっくり返せば二度と元にもどらない」(取り返しのつかないあやまち)ということわざを表していて、日本のことわざの「後の祭り」「覆水(ふくすい)盆に返らず」と似(に)たような意味です。どの国にも、昔から同じような戒めの言葉があるのはおもしろいですね。

(5)の男性が表すことわざは、となりに座(すわ)る「ブタの毛を刈(か)る男性」と対になっていて、「一方は有益(ゆうえき)だが、一方は無益(むえき)という意味だとか。確かに、羊の毛は毛糸になって役立ちますが、短くて固(かた)いブタの毛を刈っても、あまり役立ちそうにありませんね。

■日本にもよく似たことわざが

日本にも「桜(さくら)切るバカ、梅(うめ)切らぬバカ」ということわざがあります。桜は切り口が腐(くさ)りやすいので、むやみに切ってはいけないが、梅はむだな枝(えだ)を切らないとよい花実(はなみ)がつかなくなるから、剪定(せんてい)(むだな枝葉(えだは)を切り、形を整える作業)をしなくてはいけません。なにを育てるにも、個性(こせい)に応じた手のかけ方が大切だということです。

(3)の人の一文作文例
ある日、町の広場で、男の人が、地面の穴をうめるために、せっせと、シャベルで土をかけた。

(4)の人の一文作文例
ある晴れた日、屋外(おくがい)の台所で、男の人が、食べ物を地面にまいてしまったから、あわてて、スプーンですくおうとした。

(5)の人の一文作文例
ある朝、へいの前で、男の人が、毛糸を作るため、しんちょうに、羊の毛をはさみでかっていた。

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久松 由理(ひさまつ・ゆり)
イデア国語教室主宰
合同会社イデア代表。イデア国語教室主宰。若者の国語力が年々低下していくことに危機感を抱き、正しく読み書きができる子ども、自分の頭で考え抜く子どもを育てようと、2010年に読書と作文の個別指導塾を開く。元報道記者の経験から編み出した「文章力開発メソッド」と「観察力トレーニング」で生徒たちの記述力・読解力を大躍進させ、6人分の机しかない小さな教室から難関校に続々と合格者を輩出。現在は東京・三田校と高知校を拠点に国語の個別指導を行う傍ら、「幸せに生きるための国語」を広める講演活動や、企業の新人研修などを行っている。著書に『国語の成績は観察力で必ず伸びる』(かんき出版)がある。

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(イデア国語教室主宰 久松 由理)

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