「1ドル=200円」の円暴落に今すぐ備えよ…「7月末の日銀会合で日本円の運命が決まる」と私が考える理由
プレジデントオンライン / 2024年6月27日 8時15分
■日銀には、円安も物価高騰も止められない
6月18日の参議院財政金融委員会で、植田和男日銀総裁が「通貨及び金融の調節に関する報告書」の説明を行った。冒頭の「経済金融情勢」で植田総裁は「わが国の景気は、一部に弱めの動きがみられますが、穏やかに回復しています」と述べられた。
日本経済は、今、大恐慌の瀬戸際にあるわけではない。それにもかかわらず金融政策は史上最大規模の「超超超超超金融緩和状態」にある。日銀の金融政策は、彼ら自身の経済情勢分析と著しいミスマッチを起こしている。
短期政策金利である無担保コールレート・オーバーナイト物は0~0.1%でほぼゼロ%に等しい。さらには、異次元緩和政策以前の伝統的金融政策時代には禁じ手だった「お金ジャブジャブ」政策まで採用し、現在その状態は最高レベルだ。
日銀はその状況を日々加速させている(筆者注:日銀は国債を償還額以上に購入している=保有国債純増。国債購入の対価として市中にばらまかれたお金も増加を続けている)。円安は止まらず、人々が苦しんでいる物価高騰に何ら手を打てずにいるのだ。
■政府は物価対策と打っているのに…
岸田文雄首相は6月21日、国会閉会後の記者会見で、物価高に対応して8月から10月まで電気・ガス料金の補助を追加実施するなどと表明した。会見の中で首相は「年末までの消費者物価の押し下げ効果を措置がなかった場合と比べて月平均0.5%ポイント以上とするべく検討していく」と述べ、追加の経済対策についても言及した。
政府が物価上昇の抑制を図っている最中に、日銀は物価上昇を促すような真逆方向に思いっきり綱を引っ張ろうとしている。なぜ、日銀は「超超超超超金融緩和政策」にこだわるのか?
たしかに電気・ガス料金の補助で財政赤字は更に膨らみ、財源として増発された国債を日銀が買い取ることで、さらにお金が市中にばらまかれる。円安は進み、物価は上昇する。理論的には、日銀の思惑の通りともいえるが、それは悪い冗談だ。
■6月決定会合で再確認された日銀の限界
とはいえ、日銀は異次元緩和の修正を進める発言を繰り返してきた。YCC(イールド・カーブ・コントロール、長短金利操作)の修正・再修正、撤廃、マイナス金利解除がこれにあたる。
今回の6月13日、14日に開かれた日銀の金融政策決定会合では、マーケットが円安防止のための「国債買いオペ減額」決定を期待していた。にもかかわらず日銀は、国債の買い入れの規模を減らす方針を決めたものの、「国債買い入れの減額にあたっては予見可能な形で丁寧に実施したい」と述べただけだった。
すなわち「超超超超超金融緩和政策」の変更を、ほぼ全くしなかったと言ってもよい。
マーケットは「日銀は国債購入を減らすことで円安進行防止を図る」と読んでいた。平時なら当然の分析だろう。しかしながら、日銀はほぼゼロ回答だった。マーケットは失望し、156円台だったドル/円は、一時158円まで上昇(=円安)した。
急速な円安進行に慌てたのだろう。14日午後3時ごろに始まった植田総裁の記者会見では、決定会合後に発表された文書には無かった「減額する以上、相応の規模になると考えている」との言葉が加わった。「相応の規模」という言葉を、マーケットは「相当の」と解釈したようだ。
また「場合によっては利上げもする」との発言も加わった。「ハト派」と言える日銀の決定がマーケットを見て急に「タカ派」に変わったようにも思える。そこで一応円安進行スピードは減速した。
■7月決定会合のハードルを自ら高くした
「国債買いオペ減額」の具体的な計画は、7月末の決定会合で決めるという。今後1年~2年程度の減額計画をまとめると、植田総裁は記者会見で明らかにしている。
このようなタカ派トーンへの変更で、日銀は自ら、7月以降の決定会合のハードルを極めて高くしてしまった。マーケットがかなりの政策変更を期待してしまったからだ。この期待に応えられないと「Xデイ」の引き金になる可能性は大いにある。「Xデイ」とは日本円の暴落、すなわち紙くず化である。
なぜハードルは極めて高くなったのか。なぜなら今回の「国債買いオペ減額」は“方針”の発表にすぎない。次回7月会合で、“計画”を発表する。そして“実施”は、先のまた先となる。6月会合での国債買いオペ減額実施を期待していたマーケットにとっては、空鉄砲を撃たれたに等しい。
植田総裁の記者会見での発言もあって、7月会合で「大砲」が撃ち込まれることをマーケットに期待させてしてしまった。特に外国人投資家に。不発に終わった場合の反動は今までの比較にならないほど大きいと思われる。
今後日銀はさらに難しい判断を迫られる。7月の決定会合では「円安が進まないほどの大きな減額」(=円安防止には減額幅が大きいほど長期金利が上昇するので望ましい)と「国債が暴落(=金利上昇)しない程度の小さな減額幅」という相反する条件を満たす方程式の解を見つけなければならない。これは非常に難しい。最適解が見つからず、円も国債も、ともに暴落する可能性は高い。これによって株の暴落も始まれば目も当てられない。
マーケットの円安防止の期待を考えると、再度、日銀が空鉄砲を打つ選択肢はあり得ないように思う。日銀は追い詰められている。
■市場参加者の意見を聞いても「最適解」は見つからない
この最適解を見つけるために日銀は、市場参加者の意見を1カ月かけて聞くという。市場参加者の意見を聞けば、最適解が見つかるのか?
私の長いマーケット経験からして、そんなに甘いものではない。
日銀がもし「毎月1兆円の買いオペを減額すれば、どのくらいまで長期金利は上昇すると思いますか?」と聞いた時、マーケット参加者は「1.5%くらいだと思います」と答えたとしよう。それを信じて行動した人は、生き馬の目を抜くと言われるマーケットで、最初に目を抜かれ、食べられてしまうだろう。
この「1.5%くらいだと思います」との回答は「1.5%くらいだと思いますから、皆さん買ってくださいね。皆さんが買ってくれて暴落が止まったら、私も買いに入ります」という意味でしかない。
国債発行額の半分以上を保有している日銀は、国債市場では池の中のクジラだ。その日銀が国債購入額を減らすなら誰も大暴落するまで、その巨大購入者の穴を埋めようなどと思わない。それがマーケットだ。どこの水準で買いが入るのか、などという理論はない。
■池の中のクジラに、サラリーマン・トレーダーはかなわない
日本国債市場には、ロクイチ国債暴落(1980年)、タテホ・ショック(1987年)、資金運用部ショック(1998年)など、今まで嫌というほど暴落の事例がある。
国債先物市場では、朝一番に値幅制限まで気配値が下落する。そこで張り付き、取引が成立しない日が連日続いた。そのようなマーケットで買い向かうのはサラリーマン・トレーダーには無理だ。倒産の恐怖に打ち勝つようなガッツのある人間にしかできない。
損が尋常ならないほどに日々膨む中で追加の新規の買いを入れる恐怖は、こうしたマーケットを経験した人にしかわからないだろう。
私は現役時代、部下に「一流トレーダーになるには血反吐を3回吐かなければならない」と言っていた。最近20年ほどはマーケットに激動が無かったから、今の現役トレーダーには、血反吐を1度も吐いたことのない人が多いと思う。相場が急落し始めたら、右顧左眄(うこさべん)するだけで立ち向かう人などいないと私は思っている。
■誰が国債を買い支えるのか
そもそも日銀が「国債買いオペ減額」をしたら、誰がその穴を埋めるのか。
6月21日付け日経新聞朝刊「国債買い手、銀行に照準 財務省、発行計画見直しへ 保有者の多様化も必須」には、「研究会のこれまでの議論では三菱UFJ銀行から、預金取扱金融機関が国債を購入する余力は日銀が保有する分の3割前後(22年末時点)との試算を紹介する資料も示された」とある。
日銀保有のたった3割しか吸収できず、銀行が全てを引き受けられるはずがない。
それ以上に「購入余力がある」と「実際に買う」は全く違うのだ。
6月22日付け日経新聞朝刊「国債の年限短く、購入促す 財務省提言 日銀の買い入れ減額に対応 金利変動リスクを抑制」にあるように、「買い入れはゼロではないが、経済合理性とポートフォリオ管理で(買い入れ額を)判断する」と述べた大手銀行幹部のような見解が常識的であると思う。
■「国債発行の年限を短期化」は危機の先送り策
仮に日銀が長期国債の購入を減額したら……と、国債マーケット(長期金利の行方)を心配していたら、「財務省、国債発行年限の短期化を検討 日銀の減額方針で」(6月20日付け日経新聞朝刊)とのニュースが飛び込んできた。長期債の発行額を抑え、銀行などの買い手がより国債を購入しやすくする、という狙いがあるそうだ。
「あれ~、ここまでやるの? いよいよやばい。悪あがきもいいところ」と思った。購入を増やすために財務省も懸命だ。
日銀の次回7月会合で相当額の「国債買いオペ減額」をやらなければ180円、200円を超える円暴落があり得る。しかし「国債買いオペ減額」が大きすぎると需給のアンバランスで長期金利が暴騰し、日銀自身が債務超過になり、国債入札でも未達(国債入札額が発行額まで届かない=デフォルト)が起きるリスクもある。
ならば、政府は相当額の「長期国債発行の減額」をせざるを得ない。円暴落を防ぐには需要が減る分(=日銀の国債の買いオペ)、供給も減らす(=長期国債発行減額)しかないだろう、という発想だ。
(筆者注:日銀「国債減額オペ減額」の対象が長期債なので、政府は長期国債の発行を減らす必要に迫られる可能性もある。ただし長期債を減らした分、短期債の発行を増やさないと政府の支出を賄えない)
「国債発行の年限を短期化」は、政府・日銀がいかに円暴落を怖がっているかを物語っている。まさに「次々に出てくる難題をもぐらたたきで収めよう」という最終段階にあると私は見ている。自分たちの任期さえ何事も無ければいいという日本得意の危機先送り策の典型例だ。
■日銀破綻だけでは済まない
そもそも金利上昇期には短期資産、長期負債のポートフォリオを構築するのが我々リスクテーカーの常識だ。資産サイドはなるべく短期で運用し、長短金利が高くなってから長期資産を買って高い金利を長期にわたってエンジョイする。
借金は金利が低いうちに長期間モノを確保し、金利が上昇しても低い金利の支払いで済むようにする。金利上昇期に皆さんが住宅ローンを変動金利ではなく固定金利で借りようとする理由と同じだ。
国も同じ。しかし、これから金利が上昇しても低い金利を10年間払えばいいだけだったはずなのに、より短期の債務として金利上昇期に脆弱な財務体質にしようとしている。
こんなことをして格付け機関は日本国債の格付けを据え置いてくれるのか? Xデイ後に日銀をとっかえるだけでハイパーインフレを鎮静化させ日本は再興達成と思っていたが(=国はハイパーインフレで究極の財政再建)、こんなことをしたら、日銀だけでなく、国も(究極の財政再建を果たす前に)財政破綻で、日銀と共にドボンだ。
■日銀が金融緩和をやめられない理由
ではなぜ、日銀はかくも「金融緩和」の継続に執着するのか?
大恐慌の瀬戸際でもないのに、なぜ金融政策は史上最大規模の「超超超超超金融緩和状態」を継続するのか?
その理由は、日銀自身の債務超過への恐怖としか考えようがない。
6月4日の参議院財政金融委員会で、私は植田総裁に「現在のような消費者物価動向や資産価格動向にもかかわらず、史上最強の金融緩和を継続しているのは、債務超過のリスクを怖がっているせいではないか?」と質問した。
これに、植田総裁は「政策の目的はあくまでも物価の安定でございまして、私どもの財務への配慮や財政資金の調達支援のために必要な政策の遂行が妨げられることはありません」とお答えになった。
しかし、かつて植田総裁は異なる見解を示していた。2003年10月28日の日本金融学会で、植田総裁(当時は審議委員)は「(筆者注:債務超過のリスクを意識するようになった時に)債務超過に陥る前からその可能性を高める引き締め政策を躊躇してしまうリスクも無視できない」と講演されている。これが引き締めを躊躇する最大の理由だろう。
「引き締め政策を躊躇することはありません」と断言する総裁としての発言と、「引き締め政策を躊躇するリスク」があるとする学者としての発言にはかなりのギャップがある。
私には総裁の舌が2つあるように見えてならない。立場上、二枚舌を使わなければならないのだろうが、他に何も考えずに発言できた時代の発言が当然のことながら本音だと私は思う。
■日銀は「評価損は問題ない」と豪語しているが…
ところで黒田東彦・前総裁にしろ、植田総裁にしろ、私が債務超過になったときのリスクについて尋ねると「償却原価法という簿価会計を採用しているから評価損は問題ない」との答えをいつもされる。
その発言に対し、私はいつも「信用供与をするかしないかは信用判断される方の基準(=この場合は日銀)ではなく、信用供与をする側(この場合は米銀の審査部や格付け機関)の基準で決定されるはず」と反論してきた。住宅ローンを私がいくら「我が家の会計方式によれば我が家の家計は健全だ。だから融資すべし」と主張しても銀行側はそんな話に乗ってはくれない。自行の基準に従って融資を実行するか否かを決める。当たり前だ。
米銀が日本銀行との取引を継続するかは欧米銀行の審査基準、すなわち前世紀の遺物である簿価会計ではなく、時価会計で判断する。
私が邦銀から米銀に転職した1985年、受けたカルチャーショックの一つは、邦銀ではG7の国や中央銀行との取引は青天井だったのに対し、米銀では取引枠があったこと。取引枠があるということは信用度が落ちれば取引枠を縮小し、最悪、取引枠を撤廃するということだ。
G7の国や中央銀行と言えど100%安全ということは無い。テールリスク(起こるリスクは極小でも、起こると尋常ならざる損害が生じる)はいつでも存在する。日本人も東日本大震災で経験した。そのような事態が起きた時、解散しても損が生じないかを絶えずモニターする。それが解散時の評価、すなわち時価会計なのだ。
■「売却予定がないから簿価会計でいい」の矛盾
6月18日の参議院財政金融委員会で、私の質問に植田総裁は「保有国債を今後満期前に売るつもりはないから、償却原価法で問題ない」との答弁をされたが、これは問題発言だ。
つまり、ランオフ(満期になる国債分を借り換えないで残高を落とす)しかせず、満期前に国債を売ることは無いと答弁したわけだが、これは「ばらまかれたお金を積極的に回収はしない」と宣言したに等しい。市中にばらまかれたお金を積極的に回収するには保有国債を売るしか方法がないからだ。
私が以前、参議院予算委員会で日銀に聞いたところ、今年満期を迎える日銀の保有国債は67.1兆円になる。ちなみに国債保有額は596.7兆円(2024年2月末時点)に上る。満期前に保有国債を売らないとすれば、67.1兆円しか減らさないという意味になる。インフレになっても金融政策を引き締めず、お金でジャブジャブの状態をほったらかし、日銀は指をくわえてみているだけ、と自ら宣言したようなものだ。
インフレ時に何もできない中央銀行など、もう中央銀行の体(てい)をなしていない。
仮に、インフレに立ち向かうため日銀が国債の途中売却を行えば、総裁の「売却予定がないから簿価会計でよい」との発言の前提が崩れる。売却した途端に全ての保有国債は時価会計での算出が必要になり、巨大な評価損がたちまち巨大な実現損に変わる。この時価会計は日銀が民間銀行に強要している日本の基本的会計原則でもあるのだが……。
■日銀の債務超過を甘く見てはいけない
日銀が債務超過になったら途端に米外銀が撤退するとは思わない。しかし、債務超過の解消に時間がかかる、筋道が見えない、あるいは債務超過額がどんどん大きくなると判断すれば話は別だ。一晩で撤退する。株主利益を第一に考える米銀には当たり前だ。
撤退すれば円はドルとのリンクが外れる。世界の基軸通貨・ドルとのリンクが外れたら円は暴落だ。外国産農産物や原油などは暴騰して、日本にハイパーインフレが到来する。今現在、日銀は純資産である。したがって外資の撤退を私はさほど心配していない。しかし債務超過になったら毎晩が不安になる。これは今まで述べてきたとおりである。
■長期金利0.1%ごとに2.9兆円の評価損が発生
伝統的金融政策であれば、中央銀行が金利を上げても、自身には全く負荷がかからなかった。しかし、非伝統的な政策にシフトした日銀にはものすごい負荷がかかる。
中央銀行たるもの価格が大きく上下する金融商品は買ってはいけない。これが伝統的金融論(=正統的金融論)の基本のキである。債務超過になって中央銀行の信用が落ち、その発行する通貨の価値が暴落するリスクがあるからだ。さらに日銀はその大原則に反して(ETFの購入を通じて)株を買っている。それも今や日本一の大株主だ。金融政策目的で株を保管しているのはG20の中央銀行で日銀だけだ。
いま長期金利が上がると0.1%ごとに2.9兆円の評価損が発生(注1)、短期金利を0.1%上げるたびに5000億円の支払い金利増(注2)が起きるのだから、今の日銀に政策変更などできるはずがない。
(注1)今年3月7日の参議院予算委員会で、日銀は、2023年9月末時点(10年債金利0.76%、保有国債の評価損10兆円)から機械的に計算すると、イールドカーブが全体として1%上方にパラレルシフトした場合、評価損の拡大幅は29兆円程度となる答弁した。
(注2)法定準備金を除く日銀当座預金約500兆円の0.1%は5000億円となる。長短金利の上昇で、とんでもない負荷が日銀にかかることになる。
2023年9月30日の「日本金融学会秋季大会」で、植田総裁は「中央銀行の財務は、民間の金融機関や事業法人の財務とは異なる面があり、専門家でなければ馴染み難いものです。一方で、通貨や中央銀行の信認にも関わる極めて重要なテーマです」「基本的に、中央銀行については、収益や資本の減少によって直ちにオペレーショナルな意味での政策運営能力が損なわれることはない。ただし、収益や資本の減少を契機とする信認の低下を防ぐため、財務の健全性への配慮も大事」と述べられている。
植田総裁の認識の通り、中央銀行の財務悪化は日銀自体や円の信認失墜の原因となる。これこそが日銀が、現在の経済情勢や政府の物価対策にもかかわらず、日銀が「超超超超超金融緩和政策」を継続している理由だ。
■金利上昇も地獄、株安も地獄…
5月30日、10年債金利が1.1%に上昇した。今まで参議院財政金融委員会で私が日銀から頂いた資料を基に機械的に計算すると、約19兆円の国債の評価損が発生していたことになる。
引当金プラス準備金が12兆円あるので、この2つだけを考えると7兆円の債務超過となる。しかしながら、ETFの利益が、5月30日現在約34兆円あると推計されるので(私の推計)、現在、日銀は27兆円の純資産状態が保たれている。
しかしながら、世界の中央銀行の常識では持ってはいけないとされる株の評価益で何とか債務超過を逃れているなど、中央銀行としてあまりにお粗末としか言いようがない。格付け機関や外銀審査部の日銀に対する信用審査において、この点はものすごく減点要因になると私は思っている。
さらに言えば、27兆円の純資産など、ほんのわずかなマーケットの動きで吹っ飛ぶ。前述の通り、長期金利が0.1%上昇すると国債評価損は2.9兆円増える。株の損益は、私の計算では日経平均1000円の下落で1.6兆円の評価益が減る。5月30日は、長期金利が1.1%に上昇したという理由で、日経平均が一時900円ほど下落した。今後長期金利が上昇すると、株価も一緒に下落する可能性は高い。
つまり長期金利が0.1%上昇して、日経平均が1000円下がると、日銀の純資産は単純計算で4.5兆円減少することになる。長期金利が0.4%上昇して、日経平均が4000円下がると、日銀は債務超過の危機に陥る。さらに短期金利を0.1%上げるごとに年間5000億円の垂れ流しも始まる。これでは利上げ(金融引き締め)などできるわけがない。
■7月末の“失望売り”に備えたほうがいい
長年、私は国会の場で「異次元金融緩和の出口を示せ」「出口の際のシミュレーションを示せ」と日銀に要求してきた。にもかかわらず、日銀は「時期尚早」という言葉で逃げ、出口を示さないままこの期に至ってしまった。
早い時期で叡智を結集させ、国民に説明をして(その時点でも巨大だが)損失を覚悟し、方向転換ができていれば、ここまで損害は大きくならなかったと強く思う。日本が得意とする危機先送りは、最終的に超巨大なツケを国民に課すことになるが、現時点に至っても先送りをしようとしている。
財政規律を無視してバラマキというポピュリズム政治を続け、歴史に学ばず禁じ手中の禁じ手と言われる財政ファイナンス(国の歳出を中央銀行が紙幣を刷って賄う)を行ってきたツケは尋常でないほどに大きい。
止まらない円安はツケの一部であり、その先には円暴落・紙くず化が待っている。バラマキ政治と禁じ手のツケは国民が支払うことになるのだ。ここに至っては悲劇を招いた事実の正確な記録を残し、若者世代が将来同じ誤りを繰り返し、彼らも地獄を見ることのないようにすることが我々に残された義務だと思う。
そして繰り返し述べているように、皆さんにはいま「保険の意味でドルを買う」など、ご自身とご家族を守るための自助努力が必要なのだ。
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フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。2020年11月、旭日中受賞受章。
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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)
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