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裁判を起こすほどモメるのは遺産1000万~5000万円…2万件以上の相続を見た税理士が知る"見えない相続格差"

プレジデントオンライン / 2024年7月3日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/masamasa3

相続問題は、遅かれ早かれ誰の身にも降りかかる。親が亡くなれば、たとえ相続税がかからなくてもその財産を受け継ぐことになるからだ。2万件以上の相続に関わってきた税理士の天野隆さんは「相続に格差はつきもの。そこには『お金』の格差と『心』の格差の2種類がある」という――。

※本稿は、天野隆、税理士法人レガシィ『相続格差 「お金」と「思い」のモメない引き継ぎ方』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

■「本家相続」の伝統が格差を生む

相続に格差はつきものです。1つには、主に長男が家を引き継ぐ「本家相続」の伝統が大きく影響しています。長男に限らず、家業を継承する次男や長女、さらには養子などの継承者が引き継ぐ相続も含まれます。

要するに継承者の1人に大半の遺産が相続されることを指します。それに対して、相続人が均等に相続するという考えに基づいた相続を「均分相続」といいます。

両親ともに亡くなったのちに、きょうだいで財産を分ける「二次相続」で見ると、わが社レガシィにおける事例では、本家相続の割合が過去4年(2018~2021年)平均で60%と、半数以上を占めています。その意味で、きょうだいの間での「相続格差」が、どうしても生じてしまうのでしょう。

そうなると、「兄貴はあんなにもらったのに、自分はこれだけか」「私だってお母さんの世話をしたんだから、もっともらっていいはず」ということになり、モメる原因となります。

一方、私が相続のお手伝いを長年やってきて実感したのは、相続によって生じるもう1つの格差です。それは、円満に相続が済んだことで平穏で和やかな生活を送れる家族と、モメにモメた末に相続が終わっても不満が残って幸せを感じられない家族との格差です。

■現場で実感した2つの相続格差

つまり、「相続格差」には、次の2種類があるわけです。

①現金や不動産など、財産の分け方の不平等による格差
②相続によって幸せになったか、モメて不満が残ったかによる格差

おもしろいのは、①で格差があったからといって、それが②の格差には必ずしも通じないことです。財産の分け方が不平等であったとしても、みんなにありがたい気持ちが残る相続もあります。逆に、財産が平等に分けられたのに、モメて嫌な気持ちが残る相続もあります。

はたして、2つの「相続格差」のどちらが重要なのでしょうか?

私は、②の「相続格差」を重視すべきだと思います。

相続が終わったあとで、私に向かってぼそっとつぶやいた方がいました。

「こんなにモメるんだったら、相続財産なんてなくてもよかった」

このひと言がすべてを表していると思います。もちろん、お金や不動産を引き継がなくてもよかったわけではないでしょうが、そのプラスよりも家族がモメたマイナスのほうが、大きなストレスとなって嫌な気持ちが残ってしまったのです。

①と②の最大の違いは、①は目に見えるけれども、②は目に見えないものだという点です。目に見えるものも大切ではありますが、人の幸せはそれだけでは測れません。むしろ、目に見えないものが大切なのです。

■相続は公平性や節税だけでは解決しない

では、目に見えない「相続格差」を、どのように解決していけばよいのでしょうか。

世の中では、税理士というとお金の勘定ばかりしていると思われがちです。しかし、相続ほど人間の心が大切なものはありません。亡くなった方が築き上げた財産を、子孫にどのように分けていくかというのは、単なるお金の移動以上に重要なことと考えます。

私は相続専門の税理士として、数多くの相続の場面に立ち会ってきました。もちろん、財産の分け方をアドバイスすることはありません。それができるのは弁護士資格を持った人だけであり、税理士がそれをやると法律に違反してしまいます。あくまでも、こうすれば節税できるといった税務上のアドバイスをしたり、遺言書の作成のお手伝いをすることで亡くなった方の意思を伝えたりしています。

そうした業務を通じてつくづく感じたのは、相続の公平性や節税ばかり考えていても、それだけでは解決しない事柄が数多くあるということです。実際には、どうやっても相続は公平になりませんし、税金を安くするだけではいい相続にはなりません。いかに人間関係に配慮して、いい提案ができるかが大切なのだと実感しています。

相続財産目録
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■節税の「常識」が人間関係では「非常識」に

例えば、「夫が亡くなった場合、妻と子で相続したほうが節税になる」というのは、相続の公平性や節税の面からいえば正解かもしれません。しかし、人間関係や家族の平穏を考えるのなら、「夫が亡くなった場合、すべての財産は妻が相続したほうがよい」というのが正解です。

残された妻と子の人間関係を考えれば、妻がすべてを相続したほうがいいのです。この例に限らず、節税テクニックにおける「常識」が、実は人間関係では「非常識」である場合も少なくありません。

財産分配や節税テクニックが「技術」だとしたら、人間関係のテクニックは「心」の部分といってよいでしょう。私は、どちらにも目を配った「技術+心」で相続の仕事にあたってきたつもりです。

とはいっても、私だけが「心も大事ですよ」といってもはじまりません。一番大切なのは、実際の相続にあたる家族の方々です。その方々の考え方や心持ち次第で、よい相続にも、モメる相続にもなります。

■「勘定」より「感情」でモメる相続

あくまでも私の感覚ですが、実際の相続においては、モメる相続とモメない相続は単純にいって次のような比率になっています。

①大モメの相続……2割
②一応おさまっている相続……6割
③円満相続……2割

①はいうまでもありませんが、②のケースでも相続後は心の中でモヤモヤを抱えている可能性大です。モメる原因は、これまでも説明してきたように、お金よりもむしろ相続人間の気持ちの行き違いや嫉妬など、心の問題のほうが大きいのです。つまり、モメる原因は「勘定」よりも「感情」なのです。

遺産の総額とモメ具合があまり関係ないことは、何億円、何十億円という資産家の相続よりも、5000万円以下の相続でモメることが多い事実からもわかります。相続でモメて裁判まで行ったケースでは、1000万円~5000万円以下が42.9%ともっとも高くなっています(2020年の「司法統計年報」より)。

もめている人たちのイメージ
写真=iStock.com/pictore
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pictore

■相続は誰の身にも降りかかってくる

その理由はいろいろ考えられますが、大きな要素としては、資産家のほうが相続に対する心の準備ができていることがあると思います。そうした家庭では、代々大きな財産を相続している方が多いので、普段から税理士や弁護士に相談していることも多く、いわば相続慣れしています。

天野隆、税理士法人レガシィ『相続格差 「お金」と「思い」のモメない引き継ぎ方』(青春新書インテリジェンス)
天野隆、税理士法人レガシィ『相続格差 「お金」と「思い」のモメない引き継ぎ方』(青春新書インテリジェンス)

「うちは、3000万円とか5000万円なんていう財産はないから関係ない」と思われるかもしれませんが、東京都区内に土地付きの自宅がある人の多くは、資産総額がそれくらいになることが多いのです。そうした家庭は、地価高騰によって不動産評価額が増えたケースが多く、手持ちの現金がないのに相続額だけが増えているためにモメやすいのです。

ここで1つ確認をしておくと、「相続」と「相続税」は、実はまったく別の問題です。

相続税というのは、亡くなった人が残した財産の総額によって、課税対象になる場合とならない場合があります。それに対して、相続はあらゆる人に関係してきます。相続税がかからない人でも、相続の手続きから逃れることはできません。親が亡くなれば、誰でもその財産を相続することになるからです。相続放棄という方法もありますが、それはそれで、またそのための手続きが必要です。遅かれ早かれ、誰の身にも降りかかってくるのが相続問題なのです。

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天野 隆(あまの・たかし)
税理士法人レガシィ代表社員税理士・公認会計士
1951年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。アーサーアンダーセン会計事務所を経て、1980年から現職。著書に『やってはいけない「実家」の相続』(青春出版社)など多数。

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(税理士法人レガシィ代表社員税理士・公認会計士 天野 隆)

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