熟年離婚に踏み切れない日本人は変だ…和田秀樹「欧米の高齢者に学ぶ"人生後半の楽しみ方"の最終結論」
プレジデントオンライン / 2024年6月27日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『死ぬまでひとり暮らし 死ぬときに後悔しないために読む本』(興陽館)の一部を再編集したものです。
■「労働に生きがいを感じる日本人」は世界からみて変だ
欧米の高齢者は、日本人よりも老後を楽しんでいます。
特にヨーロッパは60歳ともなれば、労働から解放され自由になるという考えなので「これからが本当の人生だ」とばかりに、旅行や遊びに精を出す高齢者が多いものです。
そもそも、海外の人は、日本人のように、労働に生きがいを感じていません。だいたいの人は「働いているときの自分はかりそめの自分」と思い、食い扶持のために働いています。彼らにとっては、17時30分以降の自分が本当の自分なのです。
定年制度はドイツのビスマルクが平均寿命まで生きた人に労働から解放してやろうと考え出したことなので、ヨーロッパの人には、これまで働いてきたのだから、これからは働かなくても食べられるのだという文化が根付いているのでしょう。
また、海外の人は、日本のように同僚を肩書きでは呼びません。「トム」「スティーブ」などとファーストネームで呼ぶ文化なので、定年後に関係性が劇的に変わったりもしません。このことも、老後を楽しめる理由の一つだといえます。
婚姻制度が日本のように複雑ではないことも、自由な老後を過ごすには重要なようです。アメリカは、不倫にはうるさいけれど、愛が冷めれば、それだけでみんな離婚します。ヨーロッパでは、パートナーをころころ替えることさえも、当たり前です。
情だとか義理や体面だとか、おかしな理由で離婚に踏み切れないのは、日本人くらいなものなのです。
自分の常識が一般常識だと思うから、日本人の生きかたは変になるのだと思います。
■止められていたことを全部やってみればいい
「ひとりじゃつまらない」「何もできない」。そんな不安を感じている人もいるかもしれません。ただ、そう考えていると、自分から新しいグループなり団体なり、とにかく知らない人間関係の中に飛び込んでいく必要が生じてきます。
それは、億劫でハードルが高い。ほとんどのひとり暮らしの人は、結局は何もしないで過ごしているのではないでしょうか。
そうなるくらいなら、何でもいいからひとりで楽しめることから始めたほうが気楽というものです。これまで、やりたくてもできなかったこと、誰かに止められていたこと、すべてをやってみましょう。
私は勉強が好きです。勉強のいいところは、いつでもどこでもひとりでできるというところにあります。誰かに教えてもらうことも含めて、ひとりで考えたり書いたりできるし、自分なりの着想を育てることもできます。
一つの勉強に飽きてしまったら、別の分野にかえればいいのです。学校や仕事ではないのですから、好きな勉強だけしていても、誰にも何もいわれません。
■赴くままに時間を楽しめるのがひとり暮らしの醍醐味
かつて好きだったこと、いつかきちんと勉強したいと思っていたことを思い出して下さい。
子どもの頃は、天体観測が好きで宇宙の勉強をしてみたかったとか、火山が不思議だと思ったとか、本棚の片隅に昆虫図鑑が隠れていたりとか、「あ、そういえば」という世界が、たいていの人にあるはずです。
ひとり暮らしのスタートはそんな自分の世界を探してみることから始めてみましょうか。完全にひとりの楽しみです。
ひとり暮らしの高齢者は、皆さん「けっこう、やることがあって忙しい」といいます。
生活ですから、たしかにそうなんだろうなと思いますが、かといって忙しそうには見えません。何事につけ、一息入れながらゆったりと動いています。手を休めながら家事をこなし、好きなことを好きなタイミングでやる。
お気に入りの場所で気の向いた時間にお茶を飲んで静かな一日を過ごす。そういった時間を楽しめることこそが、ひとり暮らしの醍醐味なのです。
![コーヒーを楽しむシニア女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/1/1200wm/img_01374987badc1237783df87a9adb7295259367.jpg)
■ひとり外出で心の健康を手に入れる
60歳を過ぎると、不安やストレスが強くなり、人生の楽しみや喜びを見失ってしまう人がいます。これは「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンが加齢とともに分泌されにくくなるためです。
また、歳をとってくると、脳において感情をコントロールする部位である前頭葉の萎縮も進み、感情が衰えてきます。
こうした脳の構造的な変化に加えて、定年退職や愛する家族、ペットなどとの別れ、食欲低下や便秘、不眠などのちょっとした身体的不調が重なると、人は幸福よりも不安やストレスを強く感じ、悲観的な考えになりやすくなります。
放っておいては、うつ病に進行しかねません。
そこで重要になってくるのが、外出や旅行から得られる刺激や喜びです。
![和田秀樹『死ぬまでひとり暮らし 死ぬときに後悔しないために読む本』(興陽館)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/0/1200wm/img_10dd3520575c351a951e0f41a4a35bb9100371.jpg)
これから先、体と脳は確実に老いていきます。それでも、心だけは、自分次第でいくらでも若返ることができるのです。長年、多くの高齢者を診てきた私だから断言できることです。
60歳からの人生に心の健康より大事なものはありません。
どんどん外出しましょう。特に「日光に当たる時間を長く持つ」といいでしょう。
人間は、日光に当たることで、セロトニンが脳内で多く分泌されることが分かっています。天気のいい日に散歩をするのもいいですし、軽いスポーツやガーデニングもおすすめです。
望んだ場所に旅行に行けば、新鮮な発見や刺激が得られ、前頭葉が大いに活性化されます。
■誰にも支配されず、帰りの時間なんて気にしなくていい
年齢を重ね足腰や認知機能が衰え、心身の活力が低下した状態を「フレイル(虚弱)」といいます。フレイルの予防こそ、来るべき70代、80代をシャキッと自立して過ごすことにつながるのです。
外に出て、散歩やウォーキングを楽しめば、足腰にも効果があるだけでなく、精神の栄養にもなります。目的なんてなくていいのです。
とにかく家を出て歩いてみれば、家の中でひとりブツブツいいながら過ごすより、はるかに気が晴れます。
まず、外に出てみる。ポケットにスマホと財布があれば、どこまででも行けるし、何より、もう誰にも支配されていないのです。帰りの時間なんて気にしなくていい身分なのです。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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