なぜ女子の部活に男子マネージャーはいないのか…女子集団に男子がいることで生まれる女子マネ以上の効果
プレジデントオンライン / 2024年6月28日 10時15分
■ジェンダーレスの時代に求められる男子マネージャー
男子の活躍を女子が支える――。
そんな“昭和の常識”は令和の今もなお引き継がれている。スポーツの世界、例えば、部活もそのひとつだろう。中学・高校では野球、サッカー、バスケなどの男子チームに複数の女子マネがいることが多く、男子選手を練習や試合で献身的にフォローしている。
一方、女子チームはどうか。そこに、男子マネの姿はまずいない。
部活顧問をするキャリア25年超の高校教員に聞くと、男子生徒のなかで「女子部のマネージャーをしたい」という声は他校を含めこれまで一度も出たことがないという。ジェンダーレスの現代にもかかわらず、なぜ、このような昭和スタイルが続くのか。
■高校、大学のマネージャー事情
筆者(47歳)は出身高校が男子校だったこともあり、女子マネがいる学校には「負けられない」という気持ちが強かった。それは女子マネへの憧れへの裏返しで、人気スポーツ漫画である『タッチ』や『スラムダンク』の影響もあった。当時も今も、女子マネの存在が選手のモチベーションやスキルアップに貢献する作品は数多く、実際、効果があった。
所属していた陸上部は部員全員が選手で、専任のマネージャーはいなかった。しかし、故障で走れない選手がタイムを計測するなど、マネージャーの役割を担う者はいた(強豪校の場合、途中からマネージャーになる転身する元選手もいる)。
陸上部の場合、強豪校の男子チームに女子マネはほとんど見たことがないが、野球やサッカー、バスケ、ラグビーなどは男子チームに女子マネがいるのはほぼスタンダードだ。特に甲子園ではスコアラーやノッカーへのボール渡しなどをする女子マネの存在がクローズアップされる機会が多い。
野球、サッカー、ラグビーは女子部がない学校が多いので、そのスポーツが好きな女子が裏方として活動したいのだろう。一方、バスケやバレーボールなどには女子部もあるが、プレイヤーではなくマネージャー志望の女子は男子チームを支える側に回る印象だ。
では、男子マネはどうか。高校では「マネージャー=女子の役割」というイメージが強いせいか、男子はそもそも「マネージャーをやりたい」という発想があまりないようだ。高校の運動部では女子チームに男子マネはいないし、男子チームでは故障中の男子選手がマネージャーの役割を担うか、選手をあきらめた男子がマネージャーを務める。
大学におけるマネージャーの役割は多岐にわたる。陸上部でいえば、給水の準備やタイムを計測するだけでなく、練習日誌や試合結果をパソコンに記録。試合のエントリーや、対抗戦や記録会などの大会運営もマネージャーが中心に動いている。さらにスタッフと選手の間に立ち、チーム全体をマネジメントする役割も担う。下級生からすれば上級生の男子マネージャーは「コーチ」に近い存在ともいえるだろう。裏方マネージャーは選手以上に部に関わる時間があり、アルバイトを禁止しているチームも少なくない。
そのため、大学によってはマネージャーとして入部することを条件に、推薦入試で入学する者もいる。それほどチームにとってマネージャーの役割は重要なのだ。
男子マネの入部がない箱根駅伝の大学強豪校では2年生の時点で、選手のなかからマネージャーを1人出すチームが多い。マネージャーに指名された者は、「今でも走れるものなら走りたい」という思いを抱えながらチームをサポートしていくことになる。
■なぜ女子チームに男子マネがいないのか
女子チームに男子マネがいない理由については、そもそも「マネージャーをやりたい」と発想を持つ男子が少ないことに加えて、別の理由も存在するようだ。
高校、大学、実業団で活躍した女子の駅伝ランナーに聞くと、「女子選手に何かあるのが心配で、(年齢の近い)男子マネを入れたくないのかもしれません」と答えた。女子選手を預かる監督としては恋愛対象にもなりうる同世代の男性を選手に近づけたくない意識もあるだろう。これについては理解できる気もするが、女子マネのいる男子チームも同じことで、結局、部内ルールを守るということは重要になるだろう。
とすると、女子チームの男性監督が珍しくないように、今後は男子マネを採用する女子チームが出てきても不思議ではない。いや、出てくるべきだろう。
かつては「女性」の職業という認識が強かった看護師やキャビンアテンダント(CA)も男性が増えている。厚生労働省の調査では、男性看護師は2012年に6万3321人(全体の6.2%)だったのが2022年には11万2164人(同8.6%)まで増加しているのだ。
![男性客室乗務員](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/b/1200wm/img_abbc8df790dc0f85571dd0e3dcfaccf4404624.jpg)
CAでは重い荷物の出し入れや乗客の介助など力が必要なシーンでは男性CAの存在が頼もしくなる。また乗客からの女性CAに対するセクハラ行為を防ぐなど、客室内の保安要員としも男性の方が役立つ可能性が高い。
運動部のマネージャー業務も男性がより活躍できるスキルがあるはずだ。
実業団では選手を指導するコーチとは別に男性のランニングコーチを雇っているチームが少なくないが、前出の元駅伝選手の出身大学では女子選手を引っ張る役割の男子選手がいたという。選手からすれば男子選手は「目標」となるだけでなく、女子だけのチームとは少し雰囲気が違ったものにできたようだ。
「男子がいることで、女子選手内でいじめのようなトラブルが起きにくかったと思います。異性の目があることで、女子選手間のパワーバランスの偏りなども回避できるのかもしれません」
プレイヤーとして活躍できなくても、マネージャーとして力を発揮できるタイプもいる。レギュラー選手でなくても、競技に対する情熱があり、知識が豊富な者もいる。今、チームを勝利に導くためのデータ分析は各競技に必須だが、男子の中にはそうした分野を得意とする者も少なくない。これまで女子が中心だった運動部のマネージャーに男子も参加すれば予期せぬ化学反応が起き、女子選手の成長につながる可能性は大きいのではないか。
箱根駅伝で2度、全日本大学駅伝で3度の優勝を誇る神奈川大の大後栄治部長兼総監督は日本体育大時代にマネージャーとしてキャリアを積んで、指導者として活躍した。
特に男子にとっては身近な野球やサッカーなどは、プレイヤーとしての限界を感じて、高校では運動部入部を断念する者もいる。しかし、選手ではなくても運動部で“活躍”することは十分可能だ。
■自分のためではなくチームのために動く
この経験は、社会人生活などその後の人生に生かすことのできる貴重な時間となるはずだ。令和の日本スポーツ界は男子マネージャーの存在がチームを大きく変える可能性を秘めていると筆者は感じている。きっと女子チームで活躍する男子マネを主人公にした漫画がヒットすれば、時代は大きく変わるだろう。
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スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)
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(スポーツライター 酒井 政人)
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