マスコミは「小池氏リード」を報じたが…都知事選「序盤の情勢分析」が示した"立憲共産党"の意外な効果
プレジデントオンライン / 2024年6月26日 8時15分
■「緑のたぬき」と「赤いきつね」
東京都知事選(6月20日告示―7月7日投票)は、3選を期す小池百合子知事(71)に、蓮舫元立憲民主党参院議員(56)が挑む、事実上の一騎打ちの構図となった。SNS上では支援団体や過去の選挙イメージカラーから、東洋水産のカップ麺に例えて「赤いきつねと緑のたぬき」などと投稿され、話題になっている。
小池、蓮舫両氏は報道キャスター出身、閣僚、政党代表を経験、高い知名度、発信力を持つ女性政治家という共通点もある。ただ、政治力や政策のスピード感、組織運営の実績などでは、小池氏が一枚も二枚も上なのは否めない。6月18日の公約発表を経て、選挙戦が本格化したが、小池氏が選挙情勢でも広い支持基盤に支えられ、優位に立っている。
自民、公明両党は小池氏、立憲民主党や共産党が蓮舫氏を支援するため、与野党対決とも位置付けられるが、小池氏が勝利しても、岸田政権の得点になることはない。蓮舫氏は、仮に敗れても、
■「小池都政をリセットするのが使命」
今回の首都決戦に先に名乗りを挙げたのは蓮舫氏だった。5月27日に立憲民主党本部で記者会見し、「自民党政治の延命に手を貸している小池都政をリセットするのが使命だ」「反自民政治、非小池都政の姿勢で臨む」と述べ、無所属で出馬する意向を表明した。
前日の5月26日投票の静岡県知事選で、立民党・国民民主党推薦候補が当選しただけでなく、東京都議補選目黒選挙区(欠員2)で、立民党の元都議(元蓮舫氏秘書)と無所属の元目黒区議が当選し、小池氏が推した自民党元衆院議員が落選したことが「影響していないと言えば、嘘になる」と明け透けに語った。
蓮舫氏の出馬表明は、小池氏の3選出馬への表明が予想された都議会定例会初日5月29日の2日前というタイミングだった。小池氏は、蓮舫氏のペースに乗せられたくないこともあって、出馬表明を延期する。蓮舫氏は、29日には都議会の立民、共産両党会派を訪れ、激励される場面をメディアにアピールした。
蓮舫氏は6月2日、東京・有楽町で街頭演説に立ったが、「七夕に予定されている都知事選に蓮舫は挑戦します。ご支援よろしくお願いします」と呼びかけ、公職選挙法(事前運動禁止)違反の疑いを指摘(告発)されるなど、波乱含みのスタートとなった。
■「共産党主導の候補者に見える」
共産党は、小池晃書記局長が「最強、最良の候補者」と持ち上げ、6月に入って「蓮舫さんを都政に押し上げ」「日本共産党も蓮舫さんを全力で応援します」と記したビラを各戸配布したほか、街頭演説や集会に党関係者を動員するなど、支援の前面に出てきた。
国民民主党の玉木雄一郎代表は6月11日の記者会見で、蓮舫氏について「共産党主導の候補者に見える。共産主義は受け入れられず、一体となって活動する候補者の応援は困難だ」と述べ、支援しない考えを明らかにした。国民党都連は、19日に小池氏支持を打ち出す。
連合の清水秀行事務局長も、6月12日の共同通信のインタビューで、蓮舫氏について、共産党と一体となって活動し、「受け入れられない」などと批判した。連合東京は19日、前回2020年の都知事選に続いて小池氏支持を決定したが、コロナ禍の就労支援策やカスタマーハラスメント防止条例の制定に向けた検討も評価したとしている。
立民党の野田佳彦元首相は14日のTBSのCS番組で、蓮舫氏には共産党との連携のあり方に注意するよう助言した、と明らかにした。野田氏は「自民党は『蓮舫氏が革新色を強めている』と強調する。そう見られないよう未来を語り、堂々と勝負してほしい」「詰問する仕分けの女王のイメージが強い。笑顔を前に出してほしい」と要望したという。
野田氏は17日のブログでも「ステルス作戦で現職を応援する自民党は蓮舫さんを革新扱いしているが、『赤いきつねと緑のたぬき』の戦いではない」と警戒感を強めている。
■「東京大改革をこれからも進めていく」
小池氏の出馬表明は、都議会定例会最終日の6月12日にずれ込んだ。新型コロナウイルス対策や東京五輪・パラリンピック開催など2期8年の実績を列挙し、「『東京大改革』をこれからも進めていく覚悟を持って出馬を決意した」と述べた。
選挙戦は、公務を優先し、無所属として戦っている。自公両党と都民ファーストなどは、小池氏側が作った確認団体「
小池氏は、6月14日の定例記者会見で、蓮舫氏が「小池都政をリセットする」と主張したことへの見解を問われ、「(都民が)困るんじゃないですかね」とかわしたが、戦闘モードが高まったのは間違いない。
小池氏は、4月の衆院東京15区補選告示を控えて、自民党の閣僚経験者に「なぜこの局面で国政に戻らないのか」と問われ、「自分が進めてきた都政改革(東京大改革)を、後任の知事にひっくり返されるのが嫌だから」として補選出馬を断った、と伝えられている。
小池氏は18日午前のオンライン記者会見で、公約を発表し、「都民の命と暮らしを守る『首都防衛』を進める」と語った。東京の合計特殊出生率が0.99とついに1を割ったことで、少子化対策を最重点政策に掲げた。
現職の強みを生かし、無痛分娩費用の助成だけでなく、第2子以降の保育料無償化を第1子にも適用し、大学生向けに返済不要な奨学金制度も創設することも盛り込んだ。首都の防災にも力を入れ、木造密集地域の解消や避難所の環境改善に取り組むとしている。
■「神宮外苑再開発」は都知事選の争点か
蓮舫氏は同じ18日午後の記者会見で、小池氏同様、公約の最重点に少子化対策を挙げ、対象を現役世代に絞って若者の手取り収入を増やす必要性を強調した。具体的には「どんな境遇にいる若者でも学べる、働ける、結婚できる、子供を持てる、そんな人生の選択肢がある東京都にしたい」と述べた。
6月19日の日本記者クラブでは、出馬予定者を招いた共同記者会見で、大量の樹木伐採と新植を伴う明治神宮外苑の再開発事業をめぐって、小池、蓮舫両氏の間に火花が散った。蓮舫氏が「再開発はいったん立ち止まる。知事選の争点だ」と切り込むと、小池氏はすかさず「争点にはならない」と反駁したのだ。
小池氏は、東京都が再開発事業者らに樹木を極力残す保全策を示すよう求め、その間、事業者が伐採作業をストップしていることも付け加えた。これには少し説明が要るだろう。
神宮外苑は、宗教法人明治神宮の私有地であり、再開発事業は三井不動産など民間企業によるものだ。東京都は事業認可する立場だが、手続きに瑕疵がなければ、環境や景観を理由にこれを拒むことはできない。現に、神宮外苑再開発をめぐって、最高裁が今年3月、周辺住民らが都に事業認可の効力停止を求めた申し立てを退ける決定を下している。
明治神宮は、内苑の広大な自然林や社殿の維持管理費を、外苑の神宮球場や秩父宮ラグビー場などスポーツ施設の事業収益で賄ってきた。今回の再開発も、内苑の緑を守るという考えの延長線上にあるのだが、住民への説明不足もあって「木を切るな」という反対運動が起き、都が矢面に立たされている。小池氏にすれば、争点どころではないのだろう。
■「カイロ大が卒業を認めている」
日本記者クラブでの共同記者会見では、小池氏の学歴詐称疑惑も改めて取り上げられた。元都民ファースト事務総長の小島敏郎弁護士が学歴詐称を主張しているカイロ大卒業について改めて証明を求められ、「もう何度も(卒業)証明は出している。どこにはんこが足りないとか言っておられるようだが、カイロ大そのものが(卒業を)認めている。何度もこんなに大学が卒業証書をネットにさらしている他の政治家がいるのか」と、これまでも示してきた見解を改めて述べたのである。
小池氏をめぐっては、前回都知事選を控えた20年5月、ノンフィクション作家の石井妙子氏による『女帝 小池百合子』(文藝春秋刊)が出版され、カイロで同居していた女性らの証言を基に「カイロ大卒業が虚偽ではないか」との疑惑が持ち上がった。
カイロ大は同年6月、駐日エジプト大使館を通じ、学長名で小池氏の卒業を認める声明を出し、小池氏も前回知事選前に卒業証書、卒業証明書を公表していた。
今回24年は小島氏が4月10日発売の『文芸春秋』5月号で、当時のカイロ大学長声明は小池氏に依頼された元ジャーナリストが大使館の声明案を作成し、詐称疑惑を隠蔽しようとしたものだ、との告発記事掲載に踏み切った。小島氏は6月18日には、小池氏が虚偽の学歴を公表したとして、公職選挙法違反で東京地検に告発状を提出している。
新聞などのメディアは、この問題を追う能力に乏しい。学歴の真偽を解明するにアラビア語を駆使し、エジプト軍政下のカイロ大関係者をこれまでの経緯を含めて調査・取材するのは、荷が重く、限界があるだろう。
これまで参院議員1期、衆院議員8期、都知事2期を務めてきた政治家としての実績を前にして、今更という気分にもなるのか。メディアは、小島氏らの言動に寄りかかって、小池氏に見解をただすしかないのかも知れない。
■小池氏が蓮舫氏を12ポイントリード
小池氏は、故安倍晋三元首相が「敵にすると怖い」と最も警戒した政治家だ。安倍氏が2017年9月、衆院解散に持ち込んだのは「小池新党」が台頭する前にという戦略だった。小池氏は、予想通り解散表明の日に「希望の党」を立ち上げ、翌日の各紙1面に「自公対希望」という見出しが躍った。
『安倍晋三回顧録』(中央公論新社刊)によると、安倍氏は「小池さんにやられた、と思いましたよ」と振り返っている。その後、小池氏は「排除」発言で失速し、衆院選で負けたことで、都政に専念することになる。
安倍氏は小池氏を「ジョーカー」と呼び、「ある種のゲームでは、グンと強い力を持つ」「彼女は、自分がジョーカーだということを認識していると思います」と語っていた。小池氏は「私はハートのエースよ」と返すのが決まり文句だったが……。
今回の東京都知事選の情勢はどうか。自民党本部が6月15~16日に実施した都知事選情勢調査では、小池氏44%、蓮舫氏32%、その他の候補16%、不明・未定が8%だった。東京都の有権者は1150万人に上る。前回20年の都知事選の投票率は55%だったが、今回も前回並みだとすれば、小池氏がざっと260万票、蓮舫氏は190万票という計算になる。
日本経済新聞は21~23日に序盤情勢調査を実施し、小池氏が先行し、蓮舫氏らが追う展開となっている、と報じている。
小池氏は過去の都知事選で、291万票(2016年)、367万票(20年)と大量得票で当選している。蓮舫氏は参院選東京選挙区(定数6)で3回戦い、170万票(2010年)、110万票(16年)でトップ当選し、前回22年は67万票で4位当選にとどまっている。
この数字を見ると、今回の都知事選では蓮舫氏が「立憲共産党」の支援で善戦しているとも受け取れる。
■松原仁氏は苦しい立場に追い込まれる?
蓮舫氏は、敗れたら、次期衆院選に東京26区(目黒区・大田区西部)を軸に鞍替え出馬を図るのだろう。かねてから、衆院議員に転出する方針を広言し、民進党時代の2016年、衆院東京比例ブロックへの単独出馬や、衆院東京1区に進出し、海江田万里氏(衆院副議長)が比例ブロックに回るとの構想が取りざたされたこともある。
今回、蓮舫氏や盟友の手塚仁雄立民党衆院議員(東京5区選出)の念頭にあったのが、衆院小選挙区を「10増10減」する改正公職選挙法で22年に誕生した東京26区だった。
手塚氏は当選5回、立民党の東京ブロック常任幹事、衆院選対事務局長代理、立憲都連幹事長でもある。この手塚氏が、選挙区調整をめぐって松原仁元国家公安委員長・拉致問題相(当選8回)とのトラブルを招く。
松原氏が選挙区を東京3区(品川区・島嶼部)から26区に移そうと、立民党都連に上申したのだが、受け入れられないまま、塩漬けにされたのだ。松原氏は23年6月、やむなく立民党離党、無所属での出馬に踏み切る。
離党の記者会見で、松原氏は「(自民党都議から)40年近く、政治活動を続け、(自身の)住居も構えている大田区を含む東京26区を選挙区として選ぶ」「次期衆院選が迫っている。やむにやまれず決断した」などと説明した。
松原氏は、無所属(国会は立民会派)で政治活動を続けているが、仮に蓮舫氏が衆院選東京26区に参戦してくるとなると、苦しい立場に追い込まれる。相手は、都知事選を事実上の事前運動にできるのだから。
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政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て現職。2018~2023年国家公安委員会委員。
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(政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員 小田 尚)
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