アップル、グーグルなどメーカーがチューチューしてきた"修理利権"が消滅…格安「DIY修理」革命で起こること
プレジデントオンライン / 2024年6月27日 10時15分
■ユーザーが「修理する権利」の法制化が進んでいる
欧州連合(EU)理事会と欧州議会は2024年2月、「修理する権利」を導入する指令案について、暫定的な政治合意に達した。
日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、家電などの製品が故障しても、消費者が修理サービスを利用するのではなく買い替えを選ぶことが多いのを改めるため、指令案は消費者の修理する権利とその実現の施策を規定した。今後、EU加盟国が国内法化後に適用開始になる。
この「修理する権利」とは、どういうものか。これまではメーカーや公認の修理業者が事実上、製品の修理を独占し、競争原理が働かない形で部品や修理費用を設定することが多かった。それを、ユーザー自身で修理するか、自ら選んだ業者に頼んで修理する権利のことを指す。
メーカーが製品の修理に必要な部品や作業手順の情報を独占し、部品などを適切な価格で提供せず、消費者が修理する権利を妨げているとされ、それを見直そうという動きが出てきているのだ。
情報を独占した理由。それはメーカーにとって修理収入がおいしい商売だったからに他ならない。複雑な機器を修理するには一般的に、機器内部の情報や修理手順、機材が必要となる。例えば、アップル社のiPhoneは一般的なプラスのドライバーでなく、専用の星形のドライバーがないとネジを外せないケースも多い。
メーカーはこうした情報を公開せず、メーカーか正規代理店のみでしか修理できないようにしている。競争相手がいないため、修繕費が非常に高い。結果的に消費者は、修理を諦めて廃棄処分にして、新製品を買わざるを得ないことが多いのが実態だ。
しかし今後、修理する権利が認められ、必要な情報が公開されると、メカニックに詳しい人でなくても自分で修理するケースや、正規代理店以外で修理の依頼を低コストでできるケースが増えてくる。メーカーがボロ儲けする時代が変わろうとしているのだ。
今までは廃棄処分になって新製品に買い替えられていたのが、機器の寿命が延びて、消費者にはありがたい世の中になると同時に、地球環境にも優しい時代にもなる。
このような“DIY修理”の道を開いたのはアメリカも同じで、州ごとに導入を進めている。
たとえば、マサチューセッツ州は2012年、「自動車所有者の修理する権利法」を制定し、メーカーに必要な書類と情報の提供を義務づけた。
ニューヨーク州は2023年7月施行の法律で、同州で販売されるスマホやパソコンなど電子機器の修理手順の情報や交換部品などをメーカーが手ごろな費用で提供することを義務づけている。
バイデン大統領も2021年7月に競争促進の行政命令に署名し、修理する権利の制限禁止などを盛り込んでいる。
■本当は十数万円の費用がかかるところが数千円で済んだ
以上のような動きを受けて、海外ではグーグルやアップルなどの大手スマホメーカーが「修理する権利」に対応し始めている。グーグルは公式サイトで、自分で修理するためのマニュアルなどを詳しく掲載している。アップルにも「セルフ・サービス・リペアー」という英文サイトがある。
一方、日本では「修理する権利」について具体的な議論が乏しい。そのため、消費者が自ら修理するのは容易ではない。
作業手順の情報が非公開となる中、個人が電子機器の修理に挑んでも、例えばバッテリーを外さず作業して感電トラブルが起こることもある。見よう見まねの作業は、電子回路などを傷つけ、回線がショートして発火のリスクもある。
だが、リスク承知でうまく修理できれば新品への買い替えを回避でき、修理費は必要な部品の実費だけだ。不具合の原因が特定できねば修理はできないが、推測できる場合、修理に必要な内部構造や作業手順の情報は、ネット上の“詳しい人”たちが実践している動画を探して参考にすることも可能だ。ただ、公式な情報ではなく私的なサイトなので、リスクがあり自己責任ということになる。
![ノートパソコンを修理する手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/f/1200wm/img_3fb7fe54ffda3438005bf075a8ede09f504170.jpg)
筆者は十数年前に購入したパソコンを最近、自力で修理した。動作が遅くなって待機時間が長くなり、いったんは使用をあきらめた。ストレージを確認すると、HDDを搭載していた。SSDに交換すると生き返るかもしれないとわかり、同じ機種でHDDをSSDに交換した人がいて、インターネット上の動画で交換作業を公開しているのを見つけた。それを参考に、数千円で購入したSSDに交換すると、パソコンが爆速によみがえった。当初は使用パソコンの廃棄処分と10万円前後の新品への買い替えも検討したが、わずか数千円の費用と手間だけでパソコンが生き返り、いまも快適に使用している。
もともと、日本の家電は品質が良く、海外メーカーに比べ不具合の発生がかなり少ない。
家電業界コンサルタントで、家電に詳しいクロス(東京都港区)の代表・得平司さんは「国内の主要な家電メーカーは、販売後1年内くらいの不具合に自社負担(無料)で対応している。修理の経費をかけても、故障の発生率が低いためそのような措置にしている。だから日本では『修理する権利』の意識が薄く、何か問題が起きると、すぐメーカーに(対応をお願いします)となる独特の慣習がある」と話す。
だが、その一方で「メーカーは修理するより、新しい製品に買い替えてもらったほうがいいので、(保証期間外の)修理費を高くして、消費者が新品を買うように仕向けられている可能性もある」(同)。
会社に修理に依頼をする傾向があるのは部品供給の問題もある。家電には半導体が多く使われ、基本はメーカーに送り返して修理してもらうのが一般的。これは「半導体基盤などの部品はメーカーにしかない」(得平さん)という事情もあるのだ。
■「スマホの修理を他のところにやらせないようにしている」
そんな日本でいま、「リユース」の商品が人気となっている。
新品の価格が高くなっているが、リユース商品は手ごろな価格で入手できるほか、循環経済(サーキュラーエコノミー)の観点からも注目されている。家電や衣類などの中古品を必要に応じて修理など手を加え、再販売するリユース市場は年々拡大している。リユース経済新聞は、リユース市場が2022年に約2兆9000億円となり、30年には4兆円になると推計する。
環境省サイトは、主要な製品ごとにリユースの有無で、①平均使用年数、②長期的な廃棄物削減効果、を試算している。
冷蔵庫は、リユースしない場合は①が11.6年で、リユースした場合は12.2年、②は年間23万台になる。同様にパソコンは①の6.3年が6.7年に延び、②は年間100万台になるという。パソコン100万台は年間国内出荷台数の7%近くに相当する。
身近な存在のスマホは、機種やグレードにもよるが、高機能化して値段も高くなっている。スマホは画面にひびが入るなど傷つきやすいほか、バッテリーが経年劣化しやすい。それでも、モバイルバッテリーを持ち歩くなど、多少の不便は我慢してスマホを使い続ける人は少なくないようだ。
![スマートフォン内部をいじっている手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/4/1200wm/img_944ea7a0b9aaf0cbf06e2f169a3eeb2d491674.jpg)
スマホ市場などをみているMM総研の篠崎忠征研究部長は「スマホの買い替えサイクルは長くなっている。今後も長くなるだろう」と話す。MM総研は「スマートフォン修理市場に関する調査(22年度)」で、同年度の修理台数が約353万台となり、稼働台数全体の3%程度とみている。
前述したように修理して使用しているのが稼働台数全体の3%程度だが、スマホの高額化、買い替えサイクル長期化で、修理需要も高まる中、いささか数字が小さすぎる印象がある。バッテリー劣化や画面の傷などを直したい人は3%程度にとどまらないのではないか。
スマホの修理について、前出の得平さんは「メーカーが他のところにやらせないようにしている」とみている。MM総研の篠崎さんも「メーカーは自分たちのところで修理してほしい」と話す。メーカーが修理を自社グループに囲い込むことで、競争原理が働かず、修理費が高くなっている可能性は否定できない。
■ありとあらゆる家電のDIY修理が可能となる
ご承知の通り、持続可能な開発目標のSDGsが重視される時代である。廃棄物を減らすなど、地球環境にも優しい目標を満たす生産、消費活動が求められている。
「当然、日本のメーカーもSDGsについて真剣に考えています。パナソニックやソニーなどは海外販売比率が高いので、欧米のように日本でも『修理する権利』の話が出てきたときに備えて準備をしているはずです。現状、日本は対応が遅れていますが、消費者の意識が高まればメーカーも対応するでしょう」(得平さん)
冒頭で触れた欧州での「修理する権利」の対象は、家庭用洗濯・乾燥機、調理家電、家庭用食洗器、家庭用冷蔵・冷凍庫、掃除機、オーディオ機器、テレビなどの電子ディスプレー、コンピュータ・コンピュータサーバー、携帯電話・タブレット機器、溶接器具など。日本メーカーも現地で対象製品を販売する際は対応が必要になる。
欧米の潮流は、近いうちに日本にも来るのは必至だ。
高品質で故障が少ない国内製品に慣れてきた日本の消費者だが、とりわけスマホは海外メーカー製が多くなっており、バッテリー交換など修理費は安くない。それが手ごろな料金になってくれば、新品の高価なスマホに買い替えるのでなく、修理して長く使う人が増えてくるとみられる。日本の消費者が「修理する権利」に目覚めれば、懐にも優しく、廃棄物も削減できる好循環につながるかもしれない。
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ジャーナリスト
米国証券会社調査部を経て東洋経済新報社、米通信社ブルームバーグなど国内外の報道機関で30年以上にわたり取材・執筆。森林文化協会の月刊「グリーン・パワー」で森林ライターも続ける。
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(ジャーナリスト 浅井 秀樹)
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