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会社に不満があるわけではない…若手社員が「でも3年以内に辞めるつもり」と開き直る本当の理由

プレジデントオンライン / 2024年6月30日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

若手社員はなぜすぐに会社を辞めるのか。組織開発コンサルタントの仁科雅朋さんは「私が主宰している『グチ活』で本音を聞いてみると、上司からの指示や仕事のやり方に不満があるケースがみられた」という――。

■うつ病を抱えながらようやく内定をとった大学生

ある時、友人から息子に就職活動のアドバイスをしてほしいとの相談を受けました。その後、彼の息子と日時を決めて待ち合わせました。初対面の田中君(仮称)はさわやかな挨拶をする好青年です。

彼の話を聞いていると、コロナ禍で大学に入り、前半の授業はほぼリモートだったようです。コロナが収束して、改めて大学に行ってみると、すでにクラスの輪ができていて、出遅れた彼は馴染(なじ)めずに、軽いうつ病を発症したとのことでした。また緊張すると手が震えてしまうなどの悩みも聞き、私なりの就活へのアドバイスをしました。

一方、こちらも彼からSNSの最新状況や進化したゲームの話などが聞けて、とても勉強になりました。初対面にもかかわらず、彼との時間は世代を超えた感覚でした。気づけばすでに5時間が経過していました。

その後、4年生も後半になってから、ようやく希望のIT企業から内定が出たとの連絡が入り、友人と3人で就職祝いをすることになりました。

■「どんな将来像を描いているの?」に衝撃の返答が…

当日の宴席で、友人はとても喜んでいるようでした。しばらく会話が続いた後に、私が田中君に「どんな将来像を描いているの?」と質問をしたところ、こんな答えが返ってきたのです。

「そうですね、3年くらいで違う会社に転職をしようと思ってます」
「えっ」

友人は絶句し、思わず息子を二度見。

私も「はぁ?」という感じで、しばしの沈黙。

本人は何も悪びれた様子はありません。友人は何か言いたげでしたが、それ以上突っ込まずにその日を終えました。

田中君はいわゆる「Z世代」に当たります。Z世代とは1990年代の半ばから2010年代前半に生まれた世代で、現在の26歳以下が該当します。

生まれた当時はWindows95が発売されており、インターネットが普及し始めました。物心ついたころには、スマートフォンを持っており、デジタルネイティブで、SNSにどっぷりつかる姿は、「SNSの住民」と表現されます。

一方、日本経済はバブルが崩壊し、失われた30年という低迷期で人生を過ごしてきました。東日本大震災やリーマンショックを経験し、将来不安を抱えながら、生きてきた世代です。

■Z世代の本音を引き出す「グチ活」

私はこれまでに「グチ活」インタビューを通じて、Z世代の本音を聞いてきました。グチ活とは、組織開発の際に、メンバーの本音を引き出すコミュニケーション手法のことです。

ここでいう組織開発とは「自分たちで自部署の問題を解決して、生産性を上げる活動のこと」です。まず自部署の問題の洗い出しから始めるのですが、その際に「問題を出してください」といっても、本当の問題を出すことは難しいです。

なぜなら、自ら問題を出すことによる心理的抵抗、つまり自分たちが無能だと思われないか、的外れなことを言って笑われないか等の葛藤が生じて、あたりさわりのない表面的な問題しか出てこないのが通常だからです。

そこで私たちは、「問題」ではなくて日ごろの不平や不満に焦点を当てました。この場だけという前提と守秘義務のルールを敷くことで、普段抱えている「グチ」を出すことを促します。この前提は、グチを言ってもいいという「許可証」になり、安心して日ごろの不平不満を言える場ができます。

■グチは、「本当はこうありたい」という願いでもある

職場ではグチを言ってはいけないという暗黙の縛りを外してあげると、日ごろ溜まっているものを吐き出す場ができるのです。その後は、誰かがひとたび「グチ」を吐き出せば、僕も、私もと日ごろの鬱憤がどんどん表出されるというわけです。

「グチ」とは裏を返せば「本当はこうありたいのに」という切なる願いでもあります。この不満が解決したらうれしい、やる気が出るという動機が動き出します。表面的にやらされるものは、形式的なもので終わりますが、自分の思いが遂げられるかもしれないとなると、改革にも力が入ります。

ちなみに、「グチ活」をやる場合は4~6人が理想的です。あまり多すぎると、気後れしたり、参画しきれなかったりする人が出てきてしまいます。参加人数が多い場合はチームを分けるとよいでしょう。

これまで食品加工会社、IT大手、飲料メーカー、バイク買取会社などさまざまな会社でグチ活を行ってきました。グチは人間の「業」なので、業種を問わずに機能します。私たちが関わった「本音の組織開発」は、業績の向上はもとより、赤字からの脱却、部門間の壁を超えた飛躍的生産性の向上といった実績を上げてきました。

詳しくは、拙著『「グチ活」会議 社員のホンネをお金に変える技術』(日本経済新聞出版)をご参照ください。

■会社に不満がなくても辞める理由

これまでのグチ活でわかったことは、Z世代の彼らは3年~5年で転職することが当たり前ということです。注目すべきは、転職理由に会社への満足度は関係ないという点です。

「なぜ、若手が会社を辞めるのか」は多くの会社が頭を悩ませている問題ですが、その理由をいくら探ってもわからないわけです。なぜなら「3年たったら転職する」というのがZ世代のパラダイムなのですから。残念ながら、このような考えを持つ社員の退職を阻止することはできませんし、慰留を試みても意味がありません。

一方で、上司との関係性がうまく築けずに去っていく若者も増えています。両者は同じ世代でも、退職理由がまったく違うのです。順を追って見ていきましょう。

職場での問題で責められるビジネスウーマン
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo
1.本音を語りたがらない

そもそもZ世代に対し、悩みを聞かせてほしいと言っても意味がありません。もし聞けたとしてもそれは彼らの意見ではなく、質問者が満足するような回答です。彼らはどう返答したら相手が満足するのかを考えながら会話をしています。

彼らに本音をいわない理由について聞いてみると、ほぼ全員から「本音なんて言えませんよ。だって拡散されるかもしれないじゃないですか」との回答でした。本音を言わないのが彼らの本音なのです。

日本能率協会マネジメントセンターが行った「イマドキ新入社員の仕事に対する意識調査2023」でも、その傾向は顕著です。

【設問】相手の言っている考えが、自分が思っている考えと異なるとき、どのように対応しますか。

A:自分の考えを伏せておきながら、相手に賛同する(55.4%)
B:自分の考えを伝えた上で話し合う(44.6%)

■「コストが重要なら…」新入社員の驚きの質問

2.タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する

動画は倍速が常識です。余分なものはどんどん飛ばします。歌も前後を飛ばして「サビ」の部分だけを繰り返します。ネットフリックスの映画でさえ倍速で観るのです。その理由は「無駄なことはしたくない」、「最速で観たいもの、欲しいものを手に入れたいから」というのが理由です。

大手メーカーの新入社員研修での事例です。私が、「仕事はコストを考えて、パフォーマンスを出さなければなりません。理想は最小のコストで、最大のパフォーマンスを高めることです。これを意識して業務に励んでください」と講義をした後、休憩時間にA君が言いたいことがありそうな目でこちらを見ているので、私は「何かわからないことや質問があったら、何でも聞いてよ」と声をかけました。

■バブル世代の指示は「中途半端」だと感じている

するとA君からこんな質問が返ってきました。

「もしコストが重要なら、新人ではなくその業務に精通している人が担当すればよいのではないでしょうか」

「じゃあ君は何の仕事をするんだい?」と思わず返そうとしましたが、少しの間彼の質問を冷静に考えました。パフォーマンスの視点からすると彼の言い分も間違ってはいないのです。

ここで部下育成を例にとってみましょう。バブル世代は、上司から大雑把に仕事を振られて、自分で試行錯誤しながら仕事を覚えてきました。なので私たちは若手に対して、まずは、仕事を任せて、自分なりに考えて、納期までに完成させるようにと指示を出します。

一方、そのように指示をされたZ世代はこう思っているのです。

「中途半端な指示だなぁ。最初からやり方を教えてくれたら、その通りにさっさと片づけるのに」

【設問】最初に十分な説明のなかった依頼事項について、あとで間違いを指摘されたとき、どのように感じますか。

A:最初にきちんと説明をしてくれなかった相手に責任がある(56.1%)
B:取り組む前にやり方確認しておかなかった自分に責任がある(43.9%)
(前掲「イマドキ新入社員の仕事に対する意識調査2023」より)

■縦の関係に慣れず、上司に質問できない

3.縦ではなく、横のつながりを望んでいる

Z世代は横の関係を重視します。ある時、新入社員研修を担当する若手社員からこのような相談を受けました。

「新入社員に対しては、敬語を使ったほうがよいでしょうか。タメ口で話すと、偉そうな先輩だと思われるような気がするのです」

この感覚を理解しないとZ世代と会話ができません。それどころか、「わからないことを聞けない」というZ世代の心理が理解できないでしょう。縦の関係に慣れていない彼らは、上司にわからないことを聞けないのです。つまりわからないまま、仕事を進めているということです。その結果、職場に馴染めずに「退職」という流れになります。

【設問】新入社員が課題不安に感じること

1位 仕事が自分にあっているか(21.6%)
2位 この会社で自分が成長していけるかどうか(15.7%)
3位 わからないことを聞けない(13.8%) ※23年入社=536名
(同「イマドキ新入社員の仕事に対する意識調査2023」の〈配属~3カ月の新人の意識調査〉より)

■上下関係がないZ世代にこそ「チーム」が効果的

私たちバブル世代は、団塊の世代の薫陶を受けて育ちました。その精神性は「がんばれ」です。昨日より今日、今日より明日を頑張れば、成果を出せた時代です。

しかし今や日本は失われた30年から40年目に突入しています。先行き不透明な時代になり、過去の成功事例が通用しません。

儒教の影響を受けている日本人は、「年上を敬え」という精神性があります。しかしZ世代はSNSの住民で、先輩後輩も関係なく生きてきた世代です。これからは、世代をまたいで協働しながら未来を創造していく時代なのです。

これまでもグチ活を経て、多くの部署のチームワークが強化されました。お互いのグチを共有することで「親密性」が生まれ、さらに問題を協働して解決したという経験を積むことによる一体感が醸成されるからです。わからないことを上司に聞けず、属人的な仕事の進め方をしていた若手にも確実に変化が訪れます。

オフィスで浮かない顔のビジネスマン
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■「イマドキの若者」で片づけてはいけない

Z世代が転職を前提にしている以上、一部の若手の退職は阻止することはできません。しかしキャリアチェンジをしたいという人は世代関係なくいますし、その人たちを引き留めるべきでもないと思います。それよりも、上司や先輩との関係性に悩んで退職していく若手を減らすことに注力したほうが、魅力的な組織風土を築くことにつながります。

私たちはZ世代の思考を「イマドキの若者」論に終始することなく、世代間ギャップにある本質を見つめて、建設的に議論できる場を作るべきです。前述した「グチ活」を取り入れて、本音で語る風土を作りましょう。誰もが組織の問題を解決して、生産性が高く、風通しの良い職場を望んでいるのです。今こそ世代の違いを超えて胸襟を開くときです。

このレポートが、世代間のギャップを克服するきっかけになることを切望します。

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仁科 雅朋(にしな・まさとも)
ジーンパートナーズ 代表
1966年、東京都町田市生まれ。中央大学法学部卒業後、味の素に入社。30代で退職後、コンサルティング会社の立ち上げに参画し、専務取締役を務める。2015年に大企業の組織開発に特化したコンサルティングファームを設立、現在に至る。著書に『心理的安全性がつくりだす組織の未来』(産業能率大学出版部)『「グチ活」会議 社員のホンネをお金に変える技術』(日本経済新聞出版)『組織改革のプロ・コンサルが教える 会社が生まれ変わる5時間授業』(standards)など多数。

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(ジーンパートナーズ 代表 仁科 雅朋)

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